化学物質過敏症の「保険適用」問題 保険診療の治療法はない

※化学物質過敏症についての厚労省の見解や、自治体の対応の問題点
 以前に書いたものにリンクを貼っておきます。


化学物質過敏症は「病名」として認められている

化学物質過敏症を確立された疾患であると思ってしまう原因の1つが、診療報酬などを請求する際の病名として登録されていることです。
このことから、記事などでは「化学物質過敏症は保険適用である」と紹介されたりしています。
(※診療報酬情報提供サービスからも調べられます)

これは、化学物質過敏症を伝えるメディアにとっても大きな安心材料になります。
「保険適用なら、国が認めた病気だ」というのが通常の感覚であり、最初の段階で化学物質過敏症の概念に多少なりとも疑問を持ったとしても、「まあ国が認めているんだから大丈夫だろう」となるからです。

病名と認められているのに疾患概念が確立していない、とは?


しかし、厚労省は化学物質過敏症について「疾患概念が確立していない、原因や病態も不明」としています。(※以前のnoteにも書きました)
病名として認められているのに、疾患概念が確立していないということがあるのでしょうか。
疾患概念が確立されていないのに、どうやってその病名にあたると診断するのでしょうか。

「病名登録」と「疾患概念が確立していない」の2つは矛盾するように私には見えるのですが、どこかの段階で理解が間違っているのかもと思い、こちらも確認してみました。

厚労省の回答

  • 化学物質過敏症は病名として登録されている。

  • しかし、病名が登録されているからと言って、確立した疾患というわけではない。

つまり、確立した疾患じゃなくても病名がつくことがある、ということです。
しかし、よくわからない状態で病名を付ける意味はあるのでしょうか。その回答は…

  • 統計上の理由が大きい。化学物質過敏症に限らずさまざまな疾患において、医師がどのような病名をつけているかは統計上重要である。統計上の解析に使うために、診断名が立っていると認識。

  • ただし、疾患概念が確立していないので、(化学物質過敏症という)病名と診断されたことをもって、化学物質過敏症だと認識することはしていない。


たしかに、化学物質過敏症については病態や原因が不明であるからこそ、各省庁が調査対象にしています。(研究班の成果についてもいくつも公表されています)
その意味では、化学物質過敏症と診断するケースがどのくらいあるのか、という状況を把握することは必要であるとは思います。

ただ、登録時の状況を考えると、この「統計上の理由」だけをもって、厚労省が自主的に病名登録を決めたのかは疑問です。
病名登録(2009年)の前に、化学物質過敏症の支援団体が病気として正式に認めるように要望を出すなどの活動が行われており、また、日弁連も2005年に発表した提言書の中で化学物質過敏症を「保険適用ある病名として承認すべき」と明記しています。
病名登録の決定に、これらの活動の影響はどの程度あったかまではわかりませんでした。

回答から考えられること


登録の理由と経緯には若干の疑問も残るものの、ともかくまずは「病名があるから確立した疾患だ(と国が認めている)とは言えない」ということを押さえておくのが必要かと思います。

化学物質過敏症について国は慎重な姿勢をとっていることを、あらためて見解の一つとして認識するとともに、何よりこれらの状況から「病名として認められても実質的に保険診療で行える治療法はないのでは?」と気づくのではないでしょうか。

「保険適用」と言っても…保険診療で行える治療法はない

病名登録を「保険適用」と書かれると、病院に行けば何かしらの治療や薬の処方を保険診療で行ってもらえるような気がしてしまいます。
でも、「病態も原因も不明」としているものに対して、治療のエビデンスを示すことはかなり困難ではないでしょうか。
念のため確認しましたが、厚労省も「国が認めた治療法はありません」とのことで、現状では保険診療で行える治療は1つもありません。

実際は、例えば患者さんが化学物質過敏症として頭痛を訴えているケースで、頭痛に関する病名をつけて頭痛薬を出すという意味で保険診療が行われている可能性はある、ということですが、「化学物質過敏症そのもののの治療」を保険診療で行えるわけではありません。

クリニックで実際に行われている「治療」について


このことを踏まえたうえで一般のクリニック等で行われている「治療」を見てみます。
国と同じく「病態も原因も不明」の姿勢では治療が実施できないので、少なくとも化学物質過敏症の原因は化学物質にあることを前提にしているところが多いようです。
例えば治療法として、「解毒療法」(解毒剤やビタミン剤、ミネラルの投与だということです)を行っていることをサイトに掲載しているクリニックもあり、このクリニックの医師はテレビなど大手メディアにも取り上げられています。

「保険適用」「病名として登録」などの文言に引きずられそうですが、
ここまで見てきたように、これらは自由診療です。
そして、その多くで「化学物質過敏症とは何か」という前提自体も国とは異なります。

メディアで化学物質過敏症を取り上げようとすると、「化学物質過敏症外来」を開設しているなど、その分野を専門としているクリニックや医師が候補にあがると思います。
そこで行われている治療は、どのようなものでしょうか。治療そのものを本編では取り上げなかったとしても、患者さんに行っている治療やその科学的根拠はどの程度なのかを把握したうえで、本当にそのクリニックや医師に協力を依頼するかを判断する必要があるのではないでしょうか。

「メディアで取り上げられたから信頼できる」というバイアスがはたらく可能性もあり、個々の患者さんが自由診療について冷静に判断する機会を無自覚に侵害してしまうことを懸念しています。

次に書こうと思っていること


・シックハウスもあるから化学物質過敏症もあるのでは
・香害は自分の経験上も理解できる。省庁も啓発ポスターを出しているから化学物質過敏症の一部については認めているのでは
…という受け止めをしてしまうことについてなど。

※感想ですが やはり違和感が残る「病名収載」「保険適用」


医療関係者やこうした分析を行う研究者ではないので、実務上の利点はわからないのですが、「病名として認められているのに疾患概念が確立していない」ということ、これを「保険適用」と表現してしまうことは(間違いではないようですが)やはり違和感が残っております。
エビデンスが固まってきたから認めた、ということなら納得がいくのですが、少なくとも今回の件ではエビデンスは登録と関係なかったので、とりあえずは病名登録とはそういうものだという程度に理解しておこうと思います。