【Trend of JICA】寄付金事業の拡充で国際協力への「参加」促進
開発と民間資金との共創も視野
「寄附で世界をつなぐ」。2024年2月、国際協力機構(JICA)が発信を始めた新たなキャッチコピーだ。「信頼で世界をつなぐ」のキャッチコピーになぞらえて、寄付(JICAは寄附と表記)への注目を促している。そこには、寄付という行動を切り口に、国民の国際協力への関心を高めていきたいという意図がある。
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ODA資金を取り巻く状況が大きく変化
「正直なところ、JICA はこれまで寄付を集めることに注力していたわけではなかった。しかし最近は、社会課題の解決への関心を持つ方が増え、寄付も広がってきている状況。こうした中、国際協力の分野においても寄付の呼び掛けを積極的に行っていくことで、興味を持って参加してくださる方を増やしたい」
寄付や事業運営に必要な財源の多様化を担当するJICAの平田仁上級審議役は、こう話す。
従来は、比較的活動経験の浅いNGOなどから事業提案を受け、採択された事業に上限100万円を支援する「世界の人びとのためのJICA基金」以外では、JICAが寄付を呼び掛けることはほとんどなかった。
しかし、寄付や国際協力の資金をめぐる状況の変化を受け、NGOにも説明を行った上でこれまでの姿勢を見直した。
そのポイントが3つある。
第1は、2023年6月に改定され、閣議決定された開発協力大綱だ。「効果的・戦略的な開発協力のための3つの進化したアプローチ」の中で、広範な国民各層の開発協力への参加や資金源の拡大、民間資金の動員などが言及された。
第2のポイントは、2024年3月に上川陽子外務大臣の下に設置された「開発のための新しい資金動員に関する有識者会議」での議論だ。開発途上国へ流れる民間資金は、すでにODAを大きくしのいでいる。そうした中、ODAがサステナブルファイナンスをはじめとする「開発のための新しい資金」の触媒となるためには、どのような活用の手段があるか議論され、寄付やフィランソロピー(社会貢献)の資金をODAで活用することについても話し合われている。
第3のポイントは、日本社会での社会課題への投資や寄付の広がりだ。「社会をよくしよう、社会の課題を解決しよう、そのためにお金を使おうという機運が広がり、寄付も増えている。自分が亡くなったときに資産や財産を寄付する遺贈も大きく増えている。ESG(環境・社会・ガバナンス)投資も拡大し、2022 年のインパクト投資(投資収益を確保しながら、社会・環境的効果を期待する投資)は前年の倍以上に伸びている」(平田上級審議役)。
JICA基金に加えて複数の寄付メニュー
具体的な寄付の受け付けは、従来から呼び掛けていたJICA基金に、以下の3つのメニューを加えた。
①「開発課題の取り組みへの寄付」は、関心のある分野を「豊かさ」「人々」「平和」「地球」の中から寄付者自身が指定し、JICAが実施するその分野のプロジェクトで活用する。
②「JICA海外協力隊応援基金」は、隊員の赴任国での活動に関する物品や輸送費、遠征費用や、隊員OB・OGの協力隊経験の社会還元の促進などに活用する。
③「多文化共生・外国人材受入寄付金」は2023年秋に受け付けを開始したもので、外国人材受入支援や多文化共生事業に生かす。2024年1月に発生した能登半島地震で被災した外国人の支援に実際に活用された。
これらに加え、「JICA の事業全般への寄付」を受け付けるとともに、大規模災害の発生時などには、「緊急支援寄付金」も受け付ける。国際緊急援助隊(JDR)の活動とは別に、災害などが発生した国・地域に対する中長期的なJICAの事業に活用することを想定している。また、一定規模以上の寄付については特定の事業・活動に活用する特定寄付も受け付けている。
企業からの支援で技術協力プロジェクトを拡張
JICAの取り組みに賛同した企業による支援例も生まれている。ライオン(株)は2023年3月、バングラデシュでの「食品安全庁査察・規制・調整機能強化プロジェクト(技術協力)」に対して、子どもたちや教員、地域住民らを対象とした衛生教育を支援することを決め、特定商品の売り上げの一部をJICAに寄付した。同社は2024年、支援の規模をさらに拡大した。これにより、ダッカ管区近郊などの小学校約2,000校(児童数約7万人)を対象とした正しい衛生知識の理解と浸透のためのノウハウや教材などの提供が行われる。
「これまでのJICA事業は、ほぼJICAの予算でやってきた。このケースでは、企業の支援が得られたことでプロジェクトのインパクトを大きくすることができた」(平田上級審議役)
JICAは、寄付の呼び掛けを通じ、国際的な課題解決への関心・参加の意欲を高めることを重視している。そこで重要となるのは、コミュニケーションの方法を見直すことだ。「企業や一般の方からの寄付をより広くJICA事業に活用できるようになると、JICAの事業は何に役立っていて、どういうインパクトを作り出しているのかということを、今まで以上に説明する必要がある。その効果も非常に大きいと思っている」と平田上級審議役。
「寄付を通じて、国際協力や途上国の問題に一般の方が参加する機会を増やすということが大切だし、寄付文化を広める活動にも取り組んでいきたい」と話す。
【Interview】民間資金、NGOの変化を促すカタリストになってほしい
(特活)日本ファンドレイジング協会 代表理事
鵜尾 雅隆氏
外務大臣の下に設置された「開発のための新しい資金動員に関する有識者会議」の委員として、議論を重ねている。最近では、フィランソロピーやサステナブルファイナンス、インパクト投資の資金がODAの資金規模をはるかに凌駕している。インパクト投資の残高は世界で170兆円を超え、日本国内でも10兆円を超えている。このような現状を踏まえると「開発援助に民間資金をどうもたらすか」「JICAの事業資金が不足しているので、そこに民間資金を入れてください」という言い方はやはり違うだろう。
問題は、民間資金がすでに途上国に流れているのに、現地の生活向上に必ずしもつながっていないことだ。そこで現地での事業に通じたJICAだからこそ、「我々が最適なカタリスト、触媒になって、本当に意味のある支援につなげます」というメッセージを出してほしい。
寄付についていえば、寄付という形で途上国の支援に参加したい人がいる。その人たちの気持ちが最適化され、その体験を通じた気づきや学びが次のアクションにつながることが大事だ。寄付をする人の多くは、4つ、5つの団体や取り組みに寄付をしている。日本で、1年間に1回以上、何らかの寄付をする人の割合は45%だが、これが60%になれば、寄付先はさらに増える。これまで寄付をしたことがない人に寄付者になってもらうところがファーストステップで、これを協力しながら進めることが重要だ。
JICAが寄付を集めてJICAの事業に使うだけでなく、NGOの発展にもつなげるというプラットフォームとしての役割を果たすことこそ重要と言える。JICAが開催するSDGsのセミナーには、非常に多くの企業が参加しているので、参加企業とNGOをJICAがマッチングしていくのもいい。民間セクター、NGOを含めて、世界中のプレーヤーが社会貢献や課題解決に取り組みたいと言っている。こんな世界はかつてなかった。この中でJICAの方から提案して手を組み、共創していくこと、JICAが開拓した関係者をNGOなどにも伝えることをしていってほしい。
第1ステップとしては、JICAが寄付を集めながら寄付者と双方向の関係性をつくっていくことがある。ただし、JICAには、そこで止まらず、その先の役割を果たしてほしい。
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本記事は国際開発ジャーナル2024年8月号に掲載されています
(電子版はこちらから)
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