「化学物質過敏症」の伝え方問題 “治療”にお墨付きを与えていないか

メディアで何かをテーマとして扱うとき、
「困っている人がいて、それを助けようとする人がいる」
という話は取り上げやすいと思うのですが、
「困っている人がいて、それを助けようとする人がいるけど、
その助け方が本当に良いのか疑問である」
という話は、取り上げにくいのではないでしょうか。

まず、助けようとしている人をわざわざ悪く言うようで、
善意にケチをつけている気になります。
特に、助けようとしているのが医師であるケースなど、
専門的な知識が必要な分野である場合、
専門外の人間が疑問を呈すのは
逆に自分の疑問が間違いなのではないかと自信がなくなってきます。

さらにいえば、疑問を呈したところで、
自分が困っている人を救えるわけでもありません。

では、これを放置してよいのでしょうか。

その助け方が間違っていたら、
やはり本当の意味で困っている人を助けたことにはならないでしょう。
たとえ助けようとしている人が心から善意であったとしても、
患者さんや社会にとって悪影響を及ぼすものであったとしたら、

それは伝えていかなければならないのではないかー
というのは、HPVワクチンを巡る報道の大きな反省点でもあります。


<化学物質過敏症>と”治療”する医師


現在の化学物質過敏症に関するメディアの取り上げ方は、
上記のような構図に当てはまるような気がしています。
「症状に困っている人」と「治療をする医師」による内容の構成です。
この構成の仕方は、一般的な病気については何の問題もないと思います。

しかし、化学物質過敏症では、
その”治療”を行うことで、
本当に症状に困っている人は救われるのか。
その”治療”や”治療を行う医師”を取り上げることにより、
「メディアで取り上げられたのだから信頼できる情報」と
思わせてしまう可能性はないか。

こうした点を伝える側が考え、配慮する必要があります。
気づいたこと、調べたことをまとめておきます。

化学物質過敏症とは何か


柔軟剤のにおい、食べ物の添加物、野菜などのごく微量の農薬によって、
頭痛や吐き気が誘発され、時には動けなくなる―
微量であっても、化学物質に接触すると
こうした症状が引き起こされてしまう、などとする
いわゆる「化学物質過敏症」が多くの記事や番組で取り上げられています。

「化学物質過敏症」と検索すれば、
化学物質過敏症に関しての情報を発信する自治体のサイトが無数にヒットします。

化学物質過敏症を取り上げよう、とする場合、
・すでに多くのメディアにとりあげられ
・複数の自治体が啓発している ことから、
特にその存在に疑問を持つ要素はなさそうに見えてしまいます。

しかし、立ち止まってみると、ひっかかる点がいくつかあります。

そもそも化学物質過敏症の指す「化学物質」とは、何でしょうか。
何か人工的なものというイメージがあるかもしれませんが、
天然のものであれ、人工的に合成されたものであれ、
すべて物質であり化学物質ではあります。

そして、農薬も添加物も香料も物質としては別のものであるのに、
身体の反応が同じであるということは、どういうことなのか。

こうした時には、まずは国が何と言っているかを調べると思うのですが、
厚労省のサイトには定義が載っていないのです。
そのため、一個人として同省に問い合わせをした回答がこちらです。

国の「化学物質過敏症」の定義は

・定義はない。
・病態や原因が不明で、疾患概念が確立していない。
・原因については化学物質のほか、
 心因性や神経系の可能性も含めて調査している。

ということで、疑問は全然解消されないのですが、
とりあえず化学物質が原因であるかどうかも特定されていないことは
わかりました。

国と自治体で違う「化学物質過敏症」への姿勢


一方、このように国としての定義がない中でも、
自治体が化学物質過敏症に配慮しましょう…などと掲載しているのは
なぜなのでしょうか。

調べてみると、それらの自治体の多くで
「厚労省の研究班が出した約30年前の化学物質過敏症に関するパンフレット」が、
情報の出典とされていることがわかります。

ただ、結論から言えば、厚労省はこのパンフレットについて
「省の見解とは異なる」としていることがわかりました。

それはさておきなのですが、
続いて47都道府県でどのくらいこのパンフレットが引用・掲載されているのか、
どの部分が「見解と違う」のか、回答とともに見ていきたいと思います。


【参考】化学物質過敏症についての調査と現在のエビデンス


化学物質過敏症を解明しようとする作業は行われていて、
そのうちの一つが、2018年に厚労省の研究班が発表した
『科学的根拠に基づく シックハウス症候群に関する 相談マニュアル』です。
この中に
<シックハウス症候群といわゆる化学物質過敏症の違い(p.50~54)>
という項目があり、化学物質過敏症のエビデンスとしてはこの内容を基本としているとのことです。

さまざまな研究結果(とその研究がどのように行われたかというエビデンスレベル)や各国との比較などが書かれているので、
検索で上位にあがってくる「化学物質過敏症」とどう違うのかを見るだけでも参考になります。

(ちなみに、自治体が根拠にしている約30年前のパンフレットも”厚労省の研究班のもの”ではありますが、こちらはエビデンスとして採用されてはいません)