ALRC報告書135-抄訳
ALRC報告書135に対する政府回答(2021年5月)の全翻訳を先日公開しました。回答はセットでALRC勧告を記載してはいますが、勧告理由の詳細がわからないと理解が進まないと考え、今回はALRC報告書135の一部を翻訳・公開する次第です。こちらの冊子は2021年7月の法制審議会家族法制部会で紹介されていますが、580頁にも及びます。流石に全翻訳するには骨が折れるので、日本で注目されている勧告8(結果として政府回答は不同意)を含む第5章「子どもの問題」だけを翻訳対象にしました。ご了承下さい。
出典は「将来に向けての家族法(ALRC報告135)~家族法制度の調査~ 最終報告」です。
Source: Family Law for the Future: An Inquiry into the Family Law System (ALRC Report 135) FINAL REPORT, March 2019
第5章 子どもの問題
目次
はじめに
法律上の枠組み
子の最善の利益が最も重要であること
原則と目的
司法の意思決定の簡素化と明確化
最善の利益の要素の簡素化
安全性
子どもの意見
重要な人間関係
子どものニーズと親の能力
その他の関連事項
アボリジニおよびトレス海峡諸島民の文化
親の意思決定に関する規定の明確化
特定のケア方法を考慮する要件
子育てのパターンに関する研究結果
子どものウェルビーイングへの影響
推定および関連規定の問題点
ガイダンス資料の改善
アボリジニおよびトレス海峡諸島民の家族の概念
低敵対的アプローチ
はじめに
5.1 本章では、ALRCは家族法問題における子の最善の利益を促進するために、第7部に幾つかの修正を勧告する。これらの改正は以下の通りである。どのような取決めが子の最善の利益を促進する可能性が最も高いかを決定する際に考慮すべき要因を減らし、簡素化すること。時間の均等配分を含む特定の取決めの強制的な検討を削除すること。均等な共同親責任の推定を修正すること。「家族の一員」の定義がアボリジニとトレス海峡諸島の人々にとって適切であることを保証すること。また、ALRCは、低敵対的裁判方法を再活性化し、全ての家庭裁判所で適用することを勧告する。
5.2 第7部は、家庭裁判所が適切と考える、子どものケアと生活の取決め、親責任、および子どもの福祉に関連するその他の事項に関する命令(以下、「養育命令」)を下す幅広い権限を与えている。養育命令を下す際、第7部では、子の最善の利益を最優先に考慮しなければならないと規定されている。しかし、現行法では、子の最善の利益とは何かを判断するために、複雑な要件(「経路」と表現されることもある)を裁判所に課している。
5.3 法廷における養育問題の性格は、過去20年間で変化し、家庭内暴力などの複雑な要因がより顕著になってきている。2003年に家庭裁判所が実施した事例調査によると、子の最善の利益を検討する際に、危害のリスクに関する要素が高または中程度の重要性を持つとは考えられていなかったことがわかった1。
5.4 対照的に、2014年のオーストラリア家族問題研究所AIFSの調査では、2014年に裁判所を解決手段として利用した親の53.7%が、別離前の状況に身体的暴力が関係していたと報告している2。裁判所を解決手段として利用した親は、平均して3つの複雑な要素を報告し、38.1%が4つ以上の複雑な要素を報告した3。
5.5 他の解決経路(当事者間の話合い、弁護士、FDR、メディエーションなど)を利用した親は、複雑な要素の平均数が少なく、4つ以上の複雑な要素を報告する割合も少なかった4。
5.6 これらの結果は、法の枠組みが、様々な状況や多様なニーズを持つ家族の合意形成や意思決定を支援する必要があることを示唆している。裁判所に基づく意思決定は、各年次コホートの中で最も少ない家族に適用されるが、これらの家族は複雑な心理社会的ニーズを最も多く抱えている。このような家族は、AIFSが特定した他の全ての公式および非公式の経路にも存在するが、その割合は低い5。
5.7 法律は、司法判断のための意思決定の枠組みを提供し、裁判所以外で行われる養育の意思決定の指針となるものである。その際、どのような決定も常に子の最善の利益を守ることを目的とする必要がある。
5.8 実務家と司法官は協議の中で、現行の枠組みには多くの問題があり、法律上の規定が子の最善の利益から注意をそらすような形で作用する可能性があることを指摘している6。ザビニとザビニの問題で、ワーニック裁判官は、暫定的な問題に最善の利益の枠組みを適用すると、「迷宮のように複雑なジレンマが生じる」と述べている7。リースマラー判事は、「第7部に基づく養育事件の決定:42の簡単なステップ」と題した記事の中で、この経路の複雑さを概説している8。
5.9 以前の報告では、現在の経路の再検討を勧告している。複雑なニーズを持つ家族に関する家族法評議会の中間報告は、家族法の第7部を改正して、暫定的な養育問題の簡素化された意思決定の枠組みを提供することを勧告した9。常任委員会「社会政策と法務」SPLAの家庭内暴力報告書は、ALRCが家族法の第7部の改正を行い、特に、均等な共同親責任の推定の削除について検討するよう勧告した10。
5.10 実体法に加えて、家庭裁判所で用いられる手続きが過度に敵対的であり、訴訟当事者を威圧し、紛争を悪化させているという大きな懸念がある。家庭裁判所の設立は、別離中の家族に「他の民法分野とは性格の異なる」専門的な裁判手続きを提供することを目的としていた11。家族法は商業的な問題ではなく、感情的な問題を扱うという当時の政府の認識を反映して、家族法は、手続きを「過度な形式にとらわれず」に行い、法的な問題だけではなく、別離中の夫婦の関係の問題を解決することに重点を置くことを定めている12。
5.11 このような状況を踏まえ、家庭裁判所は2002年に、子どもの問題における敵対的プロセスの悪影響に関する継続的な懸念に対処するため、内部改革プロセスを開始した。子ども事件プログラム(CCP)、後に「低敵対的裁判(LAT)」として知られるこの改革は、当時のアラステア・ニコルソン最高裁判事が提唱したもので、ニコルソン判事は、「法廷闘争」として行われる訴訟の範囲を縮小するような、より「積極的で審問的」なアプローチを子どもの問題13に適用する意向を示していた14。CCPのパイロット版が評価された後、LATによる事案管理は家族法に明記された15。
5.12 ただし、家庭裁判所からのものを含む本調査への提出書面は、裁判官による12A節(子どもに関する手続きを行う際の原則)の使用が時間の経過とともに減少し、現在殆どの裁判所登録で使用されることは滅多にないことを示している。幾つかの提出書面は、上記の家族の問題に対処する1つの方法は、複雑なニーズを持つ家族が関与する場合に12A節の使用を再活性化することであると示唆した16。
法律上の枠組み
5.13 家族法の第7部は、別離後の養育の取決めを決定するための枠組みを提供している。第7部では、家庭裁判所が適切と考える、子どものケアと生活の取決め、親責任、及び子どもの福祉に関連するその他の事項に関する命令(以下、「養育命令」)を下す広範な権限が与えられている17。養育命令を下す際、第7部では、子の最善の利益を最優先に考慮しなければならないと規定されている18。
5.14 しかし、現行法では、どのような取決めが子の最善の利益を最も促進するかを決定する際に、裁判所による意思決定のための複雑な経路が課せられている。ALRCは、養育事件において子の最善の利益が最優先されるという目的を最もよく反映させるために、この経路を単純化、明確化、改善するための幾つかの変更を提案する。
5.15 子の最善の利益とは何かを決定するための現在の枠組みの多くは、2006年家族法改正(共同親責任)法によって1975年家族法に追加された。
5.16 2011年に行われた更なる改正19では、子育ての問題において子どもの安全を優先しているが、2006年改正の内容を残置することを明確に意図している20。
5.17 現在、家族法では、子の最善の利益を最優先して判断するという原則を適用するために、裁判所が従わなければならない幾つかのステップが定められている。
5.18 これらのステップには以下の内容が含まれる21。
・裁判所は、指定された要素(子どもの安全と両親等との有意義な関係に関する2件の「主要な考慮事項」と13件の「追加的な考慮事項」)を検討し、可能であればそれらについて所見を述べなければならない22。
・裁判所は、均等な共同親責任という立法上の推定が適用されるか、または反証されるかを決定しなければならない23。
・裁判所は、均等な共同親責任の命令を下す、または下すことを提案する場合、子どもが両親それぞれと同じ時間を過ごすことが子の最善の利益になるかどうか、またそれが「合理的に実行可能」であるかどうかを検討しなければならない。
・もしそうであれば、裁判所は、子どもが両親それぞれと同じ時間を過ごすことを命令することを検討しなければならない24。
・裁判所が、均等な共同親責任を定めた命令を出した(または出すことを提案した)ものの、時間を均等にする命令を出さなかった場合、裁判所は次に、子どもがそれぞれの親と「実質的で重要な時間」を過ごすことが子の最善の利益になるかどうか、そしてそれが「合理的に実行可能」であるかどうかを検討しなければならない。もしそうであれば、裁判所はそのような命令を出すことを検討しなければならない25。
・均等な時間も実質的かつ重要な時間も子の最善の利益にならないと考えられる場合、裁判所は子の最善の利益になると裁判所が判断した命令を下すことができるものとする26。
5.19 本調査に提出された資料には、この経路について以下のような懸念が示されている。
・複雑で繰り返しが多いため27、クライアントのコストが増加し、裁判所の生産性に問題が生じている。
・均等な共同親責任の推定が、均等な養育時間の推定と一般的に誤解され28、地域社会に混乱をもたらしている。
・両親が共同で意思決定をしなければならないという要件は、どのような意思決定が協議を必要としないのかについての明確な情報がない場合、紛争の余地を提供する29。
・意思決定において子どもの意見が十分に考慮されていない30。
・子どもと子どものケアをする者の安全を確保することを何よりも重視すべきである31。
5.20 例えば、オーストラリア法律評議会は、同法の下で現在義務付けられている「立法経路」により、家庭裁判所は対象となる子の最善の利益の検討に至るまでに、かなりの数のステップを踏む必要があると提出した。本法の下での紛争の主な焦点は最善の利益であり、それを決定するための経路は、複雑で、一般に誤解され、反証可能な推定に基づくものではなく、直接的なものであるべきである32。
5.21 また、提出資料では、家族法に関する全ての意思決定において、安全性を最優先事項とする必要性が強調されている33。
5.22 2009年に実施された2006年改正のレビューでは、「弁護士や司法関係者は、助言や意思決定の実務に適用するには、この規定は複雑で煩雑であると考えている」ことが明らかになった34。 また、このレビューでは、以下のような懸念が示された。
新しい規定の複雑さと、均等な共同親責任の推定により、特に養育の取決めをめぐる交渉において、子の最善
の利益の優先順位からある程度注意がそらされている35。
5.23 ALRCは、養育命令の決定枠組みを再構築することを推奨している。これには以下が含まれる。
・最優先の原則を現行の形で維持する。
・目的と原則の規定を削除する。
・最善の利益の要素の中の異なる考慮事項の階層を統合する。
・子の最善の利益を決定するための考慮事項のリストを明確化、簡素化、修正する。
・均等な共同親責任の推定を、長期的な主要な問題に関する共同意思決定の推定に修正する。
・均等な時間を含む特定の取決めの強制的な検討を削除する。
子の最善の利益が最も重要であること
5.24 討議論文の中でALRCは、子の最善の利益を最優先しなければならないという原則(「最優先の原則」)の一部として、安全性を含めるべきだと提案した。しかし、ALRCは変更が必要であるとは説得されていない。
5.25 最優先の原則は、家族法が親の権利よりも子どものニーズを重視することを支えるものである。
また、この原則は、子どもに関するあらゆる手続きにおいて子の最善の利益を「第一の考慮事項」とすることを求めているCRCに基づくオーストラリアの義務と一致している36。提出書類では、この法律の子どもへの焦点を維持し、最優先原則を存置することが支持された37。例えば、リレーションシップス・オーストラリアは、「何よりも、・・・子どものウェルビーイングが最優先であることに変わりはない(そして、それに付随して、大人の権利や利益よりも優先される)」と表明した38。
5.26 家族法制度では、子どもの安全に対するリスクを含む複雑なニーズを有する家族を扱うことが多くなっている。その結果、安全性は多くの家族法の意思決定において重要な考慮事項となっている39。安全性を最優先原則の一部とすることには大きな支持があった40が、この変更について懸念を示す提出書類も多数あった。例えば、ナショナル・リーガル・エイドNLAは次のように表明している。
最善の利益には安全性が含まれており、これを切り離すことは、安全性が最善の利益の構成要素ではないことを意味する可能性がある。このことは、児童保護当局の役割、介入のための適切な基準、最善の利益に含まれないも
のは何かという問題など、様々な問題を引き起こす可能性がある。NLAは、本修正案が、勧告3-141で提案されている目的、即ち法の解釈の簡素化よりも、むしろ法の解釈を複雑にする可能性があることを懸念している。
5.27 意図しない結果への懸念は、他の提出書類でも表明されている42。ALRCが討議論文で述べているように、安全性は論理的には既に最善の利益の重要な側面であるため、最重要原則に安全性を含めるという提案は、重大な法律上の変更を表すものではないと想定されていた。更に、他の法制度においても、同様の解釈をする前例がある。例えば、ニュージーランドでは、2004年児童養育法で、「子の福祉と最善の利益」が最重要事項であると規定されている43。
5.28 他の提出資料では、最重要原則に安全性を明示的に含めることは、子どもの安全が子の最善の利益とは別の検討事項であることを示唆する不幸な効果があり、この2つの概念の相互作用に疑問を投げかけるという懸念が示されている44。
5.29 バランスの上では、ALRCは、安全性を優先するという目的は、現在の形の最重要原則を残置することでよりよく果たせると提言する。安全性を明示することにより生起する混乱と意図しない結果のリスクの方が、最重要原則で安全性を示すことの価値を上回っている。
原理と目的
勧告4 1975年家族法の60条Bは廃止されるべきである。
5.30 法規制には、一般的に、法解釈を支援するための目的規定が含まれている。目的規定は、裁判所やその他の法律の利用者が、議会の意図に沿って曖昧さやその他の解釈上の困難を解決するのを助けるために使用することができる45。実体法の一部を構成するものではない。家族法の下での意思決定の原則は43条に規定されているが、家族法全体の目的はない。しかし、同法の第7部の60条Bは、「目的」と、その目的の基礎となる「原則」とされるものの両方を規定している。
5.31 60条Bは60条CC(最善の利益に関する要素)と実質的に重なっているが、多くの点で矛盾している。チザム教授が指摘したように、現行の60条Bの形式は実際の効果が限られており、「簡単に省略することができる」と考えられている46。
5.32 目的規定は、法律の明確性と一貫した適用を促進することを目的としている。討議論文の中で、ALRCは第7部に関し新しい目的と原則を提案している。それは次のことを目的としている。
・法律の読み手に、法律に具体化されている価値とアプローチを明確に特定する
・養育の取決めに関する規定の立法解釈を支援する
5.33 多くの提出書類は、提案された原則を支持していた47。しかし、提出書類からは、目的と原則、および実体法の間の相互作用が不明瞭であることも明らかであった。多くの提出書類は、原則が意思決定に直接影響すると想定しているようだが、これは事実ではない48。更に、幾つかの提出資料で指摘されているように、原則には、最善の利益のための要素と重複する部分が多く49、混乱を招く可能性がある50。メアリー・フィン判事が説明したように、家族崩壊に関する法律を簡素化することが目的であるならば、そのような規定は家族法から削除されるべきである。このような規定が、法律の運用規定で使用されているものと同一の概念を使用しているのであれば、それは不必要な文言である。このように、現行の規定に議論の余地のある追加的な概念を導入することは、混乱や不必要な議論を引き起こす可能性がある。
5.34 原則の幾つかの要素は、法解釈のコモンロー原則と一致する効果を持っている。例えば、法令が曖昧な場合には、国際条約に基づくオーストラリアの義務と一致する方法で解釈されるべきである52。これらのコモンローの原則を考慮すると、60条Bの国際法に関連する要素は、第7部の規定の解釈に重大な影響を与えない可能性がある。
5.35 このような混乱、原則と最善の利益要因との類似性、原則の限定的な法的効果を考慮して、ALRCは、目的と原則を削除することで、第7部の混乱を減らし、明確性を高めることができると考えている。ALRCは、養育の決定を行う際に適用される考慮事項の明確化を促進するために、第7部の中核的意思決定経路の簡素化を追求すべきであると考える。
司法判断の簡素化と明確化
5.36 提出書類や学識経験者は、家族法7条における意思決定の枠組みの複雑さを批判している53。これには以下のような懸念がある。
・60条CCにおいて、子の最善の利益を決定する際に考慮すべき要素のリストが長く、複雑で、繰り返し行われていること54。
・60条CCにおける「主要な」考慮事項と「追加的な」考慮事項の区別による混乱55。
・子の最善の利益を何度も評価しなければならないこと(均等な共同親責任の推定、ケア時間の取決めの規定、提案されている取決めについての一般的な文脈で)56。
・意思決定の枠組みが全体的に複雑であり、子の最善の利益の全体的な検討を妨げてしまう危険性があること57。
5.37 子どもの養育に関する決定を行う際の法制上の指針は、できるだけシンプルで理解しやすいものであることが重要である。これは特に以下のために重要である。
・法的代理人を立てない人々が、本法の下での義務と、裁判所がどのように子どもに関する決定を行うかを理解するのを助ける。
・同法に含まれるガイダンスの意味についての誤解を避ける。
・手続きに必要な法的文書の長さと複雑さを軽減し、それにより訴訟当事者のコストを削減し、訴訟の遅延を低減する。
・養育事件の判決文の長さと複雑さを減らし、訴訟当事者にとっての理解度を高める。
5.38 ALRCは、この意思決定の枠組みを、以下のようなよりシンプルな枠組みに変更することを提案する。
・子の最善の利益が最も重要であることを強調する。
・子の最善の利益に最も合致することを決定する際に適用される中核的な要素を提供し、安全性に重点を置く一方で、特定のケースには他の要素も関連する可能性があることを認識する。
・養育の取決めは、特定の子どもの状況に応じて形成されるべきであることを強調する。
5.39 現在の意思決定経路と推奨される意思決定経路は報告書の付録Jに示されている58。ケア時間の取決めについては、ALRCは、意思決定と合意の形成は、より簡潔な要因のリストと関連するその他の事項を考慮して、子の最善の利益に焦点を当てるべきであると提言する。親責任については、ALRCは、現行法の実際の効果を維持しつつ、均等な共同親責任の推定を、長期的な主たる問題に関する共同意思決定の推定に置き換えることを提言している。親責任に関する裁判所の決定と、ケア時間の取決めに関連して裁判所が考慮しなければならない事項との間の関連性は排除されるべきである。
5.40 親、子のケアをする者、その他の意思決定者が、どのような取決めが子の最善の利益に最も合致するかについて、適切なガイダンスを提供されることが重要である。本章で後述するように、ALRCは、特定の状況において、どのような取決めが子の最善の利益に最も合致するかを親や子のケアをする者が検討するのを支援するために、証拠に基づく説明資料を作成することを勧告している。
5.41 ALRCが勧告しているアプローチは、子の最善の利益に最も合致する可能性が高いものを決定する際に取られるステップについて、複雑さと規定性が少なくなる。しかし、司法書士はその決定に十分な理由を提供することが求められ、明らかな誤りがあった場合には、決定を精査し、上訴することができるようになる59。現実的には、意思決定の枠組みを単純化することで、司法官は、命令理由の中で、現行の意思決定経路の全ての要素に対応することで判決が控訴されないようにするのではなく、なぜ特定の判決を下したのかを当事者に説明することに集中しやすくなる。
最善の利益の要素の簡素化
勧告5 1975年家族法の60条CCを改正し、子の最善の利益を促進する養育の取決めを決定する際に考慮すべき要素を以下のようにするべきである。
・家族の暴力、虐待、その他の危害からの安全を含め、どのような取決めが、子どもと子どもの養育者の安全を最も促進するか。
・子どもが表明した関連する意見
・子どもの発達上、心理上、感情上のニーズ
・子どもにとって安全な場合、それぞれの親や重要な人物との関係を維持できることの利点
・養育者の能力と、養育を支援するためのサポートを求める意思を考慮した上で、子どもの発達上、心理上、感情上のニーズを満たすために提案された各養育者の能力
・その他、子どもの特定の状況に関連するもの
5.42 家族法が制定された当初、子の最善の利益をどのように決定するかについて、非常に限られた指針しかなかった。家族法が次々と改正される中で、要因リストが挿入され、拡大され、最終的には「主要な」考慮事項と「追加の」考慮事項の別々のリストに再構成された。
5.43 現在、60条CCでは、裁判所が最善の利益を決定する際に考慮しなければならない要素を以下のように定めている。
・2つの主要な考慮事項:両方の親との有意義な関係が子どもにとって有益であること、そして、虐待、ネグレクト、家庭内暴力を受けたり、家庭内暴力に晒されたりすることによる身体的または心理的な危害から子どもを保護する必要があること。
・13の追加考慮事項
・その他、関連性のある事項
5.44 2011年の家族暴力改正で、高葛藤事案では人間関係維持よりも危害からの保護を重視すべきとの規定が挿入された60。
5.45 本法が子の最善の利益を決定する際に考慮すべき要素を規定することには賛同が得られているが61、学術的な論評や提出資料では60条CCに対して多くの批判がなされている。1つの批判は、最善の利益の要因を主要要因と追加要因の階層に分けていることである。ACT LGBTIQ 大臣諮問委員会は、次のように主張した。
これは、子どもの権利条約に記載されている子どもの全ての権利が一体となって子の最善の利益を構成し、総合的に扱われなければならないことを認識している国際人権法では支持されていない62。
5.46 チザム教授も同様に、「二本の柱(一次的考慮事項と追加的考慮事項)で語る法律は用を成さない。全ての状況は各々のケースで考慮され、評価されなければならない」と主張している63。
5.47 他の提出資料では、アボリジニやトレス海峡諸島民の子どもの文化とのつながりなど、他の考慮事項を第一の考慮事項に昇格させるべきだと提言している64。AIFSはまた、60条CC(2A)が両親との有意義な関係よりも危害からの保護を重視しなければならないと規定しているにも拘らず、弁護士や法律の専門家ではない人々が危害からの保護に適切な重み付けがなされていると確信しておらず、判決の分析によると、この規定の効果は限定的であるという証拠を指摘している65。
5.48 60条CCのもう一つの問題点は、関連する可能性があると明示されている要因の数である。チザム教授は以前、このリストを15の要素から10の要素に減らす草稿を提案した66。
5.49 考慮すべき要素の数が非常に多いため、混乱を招いており、法的費用と遅延が増加し、必ずしも事件に特に関連する問題を把握できるとは限らない。ALRCは、法律における養育の取決めに関する決定に関わる可能性のある無数の状況の全てを把握することは不可能または望ましくないと考えている。既存の要素リストは、関連する可能性のある問題を特定するが、家族法の読み手がそれらを自分の特定の状況に適用するのに役立つ有用なコンテキストを提供しない。
5.50 法廷アウトカム・プロジェクトでは、2012年の改正の前後で、家族法の訴訟で異なる事実上の問題がどれだけ頻繁に提起されたかを検討した67。この調査によると、特に司法判断が下された案件で最も多く提起されたのは、子どもの安全に関する問題であった68 。また、親子関係69 や養育能力に関する問題もよく指摘されていた70。
5.51 ALRCは、何が子の最善の利益に最も合致しているかを決定するためのガイダンスを提供するアプローチを再構成することを提案する。再構成されたリストは、「主要な」検討事項と「追加の」検討事項の二層構造を取り除き、大多数の事案に関連する可能性の高い検討事項の中核リストに焦点を当てるべきである。このようなアプローチは、裁判所での意思決定以外の親やその他の人々にとって、より明確な指針となり、どのような取決めを行うべきかを検討する上で、より有意義な支援となるであろう。
5.52 ALRCは、6つの要素を再構成された60条CCに明示的に残すべきであり、立法上の優先順位付けを諦めるべきであると勧告する。一般的に言って、勧告した要因は、法廷アウトカム・プロジェクトで最も一般的に提示されている要因と一致している71。オーストラリア心理学会は、親との別離中および別離後の子どものウェルビーイングを促進するための条件となる配慮事項を列挙した意見書を作成した72。また、選択された配慮事項は、2018年に行われたAIFSによる別離家族の子どもと若者の調査の参加者が表明した優先事項を実質的に反映している73。ALRCの選択した考慮事項は、本稿とAIFS研究から情報を得て、ALRCが子どもの福祉と発達に最も役立つと考える要素を反映している。
5.53 提出書類では、本調査の討議論文で提示された同様のリストを、様々な具体的な提案とともに概ね支持していた74。提出書類で提起された懸念を反映して、このリストには幾つかの調整が加えられている。
安全性
5.54 考慮事項の記載順序は法的効力を持たないが、多くの提出資料で考慮事項の順序が優先順位を示唆する可能性があるという懸念が指摘されている75。例えば、子どもの安全が考慮事項の一番目になっていないと、子どもの安全はそれ以前の考慮事項に服するものと解釈される可能性がある。この懸念は、法廷外の当事者が法律家の助けを借りずに自分の状況に家族法を適用しようとする場合に特に高まってくる。
5.55 こうして、子どもと子どもをケアする者の安全性は、検討事項の一番目に記載された。安全性が考慮事項に含まれているのは、家族法の事案、特に両親が紛争を解決するためにより正式な手段を用いている事案では、高度なリスク要因が存在するという証拠76と、子どもに関する意思決定において安全性を重要な要素とすることが提出書類で強く支持されているからである77。オーストラリア心理学会は、その意見書の中で、子どものウェルビーイングを守るための一つの要素として、「マイナス影響を示す圧倒的な証拠があることから、子どもがリスク要因、特に激しい葛藤や感情的、言葉的、身体的な暴力に晒されることを避けねばならない」と指摘している78。また、AIFSの2018年の調査では、「安全で安心な生活環境」も、子どもや若者が別離後の状況で重要な問題として認識していた79。
5.56 提出書類では、「子どもの安全」は、様々な種類の危害から子どもを保護するのに範囲が十分ではないのではないかという懸念が示された80。ALRCの見解は、「安全」と「危害」の概念は、通常の意味ではこれらの特定の懸念をカバーするのに十分な広さを持っているというものである。更に、たとえ包括的に表現されていたとしても、「心理的な害を含む」や「家族の暴力を含む」などの修飾語が含まれていると、「安全」と「危害」の概念が、明示的に含まれているもの以外に狭く解釈されてしまう危険性がある。
子どもの意見
5.57 子どもが表明した意見は、子どもの声を聞くことが基本的に重要であることから、次の検討事項として含まれている。幾つかの調査研究では、現在の家族法制度の実務ではこの要素が十分に重視されていないことが示されている81。子どもの意見を優先することは、子どもと若者が「親や他の大人が、別離の過程やそれ以降も自分の視点に耳を傾けることを強く望んでいる」という2018年のAIFS調査の知見と一致する82。一部の提出資料で示されているように83、この配慮は、安全性の後に記載されており(討議論文3-5にあったようにリストの最初の項目としてではなく)、子どもの声に頼ることが安全でない可能性がある場合に子どもの声に過度に依存することを阻止するためである。
重要な人間関係
5.58 子どもの両親それぞれと重要な関係を維持できること、子どもにとって重要な関係を持つ他者と重要な関係を維持できることが、子どもにとってどのような利益になるかを検討することは、子どもの両方の親と意味のある関係を持つことが子どもにとって利益になるかという従来の検討を置き換えることを意図している。
5.59 オーストラリア心理学会は、子どもの福祉のために(安全であれば)親の関係を維持することの重要性を強調した。同学会は、「各親の子どもに対する継続的な共同責任を尊重し、片方の親が非居住者であっても、安全であれば、子どもが両方の親と有意義な関係を維持できるような養育の取決め」を支持すると表明している84。
5.60 また、2018年のAIFS調査に参加した子どもや若者は、「支えとなってくれる理解のある親との関係や、複数の社会的・感情的なサポートを必要としていることを表明」している85。
5.61 現行の60条CC(2A)と比較して、勧告した表現は、考慮すべき重要な関係が他にもあることを反映している。例えば、祖父母や兄弟姉妹との関係が特に重要な場合がある。新しい文言は、子どもがそれまで親との関係を築けていなかった場合でも、親との関係が必ず子どもの利益になるという推定を取り除くことも意図している。重要な関係の維持は、全ての事案で要因となる可能性が高く、司法判断された事案では比較的一般的な要因となっている86。
子どものニーズと親の能力
5.62 子どもの発達、心理、感情面でのニーズは、提案された養育者がこれらのニーズを満たす能力と同様に、非常に多くの事案で関連していると考えられる。オーストラリア心理学会は、発達上のニーズを子どものウェルビーイングを守るための重要な要素の一つとして挙げ、次のように指摘している。
それは別離後の発達段階に応じたケアと養育の取決めをサポートする。取決めは、温かく、応答的で、支援的な関係を提供する親の能力に合わせて調整され、子どもの発達段階、希望、ニーズ、懸念、変化に対処する能力を
考慮しなければならない87。
5.63 提出資料では、障害のある親は能力が低いという世間の認識により、この配慮が障害のある親を不当に差別する可能性があるという懸念が示された88。この懸念を緩和するために、「ケアを支援するためのサポートを求める能力と意思」という条項が勧告に盛り込まれている。
5.64 この条項の効果は、障害のある親に限られたものではない。親が子どもの発達上、心理上、感情上のニーズに対する支援を提供する上で障害に直面していても、その困難に対処するための支援を求めることができ、かつその意思があるなら、その全ての事案に当てはまる。これは、家庭内暴力を経験した人が、家庭内暴力による未解決のトラウマのために、親としての能力が低いとみなされるという倒錯した状況に対処することも意図している。
その他の関連事項
5.65 前述のとおり、子どもに関連する可能性のある全ての状況を事前に説明することは不可能である。最終要素では、子どもの特定の状況に関連する他の全てを考慮に入れることができる。この規定は、意思決定の経路が子どもの特定の状況に適応できるように、柔軟性を持たせている。重要なのは、子の最善の利益に関連するものとして当事者が提起したものが、実際に関連するものであれば、司法官はこの問題を検討することが求められるということである。
5.66 そのため、リストを簡素化することで、当事者が60条CCの各項目に対処したことを確認するために、無関係な要因に関する証拠を提出しなければならないと感じることを避けることができる。しかし、現在60条CCに記載されている事項が関連している場合、その事項を提起することを妨げるものではない。
アボリジニとトレス海峡諸島民の文化
勧告6 1975年家族法を改正し、どのような取決めがアボリジニまたはトレス海峡諸島民の子の最善の利益を促進するかを決定する際に、裁判所は子どもが家族、地域社会、文化、国とつながり、そのつながりを維持する機会を考慮しなければならないと規定すべきである。
5.67 ALRCは、最善の利益の要素に加えて、文化に関する特別な配慮をアボリジニおよびトレス海峡諸島民の子どもに求めるべきであると提言している。アボリジニやトレス海峡諸島民の子どもが、家族、コミュニティ、文化、国とのつながりを維持することは、アボリジニやトレス海峡諸島民にとって基本的に重要である。全国家庭内暴力防止法律サービスは、この特定の認識が重要であると主張した。なぜなら、
文化に対するつながりは、アボリジニとトレス海峡諸島民の子どもにとって基本的な権利であり、単なる13件の「追加的配慮」の一つではない。.. 同法の特定の規定は、子どものアボリジニおよびトレス海峡諸島民の地位、文化的権利、およびその他の文化的問題が、初期段階で子の最善の利益を決定する司法官の注意を引くことを確実にするための重要なメカニズムである89。
5.68 同様に、家庭内暴力に関するアボリジニの正義党員集会作業部会は、「文化とのつながりは、子どもとその家族のウェルビーイングのための重要な保護因子である」と述べた90。
5.69 多くの提出資料は、文化に関する一般的な最善の利益の要素を設け、あらゆる背景を持つ子どもに適用することを勧告している91。これらの提出物が主張するように、文化的つながりの維持は、全ての子どもに潜在的に関連している。最善の利益の要因を単純化するというALRCのアプローチに沿って、この考慮事項は、関連性がある場合には、提案されている要因のリストで言及されている他の関連要因の1つとして考慮することができる。アボリジニおよびトレス海峡諸島民との関係では、例えば「盗まれた世代」92などを通じて、子どもに関する政府の決定が過去に与えた重大な影響を認識し、考慮することが重要であり、こうした経験が繰り返されないようにする必要がある。
5.70 従って、ALRCは、アボリジニまたはトレス海峡諸島民の子の最善の利益を検討する際には、 この関連性を考慮することを法律で規定すべきであると勧告する。
5.71 子どもと家族、地域社会、文化、国とのつながりを考える場合、裁判所がこれらの問題について十分な情報を得た上で判断できるように支援することが重要である。アボリジニおよびトレス海峡諸島民の子どもが関わる多くの事案では、文化報告書の作成が適切であると思われる。文化報告書には、子どもを育てる上での様々な家族の義務に関する情報や、手続きで検討されている養育の取決めに関連して、子どもと親族ネットワークや国とのつながりをどのように維持するかを定めた文化計画を含めることができる。同様の勧告は、家族法評議会93や、SPLAの家庭内暴力報告書でも実施している94。ビクトリア州アボリジニの法律サービスの説明によると、これらの報告書の目的は、「アボリジニの家族に特有の状況や経験を法廷でよりよく理解してもらうことだけでなく、法廷でアボリジニの家族がより大きな声を出せるようにすることである」95。提出書類では、文化報告書の使用が広く支持されており、どのような場合に文化報告書を使用するのが適切かについて、様々な意見が寄せられている96。
5.72 ALRCは、当事者または独立した子どもの弁護士が求める場合、または裁判所の見解として子の最善の利益になる場合には、文化報告書を命じるべきであると考える。本調査の討議資料では、文化報告書の作成者を誰にすべきか、という問題が議論され、その後の協議と提出資料では、この問題の基本的な重要性と微妙さが強調された97。ALRCは、全国のアボリジニ及びトレス海峡諸島民の組織及び地域社会の人々との更なる協議を行い、各地域で適切な文化報告書作成者の数を特定することを勧告する。
親の意思決定に関する規定の明確化
勧告7 1975年家族法の61条DAを改正し、「均等な共同親責任」の推定を「長期的な主要問題に関する共同意思決定」の推定に置き換えるべきである。
5.73 養育命令を下す際の均等な共同親責任の推定を含む家族法61条DAは、2006年家族法改正(共同親責任)法によって挿入された98。この法律に含まれる改正は、下院家族・地域問題常任委員会の2003年報告書「どの写真にも物語がある」を受けて行われたものである99。
5.74 報告書は、委員会は「両方の親が子どもの生活に関与し続けるべきだという原則に基づき、子どもがそれぞれの親と過ごす時間を最大化するアプローチにコミットしている」として、共同親責任の推定を推奨した100。
5.75 2006年の改正を検討した結果、共同親責任の命令を下す範囲に大きな変化があったという証拠は見出されなかった101。しかし、「改革以前から、法的な意思決定権は両方の親に割り当てられるという強い傾向」があったことも明らかにしている102。
5.76 SPLAの家庭内暴力報告書は、共同親責任という推定を撤廃することを特に勧告した103。委員会は、第7部の構造が子どもの安全を十分に考慮していないという懸念から、この勧告を行った。また、委員会は、例外規定があるにも拘らず、共同親責任の推定や、均等な時間を与えるという命令が、家庭内暴力の事案では不適切に適用されていることを懸念した。委員会は更に、この問題がALRCで更に検討されることを期待していると述べた。
5.77 本審議会の討議論文において、ALRCは「親責任parental responsibility」という用語を削除し、「意思決定責任decision making responsibility」という用語に置き換えることを提案した。これは、「共同親責任」という用語が、特に自己弁護を行う訴訟当事者にとって、均等なケア時間を意味すると誤解されがちであるという懸念を部分的に解消することを意図していた104。このアプローチは一定の支持を得たが105、他の提出資料は深刻な懸念を示した。共通の懸念は、「親責任」は単に意思決定を行うだけでなく、より幅広い問題を包含するというものであった106。
5.78 提出資料によると、親責任の概念については特に混乱が見られるという。第7部で家族法は、親責任を「法律上、親が子どもとの関係において有する全ての義務、権限、責任、権威」と定義している107。これらの問題に関して州、準州、および連邦の法律はもちろん、コモンローも複雑である。裁判外紛争解決諮問委員会が指摘しているように、親責任は「その意味するところと、両親の関係が破綻した場合にどのように機能するかという点の両方において、説明するのが非常に難しい概念」である108。大まかに言えば、親責任には以下のようなものが含まれる。
・子どもをケアし、管理する義務、および子どもの暮らしを維持する義務109
・子どものケア、福祉、発達に関する日常的な決定は勿論、子どもの教育、宗教、医療、名前など、子どもに関するさまざまな決定を行う権限110
5.79 判例では、これらの権限は「子の利益のために・・・親に与えられたものであり、親の利益のためではない」とされている111。裁判所の命令がない場合には、両方の親が親責任を負う112。裁判所での手続きにおいては、現在、虐待や家庭内暴力がない場合、均等な共同親責任が子の最善の利益になると推定されている113。同法では、均等な共同親責任の命令が下された場合、「主要な長期的決定」は共同で行わなければならず、両親は互いに相談し、これらの事項について合意に達するよう真摯に努力しなければならないと規定されている114。
5.80 これらの規定には、混乱を招く可能性のある側面が幾つか存在する。親責任の定義には、親の権限に関する法律の理解が必要であるが、この法律の読み手の多くが理解不能と思われる。しかし、前述のように、親責任とは、ケア時間の取決めではなく、主に子どもに関する意思決定であり、権利ではなく義務と権限に焦点を当てている。家族法では、均等な共同親責任の推定は、「子どもがそれぞれの親と過ごす時間の長さについての推定を規定するものではない」と述べ、このことを強調している115。それにも拘らず、本調査への提出資料によると、多くの人が、均等な共同親責任の推定は、事実上、均等な共同ケア時間の推定であると考えているようである116。
5.81 更に、提出された資料によると、均等な共同親責任の命令の結果について大きな混乱があった。このような命令の立法上の主な結果は、特定の養育時間の取決めについて、最善の利益を最優先する要件を考慮することである117。また、長期にわたる重要な決定は、協議のプロセスを経て共同で行われなければならない118。提出書類の中には、これによって親が自分の責任をどう考えるかについて、実際には殆ど変化がなかったとするものもあった119。別の提出書類では、決定に関して親がどのように相談しなければならないかという点で混乱が生じていると指摘されている120。特定の時間に子どもの世話をしている親が行う日常的な決定については、相談する必要はない121。
5.82 それにも拘らず、個々の提出資料によると、多くの人がより広範な決定について協議または共同決定が必要であると理解していることが示されている。これは、親責任に関する規定が法律の中で一箇所にまとめられていないことが一因と考えられる。特に、主要な長期的決定に関する協議の規定は、親責任の概念と推定を確立する規定とは別の区分にある。
5.83 親の意思決定は、子どもの経験や成長を大きく左右する。教育、健康、宗教、文化、交友関係に関する親の決定は、子どもの人生に根本的なレベルで影響を与える。このような重大な決定は、親の間で意見が対立する重要な分野となる可能性があるため、法律で取り扱わなければならない。ALRCは本調査の討議論文の中で以下の提案を行った。
・「親責任」を、読み手が理解しやすい言葉(例えば「意思決定責任」)に置き換える。
・裁判所の命令によって変更されない限り、それぞれの親が子どもに対して親責任を有するという規定は維持するが、推定という用語を削除する。
5.84 この提案に対する意見は様々だった。保護者の間で混乱が生じないような用語の使用を強く支持する意見もあった122。しかし、親責任という言葉が広く理解されていると主張する者123や、意思決定よりも広い概念であると主張する者124、そして、更なる用語の変更は、更なる混乱を引き起こす可能性があると主張した。これらの意見の中には、現在の用語を残置することを希望するものもあったが、インターアクト・サポート株式会社と南オーストラリア法律協会は、代替案として「長期的意思決定責任」を推奨した125。
5.85 混乱の主な原因は、親責任という一般的な概念ではなく、均等な共同親責任という推定にあるようである。均等な共同養育の規定は、ケアではなく親責任に言及しているが、その意味について家族法制度の専門家以外にも混乱が広がっていることが、提出資料や協議で確認された。同法の後の部分で、長期的な重要な問題について共同で意思決定を行う必要があると、同法の適用を明確にしているにも拘らず、混乱を生んでいた。
5.86 ALRCは、共同親責任の推定が、親同士の交渉の良い出発点になるという考えを支持し、この概念を残置することを勧告する。ALRCはまた、その推定に対する既存の例外に原則的に同意するが、付録Gに記載されているように例外を書き直すことを勧告する。
5.87 しかし、「均等な共同親責任」という言葉にまつわる混乱や、「均等な時間」との混同を避けるために、推定の文言を明確にすべきである。ALRCは、混乱を避けるために、61条DAを「重要な長期的問題に関する共同意思決定」に改めることを勧告する。
5.88 実際には、これは現在行われている均等な共同親責任の命令の効果を反映していると同時に、この規定に対する誤解の原因の殆どを取り除くことが可能である。これを更に強化するために、均等な共同親責任の命令の効果を明確にする現行の65条DACと65条DAEの内容を、再開の規定と一緒に配置するべきである。同様に、現在家族法の4条にある「長期的な重要な問題」の定義も、同じ場所に置くべきである126。
特定のケア方法を検討するための要件
勧告8 1975年家族法の65条DAAは、特定の状況下において、子どもがそれぞれの親と均等な時間、または実質的で重要な時間を過ごす可能性を裁判所が検討することを求めているが、これを廃止すべきである。
5.89 裁判所が均等な共同親責任の命令を下した場合、家族法の65条DAAでは、裁判所は次に、均等な時間、それができない場合には、実質的で重要な時間を過ごすことが子の最善の利益になるかどうか、そして合理的に実行可能かどうかを検討することが求められる。
5.90 均等な共同親責任の推定は、子どもの生活に対する親の関与の促進と関与の出発点の提供を意図したものである。
別離後に裁判所を通さず有望な養育の取決めを交渉する際に、親の平等という好ましい出発点になり、交渉がうまくいかずに裁判所が同じ問題を検討する際の出発点にもなる。この推定は、望ましい出発点が当該家族にと
って不適切であるという証拠や状況によって反証される127。
5.91 2006年の家族法改正以来、この法的推定とそれに伴うケア時間の取決めへの影響が、意思決定の共有やケア時間の共有という文脈での別離後の養育に関する社会的慣行と一致しないことが次第に明らかになってきた128。
子育てのパターンに対する調査結果
5.92 2006年改正の評価では、改正法の導入後に共有時間が増加したが、この変化は共有時間に対する既存の傾向の継続であり、この傾向が改正の結果として勢いを増したことを示すには更なる証拠が必要であることが示された129 。その後の研究では、2006年の改正によって共有時間の取決めが増えたわけではないことが示唆されている130。スミス教授とチザム教授も同様の結論に至っている。
オーストラリアでは、別離した親の一般集団における共有時間の取決めは、今世紀初頭に徐々に増加したが、近年は停滞しているようである。共有養育時間を奨励する法律が制定されても、このような取決めの普及率や
発生率が大幅に増加することはなかった。また、子どもを危険から守ることを重視した、その後の家庭内暴力に関する改正も、共有養育時間の著しい減少には繋がらなかった。訴訟を伴わない共有養育時間の同意命令は、過去
10年間で着実に増加している131。
5.93 意思決定を共有していると回答した親は、別居している親の中でも、多数派どころか、かなりの少数派である。2014年、ほぼ全国的に代表されるサンプルの中で、教育、健康管理、宗教・文化的な結びつき、スポーツ、社会活動に関連する意思決定に両親が同等に関与していると答えた別居親は35%から45%であった。それ以外の場合は、殆どが主に母親が意思決定を行っていると報告している132。
5.94 ケア時間を共有する取決めが適用されるのは、別離家庭の子どもの中でもごく少数にとどまっている。別離家庭の親の取決めで最も多いパターンは、子どもが母親と過ごす時間が最も長く、父親とは宿泊を含めて定期的に会うというものである。これらのパターンは、別離中の親の約64%が報告している133。
5.95 裁判所の命令では、AIFSの法廷アウトカム研究によると、共同親責任という裁判所の命令は依然として一般的で134、2006年以降増加しているが、これは2006年の家族法改正以前の法律や法文化において共同親責任が重視されていたことをほぼ反映している135。同意による命令は、司法判断による命令(39.8%)よりも、共同親責任を取決める可能性が高い(90%以上)136。
5.96 裁判所命令における時間の取決めについては、サンプルの殆どの子ども(69.4%)が母親と過ごす時間が大半を占める裁判所命令を受けており、22.2%が時間を共有する命令を受けていた(一方の親との間で35~47%、他方の親との間で53~65%の範囲で夜を分けると定義されている)137。
5.97 別離後の状況で母親と過ごす時間が大半を占めるパターンが維持されていることは、人口全体で、仕事と子育てのパターンにジェンダー的なパターンが継続していることを示す証拠と一致している。オーストラリアでは、子持ちの男性は、子持ちの女性よりも労働力に従事する傾向がある138。一方、女性は子どもと過ごす時間が長い傾向にある139。このバランスは、一般的に男性が別離の前後を問わず、子どもと過ごす時間を確保するのが難しいことを意味しており、均等なケア時間の共有は現実的ではない。
5.98 スミス教授は、提出資料の中で、現代生活における仕事と家庭のバランスの関連性や、別離後のケアの分担に関する課題について述べている。
オーストラリアは、世界で最も仕事を重視する高所得国の一つとなっている。その結果、オーストラリアの多くの家族は比較的高い生活水準を享受しているが、多くの家族が仕事と家庭生活のバランスをとるのに苦労している。2つの世帯で子どもを育てていると(経済的に余裕がない場合が多い)、別離後のワークライフバランスには更に複雑な要素が加わる140。
5.99 ALRCは、ジェンダーバイアスを法律に定着させることを支持しない。また、スミス教授が「父親不在」をオーストラリアの重大な社会問題としていることも認めている141。この社会問題は、2006年の家族制度改革以降も続いており、2008年の別離家族のサンプルでは、父親に会ったことのない子どもが11%142、2014年のサンプルでは9%となっている143。
子どものウェルビーイングへの影響
5.100 このような背景から、また、法律の構造に関する専門家の懸念(第14章参照)を考慮すると、現行の法律上の取決めが子どものウェルビーイングを促進するかどうかを検討することは、維持または改革のための政策的正当性を検討する上で重要である。
5.101 この文脈では、子どものアウトカムへの影響に関する文献は膨大であり、アウトカムの測定は複雑であることを認識することが重要である。特に別離後の分野では、その方法や解釈が争われることがある144。
5.102 大まかに言えば、集団レベルのサンプルを用いた研究では、子どものアウトカムの悪化は、経済的不利145、両親間葛藤や家庭内暴力への暴露146、問題のある子育てなどと関連していることが示されている147。別離後の親の取決め(言い換えれば、子どもがそれぞれの親と過ごす時間の長さ)と子どものウェルビーイングそれ自体には強い関連性はない148。
5.103 子どものウェルビーイングと別離後の養育の取決めをより具体的に調査したオーストラリアと国際的な研究の最近の統合結果では、特定の取決めが特定の状況でウェルビーイングを促進するかどうかに影響を与える可能性のある、子ども、親、家族に関連する様々な変数が強調されている149。オーストラリア心理学会の見解は、以下の要因を結論づけている。
共同養育が子どもにとって有益であるかどうかは、支援や資源、両親がいかに上手くやっていけるか、子どもの発達上のニーズや気質に対応した養育の取決めであるかどうかなどの要素が重要である150。
5.104 キーオ氏、スミス教授、マサード博士は、時間共有の取決めに関する研究結果や、別離後の養育に関する法律上の政策を振り返り、次のように述べている。
共有時間の取決めは、あるいは実際にどのような養育の取決めであっても、子どもにとってはメリットがあるが、特に安全面での懸念や親の憎しみが定着している場合、あるいは子どもが乳幼児である場合には、リスクを伴うこともある151。
5.105 葛藤や家庭内暴力が子どものウェルビーイングに与える悪影響に関する証拠と合わせて、これらの結論は、個別の評価の必要性を示している。このことは、共同意思決定の命令が下された場合に、均等な時間、または実質的で重要な時間の評価を要求する立法政策の立場は、子どものウェルビーイングを優先することと一致しない可能性があることを示している。
5.106 オーストラリア心理学会は、親の別離中および別離後の子どものウェルビーイングを促進するための要因のリストの中で、「子どもの生活の正常性をできる限り維持するケアの取決めを支持する」としている152。
推定および関連規定の問題点
5.107 オーストラリア心理学会が提案するアプローチとは対照的に、共有時間が均等であるという推定は、子どもの利益に最も役立つ取決めではなく、割り当てられた時間の量に両親を注目させることになる。キーオ氏、スミス教授、マサード博士が述べているように、共有時間の推定は時間を共有することで、「共同養育を育み、子どもに対応するための最良の立場を提供する」ことができると論じている。また、「子どもを大切にする」「スプレッドシート・ペアレンティング」という考え方を促進することもできる153。
5.108 養育時間を50対50の分担で検討するという要件は、多くの提出資料で、養育時間の取決めを決定するプロセスに不必要な追加のステップを導入するものだと批判された154。また、子どもの安全上の必要性に焦点を当てることから裁判所の注意をそらすことを含め、実際に子の最善の利益になることに焦点を当てることを妨げるとされた155。その他の提出資料では、葛藤を悪化させる可能性があると指摘されている157。
5.109 学術的な解説者も、この推定について懸念を示している。チザム氏は、2015年に提案した第7部の書き換えで、推定を削除し、次のように述べている。
この草案では、推定を生じさせる規程や裁判所が特定の結果を『考慮する』ことを要求する規定によって、特定の子育ての取決めを優遇したり、有利にしたりすることはない。その理由は簡単で、「最重要考慮事項」の原則では、特定の状況下にある子どもにとっての重要性に応じて、考慮事項の重み付けをすることが論理的に求められているからである。特定の結果を人為的に優先させることは、この基本原則を逸脱することになる158。
5.110 利害関係者は、家族法が均等な共同ケアの推定を提供しているという強い社会的認識が残っていると示唆した。これは、2013年に実施された調査プロジェクトの結果にも裏付けられており、弁護士は「このような誤解を共有するクライアントを目にする機会は減ってきているが、これは依然として法律実務の常態である」としている159。
5.111 このような誤解が生じる理由が幾つか存在する160。均等な共同親責任の推定と、均等または実質的で重要な時間を考慮しなければならないという要件との間に明確な関連性があることが、この誤解を助長している可能性が高い。
5.112 2006年改正の2009年評価では、「担当事案の半分以上で家庭内暴力が問題となっていると回答した弁護士は、父親が均等な時間を期待していると回答する傾向が強い」ことがわかった161。また、このような法律の誤った認識が、家庭内暴力の被害者に不適切で安全でない取決めに同意させる可能性を示唆する提出資料もあった162。
5.113 更に、家庭裁判所が主張したように、どちらの親も求めていないのに、なぜ法律が均等な時間、または実質的で重要な時間の検討を要求しているのかは明確ではない。
裁判所は、親または親としての責任を行使する他の者による競合する提案を検討する際、当事者のいずれかが提案した場合(または当事者に手続き上の公平性が与えられていることを条件に裁判所が独自に提案した場合)、
均等な時間または実質的かつ重要な時間を検討する。そうでない場合は、均等な時間または実質的かつ重要な時間を検討することには何の意味もない163。
5.114 このように有用性が限られていることを考えると、養育時間の取決めについて誤解を招き、判断が複雑になり、訴訟費用が増大する可能性のある規定を維持することを正当化することは困難である。また、この推定は、子どもとの交流がどの程度子どものウェルビーイングを向上させるかではなく、子どもとの交流の量に焦点を当てることになる。共有時間が特定の子どものアウトカムを改善する限り、それは子の最善の利益につながると考えることができ、これとは別の推定は必要とされていない。
5.115 ALRCは、子どもの養育のためのどのような取決めが子の最善の利益を最も促進するかを 判断する際に、裁判所はこれまでの全ての資料に基づいて、特定の状況下で特定の子どもにとって何が最善であるかを判断しなければならないことを法律で明確にすることを勧告する。
ガイダンス資料の充実
5.116 両親やその他の意思決定者が、子の最善の利益に最も合致することを判断するのに役立つ、可能な限りの情報を提供することが重要である。60条CCの要素は、この分野の実務と意思決定をある程度導いてきた。しかし、そうであるにも拘らず、彼らはそれぞれの要因が何を意味しているのか、あるいは家族の特定の状況にどのように関連しているのかという例を説明することなく、意思決定を導いている。
5.117 家族法に関する問題のうち、裁判所で解決されるのはごく一部であるため、この情報格差は特に問題となる。2012年家族暴力改正に関するAIFSの評価によると、80%以上の家族がメディエーション、カウンセリング、家事紛争解決、裁判所、弁護士を通じて問題を解決しておらず、最終的に取決めを解決するために弁護士や裁判所の支援を必要としたのはわずか9%であった164。したがって、親が自分の状況に法律の要素がどのように適用されるか、専門家の助けを借りて理解をすることを当てにしてはならない。
5.118 分かれた両親は、子どもの適切な養育方法について合意に達するのに悪戦苦闘しがちである事実との相互関連が指摘されているように、
別離後に適切な養育方法を確立するのに苦労することがある。別離する親は一般的に、年齢に応じたケアの取決めについて十分な情報を得ておらず、このテーマに関する膨大な研究も一般には公開されていない165。
5.119 当事者が子どもの最善の利益となる育児の取決めを行うための情報を確実に提供するために、ALRCは法律の改正には、親を支援するための広範な、証拠に基づいた資料を提供することを勧告する。この資料は、以下の既存のガイダンスを補完するものである。「養育命令;知っておくべきこと」という出版物で提供されている養育命令の作成に関する既存のガイダンスを補完するものである166。
5.120 詳細なガイダンス資料は、専門家の助けを借りずに別居後の子育ての取決めを行っている親と、親を支援している家事紛争解決の実務家の両方を支援するものである。ガイダンス資料は、子の最善の利益に関連すること、または関連しないことについて、法律に記載されているよりも遥かに有用で包括的な情報へのアクセスを提供する。
5.121 提出資料は、この資料が経験的な証拠に基づいており、社会科学的な研究によって検証され、子どもの問題に関する研究について重要な知識と経験を持つ尊敬される団体によって作成され、最新の状態に保たれるべきであることを支持し、家族法制度の専門家を含む様々な専門家を関与させたり相談したりする必要性を強調している167。
アボリジニとトレス海峡諸島民の家族の概念
勧告 9 1975年家族法4条(1AB)を改正し、事件の特定の状況に関連するアボリジニまたはトレス海峡諸島民の家族の概念を含む家族の一員の定義を規定すべきである。
5.122 アボリジニとトレス海峡諸島民の家族と親族の概念は、家族法の家族の定義で現在認識されているよりも、より広範囲の個人と義務168を包含するという認識が長年存在している169。
5.123 1986年、ALRCは「アボリジニの慣習法の認識」報告書の中で、「オーストラリアの法律は、アボリジニの社会とは異なる、幾つかの点で狭い家族の理解に基づいている」と述べている170。更に、異なるグループ間の親族制度の下では、「親以外の者が『子どもの成長』に重要な役割を果たし、また果たすことが期待される」と述べている171。
5.124 親族関係やそれに伴う義務の概念は、オーストラリアのアボリジニやトレス海峡諸島民のグループによって大きく異なる172。
5.125 討議資料にあるように、現在、家族法における家族の定義は、法律上の婚姻、同棲、養子縁組に基づく、世代間(祖父母、親、子)と世代内(兄弟姉妹)の関係を含む様々な関係をカバーしている。家族構成員の定義は、養育命令の規定の適用173、家族暴力の定義174、家庭内暴力命令に関する規定など、家族法の様々な部分の適用に関わっている。家族の構成員の定義は、特に家庭内暴力の定義とケノンの原則を通じて、経済的問題にも潜在的に影響を与える可能性がある176。勧告19(家庭内暴力の法的不法行為を提案)が実施された場合、家族構成員の定義にも関わることになる。
5.126 提出資料では、この点が取り上げられている限りにおいて、アボリジニとトレス海峡諸島民の視点から、アボリジニとトレス海峡諸島民の子どもと当事者に対する定義の適用を見直すことに対する大きな支持があった177。特に、提出資料では、定義が各特定のケースの状況に文化的に適したものとなるようなアプローチを提唱している178。
5.127 提出資料の中には、特定のケースに関係する特定の親族ネットワークの慣習に従って質問を評価することを支持する州と準州の枠組みの例を指摘するものもあった。全国アボリジニとトレス海峡諸島民の法律サービスの提出資料では、2004年の子どもと地域社会サービス法(WA)の例が挙げられており、アボリジニとトレス海峡諸島民の子どもについては、「子どものコミュニティの慣習法または伝統」に沿って問題が決定されることが規定されている179。
5.128 更に、アボリジニのコミュニティ管理団体やその他の組織からの提出物は、「オーストラリア全土のアボリジニとトレス海峡諸島民の家族、文化、現代の経験の多様性を反映するために、関連する専門知識を持つアボリジニとトレス海峡諸島民のコミュニティ、組織、ピーク団体」の観点から質問を決定することを強く主張していた180。
5.129 これに基づいて、ALRCは、子ども(養育命令が検討されている場合)または大人(家庭内暴力が検討されている場合)の親族ネットワークにおける親族への特定のアプローチを考慮して、各事案の個々の状況で適切なアプローチに対応する推定が必要であると考えている。このアプローチは、アボリジニとトレス海峡諸島民の親族の概念の多様性と、特定のコミュニティまたは個々の事案のコミュニティの規範に従って質問を決定する必要性の両方に対応している。
5.130 ALRCは、この趣旨の推定を適用することにより、殆どの事案で適切な結果が得られると考えている。この問題が争われる可能性がある場合には、問題は文化報告書によって決定されるべきである。
5.131 このアプローチは、提出された資料の中で、アボリジニとトレス海峡諸島民のグループとコミュニティの意見をこの質問に反映させることが強く支持されていることを認めている。この方法は、特定の法定方式を含めるよりも、より柔軟でカスタマイズされたアプローチの機会を提供する。
低敵対的アプローチ
勧告10 オーストラリア家庭裁判所とオーストラリア連邦巡回裁判所の統合規則は、1975年家族法の第7部12A節に基づく手続きを両裁判所の裁判官が行うことを規定すべきである。両裁判所は、1975年家族法の69条ZN⑴に記載されている法定任務を遂行するために、適切な人材を確保すべきである。
5.132 本調査およびこれまでの調査への提出物に繰り返し見られるテーマは、敵対的な法廷プロセスは家族法上の紛争を解決するためには不適切であるということである181。子どもと家族の福祉の卓越性のためのセンターは、「オーストラリアの子どもとその家族は現在、敵対的で費用がかかり、トラウマになるような家族法制度によって失望させられている」と指摘している182。
5.133 本調査の付託事項は、ALRCに、敵対的裁判制度が家族の安全を支援し、子の最善の利益のために問題を解決する最善の方法を提供しているかどうか、また、別離後の家族の紛争の状況において、より少ない敵対的アプローチの機会が存在するかどうかを検討するよう指示した183。この付託事項は、1995年にALRCが連邦政府の管轄権を行使する裁判所や法廷で行われる訴訟の敵対的システムを見直すように要請されたときの条件とほぼ同じである184。この懸念は新しいものではない。
5.134 2000年にG・L・デイヴィス判事が次のように述べた通りである。
敵対的モデルは、民事訴訟が本質的に個人的な問題であるという前提に立っていた。当事者は自分の都合に合わせて、自分のスケジュールに沿って手続きを行うことができる。裁判官は受動的な役割を担っていた・・・。争点を特定する責任は当事者だけにあり、主張を行う当事者は相手の助けを借りずにそれを証明する必要があった。公平な裁定者である裁判官は、提示された内容に基づいて争点を決定する仕事を任されていた。裁判官は、当事者
が提示した争点や証拠を超えることはできなかったのである185。
5.135 この英米法の裁判モデルは、大陸法の国で用いられている、裁判官が訴訟プロセスの殆どの側面を積極的にコントロールする「糾問主義」システムとは対照的である。このコントロールには以下が含まれる。
・争点を特定する
・訴訟手続きを開始する
・主張を支持または反論するための証拠の性質を決定する
・誰が証拠を提供するか
5.136 しかし、2つの法体系の間には部分的な収束が見られる。即ち、「現在、当事者主義や糾問主義の原型となるモデルを厳密に運用している国はない。これらの法体系の創始者であるイギリス、フランス、ドイツは、それぞれの法体系を修正し、異なるバージョンを国外に広めている」186。
5.137 ALRCが本調査の付託事項を受け取ってから本報告書の日付までの間に、オーストラリア政府は、家族法改正(養育管理公聴会)法案2017(連邦)を議会に提出した。この法案の説明書には、この法案の目的は、自己代理訴訟者に、紛争解決のための裁判所プロセスに代わる、より柔軟で審理的な代替手段を提供することであると記載されている。その主な特徴は以下の通りである。
・独立した法的機関であり、従来の裁判制度よりも使い勝手がよく、対立的ではないとされる方法で、子どもの養育の取決めに関する聴聞会を実施し、拘束力のある行政決定を行うこと。
・聴聞は、専門家や複数の分野にまたがるパネルによって行われる。
・パネルのメンバーは、審問をよりコントロールし、調査内容や聴聞の焦点を指示することができる。
・聴聞会は、同意に基づくフォーラムとする。
・法的代理権は許可を得て認められる187。
5.138 法案の可決後、まずパラマタで試験的プログラムを実施し、その後他の1カ所で実施することになっている。政府は、この施策を実施するために、4年間で1,270万ドルを計上した188。
5.139 2018年3月、上院の法務・憲法問題委員会は、法案の軽微な修正を勧告し、法案の修正がなければ可決されることになった189。ALRCは社会実験についてコメントする立場にあると思われていたが、この法案は進展しなかった。ALRCは討議論文の中で、モデルに変更が必要かどうかも尋ねていた190。
5.140 家族法への低敵対的アプローチを提唱する提出資料の中には、家族法改正(養育管理公聴会)法案2017で提案されているような糾問主義の望ましさに特に言及しているものもある191。また、多くの人が、あらゆる紛争解決モデルにおける学際性の望ましさ192や、「問題解決」アプローチの必要性にも言及している193。
5.141 家庭裁判所は、その設立以来、家族法上の紛争の解決に純粋な敵対的アプローチが不適切であることを意識してきた。家庭裁判所の設立は、既存の裁判所は、家族の紛争という特殊な問題に親身になって役立つように対処するには不向きであり、能力不足であることが判明しているという信念を受け入れることを前提としていた194。1976年の設立当初から、家庭裁判所は、弁論調書の導入(その後削除)、事件管理ガイドラインの導入と発展、ディファレンシャルケース管理、複雑な事件の特別管理、児童虐待事件の裁判管理(マゼランプログラム)など、その手続きに多くの重要な変更を導入してきた。
5.142 1990年代初頭に家庭裁判所で自己弁護人による訴訟が増加したことは、同裁判所の裁判手続きを検討するきっかけとなった。1999年に開催された法律扶助フォーラムでの講演で、当時の最高裁長官は、法律扶助資金の減少が自己弁護の増加による悪影響をもたらしたと指摘した。これらの影響は以下の通りである。
・遅延するケースの増加。
・和解するケースの減少
・当事者間の敵対関係の悪化
・命令や別離離後の取決めに従うことへの抵抗感
5.143 最高裁長官は、代理人を持たない控訴人の増加が家族法の法理の発展に悪影響を及ぼしていると指摘している195。当事者が自分の主張を裁判所に提出する責任を負うという当事者主義の要件は、当事者が制度によって課せられた責任を果たす能力があるという前提に裏打ちされている。
5.144 また、1990年代から2000年代初頭にかけて、ウールフ卿の「イングランドとウェールズにおける民事司法へのアクセスに関する報告書」(ウールフ改革)を受けて、多くの英米法諸国で民事訴訟プロセスの根幹が厳しく吟味されていたことも事実である196。ウールフ改革は、特に家族法の管轄に向けられたものではないが、彼の見解は適切である。
現在の制度の欠陥として私が挙げたのは、費用が請求額を上回ることが多いという点で、費用がかかりすぎるということ、事件の終結に時間がかかりすぎること、そして不平等であることである。即ち、力のある裕福な訴訟者
と資金力の乏しい訴訟者との間に平等性が欠けているのである197。
5.145 ウールフ改革の勧告は、可能な限り訴訟を回避することを目的としていたが、避けられない訴訟をより低敵対的で費用のかからないものにし、プロセスをより複雑にせず、遅延を少なくし、 より明確なタイムラインを組み込むことも求めていた。また、この改革では、予測可能性を高め、紛争の性質や規模に応じて費用を配分する比例性の必要性に敏感なプロセスを盛り込むことも目指していた198。ウールフ改革は、家庭裁判所を含め、1990年代から2000年代にかけてオーストラリアの法制度全体で行われた民事訴訟規則や訴訟管理プロセスの変更の多くに影響を与えた。
5.146 2004年、家庭裁判所は数年間の研究と計画を経て、子どものケースプログラム(CCP)を導入した。このプログラムは、「どの写真にも物語があるレポート」を受けて2006年7月に家族法に挿入された第7部12A節にある「低敵対的裁判」の規定の前身である199。69条ZNは、子どもの問題を審理する際、または当事者が12A節の適用に同意した場合(財産問題の場合)に、裁判所が従うべき5つの原則を定めている。裁判所の義務は強制的なものであり、義務の履行と権限の行使、および子ども関連の手続きの実施に関する決定の両方に適用される200。原則は次の通り。
1.裁判所は、手続の実施を決定する際に、関係する子どものニーズと、手続の実施が子どもに与える可能性のある影響を考慮しなければならない201。
2.裁判所は、手続の実施を積極的に指示、制御、管理することとする202。
3.手続きは、以下の者を保護する方法で実施されなければならない。
ⅰ.家庭内暴力、虐待およびネグレクトの被害が懸念される子ども
ⅱ.家庭内暴力に対する訴訟の当事者203
4.手続きは、可能な限り、当事者が協力的して子どもに焦点を当てた養育するよう促す方法で行われるものとする204。
5.手続きは、不当に遅延することなく、可能な限り形式的にならないように、また、法律上の専門性や形式にとらわれないように実施されるものとする205。
5.147 また、「低敵対的裁判」モデルの追加機能もモデルに組み込まれた。これには以下が含まれる。
●家族コンサルタントや専門家の報告書だけでなく、司法面接などを通じて、子どもの意見に沿った形で裁判所によって審理される可能性のある幾つかの方法206
●次の項目を含む家族コンサルタントの役割
〇法廷にメディエーションの意見や社会科学的視点を提供する。
〇法廷での敵対的でない行動を支援する。
〇紛争を審理するための協調的アプローチを促進する。
〇当事者とその弁護士が提起した問題について、社会科学的観点から中立的、概念的、かつ証拠に基づいた解説を行う。
〇当事者が継続的な支援や秘密のカウンセリングを必要とする場合に、地域密着型の組織への照会を容易にする207。
5.148 CCPは、2006年にハンター教授208とマッキントッシュ博士による2つの評価報告書の対象となった209。ハンター教授の報告によると、CCPが家庭内暴力を経験した女性と子どもの双方の利益を十分に考慮していないと思われる事例が幾つかあった。より前向きに言うと、CCPの事案では、対照群の事案に比べてケースイベントが少なく、召喚状、宣誓供述書、専門家の報告書の数も少なかったと報告された。また、これらの事案は対照群が費やした時間の半分で最終決定されており、この結果は、ケースの特性の違いではなく、裁判所のプロセスの性質によるものだと考えられた。また、CCPのプロセスは、従来のプロセスに比べて、敵対的ではなく、より子どもに焦点を当てた設計になっていると報告された。CCPの当事者は、対照群に比べて、プロセスと結果の両方に有意に満足していた。また、CCPのプロセスは、本人訴訟を行う者にとってより親しみやすく、家族コンサルタントの役割は貴重であると評価された。
5.149 マッキントッシュ博士は、CCPの親は子どもの生活の取決めに満足しており、子どもがより幸せであると認識している割合が主流派よりもはるかに高いと報告している。CCPの親は、連絡問題での苦労が少なく、元パートナーとの意見の相違も少ないと報告している。しかし、どちらのグループも依然として高いレベルの険悪感を抱いていた。両グループの親が異なる重要な点は、CCPの親が自分たちの葛藤が子どもに与える影響について認識していることである。また、マッキントッシュ博士は、法廷後3カ月が経過した時点で、CCPグループは、主流派グループと比較して、険悪さや葛藤が有意に少ないと報告していることを確認した。また、CCPグループは、子どもの情緒的機能が向上しており、法廷後の生活の取決めに対する親と子どもの満足度が遥かに高いと報告している。博士は、「CCPの試験的運用は、『基本的原則』の適用と、本質的に治療的である調停プロセスとの間の中間領域をうまく通過したようだ」と結論づけている210。
5.150 低敵対的裁判プロセスには良い特性があるにも拘らず、現在では殆ど使用されておらず、連邦巡回裁判所のプロセスの一部にはなっていない。家庭裁判所は、次のようにコメントしている。時間が経過するにつれ、
この役割を果たすための家族コンサルタントの数が不十分であること、裁判官がこのような審問に割り当てる時間が十分でなく、遅延により家族コンサルタントの予約が取れなくなり、難航している紛争が悪化する可能性を減らすために紛争の早い段階でこのような審問を予定することができないことから、改正のプラスの影響は減少している211。
5.151 現行の低敵対的裁判の規定を精査すると、適切な資源を投入して実行に移せれば、提出書類で提案された学際的なパネルや法廷の本質的な構成要素にそれらがほぼ対応していることが分かる。特に、それらは、明確に子どもに焦点を当てたものであり、準審理であり、子どもと当事者を家庭内暴力から守ることに焦点を当て、子どもに焦点を当てた協力的な子育てを促進するように設計されており、不当に遅延することなく実施されなければならない。学際的な専門知識は、家族コンサルタントによって、または裁判所が家族法102条Bに従って、必要と思われる専門分野の査定人を任命する裁判所の能力によって、手続きの審理と決定を支援することで提供される。評価者を任命することで、裁判官は、家族コンサルタントや当事者が呼んだ専門家が提供する専門家の証拠を解釈することができる。重要なのは、このプロセスが設立された当初の家族コンサルタントの役割には、外部のサービスを紹介する機能も含まれていたことである。提出書類の中には、敵対的でない裁判プロセスの再活性化を可能にするために、より良い資源を求めるものもあった212。
5.152 資源問題とは別に、憲法第3章の下で構成された裁判所に与えられた司法権の性質に関する懸念から、司法官が12A節の下でその権限を十分に活用することに制約を感じている可能性もある213。現在の議論の文脈では、連邦民事訴訟の幾つかの敵対的な機能を変更することが、司法権の行使にどの程度抵触するかという懸念が生じる。
5.153 どの程度までの敵対的プロセスが司法権に必要な機能であるのか、完全には決着していない。1976年、高等裁判所は、司法権を行使する裁判官は、敵対的な手続きよりも審問的な手続きを好むべきではないとした。ワトソン訴訟(一方当事者アームストロング氏)のレビューにおいて、裁判長は、暫定的な手続きの過程で、どちらの当事者もこの一連の行動を要求しなかったにもかかわらず、彼女の財務状況を詳述する宣誓供述書を提出するように指示した。控訴審において、高等裁判所は、裁判官が手続きに介入したことは、家庭裁判所の役割について基本的な誤解があることを示していると判断した。高等裁判所は、家庭裁判所の裁判官が行使するいかなる裁量も、司法権の行使と司法的に行動する義務に従わなければならないとした214。しかし、多数派は、裁判所が「訴訟の当事者の同意を得て」、適切と思われる手続きや形式を廃止することを認める家族法の規定を非難しなかった215。
5.154 裁判実務に関しては、高等裁判所は、民事訴訟におけるある種の低敵対的な特徴、特に事件管理の採用を支持している。クイーンズランド州対JLホールディングス非公開株式有限責任会社訴訟において、カービー裁判官は
事件管理は今や司法行政に不可欠な機能であり、その重要性は年を追うごとにますます高まっていくであろうと述べている。しかし、それが司法の手に委ねられている間は、柔軟性を持って、裁判所に来た全ての人に彼らの
紛争に対し明らかに公正な裁判を提供するという衰えることのないコミットメントを持って実行されなければならない機能である216。
5.155 オーストラリア連邦裁判所は、広範な事件管理手法を開発した。それは、
裁判所と専門家が、訴訟を手数料稼ぎではなく、問題解決の一形態として行う上で相互に重要な責任を認識し、それを果たすことを基本としている217。
5.156 マネー・マックス・インターナショナル非公開株式有限責任会社(受託)対QBE保険グループ有限責任会社では218、オーストラリアの大連邦裁判所は、集団訴訟における共同基金の注文が、明らかに現存する紛争がない場合に司法権の行使にあたるかどうかを検討した。大法廷は、行使されようとしている権限は、集団メンバーの利益を保護するための監督機能の範囲内であり、「障害者などの裁判所が持つ保護的な管轄権とは異なる」としている219。連邦家庭裁判所の保護管轄権は、裁判所が司法権の行使の範囲内で手続きを適切に修正するための強固な基盤となっている。
5.157 また、査証人の使用が司法権の行使に不利になるという懸念もないはずである220。査証人は、イギリスでは海事裁判、特に航海と操船の問題に関する事件において、分野横断的な専門知識を提供するために引き続き使用されているが、オーストラリアの海事裁判の実務ではもはや特徴的ではない221。査証人はまた、ヒーリー裁判官が査証人の使用が連邦司法権の行使に適合していることを見出した競争法事件でも使用されている222。査証人の任務については、リチャードソン対レッドパス、ブラウン&カンパニーにおいて、サイモン子爵が最も明確に説明している。この事件では、医学的査証人が労災請求の処理において裁判官を補佐した。サイモン子爵は次のように述べた。
反対尋問で異議を唱えることができず、おそらく判決が下されるまで当事者が完全に理解することができない証言をする医学的査証人、あるいは他の査証人を、あたかも裁判官の特別な信頼を得た宣誓していない証人のように扱うことは、査証人の真の機能が何であるかを誤解している。査証人は、裁判官が技術的証拠の効果や意味を理解する上で支援を必要とする場合に、裁判官が相談できる専門家である。査証人は、適切な場合には、証人の見解を検証したり、その意味を明確にするために、裁判官自身が専門家証人に投げかけることができる質問を、裁判官に提案することができる。裁判官は、必要に応じて、証明された事実から導き出される適切な技術的推論や、専門家の分野で明らかに矛盾した結論の違いの程度について、査証人に相談することができる。・・・査証人の助言が適切な範囲内で裁判官の結論に影響を与える可能性がある場合、裁判官は自分が受けた助言が何であるかを前の当事者に知らせることが望ましいと思われる223。
5.158 事件管理に対する現代的なアプローチと、すべての訴訟が当事者の利益と、公的資金が投入された裁判制度の適切な管理という広範な公共の利益の両方を考慮して効率的に実施されることを保証する裁判所の役割は、家庭裁判所の司法官が、低敵対的プロセスの使用が司法権の行使に反していると考えられることを懸念する必要は殆どないことを示唆している。
5.159 ALRCは家族法の第7部12A節が家族法問題の解決に向けて、より敵対的でないアプローチの法的枠組みを提供すると考える。そのアプローチは以下の通りである。
・子どもと家族に焦点を当てる。
・児童虐待や家庭内暴力にさらされている子どもや当事者を保護する。
・疑似審理を行う。
・学際的である。
・堅苦しくない。
・本人訴訟を行う当事者がアクセスできる。
・関連する支援サービスとの連携 サービスを提供する。
5.160 この制度を成功させるためには、適切な資源の確保と専門家の適切な教育が必要である。家庭裁判所は69条ZNにより、この法的枠組みを支える原則を実現することが求められる。十分な資源が提供されない限り、家庭裁判所はその法定任務を果たすことができない。
(了)
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