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【BOOK INFORMATION】国内でコミュニティー開発を実践

『実践!まちづくり学―コミュニティを幸せにする、デザインの挑戦。』
 地方の人口減少に歯止めをかけ日本全体の活性化を図るため、2014年に日本政府が「地方創生」を掲げてから5年。現在、ふるさと納税といった政策や、地域おこし協力隊、NGO/NPOなどによる地域活性化に向けた取り組みは注目を浴びている。だが、地方が抱える課題はまだ多い。
 地方創生を進める上で、拓殖大学国際学部の徳永達己教授は3つの課題があるとみている。一つは、地方から首都東京への人口流入、もう一つは地方創生につながるビジネスモデルの欠如、最後の一つが地域の常識に捉われないイノベーションをもたらす人的資源「よそ者、若者、ばか者」のうちの「若者」がいないことだ。徳永教授は、これらの課題を解決するカギは多分野の研究者を有し、さまざまな地域から学生が集まる大学にこそあると考え、拓殖大学で学部の枠、大学の枠を超えた協働を通じた、いくつかの地方創生プロジェクトを立ち上げてきた。
 『実践!まちづくり学~コミュニティを幸せにする、デザインの挑戦。』は、それらプロジェクトの事例研究を中心に、これからのまちづくりのあり方について探っている。徳永教授と同大学工学部の永見豊准教授、工藤芳彰准教授の3人で監修を務めた。
 Chapter1では、徳永研究室が行う学生参加型の「プロジェクトYターン」が中心に紹介されている。同プロジェクトは、拓殖大学もキャンパスを構える学園都市の東京・八王子市と山梨県との間の関わりを深め、いわゆる「関係人口」を増やすことを目的としたものだ。他にも拓殖大学と山梨県立大学の連携プロジェクトなどが紹介されている。これらの活動では、学生と地域住民との間で認識や思いの違いから生じた壁を乗り越えるため、学生主体で地域住民と対話する場を設けて人間関係を構築していった取り組みなども語られており、まちづくりの実践のヒントがちりばめられている。
 Chapter2では、拓殖大学工学部デザイン学科の永見准教授と工藤准教授が、まちづくりにおけるデザインの役割について学ぶために学生と実践しているプロジェクトを解説している。これは、地元の人が見落としがちな地域の魅力を、学生たちが新たな視点でデザインし、情報通信技術(ICT)などの最新技術も活用しながら付加価値を高めるものだ。
 過去に開発コンサルタントとしてアフリカなどでインフラ開発や都市開発プロジェクトに従事してきた徳永教授は、こうした実践を通じた学びが途上国開発を担う人材の育成にもつながると期待している。というのも、学生たちが海外の現場へ行って開発協力について学ぶことは容易ではない。だが、人材や資源、財源が不足している地方が抱える課題は、開発途上国が抱える社会課題と共通している点も多い。加えて、外国人観光客の増加や2019年春の入管法改正に伴う外国人労働者の増加など、グローバル化が進む今、地方創生においても多文化共生といった国際的な視点は欠かせない。実践的なまちづくりの学びは、途上国開発におけるコミュニティー開発や都市開発に必要な知見を培うことにもなるのだ。
 同書には、学生たちが提案する多様なアイデアも紹介されており、それらの中には途上国開発に生かせるものも多い。そうした意味からも、同書は途上国開発に関心を持つ若者にとって価値ある情報がつまった一冊となっている。


『実践!まちづくり学―コミュニティを幸せにする、デザインの挑戦。』
徳永 達己、永見 豊、工藤 芳彰 監修
大空出版
本体1,200円+税


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本記事は国際開発ジャーナル2020年1月号に掲載されています
(電子版はこちらから)

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