【国会議員の目】参議院議員 自由民主党 山東 昭子氏
安心して生きていくため平和とともに食・健康の重視を ~オリンピックに合わせて栄養を考える~
「多くの人がメダルの行方について考えているとき、数百万の人々が、食べ物を見つけられるか、それとも空腹のままベッドに入るのか、生きていくために必要な栄養を得られるかを心配している」。2012年8月、ロンドンオリンピックに合わせて開かれた飢餓サミットで、英国のデービッド・キャメロン首相(当時)は、こう話し、その後、オリンピックに合わせて、「成長のための栄養サミット」(栄養サミット)が開かれるようになった。国内外の栄養をめぐる問題に取り組んできた山東昭子議員に聞いた。
(構成:本誌ライター 三澤一孔)
参議院議員 自由民主党 山東 昭子氏
さんとう あきこ
1942年東京都生まれ。11歳で芸能界入り。女優・司会者として映画・テレビ・ラジオで活躍。1974年、当時の田中角栄首相に請われ、参議院議員選挙に出馬、32歳の最年少で初当選(以降8期)。「食育基本法」「健康増進法(受動喫煙防止法)」「食品ロス削減法」などの制定に尽力。科学技術庁長官、参議院副議長、参議院長を歴任。2015年より2017年まで女性初の派閥領袖を務めた。
<山東氏の公式HPはこちらから>
※本記事は『月刊 国際開発ジャーナル2024年9月号』の掲載記事です。
一部、現状に合わせて加筆・修正しました。
東京でのサミット前に議連設立
国会議員になる前から、健康食品の問題などに取り組んできたが、国会議員になってから、食生活は健康の源であり、多くの人に幸せを与えるものと考えて活動するようになった。日本の中でも恵まれない子どもたちはいるが、世界的にみれば、日本は食については豊かな国だ。世界では飢えに苦しんでいる人がたくさんいる。その多くは、子どもたちだ。
こうした食をめぐる問題への取り組みの一つとして、2005年に食育基本法を実現させた。私たちは毎日、何気なく食事をしているが、生産者、流通業者、いろんな携わる人の力によって食が与えられていること、そうした人への感謝、誰と一緒に食べるのかなどを、子どものときから考えるようにしようというのが、食育基本法だ。
2013年9月に、2020年に東京でオリンピック・パラリンピックが開催されることが決まった。オリンピックに合わせて東京栄養サミットが開催され、日本が議長国になることが決まり、日本国内だけでなく、世界の栄養改善に向けて考えていくことになった。そのために、民間企業、外務省、財務省、厚生労働省、国際機関、NGOなどの人を集めて議論していくことが、2013年12月に決まった。
栄養問題で特に影響を受けるのは母親と子どもたちだという考えの下、まずは勉強会をスタートし、2015年7月に私が会長を務める「国際母子栄養改善議員連盟」を設立した。
関心盛り上げへ議論重ねる
しかし、栄養サミットの成功は、一筋縄ではいかなかった。世界的な新型コロナウイルス感染症のまん延により、東京オリ・パラは1年延期された。東京栄養サミットは開催さえ危ぶまれたが、サミットも延期となり、2021年12月に開催されることが決まった。
東京栄養サミットに向け、2021年2月からは、栄養の目覚めセミナー(主催=(特活)日本リザルツ)が始まった。国会議員、官庁、民間企業、国際機関、学生らが早朝集まり、栄養について議論した。国際母子栄養改善議連も、参加している国会議員も積極的に関わった。参加者などからの呼び掛けや働き掛けもあり、栄養サミットへの関心も高まっていった。
東京栄養サミットでは、過去最高の181のステークホルダーから396のコミットメント(今後取り組んでいく約束)が提出された。岸田文雄首相(当時)は、日本として今後3年間で3,000億円以上の栄養関連の支援を行い、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)の達成に貢献していくことを発表した。また、栄養と環境に配慮した食生活、バランスの取れた食生活、健康経営を通じた栄養改善を進めていくことも表明された。
国際母子栄養改善議連は、東京栄養サミットもあって参加する議員も増え、現在は100人以上の国会議員が参加している。
きれいな水さえ使えない人々も
世界をみると、戦争が続き、生活が非常に困窮している国も多い。貧困に加え、きれいな水が使えない状況もある。アフリカなどでは、多くの子どもたちが命を落とす。粉ミルクを溶くときに、きれいではない水を使うからだ。
戦争の爪痕として、あちこちに埋められた地雷が残っている国もある。水をくみに行くのは少年少女や女性ということが多いが、川や池に水をくみに行く途中で地雷を踏んでしまい、足を失ってしまうこともある。栄養の問題も大切だが、水の問題も大きい。
政府、NGO、問題に関心を持つ民間企業、国際機関がみんなで手分けして、きめ細かくきっちり調査をし、それをもとに判断を下し、途上国への支援を進めていく必要がある。
亡くなられた緒方貞子氏(元国連難民高等弁務官、元国際協力機構(JICA)理事長)は、本当に厳しいところに実際に行かれ、実態を知り、支援の基礎を作った。支援を考える上で、女性の活動家・実務家も必要だ。
和食の良さも世界へ発信を
食と栄養に関しては、「栄養障害の二重負荷」が問題となっている。低栄養だけでなく、過栄養による肥満や生活習慣病も開発途上国を含む世界各国で課題となっている。こうした中で、和食・日本食や日本の食育への関心も高まっている。
バランスのいい食生活は健康につながる。成人病の治療でも、食に関心を持つ医師であれば、バランスのいい食生活に戻すことから始めることもある。西洋医学で薬で治すことだけを考える医師は、すぐに透析を始める。日本は昔から和食・日本食でバランスのいい食生活をしてきたから長寿社会になったということもある。
参議院議長を務めていた3年間、各国の元首や外相、議長などと接してきたが、みんな口々に「日本食はおいしい」という。そして、「日本人がこれだけ長寿なのは、こういうものを食べているからだ」と理解してくださる人も増えてきた。
食をテーマに、2015年にイタリア・ミラノで開かれた「ミラノ国際博覧会」には、私も参加した。日本館ではユネスコ無形文化遺産に登録された和食をはじめとする日本の食の展示などが行われ、あふれるばかりの人気だった。
日本人はあまり主張をしないところがあるが、いい面はもっと主張していくべきだ。これまで食料は輸入が多かったが、今後はいいもの、高くても売れるものは、どんどん輸出していくべきだ。それによって、農業をやっていて良かったという気持ちにもなるし、若い人が農業を目指す国にもなる。
こうした日本食の良さに加え、学校給食や管理栄養士の存在、食育の取り組みが効果を上げてきた。
安心して生きていくためには、平和であることも基本だが、健康も基本だ。一人一人の健康は自分たちで管理していくという意識を国民一人一人が持つと共に、世界に目を向けて、恵まれない人、想像を絶する生活をしている人の状況の改善に取り組んでいくべきだ。
2025年3月には、パリ栄養サミットが開催される。誰一人取り残さない持続可能で健康的な社会を実現するために、すべてのステークホルダーによる立場を超えた実りある議論を期待している。
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本記事は国際開発ジャーナル2024年9月号に掲載されています。
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