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国際保健規則の徹底遵守が必要

これからのグローバルヘルス

日本はこれまで主要国首脳会議(サミット)などを通じてグローバルヘルスの取り組みを主唱してきた。グローバルヘルスと日本の今後の課題について、保健医療分野における“政界のカタリスト”武見敬三議員に聞いた。

参議院議員 自由民主党 武見 敬三氏
1995年参議院議員初当選後、現在5期目。厚生労働副大臣などを歴任。自由民主党国際保健特別戦略委員長を務める傍ら、19年より世界保健機関(WHO)のユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)親善大使も務めている

最大の盲点は国内対策の不備

2016年のG7伊勢志摩サミットで打ち出された「国際保健のためのG7伊勢志摩ビジョン」では、グローバルヘルスの取り組みを促進させる4つのアジェンダを提示している。このうちの2つは、公衆衛生上の緊急時に備えたグローバルヘルスの枠組みの強化と、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)の達成に向けた保健システムの強化だ。

前者では、具体的な施策として感染症流行時における世界保健機関(WHO)と国連人道問題調整事務所(OCHA)の新たな連携スキームの構築や、WHO憲章に基づく国際保健規則(IHR)が定めるコア・キャパシティの強化が求められている。コア・キャパシティとは、平時の衛生管理や感染症の流行など有事の対応に関して最低限備えておくべき能力を指す。これを受けて、公衆衛生上の危機管理体制の構築とUHCの達成はコインの表裏の関係にあることがグローバルヘルスの“常識”となった。そして、こうした動きを主導した日本の存在感も高まった。
 だが今回の新型コロナウイルスの感染拡大では、既存のグローバルヘルス体制の課題が浮き彫りになった。一つは、IHRが各国で十分に遵守されていないことだ。例えば、IHRでは公衆衛生上の危機を引き起こす可能性のある事象が起こった場合、WHOへの通告義務を課している。ただ、違反した国に対して罰則などの具体的な措置は設けられていないため、自国に不利益だと判断した場合にWHOへ通告しない国もいる。これは中国に限った話ではない。それに日本も、国内のコア・キャパシティの不十分さが露呈した。例えば、日本には中・小規模の感染症流行時の具体的な対処方針がない。私は以前より具体化を進言してきたが叶わなかった。また、内閣官房には感染症の専門家がいない。本来であれば感染症担当の危機管理監と専門家チームを常設し、彼らが国内外の情報収集・分析や国内対策を指揮すべきだ。日本は、03年の重症急性呼吸器症候群(SARS)の国内感染者数が少なく、09年の新型インフルエンザでも人口10万人当たりの死亡率がカナダの1.32、韓国の0.53に対し、日本は0.16だった。質の高い地域医療とこれらの実績から「感染症に対処できる」という安心感と油断があった中で国内体制の不備に気づけなかった。これは最大の盲点だ。

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国際開発ジャーナル6月号での特集「コロナ危機が問う国際協力」で掲載した新型コロナ関連記事を抜粋したマガジンです。 保健医療を中心に国際協力…

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