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父の日のイベントにおける大統領挨拶

 世界の国々には「父の日」がありますが、その日付や由来は様々だそうです。日本の「父の日」は、戦後アメリカから輸入され、アメリカと同じく、6月の第3日曜日に定められています。
 発祥地であるアメリカでは、「父の日」は「母の日」と同じく国民の祝日で、毎年ホワイトハウスを通して大統領が「父の日」の宣言(A Proclamation on Father’s Day)を発表しています。オバマ大統領の宣言も発表されていますが、ここで紹介するのは、2010年の父の日のイベントにおける挨拶です。
 オバマ第44代大統領はアメリカ建国以来初の非白人大統領であり、3歳の時に父母が離婚しました。母の再婚後、継父の都合により家族でインドネシアに移住した経験があります。

ホワイトハウス
報道官室
2010年6月21日発表

父の日のイベントにおける大統領挨拶

午前10:24 東部夏時間

大統領:
こんにちは!皆さん、こんにちは。 本当にありがとう。 ありがとう。 (拍手) どうもありがとう。 皆さん、どうぞお座りください。 ありがとう。 (拍手)ありがとう。 まず、いくつかの謝辞を述べたいと思います。 まず、最前列に、私がいつも仕事をしているために、子どもと十分に会えない優秀な父親がいます。 ティム・ガイトナー財務長官、エリック・ホルダー司法長官、ゲイリー・ロック商務長官です(拍手)。

さらに、私が敬慕する人の一人であり、皆さんも敬慕していると思いますが、私がその肩の上に立ち、私をアメリカ大統領にしてくれた人物、偉大なジョージア州の下院議員、ジョン・ルイス氏がここにいます。(拍手)コロンビア特別区を代表する熱烈な支持者、エレノア・ホームズ・ノートン下院議員の登場です。(拍手)

ワシントンD.C.のエイドリアン・フェンティ市長にご登場いただきました。(拍手)ARCの常任理事、エドマンド・フリート氏が来ています。(拍手)今日のイベントに関わるパネルディスカッションの参加者の皆さんに感謝します。そして、ワシントンD.C.の象徴であるナーニー・メイソン氏に感謝したいと思います。ナーニー氏は1961年にメイソン理髪店を設立しました。その年に私は生まれました。店は今でもしっかりと続いています。氏は子どもたちや孫たちと一緒にここにいます。どこにいるのかな?そこにいますね。(拍手)ちょっと刈り上げが必要だな。(笑)

1年前の今週、私たちは父性と個人の責任について国民的な対話を開始し、政権のメンバーは父親や家族が直面する課題について話を聞くために全国を駆け回りました。アルネ・ダンカン教育大臣は、ニューハンプシャー州で、父性と教育的達成との関連性について討論を行いました。ゲイリー・ロック氏はカリフォルニア州で、家族のニーズと仕事の要求のバランスについて父親たちに話をしました。退役軍人省のシンセキ長官は、ノースカロライナ州で軍人や退役軍人の父親を対象に対話集会を開催しました。また、ホルダー司法長官はジョージア州を訪れ、刑事司法制度における父親についてのフォーラムを開催しました。

そして、それぞれの場所で、それぞれのリーダーたちがシンプルな質問を投げかけました。国として――政府だけでなく、企業や地域団体、関係する市民は、どのようにすればいいのか――父親が家族や地域社会に対する責任を果たすために、私たちはどのように協力すればいいのか。

そして、私たちがこれを行ったのは、子どもたちの人生において父親が果たす重要な役割を知っているからです。父親は私たちの最初の教師やコーチです――私の家では、補助教師やアシスタントコーチですが――(笑)母親にとって。しかし、父親は私たちの良き指導者であり、ロールモデルでもあります。父親は、私たちがなりたいと思うような人間を設定する、お手本を私たちに示してくれます。

しかし、私たちは、また、あまりにも多くの父親が不在であることが意味することを――あまりにも多くの家庭から、あまりにも多くの人生から、父親がいなくなっていることを意味することを知っています。父親が責任を放棄すれば、子どもたちに害が及ぶことを知っています。父親不在で育った子どもたちは、貧困の中で生活する可能性が高いことを知っています。学校からドロップアウトする可能性が高くなります。刑務所に入る可能性が高くなります。薬物やアルコールを乱用する可能性が高くなります。家出する可能性が高くなります。10代で親になる可能性が高くなります。

そして、私は自分の人生に父親がいないまま育った人間として、このことを全て話します。父は、私が2歳のときに私の家族を残して家を去りました。私は幸運にも、素晴らしい母親と、私と妹に全てを注いでくれた愛情深い祖父母に恵まれましたが、それでも、父の不在の重さを感じていました。子どもの人生には、どんな政府も埋められない穴が空いているものなのです。

そう、教育や医療、犯罪といった問題について、ここワシントンで好きなだけ話すことができます。良い学校を作ることもできる。良い仕事を生み出すためにお金をつぎ込むこともできる。街の安全を守るためにできることは何でもできる。――しかし、政府は子どもたちが路上で問題を起こさないようにすることはできません。政府は、子どもたちに本を手に取るように強制したり、宿題を確実に済ませるようにさせることはできません。政府は、子供を育てるために必要な規律や指導、愛情を提供するために、毎日毎日そこにいることはできないのです。それは、父親として、母親として、子どもたちの保護者としての私たちの仕事なのです。

実際、父親になるのは技術的には簡単です。――どんな男性でもなれる。しかし、父親としての生涯にわたる責任を果たすのは難しいことです。そして、その履行は、家族がうまくいっている良い時でさえも難しいことです。特に、困難な時期には、家族をまとめるだけで精一杯になります。

戦時中、多くの軍人の家族は、父親が子どもから遠く離れた場所で何度も任務を遂行し、精神的に参っています。経済的に厳しい時期には、多くの父親が、仕事を続けられるか、仕事を見つけられるか、あるいは、生活費を払い、自分になくとも、少なくとも自分の子どもにはそうしてあげたいと願っていたような機会を与えることができるか、心配しています。そして、仕事を失い、愛する人たちのために自分が望むような養育者になれないと感じたときに生じる羞恥心や挫折感と格闘している多くの男性がいます。

しかし、今日、私たち全員が全国の父親に伝えたい重要なメッセージはここにあります。子どもたちは、私たちがスーパーヒーローであることや、完璧であることを必要としていません。子どもたちは私たちの存在を必要としているのです。私たちが姿を見せて最善を尽くすことを必要としているのです、私たちの生活の中で他に何が起こっていようとも。私たちは示す必要があるのです――言葉だけでなく、行動によって――彼ら、つまり子どもたちが常に私たちの最優先事項であるということを。

家族での食事、公園での午後のひととき、就寝時の話。私たちが与える励まし、私たちが答える質問、私たちが設定する制限、困難や苦難に直面したときの粘り強さのお手本――こうしたことが時間をかけて積み重なって、子どもの人格を形成し、核心を作り、人生を信じ、自信と希望と決意を持って人生に踏み込むことを教えてくれるのです。そして、それは子どもたちが常に心に留めておくものです。お金や名声、華々しい業績ではなく、日々の小さな行動で私たちが示す愛です――子どもたちの人生に立ち会うことで私たちが示し、私たちがもたらす愛です。

さて、残念ながら、この国で父性について語る方法は、必ずしもこれらの真理を補強するものではありません。育児や仕事と家庭のバランスといった問題を語るとき、私たちはそれを「女性の問題」「母親の問題」と呼んでいます。父性や個人の責任について語るとき、何が正しくて何が間違っているかに代わって、左翼と右翼、保守とリベラルの観点から、政治用語で語りがちです。そうすると、話が本題から逸れてしまうのです。ですから、今こそ、この国で父性をめぐる新たな対話が必要なのだと思います。

私たちは、一人で全てを行うことを余儀なくされている母親が多すぎるということに全く同意します。彼女たちは、しばしば困難な状況下で、甲斐甲斐しく仕事をこなしているのです。その功績は賞賛に値します。しかし、一人でする必要はないのです。子どもを育てるという仕事は、この国で最も重要な仕事であり、母親と父親――全ての人の責任です。(拍手)

今、私は父性を法制化することはできません――誰に対しても子どもを愛することを強制することはできません。しかし、私たちは、父親に対して、義務を果たさない言い訳はできない、という明確なメッセージを送ることができます。私たちにできることは、責任ある選択をする父親にとってはより寛大に、そのような選択を避ける父親にとってはより苛酷に対処することです。私たちにできることは、共に歩み、前向きになり、良きパートナー、親、提供者となることをいとわない父親を支援することです。

そのため、今日、私たちは、責任ある父性を促進するための取組みの次の段階を開始します。――新しい全国規模の「父性とメンタリング構想」です。これは、全国の市や州、個人や組織との行動を――NFL選手会から全国PTAまで――呼びかけるものであり、責任ある父性の自覚を高め、不在の父親を再び家族を結び付ける取組みです。

この取り組みの一環として、私たちは「父性、結婚、家族イノベーション基金」の新設と拡大を提案しました。そして、州や地域社会で最も優れた、最も成功した新たな取組みを探し出し、支援する予定です。全ての――職業訓練、子育て技能講習会、ドメスティックバイオレンス防止などのサービスを提供している――新たな取組みが、男性、特に脆弱な地域社会の人たちに、支援のネットワークを提供するのに役立ちます。

私たちは忙殺される父親も支援するつもりです――私たちは、父親が養育費の支払いに追われているか確認し、子どもたちの生活に再び関与させたいと考えています。親同士の健全な関係づくりも支援するつもりです――なぜなら、子どもたちは、愛する母親と愛する父親からだけでなく、強く愛のある結婚からも恩恵を受けることを知っているからです。(拍手)

また、元犯罪者や低所得の非監護親である父親を対象とした新しい移行雇用構想も開始します――(拍手))――というのも、彼らは仕事を見つけ、仕事を続ける上で深刻な障壁にしばしば直面する男性だからです。私たちは、彼らがフルタイムの長期雇用に移行するために必要な技能と経験を身につけ、養育費の支払い義務を果たし、家族を養うことができるように支援するつもりです。

そして、エリック・ホルダー司法長官の指示のもと、司法省は元犯罪者の父親のための初の「父親再入廷裁判所」の設立を計画しています――(拍手)――そして、このプログラムを全国の裁判所で再現することを支援する計画を立てています。このアイデアは非常にシンプルです。父親が刑事司法制度から解放されたら直ぐに連絡を取り、養育費の支払いと家族との再接続を開始するのに必要な雇用とサービスに直ちに繋げるのです。

このプログラムは、全米ファザリングセンターの常任理事であったピーター・スポークス氏のような指導者に触発されたものです――氏は私たちの政権の多くの人々にとって良き友人であり、彼の最近の死去に全員が深い悲しみを感じています。光栄にも、今日はピーター氏の奥様、バーバラ夫人にお越しいただきました。バーバラ夫人はどこかな?さっき見たばかりです。いらっしゃいました。(拍手)ありがとうございます。

ですから、こうした新たな取組みから始めることは良いことです。しかし、最終的には、良い父親になるかどうかの決定は、個人として――私たちに、私たち一人一人にかかっていることを私たちは知っています。それは、この国の男性の方々が毎日欠かさずしていること――学校の集会への参加、保護者面談、サッカーやリトルリーグのコーチ、倹約と節約、そして、子どもたちが大学に行けるように勤務シフトを増やしたりしていることです。そして、多くの父親――かつ父親ではない男性も――が、自分の生活に責任ある大人がいない若者たちのために、良き指導者や家庭教師、兄貴、里親としての役割を果たそうとしているのです。

私たちが最善を尽くしたとしても、期待に十分に応えることができず、苦労と心痛の日々が多くあることでしょう――今ここにいる男性と話しをしてみても。ミシェルと私がこれまでの人生で得た幸運と支援があったにもかかわらず、私は親として多くの過ちを犯してきました。仕事の忙しさにかまけて、父親としての務めを果たせなかったことも数え切れないほどある。そして、娘たちの人生の中で二度と戻らない瞬間を逃したことを私は知っています。それは受け入れ難い損失です。

しかし、ある作家が「子どもを持つということは、・・・自分の心臓が体の外を歩き回ることを永遠に決意することだ」と書いたときの感覚も知っています。(笑)考えてみてください――子どもを持つということは、自分の心臓が体の外を歩き回るということなのです。

マリアが生まれた直後、ミシェルとマリアと一緒に時速10マイル(訳者註:1マイルは1.6㎞)で家までドライブした時のことを、ここにいる多くの父親が知っていると思います。(笑)感情が、混じり物のない喜びと純粋な恐怖の間で揺れ動きます。(笑)その日、私は、自分が手に入れられなかったものを娘に与えるために、できる限りのことをしようと誓ったのです――人生で何かになれるとしたら、それは良い父親であろうと。(拍手)

そして、ここにいらっしゃる多くの男性の方々と同じように、私も娘たちと過ごす時間に匹敵するような喜びは、人生の中で他にないと思うようになりました。彼女たちが成し遂げたことに誇りを感じ、強く、自信に満ちた若い女性に成長するのを見ることに満足感を覚えるのは、他の何物にも代えがたい。

これまでの人生で、私は弁護士、教授、州上院議員、米国上院議員を務めてきました――そして現在、アメリカ合衆国大統領を務めています。しかい、迷わず言えることは、私がこの世にいる間、最も遣り甲斐があり、最も充実した、最も重要な私の仕事は、サーシャとマリアの父親であるということです。(拍手)

ですから、そのために立派な学位は必要ありません。そのために大金も必要ありません。どんな迷いがあっても、どんな困難があっても、父親であることを忘れてはいけません――それは、単なる義務や責任ではありません。これは特権であり、祝福であり、私たちが個人として、また国家として受け入れなければならないものなのです。

それでは、皆さん、父の日おめでとうございます。皆さんに神のご加護を。アメリカ合衆国に神のご加護を。(拍手)

終了
午前10:41 東部夏時間

[訳者註]東部夏時間 Eastern Daylight Time,EDT
東部標準時(EST)の夏時間のこと。協定世界時(UTC)を4時間遅らせた標準時で、東部標準時より1時間進めた時間である。東部標準時は、アラスカ州・ハワイ州を除いたアメリカ合衆国本土にある4つの時間帯のうち一番先行する時間帯で、首都ワシントンD.C.やニューヨーク市のほか、東海岸の諸都市がこの時間帯に属する。

[訳者註]父の日 Father’s Day
1909年にアメリカ合衆国ワシントン州スポケーンのソノラ・スマート・ドッドが、男手一つで自分を育ててくれた父を讃えて、キリスト教会の牧師にお願いして父の誕生月である6月に礼拝をしてもらったことがきっかけ。当時既に始まっていた「母の日」のカーネーションに対し、父の日の花はバラ。ドッドが、父の日に父親の墓前に白いバラを供えたからとされている。

[訳者註]大統領顧問団 Cabinet of the United States
閣僚および閣僚級高官で構成されるアメリカ合衆国の行政府の一機関。通常はアメリカ合衆国内閣、または単に内閣と呼ばれる。
議院内閣制をとるイギリスや日本では、行政権は内閣にあり(政府=内閣)、内閣を構成する首相と閣僚は連帯してその責任を負う(内閣総辞職)。一方アメリカでは、行政権は大統領ひとりの手中にあり(政府=大統領)、閣僚は大統領に対してのみ責任を負う。このようにアメリカの内閣は議員内閣制度下の内閣とはその性格が異なる。

[訳者註]ナーニー・メイソン Nurney Mason
ワシントンDCのHストリート・ノースイーストにある理髪店の社長。「父性のバズ(Fatherhood Buzz)」キャンペーンに参加している。

[訳者註]全米ファザリングセンター National Center for Fathering (NCF)
アメリカにおける父親のいない社会的および経済的影響に対応して1990年にケン・キャンフィールド博士によって設立された非営利組織。活動目標は、全ての子どもの生活に積極的に関与する父親、祖父、父親の姿を鼓舞し、身に付けることで、子どもの生活を改善し、父親のいない傾向を逆転させることである。

(了)


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