スタートアップのプレゼンテーション(ピッチ)における桃太郎理論
ベンチャーキャピタリストとして、日々、たくさんのスタートアップから、特に資金調達を目的としたプレゼンテーションを聞いています。
中には「素晴らしい!」と思うものもありますし、「うーん、ちょっと、、」と思うものもあります。
何がその差異を生み出すのか、その考察をここに書いてみました。
なお、既にこういった類の話はあまたの投稿がなされており「なぜ今さら」と思われる方も少なくないと思います。
ところがスタートアップのプレゼンテーション現場においては、まだまだ「もったいない」と思うものがあります。
そこの解決の一助になれば、という思いで、この考察を書きました。
素晴らしいプレゼンテーションに共通している型
先に考察結果を書いてしまいますが、私が、素晴らしいと思うプレゼンテーションは、おおよそ共通して下記の型で構成されています。
① 会社名と何をしようとしているかを一言で(ミッション)
② アプローチする問題あるいは機会の説明(問題提起 or 機会提起)
③ 上記の問題を解決あるいは上記の機会を最大化するアイデアの説明
④ 上記のアイデアを実現する方法の説明(技術、サービス、ビジネスモデルも含めて)
⑤ なぜ今やるべきかの説明(市場規模や競合状況も含めて)
⑥ なぜあなたたちならできるのかの説明(コアコンピタンス、チームも含めて)
⑦ これまでの実績あるいは進捗の説明
⑧ これからの計画の説明
⑨ ファイナンスの説明
⑩ 実現したい世界の説明
特に大切なのが①~②で、ここでいかに「感情移入」させることができるかがポイントです。なぜかというと、プレゼンテーションを聞いている方も人間だからです。人間は、感情の生き物です。だから、聞いている人間の感情を動かすことができれば興味を持ってもらいやすくなります。興味さえ持ってもらえれば、あとは自発的に「もっと知りたい」と、前のめりになります。
そのために、問題(あるいは機会)を提起し、それを聞き手にとって他人事ではなく自分事だと思わせ、世界に引き込んでいくことが大切なのです。そこでは写真や動画など視覚的に訴えかけるものも有効でしょう。
「さて、今の世の中にはこんな問題(あるいは機会)があります。どうしていきましょうか?」と、聞き手も一緒に考える土壌を作っていくことが大切です。
その上で「もちろん、そのアイデアを考えてきています」と、③「アイデアの説明」に入っていきます。そのアイデアが、聞き手がその場で想像すら及ばないことであれば、それこそ、深く印象に残ることでしょう。もちろん、奇をてらったアイデアであればいい、というわけではありませんが、なるほど、そんなアイデアが!と聞き手の知的好奇心を刺激するものであれば、聞き手はどんどん前のめりになってきます。
そしていよいよ、そのアイデアをどう実現していくか、④「アイデアを実現する方法の説明」に入っていきます。ここではじめて、技術的な点などに触れていきます。
そして、⑤「なぜ今やるのか」で納得感を高め、たたみかけるように⑥「なぜあなたたちなのか」の説明を通じて、このアイデア・方法をやるのは、「今、私たちしかいないのです!」ということを印象付けた上で、⑦「これまでの実績」の説明を通じ、嘘はったりではないことを証明します。さらにそこで終わらず、⑧「今後の計画」へと移り、最終的に⑩「実現したい世界(=ビジョン)」で締め、「さぁ、一緒に世界を変えましょう!」と、聞き手の感情をグラグラ動かして、引き込んでいくのです。
①~⑩のうち、どれかだけでは聞き手の感情は動きません。①~⑩を通した「ストーリーが」が大切なのです。
残念なプレゼンテーションに共通している型
一方、残念なプレゼンテーションに共通している型として、上記の②~③がなく(場合によっては①もなく)、いきなり④から入るものが挙げられます。
特に、技術力に自信がある会社に多い型なのですが、とにかく、技術の素晴らしさをアピールしようとしてしまいます。そこには「ストーリー」がありません。
よく聞く言い訳としては「うちの技術(あるいは事業領域)は特殊だから誰も分からないだろう、だから技術から説明しなければいけないのだ」というものです。
しかし、聞き手である人間は感情の生き物です。よほど、その技術に精通していれば話は別ですが、そうでなければ感情移入できません。感情移入できないと、聞く力が沸いてきません。
いきなり難しい技術の話をどんどんされ、心の中では「え、これって何にどう使われるの?これがあることで世界がどう変わるの?」という疑問をいだき続けながらも、プレゼンターの熱意ある話の腰を折るわけにはいかず、淡々と話を聞いて、制限時間が来て、特に質問もなく、その場が解散される、というパターンです。
こういったプレゼンテーションをする話し手が抱いている誤解の一つが「プレゼンテーションは技術(あるいは事業)を理解してもらう場だ」というものがあるのではと思います。もちろん、最終的にはきちんと理解いただきたいのですが、それよりもまずは「技術(あるいは事業)に興味を持ってもらうこと」が大切で、興味さえ持ってもらえたら、その後は主体的に、前のめりに、いろいろ質問が展開され、理解が進むのです。場合によっては、他の人に紹介してもらえることもあるでしょう。
そのためには、上記①~⑩に見たような「ストーリー」が不可欠で、「問題(機会)→アイデア→方法→実績→目指す世界」に沿って、人間の感情を動かしていくことが大切なのです。
昔話もこのストーリー
ところで桃太郎などの昔話も、実はこのストーリーに沿って展開されています。
・鬼が人々を苦しめて(問題の提起)
・そこに桃太郎が登場して鬼退治を提案(アイデア)
・きびだんごを使って仲間を集めながらチームを強化(方法)
・鬼を退治(実績)
・みんな仲良く平和に暮らす(目指す世界)
最初に問題提起されるから、聞き手は問題解決に向かって感情移入し、話に引き込まれていくのです。問題提起なしに、いきなり、誰だか分からない桃太郎が登場して最強チームを作り始めても、聞き手は「???」となるでしょう。スタートアップのプレゼンテーションも、同じことです。
これを私は勝手に「桃太郎理論」と、よんでいます。
昔から、こういったストーリーが人々の記憶に残り、語り継がれてきたということは、何らか、私たちの脳あるいは感情に働きかける要素があるからなのでしょう。それをうまく、使わない手はありません(神話理論なども、そうですね)
むすびに
さて、むすびとして、プレゼンテーションの功罪に触れてみたいと思います。中には、プレゼンテーションがものすごくうまいけれども、ふたを開けたら中身がなかった、ということもあります。プレゼンテーションさえうまかったら、ある程度までは何とかなってしまう、という悪い面があることは否定できません。
一方、プレゼンテーションがうまい会社は、やはり聞き手の感情を動かすことがうまいので、資金調達に限らず、営業や採用でも、よい結果を出していることが多いと思います。うまくストーリーを活用して聞き手の感情を動かし、そこに、聞き手に応じたエッセンス(聞き手が投資家であれば資金調達エッセンス、聞き手が営業先であれば営業エッセンス、聞き手が採用候補者であれば採用エッセンス、など)を加えていくことで、事業はおのずと、前に進みやすくなるでしょう。
冒頭に記載のとおり、世の中には、こうした「よいプレゼンテーションとは」といった投稿があまたありますが、もしこの投稿に目を留めていただいた中で、今までこういった考えに触れたことがない方がいたら、何かのお役に立てたら、幸いです。
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