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ポスト・新型コロナ時代ーASEAN諸国の課題

2つの変革の波に対応を

中国に端を発した新型コロナウイルス感染は新興国・開発途上国にも広がりつつある。東南アジア諸国連合(ASEAN)諸国も例外ではない。そうした中、4月9日のASEAN外相会合では「ASEAN COVID-19対策基金」の設立、加盟国間での食品や医療機器といった物資の融通などが議論された。事態収束後、ASEANにはどのような変革が訪れるのか。本誌論説委員を務める木村福成氏が論考する。

慶應義塾大学経済学部 教授
東アジア・アセアン経済研究センター(ERIA) チーフエコノミスト
木村 福成氏

東京大学法学部卒。ウィスコンシン大学マディソン校経済学研究科で博士号取得。2000年に慶應義塾大学教授に就任。08年からERIAのチーフエコノミストを務める

封じ込め政策に取り組む各国

新型コロナのASEAN諸国への伝播はこれまで、比較的遅いと言われてきた。だが、ここにきて日本と同様に感染爆発の瀬戸際にある国が増えてきている(図参照)。3月中旬以降、マレーシア、タイ、インドネシア、フィリピンで感染が急拡大し、各国とも外出・営業制限などのいわゆる「ソーシャル・ディスタンシング」を始めている。タイだけはやや拡大速度が鈍っているが、それ以外の国は予断を許さない状況にある。シンガポールは早期の対策が成功した例とされてきたが、ここに来て(4月中旬)指数関数的な増加パターンにはまっている。他方、ブルネイ、カンボジア、ラオス、ミャンマー、ベトナムは、PCR検査の数などにも拠っている可能性はあるが、感染確認者数は低い値にとどまっている。

 今後の対応として、まずは経済的コストがかかったとしても感染をコントロール可能なレベルまで低下させるべき、というのが世界の経済学者の多くが合意する政策論である。開発途上国はどこでも、保健・医療体制の不備、貧困層の貧弱な健康・栄養状態、過半数の国民の低貯蓄と社会的セーフティネットの不備という弱点を抱えている。保健政策の遂行をバックアップする経済政策の選択肢も限られている。感染爆発となれば、アフリカや南アジアはもとよりASEAN諸国でさえも、欧米諸国以上に恐ろしいことが起こりうる。

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国際開発ジャーナル6月号での特集「コロナ危機が問う国際協力」で掲載した新型コロナ関連記事を抜粋したマガジンです。 保健医療を中心に国際協力…

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