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「砂の女」読書感想文

著者

安部公房(1924~1993)
3月27日読み始め、3月30日読了。

あらすじ

 昆虫採集のためにとある砂丘に訪れた男。目当てのハンミョウを探しているうちに、男は砂の中に埋もれたような集落に迷い込む。
「泊っていきなさい」という村人の好意に甘えて、とある民家に上がると、そこには妙齢の女がいて……。

感想

 男は女というエサを与えられる代わりに、砂堀りの労務を強いられる。砂堀りは、集落を水没ならぬ砂没から防ぐために大事な作業で、男が幽閉された民家は、その最前基地。砂堀りは日々休むことなく行わなければならない。民家の周りは高い砂の壁で囲まれており、逃げ出すのは至難の業。ただ、砂堀りさえしていれば、村人が食料や水を届けてくれるし、焼酎や煙草の配給もある。それに、もちろん性欲だって処理できる。
 これって恐ろしい状況ではあるけれど、よく考えれば現代社会の縮図とも見て取れる。砂は「国家」とも「社会」ともとれる。我々がそこから抜け出すことは、なかなか難しい。砂堀りは「仕事」。意味があるのかないのかよく分からないが、何も考えずに働いていさえすればご褒美をもらえる。
 物語の最後、妊娠した女が不意な出血をおこし、村人たちによって民家の外に運び出される。村人たちが立ち去った後、男の目の前には、村人たちが忘れていった縄梯子が垂れていた。男は登って久しく見ていなかった外界の風景を眺める。逃げ出したかったはずなのに、男は再び民家へと戻っていく。
「自由が欲しい」と多くの人が口にするけれど、いざ目の前に「自由」が開かれると尻込みして、今ある安定状態に甘んじてしまう。それが良いことなのか、悪いことなのかは分からない。でも私たちは「砂に囲まれた場所で砂堀りをさせられている」ということは、強烈に自覚しなければならないと思う。そして「砂堀り」を強いる側は、この物語でもそうだったように、わりと優しい顔をしている、ということも忘れてはならない。
 人間としての誇りを忘れてはいけないと、強くそう思わされた。

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