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うまい短角和牛を育てる。100%国産飼料飼育と100%牧草飼育で二刀流畜産を目指して。

人懐っこくて、穏やか。そんな短角和牛の姿が、奥羽山系の北の一角をなす稲庭岳の麓で生まれ育った僕の子ども時代の記憶にはあります。

餌をやったり手伝いをしたり。牛舎が暮らしのすぐそばにあって、いつでも牛がいる。僕も牛飼いになるのだと自然に思ってここまで歩んできたように思います。

このnoteは、僕が育てる牛のこと、土地のこと、品種のこと、育て方のこと、1頭ずつのことを届けたくて、記録も兼ねて。

稲庭で短角和牛を育てる

牛たちは夏から秋までを自然のなかで過ごしストレスなく育つ。秋の終わり、短角和牛を山からおろすために誘導する父の姿。

稲庭の山は、岩手県の北部にある二戸市のなかでも標高が高く、景色も空気も水もいい。うちはこの土地の代々の畜産農家。牛の繁殖飼育や地域の農家の牛を牧野で預かっての放牧飼育を営んできた父の姿から、僕は多くを学んできました。

父の手伝いをしながら経験を積み、本格的に畜産家としての活動を始めるようになりました。僕自身がどんな牛を育て、どんな畜産家になるのかを考えながら。

時代とともに価値付けの変動もあって、育てる品種の比率の変動も見てきたように思う。短角和牛を原産とする東北地方でも、黒毛和牛が多くの畜産農家で飼育されていて、うちでも両方を飼育し、近年は黒毛を多く飼育してきました。

しかし、日本の和牛のなかのわずか0.2%という希少品種である短角和牛と黒毛和牛は姿や味わいはもとより性格も、適した飼育方法も違っていて、それぞれの特性がある。

僕自身がどんな牛を育てたいのか。そう考えた時、改めて惹かれたのが、子どもの頃から見ていた短角和牛でした。

穏やかな性格で愛情深くて、牧野でも牛舎でも母子が一緒にいて、子育て上手。乳の分泌も良く子牛が幸せそうにすくすくと育つ。放牧にも適していて、牧野での自然交配もできる。いい牛だなぁと

そう思い立ち、5年前から短角和牛を本格的導入し、黒毛と合わせて50頭ほどを飼育するようになりました。

どんな短角和牛を育てるのか

短角和牛は体も声も大きく迫力があるが、性格は穏やかで向かって来ることはない。

短角和牛をどんなふうに育てるのか。なによりも僕自身が理想的だと思う牛、食べて欲しいと思う牛を育てることにしました。思い立ったら実行あるのみ。短角和牛の子牛から数頭を選び、こだわりの方法で育てることにしました。

短角和牛って、そもそも和牛って、なんだっけ......と思われる方も多いかと思いますが、短角和牛は茶褐色の毛色に短めの角。正式な名称を「日本短角種」といいます。

ざっくりと説明すると、和牛とは黒毛和種、褐毛和種、日本短角種、無角和種とその4種同士の交雑種のみを指し、なかでも短角和牛は現在日本で飼育されてるうち約7,000頭(0.2%)しか存在しない希少品種

短角和牛のルーツは岩手の在来種である南部牛。縄文の時代から東北の人々とともに歩んできたと言われるこの牛は、人に従順でいて足腰が丈夫なことから、南部藩の時代には鉄鉱山での作業や太平洋からの塩の運搬などに活躍してくれました。

そして明治時代、放牧適正のある外国種のショートホーン種を掛け合わせて改良を重ねることで生まれたのが現在の短角和牛です。

稲庭高原では、幻想的な風景に出会えることも。

標高1,078メートルの稲庭岳の山麓に広がる稲庭高原。高度とともに空気も水も良く、傾斜のある地形ならではのパノラマの景色が広がる。そばにはブナの原生林も茂る清々しい土地。

僕が育てる短角和牛は、この豊かな自然環境で5月から10月にかけて短角和牛が放牧され、のびのびと草を食べて過ごします。冬が近づくと牛舎に戻り、母牛たちはそこで子牛を生む。地元で昔から根付いているやり方で「夏山冬里方式」と呼ばれています。

短角和牛の味わいの魅力は、なんといっても赤身のおいしさ。脂肪交雑の入らない赤身肉はきめが細かく保水力が高く、噛み応えともにある深い旨味にはサシが口内で溶ける魅力を打ち出す黒毛和牛とは対照的な楽しみがあり、牛肉本来の香りと旨みが堪能できることから国内のフレンチやイタリアンのシェフからも支持されています。

その魅力を最大限に引き出すとしたら、どんな育て方がいいだろう。
考えて、2つの挑戦を選びました。

僕が選んだ、2つの挑戦

ひとつ目は、100%国産飼料の短角和牛を育てること。

現在の畜産業界は飼育効率やコストの問題から輸入飼料に頼っています。うちでもこれまで肥育においては飼育効率や経営コストを優先し、飼料会社から購入した飼料を与えてきました。

でも、まず僕自身がどんな牛を食べてみたいかと考えてみたら「100%国産飼料で育てた牛を食べてみたい」という思いがある。

じゃあ、とことん挑戦してみようと、2017年に畑を拓き、飼料となるとうもろこしの栽培を始めました。そこで収穫したとうもろこしによって、2023年には自家栽培とうもろこしと地元&国産飼料(岩手県産大豆のオカラと国産フスマ)を食べて育った短角和牛を実現しました。今も1頭ずつ、飼料や環境の調整をしながら国産飼料100%の短角和牛飼育を続けています。

2つ目は、100%牧草飼育の短角和牛を育てること。

牛はもともと牧草だけで育つもの。その土地の牧草のみで飼育することで、その牛が本来持つ個性や特徴を存分に引き出すことができます。放牧飼育に適した短角和牛、そして、空気も水も澄み渡り、冷涼で傾斜が厳しく健康的に登り降りをして過ごせる稲庭の土地ならなおさら。

季節ごとに異なる気候や牧草の風味が、そのまま肉質や香り、味わいに反映されるなら、出荷のシーズンごとにまるで「旬」を味わうような楽しみ方ができるはず。そして、2024年冬、初めての100%牧草飼育の短角和牛の出荷を迎えました。

二刀流畜産を目指してこの味わいを届ける

この2つの挑戦を続けることができれば、それぞれの個性を追究した二刀流の畜産ができる。そんな無謀にも思われそうな挑戦に大真面目に、でも実験のような楽しさを持って取り組んでいる日々です。

2024年の今年、この2つの挑戦から生まれたお肉の出荷販売を始めました。今、こだわりの短角和牛を調理してみたいと思ってくださる料理人さんとお店へお届けする道を模索しています。

このnoteを読んで、「食べてみたい」と思ってくださるみなさんにも届きますように。

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