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【JICA Volunteer’s Next Stage】たこ揚げでガザと釜石の交流

隊員のネットワークが活動をつなぐ


☆本コーナーでは日本で活躍するJICA海外協力隊経験者のその後の進路や現在の仕事について紹介します。

佐藤 直美さん
●出身地 : 神奈川県
●隊 次 : 2008年度4次隊
●任 国 : ベリーズ
●職 種 : 音楽
●現在の職業 : ガザ・ジャパン希望の凧揚げ交流会実行委員会 代表


協力隊員の強いつながり
 今年1月8日、軍事時衝突により危機的状況が続くパレスチナ・ガザ地区の平和を願い、岩手県釜石市でたこ揚げが行われた。たこにはメッセージが書かれ、ガザへの祈りが空高く掲げられた。
 このイベントは、ガザ・ジャパン希望の凧揚げ交流会実行委員会によって開催された。実行委員会は元協力隊員の佐藤直美さんらによって立ち上げられ、釜石市の子どもたちとガザ地区の子どもたちの交流イベントを行っている。
 佐藤さんは「この活動は一人では始められなかった。協力隊員の広いネットワーク、その仲間に支えられて活動ができている」と話す。その中でも実行委員会を立ち上げるきっかけとなったのが吉田美紀さんの存在だ。佐藤さんが吉田さんと初めて会ったのは2008年。ともに青年海外協力隊の短期派遣隊員としてブルキナファソに派遣された。同国南西部ボボ・ディウラッソのストリートチルドレンを対象としたサマーキャンプで、1カ月間、子どもたちと交流した。
 ブルキナファソから帰国した翌年、佐藤さんはベリーズに、吉田さんはセネガルに、それぞれ協力隊の長期隊員として赴任。佐藤さんは東海岸に位置するホプキンス村の小学校で子どもたちに鍵盤ハーモニカの指導など音楽の授業を行った。活動がもうすぐ終わる2011年3月11日、東日本大震災のニュースが世界中を駆け巡った。「ベリーズの同僚の先生や近所の人々が『家族は無事なのか』『原発が危ないから、ここにいた方がいい』などと声をかけてくれたことが、今でも忘れられない」と佐藤さん。日本に帰国してからは、青年海外協力協会(JOCA)の被災地ボランティアとして釜石市の避難所で活動していた。同じころ日本のNGOに所属していた吉田さんも、東北で復興支援にあたっていた。被災地で二人は偶然の再会を果たした。

ベリーズの教え子と佐藤さん
放課後の音楽クラブで鍵盤ハーモニカを指導

思いを伝え仲間を集める
 その後2014年から吉田さんはNGOの活動でガザに関わり始めると、Kites of Hopeというガザの子どもたちによるたこ揚げの活動を知った。日本の資金で国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)の学校や住宅などが建てられたガザ南部のハンユニスでは、2012年3月から毎年、UNRWAにより東日本大震災の復興を願うたこ揚げが行われていた。2014年にガザで戦争が起き、大きな被害に遭った際も、子どもたちの強い思いでたこ揚げは続けられた。その子どもたちの思いに胸を打たれた吉田さんは、今度は釜石からガザに平和の願いを届けようと釜石でたこ揚げを企画し、ガザと釜石の子どもたちの交流を始めた。その活動に佐藤さんもボランティアとして協力していた。
 その後吉田さんはUNRWA職員としてガザに赴任することになり佐藤さんに、「釜石での活動を続けてほしい」と伝えた。佐藤さんが即答して実行委員会が誕生したという。佐藤さんは「実行委員会は意気揚々とスタートしたが、私は釜石市で働き始めたばかりで、つてもなく、知り合いも少ない状態で、ただ途方に暮れる日々が続いた」「協力隊の時も活動がうまくいかず行き詰まったことを思い出しながら、あきらめずに営業回りを続けた」と振り返る。そしてある日、釜石高校の先生とイベントで知り合い、生徒たちにプレゼンしてみませんかと提案を受けた。佐藤さんや吉田さんは生徒に熱い思いを伝え、その思いに賛同した高校生たちがイベントに参加してくれることになった。その後も高校生たちが文化祭で広報活動をしてくれたり、ガザへ贈るための鍵盤ハーモニカを寄付してくれたり、活動の幅が大きく広がっていった。さらに釜石市から始まった活動が、福島県南相馬市や東京、広島の高校生たちも交流会に参加してくれるようになり、仲間も増えている。
 佐藤さんは「たこ揚げをすると、みんな空を見て笑顔になる。日本でも小さな子どもからお年寄りまで誰もが参加できる、平和を象徴する文化だ」と語る。「ガザの子どもたちに対する思い、そしてそれに応える日本の子どもたちの活動を伝えていきたい。そして現在大変な状況の中にいるガザの人たちのことを、決して忘れていないというメッセージが少しでも届けばうれしい」と語る。
 地道に町を歩き、仲間を集めてたこ揚げをはじめ、10年近く活動を続けていることに心が打たれた。佐藤さんの真剣で熱い思いが、他の参加者にも紡がれ、活動が継続されているのだと感じる。ガザと釜石の心のつながりが今後も広がることを願う。             (編集部・吉田 実祝)

ガザの子ども達が東北の復興を願い行ったたこ揚げ
メッセージを込めたたこを掲げる釜石の子どもたち

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本記事は国際開発ジャーナル2024年8月号に掲載されています
(電子版はこちらから)

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