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村上作品のpseudonymについて少し考察。ねじまき鳥クロニクルを英語版wikiで読む #16


今回も、Characterを精読していきます。

今日は、加納クレタの紹介からはじめましょう!

Creta Kano: Malta's younger sister and apprentice of sorts, she describes herself as a "prostitute of the mind." Her real given name is Setsuko.

apprentice
見習い

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describe
特徴を述べる(説明する)

prostitute
娼婦

***
加納クレタ:マルタの妹で、一種の見習い。彼女は自身を”心の娼婦”と説明している。本名はセツコ。

本名をreal given nameと表現するのが、なんとも英語っぽくていいですね。日本語だと「私、実際に与えられた名前がセツコというの」と言われたらちょっとヤバい人だと感じそうですが、あくまで名前は「神から与えられたもの」という概念があるからこそ成立する表現なのでしょうか。きっと。
***

She had been an actual prostitute during her college years but quit after a session with a young Noboru Wataya, who effectively raped her with a foreign object.

***
彼女は、大学時代実際に娼婦でした。でも若い頃の綿谷昇とのセッションで、彼は効果的に彼女を異物(a foreign object)でレイプした後、(娼婦を)辞めました。
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Disturbingly for Toru, Creta's body bears a near-identical resemblance to Kumiko's from the neck down.

Disturbingly
気がかりなことに disturb 乱す

identical
同一の

resemblance
類似点 resembles 似ている

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トオルにとって気がかりなことに、クレタの身体は、首から下(from the neck down)がそっくりだ。
***

加納クレタの説明は以上となります。

日本版wikiも見てみましょう。


加納マルタの5歳年下の妹で、姉と同様の素質を持つ。マルタの助手。ジャクリーン・ケネディのような髪型とメイクをしている。
姉によって「クレタ」と名付けられるが、実際にクレタ島に行ったことはない。綿谷ノボルに「汚された」経験がある。

なるほど。たしかに原作では汚されたと表現してました。英語だと比喩的に汚されたといっても、きっと「レイプされた」とは捉えないのでしょう。

加納クレタのまとめいきましょう。

Creta Kano: Malta's younger sister and apprentice of sorts, she describes herself as a "prostitute of the mind." Her real given name is Setsuko. She had been an actual prostitute during her college years but quit after a session with a young Noboru Wataya, who effectively raped her with a foreign object. Disturbingly for Toru, Creta's body bears a near-identical resemblance to Kumiko's from the neck down.


続いて「赤坂ナツメグ」いってみましょう。

Nutmeg Akasaka: Nutmeg first meets Toru as he sits on a bench watching people's faces every day in Shinjuku.

***
赤坂ナツメグ:ナツメグは新宿でベンチに座って人々の顔を毎日見ているトオルに最初に会いました。
***

The second time they meet she is attracted to the blue-black mark on his right cheek.

attract
惹きつける attraction 魅力→惹きつけるもの→アトラクション

***
二度目に彼らは会うと、彼女は彼の右の頬の青いマーク(あざ)に惹きつけられます。
***

She and Toru share a few strange coincidences: the wind-up bird in Toru's yard and the blue-black cheek mark appear in Nutmeg's World War II-related stories, and also Nutmeg's father and Lieutenant Mamiya (an acquaintance of Toru's) are linked by their experiences with violence and death in Manchukuo and the rise and dissolution of the Kwantung Army during World War II.

coincidence
偶然の一致

acquaintance
知人

dissolution
解散


***
彼女とトオルは奇妙な偶然の一致を少し共有している:トオルの庭のねじまき鳥と青黒い頬のマークはナツメグの第2次世界大戦に関係する物語に現れ、そしてナツメグの父親と間宮中尉(トオルの知り合い)もまた、彼らの満州国での暴力と死の経験や、第2次世界大戦中の関東軍の隆盛(the rise and dissolution)とリンクしている。
***

"Nutmeg Akasaka" is a pseudonym she chose for herself after insisting to Toru that her "real" name is irrelevant.



pseudonym
仮名 覚えづらいですよね。「す~でネーム」みたいな発音なので、「ネームでーす」をふざけて倒置しているとして覚えてみるのはどうでしょうか(?)

それにしても、村上作品ってpseudonymがよくでてきます。とくに初期。

その理由は、読者が名前を読者固有のパーソナルなイメージと結びつけることを危惧しているのだと思います。

ようするに、あなたが現実を通じて抱いている”田中さん”についての印象と、物語に登場する”田中”という人物を切り離して読めますか?ということです。
おそらく、人間の持つ「無関係のそれらを無意識下で結びつける作用」を嫌って、なるべく無関係である可能性の高い(たとえばナツメグのような)名前を使っているのでしょう。


余談ですが、「1Q84」において、無関係である可能性の高い名前を使おうと「青豆」という名字をチョイスしたところ、後日「青豆」という名字の方が実在していたと判明し、大変驚いた。といった内容の記事を読んだ記憶があります。

insist
主張する

irrelevant
無関係な

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スクリーンショット 2021-07-17 16.56.01

Google翻訳のバグ?を紹介するという、本文とは無関係な情報でした。


***
”赤坂ナツメグ”は彼女が自身のために、彼女の現実の名前とは無関係だとトオルに主張した後に選択した仮名です。
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以上で、赤坂ナツメグの説明は終わります。

物語後半の中心人物にしては、すこし説明が薄いですが、Plot summaryに詳しく書いていたので省いたのだと思います。

ついでに日本wikiを見てみましょう。

赤坂ナツメグ
横浜生まれ、満州国新京(現在の長春)育ち。ソ連の参戦直後に満州を脱出し終戦を船上で迎える。
ファッションデザイナーとして有名になるが、現在ではある「特殊な仕事」が本業になっている。

赤坂ナツメグの復習しておわりましょうか。

Nutmeg Akasaka: Nutmeg first meets Toru as he sits on a bench watching people's faces every day in Shinjuku. The second time they meet she is attracted to the blue-black mark on his right cheek. She and Toru share a few strange coincidences: the wind-up bird in Toru's yard and the blue-black cheek mark appear in Nutmeg's World War II-related stories, and also Nutmeg's father and Lieutenant Mamiya (an acquaintance of Toru's) are linked by their experiences with violence and death in Manchukuo and the rise and dissolution of the Kwantung Army during World War II. "Nutmeg Akasaka" is a pseudonym she chose for herself after insisting to Toru that her "real" name is irrelevant.

ではまた!

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