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「魔法使いの家」〜井戸の中の冒険記18〜


【これは瞑想中に体験する物語の冒険記録です】

ルーティンとして、いつも井戸を降りていくところからはじめているので『井戸の中の冒険記』としています。
(『防護膜』については追々書いていきます。)
 

今回は、井戸の中の世界に18回目に訪れた時のお話です。


【2024.2.7.の井戸の中の冒険記録】
「魔法使いの家」


 
まずは防護膜を張る。
金色の光が私を球体のように包み込むイメージをして、

「この防護膜は何があっても私を守る」

と唱える。

目を開けると、見慣れたかわいた土にポッカリと口を開けた井戸がある。

縄は井戸を一周して結んであり、その果てが私の右手に握られていた。

井戸の中を覗き込む。
いつも通り真っ暗で何も見えない。

右手の縄の果てを井戸の中へ放り込んで、
いざ出発する。

縄を伝って、壁を蹴りながらゆっくりと降りていく。
入り口が遠くなるにつれて、光が丸い月のように見える。
いつも通りだ。

そしてしばらくそうしていると、縄の果てにやってきたのか結び目のコブに触れた。
その結び目の下は馬の尻尾のようにタッセル状になっていた。

ここからは下まで飛び降りて行く。
しかし今日は不思議なことに井戸の壁までどんどんグラデーションのように消えて行くのだった。

「早めに飛んだほうがよさそうだ」と思い、さっさと手を離す。

風の抵抗を受けながら、地面に無事着地する。
パシャッと水音がした。浅い水が張られているようだった。

この真っ白な空間でとりあえず扉を探す。
(井戸の中の世界では『扉』が次の展開をもってくるシンボルになっている)

すると、やはり奥から扉がやってきた。

その扉はいつもとは違って、
巨大な深い藍色をした重厚な扉だった。

その立派な扉を見上げていると、扉は内側に向かって開いた。
(いつもはこちら側に開くものなのだが、今日は何やら扉が進化?新調?されているようだった)


 

中に入ると、まさに『洋館』と言ったような雰囲気の高級感溢れる室内だった。

奥の壁一面には本がびっしりと詰まっていて、梯子までかかっている。
本棚までは少し高くなっているようでその手前には小さな階段があった。

一人用のソファや、暖炉、足もとのふわりとした絨毯。
なんだか日本ではない感じがした。

私は目の前にあったふかふかの上等そうなファブリックのソファに迷わず深く腰をかけていた。

内心「住んでいる人に見つからないだろうか?勝手に座ってよいのか?」とこの身体の主に対して思うが、身体が先に動いてしまうのだった。

足下をよく見てみれば、小さな靴を履いている。
ソックスもエメラルドグリーンの短いもので、半ズボンからは膝小僧が覗いている。
どうやらこの身体は幼い子どものようだった。
 

挿し絵「魔法使いの家」


ソファに飛び跳ねるように座った途端に、目の前の暖炉に火がついた。
驚いて、その火に近寄る。
(「本当にこの子は怖いものなしの好奇心の塊のようだ」と思いながら……)

絨毯にあぐらをかいて座って、突然ついた火を見つめていたら「そこにある薪をくべてくれる?」と女性の声がした。

急いで右側に積んであった薪をくべると、火が受け取るように燃えて「ありがとう」と言った。

火がしゃべった。
私はこの男の子と一緒になって驚いていた。

そこで、火にここに住んでいる人のことをきいてみることにした。

「あそこに白い三角の帽子がかかっているでしょう?ここに住んでいる人のものよ。窓の外を見て。」

私は言われた通り窓の外を見た。
一面の銀世界……というか、雪で吹雪いていた。

「ほらね、この辺りの冬はとっても寒いのよ。あの人、寒いのが本当に嫌いだから冬の間はここにはいないのよ。」

火は、まるで恋人のことを話すように家主のことを語ってくれた。
なんとなく、家主のことが大好きなんだろうな、世話焼きな彼女みたいな火なんだな、と心がくすぐったくなるような温かいものを感じた。
火は続けて言う。

「奥の本棚から好きな本を見つけておいでなさい。私のそばにきて読んでもいい」

火は母親のようなあたたかさでもあった。
私は言われた通り、本棚へ近寄ってみる。
すると左端の上から、厚い本が本棚に引っかかりながら開いて左右に揺れている。

「こっちこっち。俺を持って行くんだろう?」

自信満々に呼んでいる。
私はそれが可笑しくて、梯子をそちらへずらしてその本を受けとめた。

その本は、さまざまなページを開いて、「あれも、これも、ほらどうだ!」と見せてくれた。

早すぎて何が書いてあるのかさっぱりわからないが、それも可笑しくて笑ってしまった。

本が一生懸命に笑わせてくれようとしているのが伝わってきて、うれしかった。
(横書きの本だということはわかった。そしてここが日本ではないことをひっそりと確信した)

私は梯子に立ったまま、その本をぎゅっと抱きしめて頬擦りしていた。
本も私を抱きしめ返しているのがわかるのだった。

その本を抱いたまま梯子を降りると、部屋の左隅に、奥に続く通路があることに気づいた。

おそるおそるその通路の前までくると、本当に高い天井だと改めて気付かされた。

私が幼い子どもだから、というだけの理由でそう感じるのではなく、おそらく本当に巨人のように背の高い人の住居なのだろう。

通路を抜けると、階段があり、その手前にはガラス戸の飾り箪笥(というのだろうか)アンティークの美しいものが置いてある。

その中で、クリスタルのように輝くガラス細工の天使だろうか、バレリーナだろうか?
そのようなさまざまな美しいコレクションが、私に気づいて、いそいそと踊りを見せてくれた。

この家のものたちは、不思議なほどに、なんて私に好意的なのだろうとうれしく思った。
まるで魔法がかかった家だ。
 

本を抱きしめ直して、階段を登っていく。

すると、2階の明るい一室にたどり着いた。
地面は先ほどの絨毯とは違って、大理石のような白い美しい石でできており、部屋の真ん中にまたもやアンティーク調の木とファブリックでできた二人がけほどの椅子が置いてある。

その椅子の前にはスクリーンがあり、何やらモノクロの無声映画のようなものが流れている。
チャップリンが出てきそうなコミカルで早送りのような映像だった。

その映像の内容は、以下のようなものだった。

昔風の外国人の男性と女性が驚いた顔で車に乗っていて、その車は月に向かって飛んでいく。

すると、月はパカっと二つに割れて、いつしかその割れた月は、小さな子どもの両手に握られているどろだんごになった。

そして、母親が近寄ってきて、それに気づいた子どもは片方を母親にあげた。
母親はうれしそうに、さらに感極まったかのように涙を浮かべながら、子どもの手をとって歩き出した。

二つに割れたどろだんごは砂場に残された。
子どもは名残惜しそうに砂場を振り返っていた。

いつの間にか、その砂場には竜巻のような渦巻きが発生していた。
砂場の四角形に沿って、渦巻きはぐるぐると竜巻きを太くしていく。
そして、その砂場の重力さえ変化して、竜巻は横にも縦にもなる一本の筒のようになった。
 

そこで映像ははじめのシーンに戻る……これが延々と繰り返されているようだった。

その映像を見ていた私は、「そうか。こうして私たちもできたのか。『誰かに分けてあげたい』という気持ちが、私たちを生んだのか」そんなことを勝手に感じていた。

その映像に感化されたのか、いつの間にか私はその部屋の真ん中に立って、自分が魔法使いになったつもりで天を指差して、

「世界中が平和になって、言葉が通じなくても、心が通じ合ううれしさでいっぱいになって、みんなが仲良くなる」

という願い事を唱えていた。


すると抱えていた本がブルブルと震えはじめて、バサバサッと手の中から浮き上がると、ページが勢いよく捲られていく。

そしてたどり着いたページにはさまれていた手紙が、封筒の中からゆっくりと出てきて、私の顔の前で開かれた。

「あなたがここにいつかくることはわかっていました。

あなたは昔の私です。

あなたも過去の自分に伝えたいことがあったら、手紙を書くとよいでしょう。

さらば。」


そんな手紙の内容が、大人の女性の声で読み上げられた。
私は呆然としながらも、

「そうか、この家のみんなが私に好意的だったのって、私が過去の家主だってみんな知ってたからか」

と手を打ちたくなるほど納得し、感動した。



(おわり:井戸の中の冒険記「魔法使いの家」)




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