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児童保護法制における親権の規律に関する海外制度調査報告書(イギリス及びフランス)

 この記事は法務省HPに掲載されている「海外制度調査報告書(イギリス及びフランス)」と題する資料を転載したものです。
 利用しづらいHPレイアウトにより、格納場所が確認できなかったのですが、恐らく「法制審議会児童虐待防止関連親権制度部会(平成22年、西暦2010年)」に向けた資料と思われます。

外国法調査報告書 -イギリス及びフランス-

1.調査の目的と対象

 本報告書は、「児童虐待の防止等を図り、児童の権利利益を擁護する観点から親権に係る制度の見直しについて検討」¹するための参考として、イギリス法²及びフランス法について調査し、報告するものである。
 上のような調査目的からすれば、調査の対象となるべき領域は、児童虐待との関係において問題となる親権の規律についてということになるが、イギリス及びフランスにおいて、児童虐待の場合にだけ適用されるような、親権に関する法制度が存在するわけではない。虐待を受けた児童の保護は、より広い射程を持つ、保護を要する児童を対象とする法制度³のなかで扱われるため、本調査では、このような意味における児童保護法制における親権の規律を対象とする⁴ 。
 児童の保護については、イギリス、フランスの両国ともに、司法の関与なしに、行政機関によって児童の保護を行う制度を有する。どちらの国においても、行政単独での児童の保護は、 緊急に暫定的な措置がとられる場合を除いて、親権者の同意を得て行われ、この同意が得られないときには、司法の関与が求められることになる⁵。以下では、行政のみによる児童保護は原則として対象とせず、親権者からの同意が得られない場合、したがって司法の関与がある場合を中心的に扱うこととする⁶。
 なお、児童保護法制の対象とされるのは原則として⁷未成年者であるが、イギリス及びフランスの成年年齢は18歳である。
 以下では、フランス、イギリスの順に、⑴制度の概要、⑵親権の制限又は調整、⑶裁判所の関与のあり方、⑷親権者がいない未成年者の公的主体による保護、⑸現行法制の問題点について説明を加え、最後に、現地調査の概略及び参考文献を掲げる。

¹  児童虐待の防止等に関する法律及び児童福祉法の一部を改正する法律(平成 19 年法律第 73 号)附則第2 条第1項参照。
² 正確には、以下で「イギリス法」として扱う児童保護法制は、連合王国のうちイングランド及びウェール ズの法域におけるそれである。
³ 以下では「児童保護法制」という。
⁴ イギリス法上、日本の「親権」に一応対応するといえる概念は「親責任」であるが、本報告書では、イギリス法を説明する部分では「親責任」の語を使い、その他の部分では親権と親責任を併記することはせず、便宜上「親権」の語を使うこととする。
⁵ フランスでは、在宅での支援による方法又は家庭から引き離しての里親又は施設への委託の方法で児童を保護する措置(2005年12 月31 日時点で効力を有する措置)のうち、行政による保護と司法判断による保護との割合はそれぞれ23%と77%であったとされ(Oned,Troisième Rapport Annuel au Parlement et au Gouvernement del’Observatoire National de l’Enfance en Danger,2007,p.47)、日本と比べて司法判断による児童保護の割合が高いのが特徴である(ただし、これらの保護措置は、児童虐待がある場合にとられたものに限られないことは本文で先述したとおりである)。
⁶ 行政による児童の保護の局面における親権者との関係は、どちらの国についても概ね次のようにまとめることができる。すなわち、里親委託、施設入所等の保護措置はそれらを遂行する行政機関と親権者との合意に基づいて行われる。措置の継続中に対象となっている児童に関わる事柄について判断することが必要にな ったとき、例えば、学校の選択や重大な医療行為の判断等を要するときには、措置はあくまでも親権者との 合意に基づいているのであるから、これらの個別の行為についても親権者の意向に即して行うことを要する。 ただし、日常的な衣食住に関する決定等は、逐一親権者の同意を得て行わなければならないわけではない。 そのような、児童と同居して日々の現実の世話を行うことに必然的に伴ってくるような重大でない日常的な事柄については、現に子どもを預かって世話をする者が自らの判断で行いうるということが親権法中に一般的なルールとして明定されているからである(フランス民法373条の4、イギリス1989年児童法3条5項)。
⁷ フランスでは、未成年解放(476条から487条)された18歳未満の子どもは対象外となるが、逆に、21 歳までの若年成年者を対象とする、未成年者に対するのと同様の保護制度(成年年齢の21 歳から18歳への引き下げに伴って導入されたもの)がある。イギリスでは、後述する保護の主要な方法のうち、ケア命令及びスーパービジョン命令の対象となるのは原則として17歳の児童までであり、8条命令の対象となるのは 原則として16歳の児童までである。なお、本報告書では、「児童」、「子ども」、「子」、「未成年者」の語を、特に定義して使い分けることはしていない。

2.フランス

⑴ 制度の概要
 児童保護法制のうち、児童の保護を目的とする親権の規律の中心となるのは、民法中の「育成扶助」制度である。他に、親権者から親権自体又はその行使を失わせる制度として、「親権の取上げ」と「親権の委譲」が関係する。同意に基づく行政機関レベルでの支援が上手く進まないときには、裁判所の関与のもとに、これらの制度が用いられることになる。以下では、まず、 前提となる親権及びその行使に関する一般的なルールを説明し、次に、これらの制度の概略及び民法上のその他の関連する条文を一覧したうえで、関係する機関、民法以外の関係する法令について簡単に説明する。
1) 民法の関係部分の概要
① 親権の性質と内容
 親権については、民法の第9章(民法371条から387条まで)に規定されている⁸。「親 (autorité parentale)」は、「子の利益を目的とする権利及び義務の総体」(民法371 条の1、1項9)であり、「子をその安全、健康及び精神において保護し、かつ、子の教育を保障しその発達を可能とする」という目的のために、父母に帰属するとされる(同2項)。この目的は、親権法全体を支配し、親権の制限の根拠となるものとして、重要である。 親権は、父母に与えられた特権ではなく、上の目的のために与えられた職務であり、通常は、 次のような内容をもつものと整理される¹⁰。

⁸ 親権法は、「親権」の語を puissance paternelle から autorité parentale へと変更した1970年の改正以降、1987年、1993年と改正を重ね、2002年の改正によって現在の骨格が整えられるに至った。その後、2007年には児童保護に関する立法(2007年3月5日の法律)により育成扶助制度が改正を受けている。
⁹ 本文の以下の部分のうちフランス法を扱う部分においては、フランス民法の条文は条数のみで引用する。フランス民法の条文の訳出に際しては、法務大臣官房司法法制調査部編『フランス民法典-家族・相続関係 -』(法曹会、1978年)、及び本報告書の末尾引用の[田中、2007]を参考とさせていただいた。
¹⁰ 親権の内容に関する本文の以下の記述は、後掲 Terré et Fenouillet,n1011-1013 に依拠している。

 第一は、子どもの保護の職務である。上記目的のうちの「安全、健康及び精神において保護」するという側面に対応し、要するに子どもの物質及び精神面での全ての必要ということに帰する。この職務を果たすために、親権者には、医療的決定、子と他者との関係の監督、食べ物や衣服の選択等の、多様な特権が認められる。親権者は、医療契約の締結等の法律行為を行うことと薬を飲む等の事実行為を行うことの両方の権利義務を有する。ただし、未成年者の健康に 関わる権限については、個別の特別法で制限されていることも多い。さらに、一般的に、医療従事者は、未成年者の健康に重大な帰結がもたらされる危険があるときには、親権者の拒否にかかわらず、不可欠の治療を行うものとされている(患者の権利に関する2002年3月4日の 法律 L1111 条の4)。
 第二は、教育の職務である。2002年の改正法は、教育を、親権の目的であると位置づけた。 先述した親権の目的のうち「教育を保障しその発達を可能とする」という側面に対応するものである。教育は親権の目的とされたといっても、教育の権利と義務が親権の重要な特権であることには変わりがない。親は、知的側面、及び精神、職業、市民社会、政治、宗教等に関わる 教育の義務を負う。この職務には、先の保護の場合と同様に、教育機関への子どもの登録等の法律行為と宿題の手伝いや授業への助言等の事実行為とが含まれる¹¹。
 第三は、居所の指定である。未成年者の居所を定める権利かつ義務であり、監護(garde)の権利として言及されることもある¹²。「子は、父母の許可なしに家族の家を去ることができない。」(371条の3)という条文がこの権利義務を定めるものである。同条では、「子は、法律が定める必要な場合においてのみ、その家から引き離されうる」とされているが、これは、子の家庭からの引き離しは、親が子を留め置いておく権限に対する極めて例外的な措置であることを示している。この例外にあたる主要な場面は、育成扶助により子が家族の家から引き離される場合(375条の3)又は司法判断により子が第三者に預けられる場合(373条の3、380条等) である。このように、居所の指定は親権の本質的な特権と捉えられているが、その理由は、一方で住居の選択が実際上は大なり小なり子どもの生活を規定するからであり、他方で子どもとの共同生活が子どもとの愛情的、知的なつながりにとって本質的だからである¹³。
 以上のような内容を有する親権を行使するときに、「両親は、子の年齢及び成熟度に応じて、子に関する決定に子を参加させる」ことが求められる(371条の1)。
 なお、いわゆる未成年者の財産の管理の側面は、規定の上では親権と別立ての制度となっているが、親権を行使する者は原則として未成年者の財産の管理に関わる権限を有することになる(382条、383条)。したがって、親権者は、親権の行使を失った場合には、未成年者の財産管理権限を失うこととなるという関係にある。もっとも、上記のとおり、子どもの保護や教育のために必要となる契約の締結権限は、ここでいう財産管理とは別の権限として位置づけられている。

¹¹ なお、宗教の選択はしばしば微妙な問題を生じさせる。宗教の選択は、教育の職務の一部として親が決定できるとされるが、それが日常的な行為であると性質づけられることはなく、そのため、父母は宗教の選択に関する決定権限を共同で行使しなければならない(後述する372条の2による)。父母の合意が得られないときには、裁判所で微妙で困難な判断がなされることになる(373条の2の7、373条の2の11)。
¹² 「監護(garde)」という語の使用方法には注意が必要である。2002年の改正の前までは、親権は「監護、 監督及び教育の権利及び義務」であると規定されていたため、監護という用語は未成年者の生活態様を定める一般的な権限として理解されていた。ところが、2002年改正法はこの用語を廃止し、監護の権利及び義務は、本文で述べた保護及び教育の職務として具体化して規定されるに至った。その結果、今日では本文に記したとおり、監護の語は正確には居所の指定の側面だけを指すこととなったが、時には旧来の含意で用いられることもある。
¹³ このような子どもとの共同生活に関わる親の権限は、近時の欧州人権条約8条の家族生活を尊重される権利の解釈によっても裏書きされている。

② 親権の行使に関する一般的なルール
 親権の帰属については、父母の関係がどのようであるかにかかわらず、すなわち、父母が婚姻しているか否か、婚姻等が解消しているか否か、別居しているか否かにかかわらず、父及び 母による共同親権が原則となる(373条の2)。そして、共同親権者である父母は、共同で親権を行使する(372条1項)。ただし、子の身上に関する日常的行為(acte usuels)については、 親権者の一方が他方の意思に反して単独で行った場合であっても、善意の第三者との関係では他方と一致しての行為とみなされる (372条の2)。逆に言えば、日常的行為とはいえない重大な事項については、相手方が善意であったとしても、一方親権者が他方に無断で行った行為が有効とされるわけではない。
 両親が離別(離婚、カップルの解消、別居を含む)する場合にも、父母の両方が親権者であり続けるのが原則であることは上に述べたとおりである。この場合には、子どもの居所について、両親の居所の間を交代で行き来する形態(交換居所(résidence alternée))と、両親の居所のどちらかに通常の居所を定める形態のどちらかが選ばれる(373条の2の9、1項)。どちらの形態にするかは、父母による約定を裁判所が許可するか、両親の一方又は検察官の申立により裁判官が決することになる(373 条の2の7 から373条の2の9)。どちらの居所の形態がとられたとしても、親権は共同行使であるから、親権に関する決定には父母の合意が必要である。子の身上に関する「日常的行為」については、先述の規定により、父母の一方が単独で行うことができるが、日常的行為の範囲を超える重要な事柄について父母が合意に至らない場合には、結局、父母の一方によって裁判官に申し立てがなされることになる。これに関連して、父母の双方は、他方と子との関係を尊重する義務を負い、これを実効ならしめるため、父母のそれぞれは、居所を変更するときには、そのことを他方に知らせなければならない(373条の2、2項、3項)。
 これに対し、離別の後に、親権の行使が一方に委ねられることもある。このような単独での親権の行使は、裁判官の判断によって認められるものとされており、裁判官は、「例外的に、子の利益がそれを命じる場合には」、親権の行使を父母の一方に委ねることができる(373条の2の1、1項)。親権の行使が父母の一方に委ねられると、当該一方の親は、重大な事項について も、他方の同意を得ずに単独で行うことができる。この場合であっても、他方の親は「子の養育及び教育を監督する権利及び義務」を保持し、子の生活に関する重大な選択については通知を受ける。また、他方の親は、原則として訪問及び宿泊の権利を有する(373条の2の1、2項)。 親権の行使については、他に、日本の民法にはない規定として、子どもが第三者に預けられ た場合についての規定がある¹⁴。子どもが第三者に預けられたとき(confier l’enfant )には、親権は引き続きその父母によって行使されるが、子を預かる者は、その監督及び教育に関するすべての日常的行為を遂行するものとされる(373条の4)。子を預かっている者は、日常的行為の範囲に属する事柄については、親権者の同意を得ることなく、単独で行うことができることになる。

¹⁴ 前記注6で言及した規定である。

③ 親権の制限に関する制度の概要
 親権の制限ないし調整については項を改めて詳述するが、ここでその概略を示しておく。民法には、「育成扶助」「委譲」「取上げ」の三つが規定されている。

  • 育成扶助:児童虐待への対応において中心的な位置を占める制度であり、子どもが危険な状態にあるときに、裁判官の命令により、子ども及びその家族に対して、支援を行うものである。具体的には、子どもを家庭から引き離して第三者(個人、施設、県の児童社会扶助機関等)に委ねる、子どもを在宅させたまま専門家が助言・支援を行う等の措置がとられる。育成扶助の制度は、親権を制限するためのものではなく、措置が行われている間も親権者の親権は維持されるが、親権者は現に子どもを預かる者及び助言・支援を行う者との間で一定の調整又は制限に服することになる。育成扶助は、緊急時への対応に用いられることも予定されている。育成扶助では親権者が親権を保持するのに対して、親権者が親権又はその行使を失う効果をもつ制度として、親権の委譲と親権の取上げがある。

  • 親権の委譲:親権の委譲は、裁判官の判決により、親権の行使が第三者に移されるものである。親権の全部の委譲と一部の委譲があり、また、親権者からの申立による場合(任意的委譲)と第三者からの申立による場合(強制的委譲)とがある。児童虐待の場面で問題となるのは、主に親権の「全部」の「強制的」な委譲である。

  • 親権の取上げ:親権自体を親から奪うものである。大審裁判所の刑事又は民事の判決により、親権の行使にとどまらず、親権自体を、全面的に又は部分的に取り上げるものである。

④ その他
 他に、民法上の関係する制度として、まず、子どもに関わる社会保障給付金が子どものために有効に使われていない場合に、裁判官が当該給付金を受領する者を定めて適切な利用を図る措置がある。管轄するのは、子どもの保護を専門とする少年係裁判官である(375条の9の1、395条の9の2)。また、「遺棄宣告」を挙げることができる。この宣告は、育成扶助等によって里親、施設、児童社会扶助機関他に受け入れられた子に対して、親が1 年以上の間明らかに無関心である場合に、それが親の深刻な苦境による場合を除いて、大審裁判所によって宣言さ れるものであり(350条1項)、対象となった子は、同宣告によって、完全養子の対象となりうることになる(347条3号)。
 なお、以上のような親権及びその行使に関わる制度の手続面は、新民事訴訟法1181条以下によって規律されている。
2) 諸制度の利用状況
 育成扶助、委譲、取上げの利用実績は下表の通りとなっている。この表に挙げられた件数は、それぞれの制度の利用の総数を示しているため、児童虐待が行われている事例だけが含まれているわけではないが、育成扶助の利用が中心となっていることがわかる。親権の取上げの件数は、数は多くない。

(Annuaire statistique de la justice,éd.2008 より抜粋)

3) 関係する機関
 児童保護に関係する主な機関は次の通りである。
 まず、親権の行使について一般的に判断する権限を有するのが家事事件裁判官である。家事事件裁判官は、1993年に創設された専門の裁判官であり、婚姻、離別、親権の行使の調整等を管轄する。父母の離別の後にどのように親権が行使されるべきかを定めるほか、親権の委譲を判断する。育成扶助を管轄するのは別の専門裁判官である少年係裁判官である。少年係裁判官は、少年ないし児童を専門とする裁判官として、少年非行と育成扶助を担当する。
 行政において、児童保護を管轄するのは県である。県は、児童に関わる社会扶助及び社会事業を担当する児童社会扶助機関(Aide sociale à l’enfance(ASE))を置かなければならない。本調査の対象分野との関係では、この機関の二つの役割が重要である。まず、行政レベルでの児童保護を担当し、親権者との合意に基づいて児童を保護する直接的な活動を遂行する。他方で、育成扶助等の方法により司法を通じて児童の保護が図られる場合において、裁判所は、子どもの施設入所、里親委託、子ども及び家族に対する助言・指導等を委託するが、その際に、多くの場合に受け皿となるのが県の児童社会扶助機関である。
4) 民法以外の関係法令
① 刑法
 フランスでは、未成年者を危険な状態に陥らせること自体が犯罪として刑法に規定されている。具体的には、直系尊属、親権を行使する者等が15歳未満の者に食料又はケアを与えずにその健康を危殆化させること¹⁵、及び、未成年者の父母が法的義務の履行を怠ることにより当該未成年者の健康、安全、精神又は教育を著しく危殆化すること¹⁶が犯罪とされる。さらに、暴力行為や強姦等の一般の犯罪についても、被害者の年齢が15歳未満であることを理由とする、又は、加害者が被害者に対して尊属であるもしくは親権その他の権限を有する等を理由とする刑の加重規定が存在する¹⁷。本調査では刑事処分の詳細を扱うことができないが、子どもが虐待の被害を受けている場合には、民法に基づく親権行使に対する介入又は行政的な保護措置は、刑事処分とともに働きうるものであるということは注意を要する。
② 家族社会事業法
 家族、高齢者、障害者等に対する様々な社会扶助ないし社会事業及びそれらを遂行する機関 等について定めるのが家族社会事業法である。先述のとおり、児童虐待への対応においては、 県の児童社会扶助機関が、行政的保護の場面のみならず、司法による民法に基づく親権への関与の場面においても、重要な役割を果たすが、同機関の位置づけ及びその業務内容については、同法に詳細な定めがある。主として関係するのは、社会扶助及び社会事業について定める第2編の第2章「児童」と題される部分である。司法判断によって育成扶助措置がなされる場合における家族の権利(223条の1から223条の 8)¹⁸、育成扶助措置によって家族から引き離された未成年者の保護の方法(227条の1から227条の12)、そのような未成年者の養育にかかる費用の負担(228条の1から228条の6)等が規定されている。司法判断によって親権が取り上げられた後に対象となった子どもを養子とする場合の手続もまた、同法に含まれている(224条の1から225条の20までに規定される国家の被後見子及び養子に関わる部分である)。これらの部分では、家族社会事業法の規定と民法の規定が相互に対応して定められている点が注目される¹⁹。さらに、家族社会事業法は、行政による児童に対する社会扶助(L221条の1から 221条の9)の根拠となり、行政機関が司法機関に通報しなければならない場合についても定める (L223条の2)。児童が虐待をされるその他の事情によって危険な状態にある場合の通報、情報収集等についての定めもある(L226 条の1からL226条の13)。

¹⁵ 刑法227条の15(法定刑は7年の懲役及び10万ユーロの罰金。被害者を死亡させたときには30年の懲役(同法227条の16)))。
¹⁶ 刑法227条の17(法定刑は2年の懲役及び3万ユーロの罰金)。
¹⁷ その他の犯罪については、後掲[松井・才村 2004、38‐39 頁]を参照。
¹⁸ 具体的には、家族の権利として、育成扶助の手続において意見を述べる権利や定期的に児童の状況について報告を受ける権利等が定められている。
¹⁹ 例えば、家族社会事業法223条の3の1は、少年係裁判官が育成扶助措置をとる際に、訪問権の頻度や態様を施設長と親権者との協議によらしめることができることを内容とする民法375条の7、5項を受けて いる。

⑵ 親権の制限又は調整
 次に、親権の行使が適切でないときに、子どもを保護するために、親権に関してどのように法的な介入がなされるのかを、より立ち入って見ていきたい。
1) 親権の制限又は調整の重層性
 先に概観したとおり、フランスの民法には、親権の制限又は調整に関わる制度が多数用意されているが、それらの制度による柔軟かつ多様な親権の規律を可能としているのは、それを支える基本的な考え方や概念の複層性である。そこで、具体的な制度ごとの説明に入る前に、そのような基本的な考え方や概念を簡単に整理しておくのが便宜である。鍵となるのは、親権の帰属と親権の行使との区別、及び、親権者が行う子どもに関する行為のなかでの日常的行為と日常的行為を超える範囲の行為(「重要な行為」)との区別である。これらの区別の組み合わせにより、親権の制限又は調整の態様は、親権者に対する影響の大きい順に、次の三段階に整理ができる。
① 親権自体を喪失する場合
 対応する制度は「取上げ」であり、取上げがなされれば、親権者は親権を行使できないだけではなく、親権そのものを失うことになる。養子(実親子関係を断絶する完全養子)への同意権も失われるため、親子関係の断絶につながる重大な効果を持つ措置である。
② 親権を行使することができなくなる場合
 親権者は、一定の要件のもとで、親権自体を保持するが、その行使ができないとされる場合がある。この場合には、他の何者かが親権を行使することになり、その者が、対象となる子どもに関する日常的な行為のみならず、重要な行為についても、親権者の同意を得ることなく遂行することができることになる。親権の「委譲」は、このような効果を有する制度である。親権を行使することができなくなる場合であっても、養子への同意権は元の親権者が有する。
③ 親権及びその行使を維持するが子と同居できなくなる場合
 親権者に親権及びその行使を保持させつつ、司法判断によって、子どもが第三者に預けられる場合である。この場合には、親権者は、親権及びその行使を制限されるものではない。しかし、同時に、子どもを預かる第三者は子どもに関する日常的な行為を行なうことができるとされる。日常的な行為は親権者の同意を得ることなく第三者が遂行できるのであるから、親権者は事実上の制約を受けているともいえる。育成扶助措置によって子どもが施設等に預けられたときには、親権者は基本的にこのような地位に置かれることになる。

2) 育成扶助
① 目的及び要件
 育成扶助制度は、子どもが危険な状態にあるときに、裁判所の命令により、子ども及びその家庭に対して在宅支援を行う、又は子どもを家庭から引き離して施設、里親等に預ける等の措置を行うものである。その目的は、親権を制限することにあるというよりも、子どもが危険な状態にあるときに、家族及び当該子どもを支援することによって、子どもを保護することにあ る。子どもが家庭から引き離される場合であっても、家庭復帰を目指すことが前提とされる。裁判官が、命令を行う段階にとどまらず、個々の事案に長期にわたって継続的に関与するのが特徴である。
 育成扶助の要件は、「未成年者の健康、安全もしくは精神が危険な状態にある場合、又は、教育の条件もしくは身体、愛着、知的及び社会的な発達が著しく損なわれている場合」(民法375条)である。この要件は、親権の目的が「子をその安全、健康及び精神において保護し、かつ、子の教育を保障しその発達を可能とする」ことに存することに対応するものであるが、親権者の親権行使の態様の適否ではなく、もっぱら未成年者の状態の側から規定されている。育成扶助は、父もしくは母、子どもを預かる個人もしくはサービス機関、後見人、未成年者自身、又は検察官の申立により、少年係裁判官によって命じられる。職権によることも認められる。裁判官による命令ではあるが、裁判官は、常に、とられる措置に対して家族の同意を得るように努めなければならない(375条の1、2項)。子どもの利益を厳密に考慮して裁判しなければならないことも条文上に明示されている(同条同項(2004年に挿入))。
② 措置の内容及びその他の裁判官による判断の対象事項
 育成扶助として命じられる措置は、未成年者を家庭に留めたまま本人及びその家族に支援を与えていくものと(ここでは「在宅援助」の措置と呼ぶ)、未成年者を家庭から離して施設等に預けるものとに大別される。未成年者はできる限りその現状に留めおかれるべきであるとして在宅援助が優先的な位置づけを与えられ、家庭から引き離しての措置は未成年者の保護のために必要なときという条件に服する。裁判官は、仮の命令として、これらの措置を命じることもできる。先述のとおり、居所指定権に裏づけられる同居生活は親権の本質的な部分であるとされ、それを失わせる措置は、法律で定められた例外的な場合にのみ許されるとされるが、育成扶助における託置措置は、その例外的な場合の一つである。 在宅援助²⁰は、未成年者をその現在の環境に留めつつ、当該未成年者の家族が遭遇する物質又は精神的な困難を克服するために、家族に援助及び助言を行う措置である。援助及び助言を現実に担当するのは、育成扶助を行う資格を与えられている専門家又は機関であり、具体的に担当する者は裁判官が命令中で指名する。援助及び助言を担当する者は、子の成長を継続的に観察し、裁判官に定期的に報告しなければならない(375条の2、1項)。 未成年者をその置かれる現在の環境から引き離して施設等に預ける措置は、「託置 (placement)」と呼ばれる²¹。裁判官が、未成年者の保護のために必要だと認めるときに、未成年者を施設等に委ねることを決定する(375条の3)。未成年者を委ねる相手方は次のように具体的に定められており、これは限定列挙であると解されている。
・託置の相手方(375 条の 3)
  1号 親の他方
  2号 家族の他の構成員又は信頼に値する第三者
  3号 県の児童社会扶助機関
  4号 日中又は他の態様で未成年者を受け入れる機関又は施設
  5号 一般又は専門の、保健又は教育の機関又は施設
 このうち、現実の適用例として大部分を占めるのが3号の委託である。この場合には、裁判官は、児童社会扶助機関を有する県に未成年者を託置し、託置を受けた児童社会扶助機関が、未成年者を里親に委託する又は施設に入所させる。このように、未成年者の里親委託及び施設の入所は、裁判官によって直接になされるのではなく、県の担当部局を通じてなされることが多い。ただし、裁判官が、施設等を直接に指定して託置する場合もある(根拠条文は4号及び5号となる)。5号所定の施設等としては、病院、教育機関等が想定され、4号所定の施設等は、より一般的な未成年者の受け入れを専門とする施設等である。施設の運営主体は民営、県営、国営など様々であるが、その資金的基礎は多くの場合、県の財政にある。1号及び2号は父母の片方又は個人に直接に子どもを託する場合だが、児童虐待があるような事例ではほとんど用いられない。里親への委託は裁判所から直接なされるのではなく、県の児童社会扶助機関を通じて(すなわち3号を根拠に)行われる²²。
 裁判官は、在宅援助又は託置を命じると共に、次のような、具体的な決定を行うことができる。

  • 対象となった未成年者に対し、保健又は教育関係の施設に定期的に通うこと、職業活動を行うこと等を特定して義務づけることができる(375条の2、3項(在宅援助の場合)、375条の4、2項(託置の場合))。

  • 託置がなされるとき、父母は子との通信の権利ならびに訪問及び宿泊の権利を保持する。裁判官はそれらの権利の態様を定める。その際に、受入れ施設等の指定する第三者の立会いのもとにのみ行使されるべきことを定めることもできる。未成年者の利益のために必要なときには、それらの権利の全部又は一部を一時的に停止することもできる。(375条の7、2項)。

  • 託置において、父母が訪問及び宿泊の権利を保持するときに、裁判官は訪問及び宿泊の頻度等を決定することができる。また、自ら決定するのではなく、それらの権利の行使の条件について子どもを預かる者と親権者との間で協議して定めるものとすることができる。この場合であっても、当事者が合意に達することができないときには、申立により裁判官が判断することができる(375条の7、5項)。

  • 託置の場合に、裁判官は、子どもの利益を考慮し、受入れの態様を定めることができる。特に、子どもの利益のために必要であるか、それをしなければ危険があると認められる場合には、子どもの受入れ場所を秘匿することを決定することができる(375条の7、6項)²³

  • 裁判官は、託置において子どもを預かっている施設等と親権者との調整に関わる判断も行う。後述のとおり、子どもを預かる施設等は、子どもに関する日常的な行為に含まれないような重大な事項を遂行することは認められていないが、そのような行為を行う必要があるときには、個別の行為について許可を求めることができる。裁判官は、後述の一定の要件のもとに、 これを許可する(375条の7、2項)。

  • 育成扶助の措置の期間中、裁判官は何時でも、職権により又は申立によって、育成扶助に関する諸決定を変更することができる(375条の6)。裁判官は、1年に一度措置されている未成年者の状況の報告を受けることとなっており(375条5項)、報告を受けて、措置の内容自体又は措置に伴ってなされた具体的な決定を変更することもある²⁴。

 育成扶助措置の期間は、裁判官が個々に定める。機関又は施設によって遂行される育成措置の場合には、この期間は2年を超えることができない。措置は、理由を付した裁判によって、 更新可能である(375条、3項)。実際には、6ヶ月又は1年の期間で措置を命じ、状況に応じて更新を行っていくことが多いということである。ただし、2007年の改正において、2年の期間制限に例外が設けられ、親が深刻な困難を抱えているために親の責任を果たすことに継続的な支障があるような場合には、機関又は施設によって遂行される受入れの措置を、2年を超える期間を定めて命ずることができるとされる(375条、4項)。子どもに関係性、愛情面及び地理面での継続性を保障するためである。

²⁰ 厳密には、未成年者を育成扶助の手続き時点での環境に留めての支援であり、AEMO(Action éducative en milieu ouvert)と略称される。
²¹ 受け入れ措置(mesure d’accueil)と呼ばれることもある。
²² 在宅援助と託置の他に、2007年の改正で新たに設けられた措置の類型として、一時的宿泊付きの在宅援助(375条の2、2項)がある。在宅援助を基本としつつも、必要に応じて、裁判官の許可を得て、一時的に宿泊を伴う援助を行う方法である。この類型は、実務で実践されていた新しい援助方法に法的基礎づけが与えられたものであり、育成扶助においては、裁判官と受託する専門機関との協働によって、様々な援助方法が模索されていることが伺える。
²³ 子どもの受入れ場所を秘匿するためには、本文に掲げた裁判所の判断を求めなければならないのであって、行政的な保護においては、受入れ場所を秘匿することは許されていない。
²⁴ 本文で掲げた他に、裁判官は、一時的宿泊付きの在宅援助の措置中に、在宅援助を提供する機関と親権者との間で宿泊について意見の相違が生じたときには、申立を受けて判断をすることができる(375条の2、3項))。


③ 親権の状況
 育成扶助措置がなされても、親権者は、親権の行使又は親権自体を失わず、親権を保持する。これは、親権の委譲及び親権の取上げとは異なる、育成扶助の重要な特色である。ただし、この場合の親権は、「育成扶助措置の適用と相反しない」限りで認められるという制限に服する (375条の7)。具体的には、次のような形で親権の行使が調整されることになる。 親権者は親権を保持しているので、子どもが施設又は里親等に預けられている場合であっても、当該子どもに関する事項の決定を行う権限を有する。したがって、施設等は、親権者の意向に従って、それらの事項を遂行しなければならないのが原則である。もっとも、現実には、日常的行為とそれを超える重要な行為とで、取り扱いが異なる。なぜなら、子どもを預かっている施設等は、一般的に子どもを預かる者が有する権限と同じ権限を行使できる結果、預かっている子どもの監督及び育成に関するすべての日常的行為を行うことができるからである(373条の4)。ここで、日常的行為とは、考える必要のない決定を意味しており、監護、教育方針等に関して、日常生活の中で一般的に行われるような事柄を指す。行政上の申請、学校生活上の日常的事柄、公園に行くこと、遠足に行くこと、医療機関で定期健診や日常的な治療を受けること等である。
 重要な行為(例えば、学校の選択、選択の余地のある重大な医療行為、ピアスをする等の日常的行為ではない事柄)については、施設等が親権者の意向に反して遂行することは許されず、これらの行為をする必要があるときには、原則として育成扶助よりも強力な方法(委譲、取上げ)を利用することが考えられることになる。ただし、例外的に、個別に裁判官の許可を得ることによって、重要な行為を行うことができる場合がある。すなわち、親権者に濫用的もしくは不当な拒否又は怠慢が存し、子どもの利益のために正当であると認められれば、施設等は、個別の重要な行為についてそれが必要であるとの証明を行うことによって、裁判官の許可を得て、遂行することができるのである(375条の7)。親権者が親権を保持するという原則の例外に当たるため、厳格な要件が定められているが、育成扶助の実務のなかで、医療行為のような日常的な行為の範囲を超える行為を全く行うことができなかったことによる不便さを解消するために、2007年の改正で新たに設けられた手続きである。
 親権者は子どもに関わる決定を行う権限を保持するといっても、託置がなされたときには、子どもが親権者から引き離されるために、その決定を行うことが事実上困難になることが想定される。この点、実務においては、それらの決定を可能とするために、親権者に通信簿を送る、医療機関に親権者を同行させる等の配慮がなされるのが通常であるという。親権者は、他に、交流、訪問及び宿泊の権利(民法375条の7、4項)を持つとされ、これらは例外的な場合に一時的に停止されることがありうるにすぎない。このように、育成扶助においては、親権が制限される程度は緩やかであり²⁵、家庭復帰を目指すという制度の趣旨に対応しているものといえる。より重大な親権の制限が必要な場合には、 親権の委譲又は取上げという次の段階の制度の利用が考えられるべきことになる。
3) 委譲
 親権の「委譲」とは、親権自体は父又は母に留めつつ、その行使を父及び母以外の第三者に移転するものである。親権は放棄も譲渡もできないのが原則であるが、その例外として、判決によってのみ行うことが認められる、親権の行使のいわば「譲渡」である。委譲は判決によらなければならないため、委譲する者と委譲を受ける者の合意だけに基づく任意の委譲はありえないが、「委譲」には、親権者たる父母が申し立てるという意味での「任意の委譲」と、親権の委譲を受けようとする者が申し立てる「強制委譲」とがある。管轄するのは、育成扶助と異なり、家事事件裁判官である。任意委譲は、典型的には、父母が海外赴任をするために祖父母に子どもを預けるようなときに、祖父母が子どもに関する事柄について個別に父母の同意を求めることなく遂行できるようにするために用いられる²⁶。児童虐待が関係するような場面で適用が考えられるのは、強制委譲の方である²⁷。子を既に受け入れている個人、施設、県の児童社会扶助機関等は、両親が子に無関心である、又は、両親が親権を行使することが不可能である場合には、親権の委譲を受けることを裁判所に申し立てることができる(377条2項)。なお、育成扶助の対象となっている子について委譲を行おうとするときには、少年係裁判官の意見が考慮されなければならない (377条3項)。
 委譲の判決がなされた場合には、その効果として、委譲を受けた者は、親権の行使権限を取得し、したがって、子どもに関わる日常の行為だけでなく、重大な行為にわたる事柄も、親権者の意向と関係なく、自ら決定し遂行することができることになる。なお、委譲は親権の一部分についても行うことができるとされており(一部委譲)、その場合には、委譲された部分は委譲を受けた者が行使し、残りの部分は親権者が行使することになる。一部委譲の場合には、裁判官が委譲されるべき部分を決定する。日常的行為と重大な行為との区別によって指定する、健康に関わる事項、学校に関わる事項、宗教に関すること、又は特定された医療行為に関する部分だけを指定する等の方法で、裁判官が柔軟に細かく定める。委譲は、親権者が親権を行使できなくなるという面だけを捉えれば、親権の取上げと効果を共通にする。しかし、親権の委譲においてはあくまでも親権自体は失われておらず、かつ、効果は時限的であることが想定されている²⁸。また、委譲がなされても、養子に対する同意権は移転しない(377条の3)のも、取上げとの重要な相違である²⁹。

²⁵ 育成扶助では親権が保持されることから、親権者は、養子への同意の権限、婚姻同意の権限、裁判官の許可を得て未成年解放を行う権限、財産管理権を失うこともない。
²⁶ 任意の委譲は、第三者に対する他に、子どもを預かる認可を受けている施設又は県の児童社会扶助機関に対して行うこともできる(377条1項)。
²⁷ もっとも、実際には、児童虐待のあるような事例で委譲制度が用いられることはあまりないとのことである(現地調査での Cicile-Delfosse 教授の指摘による)。
²⁸ 委譲は環境の変化が生じたために正当と認められるときには、いつでも裁判所の判決をもって終了させることができるとされる(377条の2、1項、2項)。なお、取上げも、返還請求の制度がある(381条)ため、必ずしも無期限ではないが、原則として時限的なものであることが想定されているわけではない。
²⁹ なお、本文で説明したものの他に、近時の改正において、委譲者が親権の行使を失わずに、委譲を受けた者と親権の行使を共有する新たな類型の委譲が創設された(2002年の改正によって導入された制度であり 「délégation partagé(共有委譲(仮訳))」と称される)。再婚カップルあるいは同性カップルでの利用を主に念頭においたものであり、児童虐待との関係では重要性が低いと考えられる。


4) 取上げ
① 取上げの要件
 取上げは、親権の行使ではなく、親権自体を失わせる制度である。全部の取上げと一部の取上げ(379条の1)があるが、全部の取上げが原則型である。大審裁判所での3名の裁判官による判決によってなされ、刑事判決による場合と民事判決による場合とがある。まず、刑事判決による場合であるが、父母が「子の身上に対して犯された重罪もしくは軽罪の正犯、共同正犯もしくは共犯として、又はその子によって犯された重罪もしくは軽罪の共同正犯もしくは共犯として有罪判決を受ける」ときに、「刑事判決の明示の条項によって」親権を取り上げられうる(378条1項)。取り上げが必ず行われるべきとされているわけではないが、有罪判決が性的虐待によるものである場合には、特則に基づき、親権の取上げが必ずなされなければならないとされる(刑法222条の31の1、227条の28の2(2005年の改正により挿入))。兄弟のうちの一人に性的虐待があるときに、他の兄弟について親権を取り上げることもある(刑法227条の28の2、2項)。
 民事の場合には、親権の取上げは、検察官、家族の構成員又は子の後見人の申立による(378条の1、3項)。二種類の要件が定められているが、その第一は「父母が、アルコールの常習的な過剰摂取又は麻薬使用、明らかな不行跡又は不法な行動、世話の懈怠又は指導の不足により、子どもの安全、健康又は精神を明らかに危険にさらしている」ときである(378条の1、1項)。ただし、子どもの状態が危険であれば必ず取上げがなされるというわけではなく、子どもに利益があると認められる場合に限ってなされるということである。この要件に該当するのは、すぐにでも子どもが死んでしまうような急迫の危険が存するときであり、具体的な適用例としては、親権者がその子を殴打する、監禁する、売春させる等の場合が挙げられ、多くはニュースになるような酷い事例であるという³⁰。
 民事判決による取上げがなされうる第二の場合は、育成扶助の措置がとられている子どもについて、その父母が、保持している親権、通信ならびに訪問の権利(375条の7)を行使すること及び義務を履行することを2年以上故意に怠ったときである(378条の1、2項)。
② 全部取上げの効果
 親権の取上げの効果は、「親権に結合した財産上ならびに身上の全ての属性に当然に及ぶ」(379条1項)とされ、取上げによって、親権とともに、養子同意の権限、婚姻同意の権限、民法1384条所定の不法行為責任が失われる。扶養の面では、子が親権者に対して負う扶養義務はなくなるが(379条2 項)、親から子に対する扶養義務及び養育費用支払義務(203条)は存続する。相続関係は取上げによって影響を受けない³¹。親権の取上げが言い渡されたときには、判決に反対の定めがない限り、対象となっている子どもに未成年の兄弟姉妹があれば、それらの子と親権者との関係にも親権の取上げの効果が及ぶ。
 親権が取り上げられた後の子どもの処遇については、他方の親が親権の行使を失っていなければ、原則として³²、当該他方の親が子どもに対する親権を単独で行使することになる。他方の親が死亡し又は親権の行使を失っているときには、裁判所は、対象となった子どもを、親族等の第三者に仮に委ねてその者に後見の申立をさせるか、県の児童社会扶助機関に委ねなければならない(380条、1項)。子どもが児童社会扶助機関に委ねられると、当該子どもは国家の被後見子とされ(家族社会事業法 L224条の4、4項)、多くの場合には養子となる(347条2号)。

³⁰  親権の取上げがなされた悲惨な事例の一例として、飲酒依存状態の親が冬季に子を連れて飲酒を続けていたところ、子が冷たい飲み物の中に繰り返し手を入れて遊んでいるうちに指1本を失ってしまった事件があるという(現地調査での Cicile-Delfosse 教授との面談において紹介された事例である)。
³¹ なお、親権を取り上げられた父母が子どもとの交流又は訪問の権利を有するかについては規定がない(育成扶助では、父母が通信及び訪問の権利を有することが明文で定められている(375条の7、2項))。現実には親権を取り上げられた父母が交流又は訪問の権利を与えられることはほとんどないだろうが、純粋論理的には、そのような父母が交流又は訪問の権利を持つことがあり得ないとまでは解されていないという。交流又は訪問の権利は親権自体とは区別される権利であると位置づけられており、親権の有無とはかかわりなく、それらの権利が与えられるべきか否かが裁判所によって判断されるからである(現地調査での Cicile-Delfosse 教授の指摘による)。
³² 親権を取り上げられた親の他方の親が親権の行使を有する場合であっても、裁判所は、他方の親が死亡し又は親権の行使を失っている場合と同様の内容の決定をすることができる(380条2項)。

③ 権利回復の請求
 親権を取り上げられた父母は、新たな状況が生じていることを証明して、剥奪された権利の回復を求めることができる。ただし、この訴えは、親権取上げの判決が確定した後1年を経過しなければ提起できず、かつ、訴えが棄却された後に再度回復の請求を行うにはさらに1年経過することを要する。さらに、回復の請求は、子が養子縁組のために託置されたときには、託置以後には受理されない(381条、2項)。
④ 一部取上げ
 裁判所は、親権の全部の取上げに代えて、親権の一部分の属性に対象をしぼって取上げを言い渡すことができる。対象となる部分は、個々の事件で裁判所が特定する。一部取上げは1996年の改正において期待されて導入されたが、あまり使われていない。その理由としては、一つには、一部取上げをすることが想定される典型的場面である現実の監護に関わる部分だけの取 上げに着目すると、実は、実質的にその部分を制限することは育成扶助でも可能であるということが挙げられる。また、そもそも取上げは重大な効果を有し、手続の重さもそれに対応しているにもかかわらず、効果を一部にとどめるということは、裁判所にとって、中途半端で使い難いのではないかとの指摘もある。ただし、一部取上げの活用例として、仮にそのような申立があれば、扶養義務だけを失くすために用いるということも考えられるという。 5) 育成扶助・委譲・取上げの相互関係
 児童が虐待されているときには、性的虐待等の特に深刻な事例を除いては、まずは育成扶助が用いられる。育成扶助は、親権者に親権を維持させたまま、裁判官の継続的関与のもとに、在宅で支援を行うか、子どもを家庭から引き離して施設等に預けつつその家庭復帰を目指すも ので、そのような目的に合致する限度で、最低限の決定権限等が子どもを預かる者らに認められている。
 育成扶助措置がなされているが、家庭復帰の見込みのもとでの親権者との信頼関係が崩れたときには、次のような要件にしたがって、委譲、遺棄宣言、取上げ等が考えられることになる。すなわち、親の明白な無関心が続けば、裁判によって親権が子ども預かる施設、里親等に委譲される理由となり(377条2項)、明白な無関心が1年以上継続すれば、原則として遺棄宣言が可能となる(350条1項)。親が交流、訪問、宿泊等の育成扶助中に保持する権利を2年以上継続的に行使しない又は義務を果たさないときには、親権の取上げの事由になる(378条の1、2項)。このうち、遺棄宣言又は親権の取上げの言い渡しがなされた場合には、対象となった子どもは、父母による同意によらずに、養子となりうることになる(347条参照)。
 委譲と育成扶助を比べれば、育成扶助では未成年者が第三者等に預けられる場合であっても 親が親権を保持し、裁判官が関与して継続的に親権の行使を調整するのに対して、委譲では、親権の行使が親から子どもを預かる者等に移転するという違いがある。委譲と取上げは、親が親権を行使できなくなる効果を有する点では共通であるが、親の側から失われるのが親権の行使にとどまるのか、親権自体なのかという違いがある。また、委譲は一時的な何らかの状況に対応するために親権を移すものの状況が変われば親に親権が戻されることを想定した時限的なものと解されるのに対して、取上げは、権利の回復請求の制度はあるものの、一時的ではないことが特徴とされる。親権が取り上げられるときには、養子による親子関係の切断につながる ことが多いというように、取上げは重大な効果を伴う最後の手段と捉えられている。手続的にも、育成扶助は少年係裁判官の、委譲は家事事件裁判官の単独事件であるのに対して、取上げは大審裁判所の合議事件であるという相違がある³³。

³³ 対象となる子が養子の対象となる点で親権の取上げと同様の効果を有する遺棄宣告を管轄するのも、やはり大審裁判所である。

⑶ 裁判所の関与のあり方
 親権制限を柔軟に行おうというとき、問題となるのは実体法の側面ばかりではない。特に、日本では、家庭裁判所が何をどこまで立ち入って判断すべきかについて問題提起がなされている。そこで、育成扶助の手続はどのようになっているか、育成扶助措置について裁判官は何をどこまで判断するのかという点及び児童保護のための緊急の介入局面においてどのように裁判所の関与が求められるのかに着目して、フランスにおける裁判所の関与のあり方を見ていく。
1) 育成扶助の裁判手続及び判断の内容
 先述のとおり、育成扶助は少年係裁判官の単独事件とされる。裁判官は、育成扶助の対象となる子の親、及び当該子が弁識能力を備えているときには子自身を召喚し聴聞したうえで、命令を発する(新民事訴訟法1182条)。命令中には、対象となる子が375条1項に規定される育成扶助の要件を充たす状況にあることの説明、とられる措置の内容及び期間、通信及び宿泊権その他の事項について決定する場合にはその内容が記載される。
 在宅援助措置がとられる場合には、助言及び支援を実際に遂行する委託先(当該分野のサービスを専門とする個人、民間の機関、県の児童社会扶助機関等)を裁判官が定める。裁判官は委託先となりうる専門家や機関の特性等をよく把握しており、事案に応じて適切な委託先を選択するという。子ども及びその家族に対して、具体的にどのような助言及び支援をどのように行うのかについては、裁判官が詳細を決める場合もあれば、細部を定めずに委託する場合もある。委託先が県の児童社会扶助機関であるときには、同機関は児童社会扶助に専門性を有することから詳細を定めない傾向があることが指摘されるが、地域によっても、裁判官と受託する諸機関との関係性の内容や程度等を反映して運用に差異があるという。要するに、具体的な助言及び支援にどの程度裁判官が立ち入るかについては、制度的には定まっておらず、裁判官の裁量に任されているということである。
 託置の場合には、裁判官が、受け入れ先となる個人、入所施設、医療施設等を特定して直接に指定する場合もあれば、国(管轄するのは司法省の青少年保護局)、県(同じく児童社会扶助機関)、民間の専門機関に委託をし、その機関が具体的な受け入れ先(施設や里親等)を決める場合もある。
 育成扶助では、裁判官が、当初の命令発布だけに単発的に関わるのではなく、措置の間継続的に関与していく。裁判官は、対象となった子ども及び家族の状況について定期的に報告を受け、必要に応じてさらなる決定を行う。例えば、交流及び宿泊の権利の行使について定め又は変更する、子どもを受け入れている者が重大な行為を行うことを許可する、相談支援の担当者を変更する、入所施設を変更する等の決定である。裁判官はいわば自らが下した育成措置の決定の効果がどのようであるかを自ら見届けるのであり、個別の判決を行う限りで事案に関わりをもつのを原則とする通常の裁判官の働き方とは異なっている。このような育成扶助の対象となった子どもに対する裁判官の継続的な関わりについては、民法だけではなく、家族社会事業法上も明らかとされている³⁴。
 以上のように、育成扶助では裁判官が個別事案の具体的な状況を考慮して、実に様々な決定を行うわけだが、それを可能とする背景として少なくとも次の二点が指摘できる。一つは、育成扶助の手続においては、離婚の手続等でも用いられる比較的簡単な調査である「社会調査」に加えて、裁判所内又は外部の専門機関による「育成指導付調査」が可能であることである(新民事訴訟法1183条)。育成指導付調査では、子ども及び両親の生い立ち、心理的精神的側面等を含めた深い調査がなされる。なお、調査の結果は、当事者にも開示される。さらに、少年係裁判官は、子どもの受入れ先となる施設等の情報に精通しており、また、県の児童社会扶助機関と密接な関係を保っているのが通常であるという³⁵。裁判官ごとの個性、相手方の機関又はその地域の県の児童社会扶助機関の傾向等にも左右されるようであるが、裁判官と関係機関との連携関係の裏づけがあるということが、育成扶助制度の鍵となっているといえそうである。
 なお、育成扶助の命令に対しては、不服申立が可能である(375条の1、1項36)。
2) 緊急の場面での育成扶助
 子どもの保護のために急を要する場合については、上記のような原則的な手続とは異なる方法で育成扶助措置をとることが認められている。裁判官又は共和国検事は、特に緊急を要する場合には、聴聞期日を入れずに、暫定的な育成扶助措置をとることができる。裁判官による場合にはその期間は15 日以内とされ(新民事訴訟法1184条2項)、検事による場合には8日以内に少年係裁判官に申し立て、措置の継続、変更等を決定してもらわなければならない(375条の5)。検事は、状況に応じて、この暫定的な措置の間の、両親の交流、訪問又は宿泊の権利の態様及び頻度を定めることができる(375条の5、2項)。
 このほかに、行政が、裁判官又は検事の関与なしに、親権者の同意を得ずに、緊急に児童を保護する方法もある。この場合に、行政は、共和国検事に措置をとったことを通知しなければならず、さらに、行政による保護措置に対して5日以内に親権者他の同意権者の同意が得られないときには、上記の 375条の5の適用のために、司法当局に申立をしなければならない(家族社会事業法 L223 条の2、2項、5項)。

³⁴ 家族社会事業法には、育成扶助措置により個人又は施設に預けられた児童の保護について、「民法375条の3及び375条の5の適用により個人又は施設に未成年者が預けられた場合には、未成年者は、県会議長と少年係裁判官との共同の保護のもとに置かれる」と規定されている(L227条の2)。
³⁵ Salvary 家事事件裁判官との面談調査によれば、両親の離婚等の際に子どもを第三者に預ける判断は家事事件裁判官も行うことができるが、家事事件裁判官は子どもの預け先となりうる施設その他の第三者の情報に通じていないことが多いため、そのような必要があれば、事件を少年係裁判官による育成扶助措置に回すのが通常であるとのことであった。
³⁶ 親、未成年者自身だけでなく、祖父母や伯父等の利害関係人からの不服申立も認められる。

⑷ 親権者がいない未成年者の公的主体による保護
 親権者の死亡又は親権者が親権を取り上げられたことにより、親権者を有しない未成年者について、日本の未成年後見制度のような、私人が親権者の代替機能を果たす方式によることなく、公的主体の責任において、親権者に代わって子どもの利益を確保する方法がありうる。フランス法には、次のような二種類の対応方法が存在する³⁷。
 まず、「国の被後見子」の制度である。国の被後見子とは、裁判所の関与なしに³⁸、行政によってなされる「後見」である。養子の前提をなす措置であり、国の被後見子については、遅滞なく養子の計画が立てられなければならず、養子が妥当でないと判断される場合にはその理由が明らかにされなければならないとされる(家族社会事業法 L225条の1)。知事が後見人とな り、実際には知事は後見を健康社会事業機関の長に委託する。民法に規定される後見と異なり、 後見裁判官及び後見監督は関係しない(同法 L224条の1、1項)。家族会は設けられ、民法上の一般の後見法で家族会に付与されるのと同じ属性を与えられるが(同法 L224条の1、2項)、国の被後見子の家族会は、知事、上記の長の指名する者らで構成される行政的な色彩の強い組織である(同法 L224条の2)。未成年者が国の被後見子となるのは、親権の取上げの判決が言い渡されたとき、遺棄宣言がなされたときの他に、子どもが生まれながらに親を持たない又は子どもの親が知れないとき、親が知られているが養子への同意権を有する親がその子を国の被後見子とするために児童社会扶助機関に預けて2ヶ月が経過したとき等である(同法 L224条の4)。
 国の被後見子と区別されるものとして、国による未成年後見がある(411 条)³⁹。すなわち、後見が引き続き空席である場合には、後見裁判官⁴⁰は、それを児童社会扶助機関を有する公共団体である県に付託する。県は、さらに後見裁判官が定めるところに従って、後見を行う者として、公証人、子どもが入所する教育等の公的施設、もしくは資格を有する個人又は団体を指名する。指名された者は、身上及び財産に関して国の名において後見を行う(1974年11月6日のデクレ2条)。国による後見では、通常の後見のような家族会及び後見監督が構成されることはなく(411条2項及び同デクレ3条)、指名された者は、財産に対しては、司法監督に服する法的管理者の権限をもつ(同デクレ4条)⁴¹。

³⁷ 本文の以下の説明は、Terré et Fenouillet,n 1132 に依拠している。
³⁸ ただし、国の被後見子の措置に対しては、大審裁判所への不服申立が認められる(家族社会事業法 L224条の8)。
³⁹ 国による後見は民法上の後見法中の一般的な制度であって、対象とされるのは未成年者に限られない。
⁴⁰ 1964年に設けられた後見の監督を任務とする専門の裁判官である。
⁴¹ このような二種類の国が関わる後見の相互関係については、国の被後見子となった子に対して一般の未成年後見が開始することはないと考えられるものの(390条)、そもそもどのような場合にどちらの後見が適用されるのかについては、調査が及ばなかった。

⑸ 現行法制の問題点
 行政保護と司法保護とをそれぞれどのように意義づけ、両者の機能分担をどのように考えるのかについては、なお評価が分かれているように見受けられる。2007年の改正では、行政保護を優先し、司法保護が真に必要とされる事例においてのみ用いられるようにする方向が目指された。これに対しては、特に深刻ではない事例が直接に裁判所に持ち込まれるのではなく、一度は合意に基づく行政的な保護が試みられるようになる点で、積極的に評価できるとする見解がある一方で、実体的にも手続的にも当事者の権利保障が確保されている司法判断の意義を重視する立場からは、必ずしも高い評価がなされていない。
 背景には、より一般的に、司法判断の有する意味に対する評価の違いがあるように思われる。現地調査では、まず、弁護士から、親権の神聖性に対する介入としての司法判断の重要性が説かれ、上記改正の示す方向に対する懸念が表明された⁴²。また、法学者からは、育成扶助措置中に行政機関が重大な行為にわたる事項を裁判所の許可を得ずに行ってしまっている「違法状 態」が常態となっていること、育成扶助措置が途中での司法判断を経ることなく長期にわたって継続しがちであることに対して批判がなされた⁴³。これに対して、育成扶助措置の実務を担当する児童社会扶助機関又は具体的な援助を担当するソーシャルワーカーの間では、これらの問題意識は必ずしも共有されていないように思われた⁴⁴。行政保護と司法保護との関係については、財政上の問題の影響も無視できず、今後も制度の改善の模索が続くものと予想される。司法保護の内容に関しては、育成扶助が中心的に用いられている現状に対して、法学者から強い懸念が示された。育成扶助は親権の取上げに比べて効果が強力でないため、裁判官も使いやすいであろうが、家庭復帰が見込めない事例を中途半端に育成扶助措置として継続し、子どもをどっちつかずの状態に留めておくことは妥当ではなく、より積極的に親権の取上げがなされるべきであるというのである⁴⁵。

⁴² 現地調査での Attias 弁護士との面談調査による。
⁴³ 現地調査での Cicile-Delfosse 教授との面談調査による。
⁴⁴ 本文で述べたところは、あくまでも現地調査での Val-de-Marne 県での面談調査から受けた印象ということである。
⁴⁵ 現地調査での Cicile-Delfosse 教授との面談調査による。

3.イギリス

⑴ 制度の概要
 イギリス法における日本の親権に対応する概念は「親責任」である。親責任については、主に1989年児童法に定められている。同法は、児童に関する包括的な立法で、それまで個々に発展してきた様々な法を承継し、親と子の権利義務関係に関わる私法面と児童の保護のための国家の関与に関わる公法的側面とを統合するものである⁴⁶。
1) 親責任の性質と内容
 1989年児童法は、従前に用いられていた「親の権利や義務」という用語に代えて、「親責任 (parental responsibility)」という新しい概念を導入した⁴⁷。同法3条1項は、「この法律で「親責任」とは子の親がその子及びその財産との関係で法に基づいて持つ全ての権利、義務、責任及び権限を意味する」と規定する。この新概念を基礎づける理念の第一は、親が有するのは権利ではなく責任であるという考え方であり、子どもの権利の重視を背景とするといわれる。 さらに、親責任概念は、子どもを育てる第一の責任は親にあるのであって、国家ではないという理念に支えられている。
 親責任はどのような具体的な内容を有するのかについては、児童法では明らかにされておらず、制定法や個々の判例によって導かれるべきものとされている。親責任の具体的内容を定めない理由は、一方で、親責任とは何であり、何であるべきかを述べることを控えることで家族のプライバシーを尊重するためであるといわれるが、他方で、そもそも親の義務の内容は様々な必要性や状況に合わせるべく変化し、子の成熟性に応じて多様でなければならないため、立法的に列挙することは不可能だというのが立法者たる法律委員会の立場であった。もっとも、学説は親責任を基礎にしてどのような法的請求が可能なのかを明らかとするために親責任の内容の具体化を試みている⁴⁸。
 まず、親責任に含まれる権利として、一般的に次のような事項が列挙される。子を物理的に「占有」すること、子どもの養育についてコントロール又は指示をすること、教育をコントロールすること、しつけ⁴⁹、宗教の選択、財産の管理、司法手続きにおいて子を代表すること、 医療措置に同意すること、婚姻又はシビルパートナーシップに同意すること⁵⁰、子と交流すること、名前の選択である。その他に、契約を結ぶ、子の他国への移民を禁ずる、パスポートの発給を認める又は拒否する等の権利を有し、子の遺産を管理する権利と共に葬儀を執り行う義務を有するとされる。
 次に、親責任には、子どもをケアする義務が含まれるとされる。子どもの健康の発展を確保し、その福祉を保護し促進する義務である。親はこの義務を怠って子どもを害せば、後述のケ ア命令を受けることになるほか、不法行為責任も免れない。さらに、子が罪を犯した場合には、原則として、子の裁判手続きに参加する、罰金を払う等の責任を負う⁵¹。

⁴⁶ 後掲の[英国保健省・林 1995]には、1989年児童法の条文訳が掲載されている。ただし、同法はその後に何回か改正されていることに注意を要する。
⁴⁷ この新しい概念の導入は、スコットランドやオーストラリアにも影響を与えたが、スコットランドの1995年児童法は、親責任の内容及び子どもの年齢が上がるにつれて親責任の範囲が縮減することを具体的に定めている等の点で、イングランド・ウェールズの1989年児童法よりも優れているとも評される。
⁴⁸ 後掲 Masson et al.,n17-013-n17-028.
⁴⁹ しつけについては、欧州人権条約を背景として、体罰を禁止又は制限する立法に向けて論議が続いており、2004年の児童法改正では一定の成果が見られたが、親責任にしつけが含まれること自体は否定されていない(詳しくは、後掲 Lowe&Douglas,pp.384-387)。
⁵⁰ 婚姻への同意権は、制定法に根拠を有するが(1989年児童法附則12条、5項で改正を受けた Marriage Act1949 附則2)、裁判所は親が拒否をした場合であってもそれを覆すことができるとされる。
⁵¹ 親責任の具体的な内容として「扶養」が挙げられるのが一般的であるが、扶養の義務は親責任の有無と対応しないと解されているため、本文では親権の内容として掲げることはしていない。

2) 1989年児童法上の親責任に関する規定の概要⁵²
 児童法の関係する部分の構成としては、第2編が主に私人間の権利義務関係に関わり、第3編から第5編までが子どもの保護のために国家が関与する公法的側面に関わる。ただし、第2 編の8条に定められた裁判所命令(以下では「8条命令」という)は、公的機関が児童を保護しようとする場合にも発動されうるものであり⁵³、私人間の関係に限られないより一般的な性格を有する。以下では、編別の順にその内容を概観する。
 第1編には子どもの養育や財産に関して裁判所が判断を行う場合の諸原則が定められている。子の福祉が最重要の指導原理として考慮されるべきこと(1条1項)、手続の遅れは子の福祉を害するということ、裁判所の命令はそれをするのが子にとって望ましいときにのみされるべきこと(1条5項)という原則である。さらに、1条3項には8条命令や公的機関による児童保護のための命令を審理する際に考慮すべき要素が具体的に記されており(子どもの福祉リストと称される)、その第一として、子どもの年齢及び理解力に応じて、子どもの希望及び感情を考慮することが挙げられている。
 第2編の中心をなす8条は、裁判所が家族に関わる様々な紛争の処理のなかで、子どもに関する居所、交流その他の事柄について命令できる権限を規定している。私人間での紛争の場合と共に、公的機関が子どものケアに関与するときにも機能しうる重要な命令類型である。8条命令は次の4種からなる。交流命令は、子どもとの接触交流を図ること及びその仕方を命令するものである。禁止命令は、親が親責任を果たすために遂行する事柄のうち特定の種類の事項について、裁判所の同意なくしては誰も行うことができないとする命令で、裁判所が親責任の行使の一部を実質的に制限するものである。居所命令は、子どもが誰と住むかを定めるものである。特定事項命令は、親責任の種々の側面に関して、実際に起きている又は起きそうな特定の問題を解決するために具体的な指示を与える命令であり、例えば、教育の態様、医療措置、海外への連れ出し、姓の変更等が命令の対象となる。
 第3編から第5編までは、子どもの保護のために公的措置がとられる場合に関わる。第3編は、親責任を有する者からの同意を得て児童保護措置がとられる場合を扱っている⁵⁴。これに対して、第4編と第5編は同意によらずに、強制的に措置がとられる場合を定めているため、特に、親責任との関係が問題となる。第4編は裁判所の命令によって、地方当局が子どもを保護する手続を定める。重要なのは31条であり、同条には、児童を地方当局が受け入れて里親委託、施設入所等の方法で保護するケア命令と、地方当局が児童を指導、監督するスーパービジョン命令とが規定されている(両者を合わせて「31条命令」といわれる)。ケア命令により児童が地方当局に受け入れられる場合には、命令で定められた地方当局が親責任を取得する。親が有する親責任と併存することになるため、関係を調整する条文が用意されている(後述)。31条命令は暫定的に命じることも可能である(38条)。第5編には、より緊急性が高い場合にとられる手段として、子どもを緊急に一時的に保護するための緊急保護命令(44条)、ポリース・プロテクション(46条)等が定められている。
3) 諸制度の利用状況
 上記のような様々な命令が、児童保護のための国家介入がなされる場面において、どの程度利用されているかを示したのが下の表である。緊急保護命令を除けば、31条命令が主たる位置を占め、なかでも、ケア命令が最も中心的な手段とされている。8条命令のうち、居所命令も割合が高い。なお、先にも触れたとおり、31条命令の申立を受けた裁判所は、31条命令に代えて8条命令を発布することもできる⁵⁵。

(Judicial Statistics 2005 から抜粋)

注)上記の表中の「命令なし」とは、根拠事実は裏づけられたが、命令を下さない方が子どもの福祉に適うと判断される場合(1条5項)の対応をいう。

⁵² 以下では、1989年児童法からの条文の引用は、原則として条数のみによる。
⁵³ 1989年児童法31条は、公的機関からケア命令やスーパービジョン命令の申立を受けた裁判所はそれらに代わって8条命令を下すこともできると規定する。
⁵⁴ 第3編のうち、行政が親権者の同意を得て児童を里親委託、施設入所等の方法で保護する根拠となる条文が20条である。
⁵⁵ 表中で、8条命令の認容件数がその申立件数よりも多い場合があるのは本文に掲げた理由によると考えられる。しかし、そもそも公法事件で8条命令が申し立てられるのはどのような場合なのかについては、調査が及ばなかった。
⁵⁶ 地方当局からの申立を中心とする事件が公法事件に分類される。

⑵ 親責任の制限又は調整
 次に、児童虐待が行われる等を理由として親責任の行使が制限され又はその行使が何らかの調整に服する場合に着目して、より詳細にイギリス法の状況を見ていく。個々の命令等がなされる場合に親の責任がどうなるのかが問題となるが、それらを扱う前に、親責任を誰が有し、一般的にその行使についてどのようなルールが定められているかを扱っておきたい。親責任を有する者は、一般的に、その対象となる児童に対して下された命令と両立しない態様で行動する権利を有しないことが条文上明示されている。そのうえで、各命令について、誰が親責任を 有するか、複数の者が親責任を有するときにその相互関係はどうなるかについて個別に定められている。
1) 親責任の行使に関する総則的規定
 まず、父母又はそれ以外の私人が親責任を持つのは次のような場合である。子の出生時に婚姻している父母は、それぞれ親責任を持つ(2条1項)。父母が婚姻していないときには、母は当然に親責任を有するが、父は、裁判所の命令、母との文書による合意又は母と共に出生登録を行うことによって、親責任を取得することができる(2条2項、4条1項)。親責任を持つことができる私人は、子の父母に限られない。子の親の片方と再婚をした相手方(いわゆる継親)は、当該子の両方の親から同意を得て親責任を取得することができ、同意が得られないときには裁判所の命令を求めることができる(4A条57)。また、一般的に、親でない私人は居所命令を得れば、命令の継続する間、親責任を有する。居所命令による親責任の取得は、ケア命令と共通する場面で問題となりうるものであるため、次項以降で改めて扱う。なお、父母以外の者が親責任を取得しても、父母が親責任を失うわけではない。親責任を有する者は、後に他の者が親責任を有することとなっても、それだけで親責任を失うことはないとされているからである(2条6項)。
 親責任の行使方法は次のように定められている。まず、一人の子どもについて複数の者が親責任を有するときには、共同での行使は要求されず、それぞれが単独で親責任を果たすために行動できるのが原則である。ただし、制定法によって、一定の行為類型について他の親責任を有する者の同意を得て行為をなすべきことが規定されることがある(2条7項)。このように、 親責任を有する者(以下では「親責任者」ということもある)は誰でも単独でそれを行使できるのが条文に定められた原則であるが、この原則は判例による修正を受けている。判例は、学校の選択、姓の変更、割礼、予防接種といった長期的な影響をもたらす重要な決定を行うには、他の親責任者に相談する必要があるとする。例えば、子どもと同居している親責任者が、他の親責任者の意向を確かめることなく、単独で当該子どもの学校を決めることは許されない。
 親責任者の行動は、1989年児童法に基づく裁判所の命令によって制約を受けることも、明示的に定められている。親責任者は、「当該児童に対してなされた命令と両立しない仕方で行動する権利はない」(2条8項)。例えば、親の一方が居所命令を得てその子と同居している場合には、他方の親は、子どもを、居所命令を得ている親の住居から通っている学校で認められないような髪型にさせることはできないが、週末にスポーツに連れ出すことは(命令と両立するので)行ってよいといった具合である。
 フランスと同じように、日本にない規定として、子どもを現に預かっている者が一定範囲の行為を行うことができる旨の条文がある。親責任を有しないが子どもを現に世話している者には、子どもの福祉を保護し促進するために、状況に応じて相当の行為を行うことが許される(3条5項)。児童の日々の世話に必要な最低限の権限を与えたものである。児童虐待との関係では、親権者からの同意を得て地方当局が児童を保護し、里親に委託した場合に、里親の権限の根拠となる規定として重要である⁵⁸。相当の行為であるか否かは、求められている行為の緊急性及び重大性、ならびに親責任者に相談することがどの程度実際的かに応じて個々に判断される。例えば、事故で負傷したときの医療処置への同意は日々の世話に直接関わる事項なので「相当の行為」に含まれるが、選択の余地のある大きな手術への同意は含まれない。居所を変更して子どもをイングランド及びウェールズ外の地域へ連れ出すこと、パスポートの取得、姓の変更等も行うことは許されない。

⁵⁷ 2002年の養子及び児童法によって挿入された規定である。片親と継親とが婚姻していないときには、継親が当該親と共に居所命令を申し立てることによって、親責任を得ることができる。
⁵⁸ 例えば、同意に基づく行政的保護によって里親に預けられている児童を酒に酔った親が深夜に引き取ろうとしても里親がそれを拒めるのは、現に世話をする者の権限に関する本文に挙げた条文による。

2) ケア命令
 ケア命令は、同意を基礎とする行政的な保護措置では限界があるときに、地方当局が裁判所に申立てをし、強制的に保護措置を行うものである。命令がなされると、対象となった児童は申し立てをした地方当局の責任のもとに置かれ、多くは家庭から分離されて里親に委託される又は施設に入所することになる⁵⁹。
 ケア命令は、国家による家庭への強制介入であると位置づけられ、その要件は厳格かつ詳細に定められている。「児童が重大な危害を現に被っているか、又は被りそうであ」ることが要件とされるが、その状態が、命令がなされなければ与えられるものと想定されるケアが、当該児童に対して親が与えるよう合理的に期待されるようなケアには当たらないこと、又は当該児童がその親のコントロールを超えていることに起因するものであることが求められる(31条2項)。この要件に含まれている個々の語の解釈もまた条文に定められている。「危害」とは、不当な扱い、もしくは健康又は発達の侵害を、「発達」とは、身体的、知的、情緒的、社会的又は行動的発達を、「健康」とは、身体的又は精神的健康を意味し、「不当な扱い」とは、性的虐待及び身体的でない種類の不当な扱いを含むとされる(31条9項)。危害が「重大」であるか否かが子の健康又は発達によって判断されるときには、その健康又は発達は、同様の子に対して合理的に期待されるようなものと比較されるものとされる(31条10項)。
 ケア命令の要件は、親の側の意図又は行為ではなく子の側の状態が基準とされており、また、合理的に期待される客観的な水準を問うことによって、親によって与えられるケアや子どもの健康、発達の程度について、道徳的又は恣意的な判断がなされないように定められている。
 ケア命令がなされると、対象児童を受け入れた地方当局に親責任が付与され、地方当局と親とが共に親責任者となる(33条3項a号)。親の有する親責任は維持されるため(前掲2条6項)、子どもが地方当局のケアのもとにあっても、親はなお子どもの福祉を保護促進するためにその状況において合理的なことをなす権限を保持し(33条5項)、その財産に対する制定法下のその他の親の権利、義務、権限、責任を維持する(33 条9項)。例えば、教育や医療措置について決定することが考えられる。他方で、ケア命令の間は、地方当局は、子の福祉を保護し促進するために必要な限りで、親が親責任を行使する範囲を決定できるが(33条3項)、宗教の変更、養子への同意、姓の変更、国外への連れ出し、後見人の選任をする権限はないとされる(33条6項、7項)。これらの規定からは、具体的に、どのように地方当局と親の親責任の行使が調整されるのかは理解しがたい。しかし、地方当局が親責任の行使についてコントロールできるということであり、明文上の例外事項を除けば、地方当局が親責任者としての権限を全面的に単独で行使することも可能であると考えられる。逆に、それだけの重大な介入であることを前提として「重大な危害」という厳格な要件が設定されているのである。面会については、別に、その重要性を反映した定めが置かれている。地方当局は、ケアに付された児童とその親との面会を許すのが原則であり、拒む場合には裁判所へ申立をする必要がある。緊急の場合で子の福祉のために必要なときには裁判所の許可を得ずに面会の拒否ができるが、それが許される期間は 7 日以内に限られる(34条)。
 ケア命令は原則として対象児童が18歳に至るまで継続する(91条12項)。ただし、何者かが居所命令を得た場合、養子又は養子のための託置命令がなされたときには、終了する(91条1項及び2002年養子及び児童法39条1項、46条2項b号)。

⁵⁹ ケア命令によって地方当局に受け入れられた児童の措置としては里親委託が中心を占める。

3) スーパービジョン命令
 ケア命令と同様に地方当局の申立に応じてなされる裁判所命令であり、監督者(地方当局又は保護観察官)が、児童に対して、助言及び援助を行なうことを内容とするものである(35条1項a号)。要件は、ケア命令と同じである。
 スーパービジョン命令がなされても、地方当局及び監督者に親責任が与えられることはない。しかし、親責任者は1989年児童法に基づく命令と両立しない仕方で行動する権利はないため(前掲2条8項)、監督者が行う助言及び指導を妨げることはできない。監督者は、助言及び指導として、児童に対して住む場所の指定や活動への参加を指示できる(附則3、2項)。親責任者は、監督者に求められたときには子の住所を監督者に知らせなければならず、監督者による 児童の訪問を許さなければならない(附則3条8項2号)。これに反して親責任者が監督者の訪問を拒むときには、監督者は住居に立ち入って児童を探すための令状を申し立て、警察の援助を受けることができる(102条6項b号)。
 スーパービジョン命令には、監督者が、対象児童の親責任者に対して、児童に対する指導への協力や親責任者自身の一定の活動への参加を要求できる旨を定めることができるが、これらの要求を命令に含めるためには、対象となる親責任者の同意が必要とされる(附則3条、3項)。
 スーパービジョン命令は短期間であることが予定されており、原則として1年間又はそれより短い期間で発令され、延長される場合であっても、最長で当初の命令の開始時点から3年間に限られる(附則3条6項)。
4) 緊急介入の場合
① 緊急保護命令(44~45条)
 緊急に申立人が用意した収容場所へ児童を移動すること又は児童の現所在場所(例えば病院等)からの引き離しを防止することを目的としてとられる、短期間の措置である。これらの対応をしなければ、子どもが重大な危害を受けることが見込まれると信じるべき相当の理由があることが要件とされる。申立により裁判所が命令する。申立人は、ほとんどの場合、地方当局である。命令によって申立人に親責任が与えられるが、その親責任は命令の目的と期間に応じた限定的な範囲でのみ行使されるべきものとされる。
 期間は、命令で定められる最長8日の期間で、最長7日間の延長が1回だけ認められる。
 親責任者等は、これに対して取り消しの申立ができるが、命令発布から72時間経過以降であることを要し、また、命令発布の手続において弁論期日の通知を受けた又は弁論期日に出席した者はこの申立権を有しない。
② ポリース・プロテクション(46条)
 裁判所の関与なく警察官がとる緊急の児童の保護手段であり、期間は72 時間である⁶⁰。目的 (安全な場所への移動又は安全な場所からの引き離しの防止)及び要件は緊急保護命令と同じである。ポリース・プロテクションが用いられるのは、一般的に、家出、シンナー遊び、棄児の場合等である。時には、家庭紛争に立ち会った官吏が不衛生な環境にいる児童を見つけて行うこともある。捜索する権限は伴っておらず、児童を現認したときに保護できるにとどまる。
 この手段をとった警察官は、親責任を与えられることはないが、特にこの方法で子どもが保護される期間の長さに鑑みて、子どもの福祉を保護し促進するために、状況に応じた相当な行為を行うことができる(46条9項b号)。児童を連れ去る親の権限は一時的に停止される。短期間の時限的措置なので、子どもの連れ去りを防ぐこと以上に、親の権限と矛盾するような行 為が行われることは想定されていないとのことである。ポリース・プロテクションがなされたときには、親に通知がされるのはもちろんであるが、同時に、地方当局にも通知がなされ、当該地方当局が必要に応じてケア命令の申立等を行うことになる。

⁶⁰ 1989年児童法の前には8日間まで認められていたのが短縮されたものである。

5) 8条命令
 離婚後の両親間の争いなど親責任の行使に関わる私人間の紛争を解決するために裁判所が判断をする基本となる命令であるが、地方当局からの申立を主とする公法事件でも用いられる。ケア命令との関係で重要なのは、地方当局からのケア命令の申立に対して、裁判所が、対象児童を地方当局のケアに付するのではなく、親族等の第三者を指定して居所命令を発する場合である。その場合には、児童は当該第三者と同居することになり、その者に親責任が与えられる(12条2項)。ただし、養子への同意権、後見人の指名権はない(12条3項)。また、居所命令が効力を有する間は、誰であっても、親責任者全ての同意又は裁判所の許可なくして、子どもの姓を変えること及び子どもを連合王国の外に連れ出すことはできない(13条1項)。親と居所命令を得て子どもと同居する者のどちらも、他方の同意を得ずにこれらの行為を行うことができないということになる。
6) 命令相互の関係について
 以上に説明してきた命令等の相互関係については、各命令等の説明のなかでも少し触れたが、ここにまとめておきたい。なお、31条命令の暫定的命令についても合わせてここで説明する。緊急保護命令は、児童の安全な場所への移動又は安全な場所からの引き離しを目的とする、あくまでも短期間の措置であり、必要があればその間にケア命令の申立がなされることが予定されている。児童の家庭からの引き離し等は、裁判所の関与による緊急保護命令によってなされるべきであり、緊急保護命令の取得が現実的でない場合を除いてポリース・プロテクションは用いられるべきではないとされる(判例)。したがって、緊急保護命令が既に出されているときには、警察官は、差し迫った必要がなければ、ポリース・プロテクションの権限を行使してはならない⁶¹。 31条命令と8条命令とは適用場面が競合する。裁判所は、31条命令の申立手続において、適当と認めるときには、職権により、8条命令を行うことができる。31条命令自体に代えて8条命令を行うことが考えられるが、他にも、31条命令の審理手続中の暫定的な処置として、次回期日までの期間について、居所命令を出して対象児童を親戚のもとに預け、同時に親との面会等を交流命令、禁止命令又は暫定的スーパービジョン命令でコントロールする等の用いられ方もありうる(38条3項参照)。31条命令は暫定的な命令として行うこともできる。ケア命令又はスーパービジョン命令が申し立てられたが審理が延期されている場合、又は、31条命令の審理手続において命令の必要性を判断するために児童の状況等の調査の指示(37条1項)がなされるときに利用される(38条1項)。31条命令のための要件(31条2項)を充たす状況にあると考える「合理的根拠」がある場合に限って行うことができる。期間は、最長で8週間である。暫定的な命令が継続している間に、同意に基づく援助サービスが奏効し、児童の家庭復帰が実現し、本命令には進まずに済むことも多いという。

⁶¹ もっとも、近時の実証的研究(Masson, JM. 'Emergency Intervention to Protect Children: Using and Avoiding Legal Controls', Child & Family Law Quarterly, (pp. 75-96), 2005)では、ロンドンのある地域での緊急保護命令の申立とポリース・プロテクションの件数がそれぞれ 3,333 件、4,500 件(2002年の実績)であったことが紹介され、緊急保護場面での裁判所の関与を実効化するには、なお課題があるとされている。

⑶ 裁判所の関与のあり方
 以下では、裁判所の関与の程度が問題とされ、又はその関与の仕方に特徴がある三つ側面に着目して、裁判所が児童の保護にどこまでどのように関与するのかを紹介する。
1) 緊急保護の手続
 上記のとおり、児童を緊急に保護する場合であっても裁判所の関与によることが重視されており、緊急保護命令の利用が原則だとされている。緊急保護命令の手続は、次のように相対的に簡易なものとされている。管轄するのは治安判事裁判所であり、単独裁判官での審理も可能である。場合によっては、裁判所書記官の判断により、相手方たる対象児童の親等に対して通知をせずに審理及び決定を行うこともできる。ただし、先述のとおり、通知を受けず、弁論期日に出席しなかった場合には、親等は命令発布から72時間経過以降は緊急保護命令に対して取消しの申立ができる。緊急保護の要件を充たすことの証明は、厳密な証拠則には支配されないものの、申立人は、要件を充たすことを示す具体的な根拠を提出しなければならない。多くの場合には、申立人たる地方当局において当該家族を担当し家族に直接的に接しているソーシャルワーカーからの報告が用いられる。裁判所は、具体的な理由を付して決定を行わなければならない(判例)。
2) ケア命令における裁判所と地方当局との関係
 まず、31条命令は家庭に対する強制的な国家介入の場面であるため、裁判所の関与を要することは当然の前提とされ、先述の「重大な危害」の要件の存否が裁判所によって判断される ことになる⁶²。ケア命令の審理手続には、民事の証拠則が適用され、申立者が証明の責任を負う。
 ケア命令の審理手続においては、対象児童に与えられるべきケアの内容も考慮されるが、裁判所は、交流権に関わる問題を除いて、ケアの具体的な態様について定める権限を持たない。ケアの内容は、地方当局がケアプランと称する文書を裁判所に提出することによって示し、裁判所は、当該プランを審査したうえで、命令をするか棄却するかのどちらかを判断する。裁判所がケアプランの内容を訂正することはできない。ただし、裁判所は、ケア命令の代わりに居所命令を下し、例えば母子共に一定の施設に入る等の一定の条件を付すことによって、ケアプランと異なる態様での児童の保護を図ることは可能である。このように、裁判所がケアに付される児童の具体的なケアの態様について判断を行わないことは、非常に重視されている原則である。その背後には、児童の具体的な日々のケアに専門性を持つのは裁判所ではなくむしろ地方当局であるという考え方がある。さらに、ケア命令が下された後に、裁判所がケアプランの履行について監督を行うことも認められていない。
3) 高等法院の固有裁判権
 高等法院は、国親思想に基づく権限として、広く子どもに利害関係を持つ者からの申立により、又は職権によって、子どもの利益のために、子どもに関わる事項を決定することができる。歴史的に形成されてきた権限であるが、1989年児童法では一定の整理を施されて100条に規定された。
 この権限を根拠として、伝統的に、高等法院は子どもに対する医療措置への親による同意不同意を覆えす決定をすることができると解されている。これまでに判断の対象となった事項としては、MMRワクチン接種、血液輸血、不妊処置、生命に関わる疼痛緩和処置等があり、申立の経緯としては、地方当局の教育心理士が不妊措置を回避するために申し立てる例、児童自身が申し立てる例等がある。判断基準は、特定の医療行為に対する親の同意又は不同意が理由のあるものであるかどうかではなく、子どもの最善の利益は何かである。もっとも、限界例ではその適用には困難があることが指摘されている⁶³。

⁶² 重大な危害の要件を充たす場合にのみ、かつ裁判所の命令によって、国家介入が許されることは、不介入の哲学によって支えられる1989年児童法を貫く根本原則だとされている(後掲 Lowe & Douglas,p.697)。
⁶³ 例えば、余命2年強と予想された生後 18ヶ月の子に、結果の見込みが良好である肝臓移植の大手術をするか否かについて、その親が、当該子が既に大きな手術を一度しており、さらに手術をするよりは、短くとも苦痛の少ない人生を送らせることを望んで拒否したのを尊重した裁判例があり、評価が分かれているという。

⑷ 親責任者がいない未成年者の公的主体による保護
 まず、確認しなければならないのは、イギリスにおいては、親責任を喪失させる制度が存在しないため、親責任者が死亡した場合を除いて、親責任者又はその行使者がいないという状況は生じないということである。それでは、フランスや日本において、親権の取上げ又は喪失の後に親権者を欠くために後見が開始される場合に対応するような事態は、イギリス法においてどのように扱われているのだろうか。既に述べたとおり、ケア命令がなされるときには、親責任者は親責任を保持しつつもその大部分を実質的には行使できなくなるが、その場合には、親責任の行使の補完はケア命令を申し立てた地方当局が行うことが制度的に予定されている。もはや親責任者に親責任を保持させることが不当であると地方当局が判断するに至ったときにどうなるのかは問題であるが、その段階に至れば、子どもを養子にすること、すなわち、子どもに新たな親責任者を与えることが想定されているものと考えられる。したがって、生存している父母が実質的には親責任を行使せず、代わって公的主体が親責任に含まれる権利義務及び責任のほとんどを行うという態様は、イギリスではケア命令の形で実現されているということができる。
 父母が死亡したために親責任者がいない状況になったときには未成年後見が開始されるが、未成年後見においては、地方当局等の公的主体が未成年後見人に就任することは認められていない。父母のいない児童に対して地方当局が正当な権限を得ることに対する実務的な要請は高く、立法が待たれている⁶⁴。

⁶⁴ 後掲 Lowe & Douglas,p.443。

⑸ 現行法制の問題点
 現地での面談調査によれば、現行の法制については概ね問題がないものと捉えられているのではないかということであった⁶⁵。ただし、改善の余地がないということではなく、1989年児童法は最近にも次のような改正を受けている。2004年に新設された「独立監督官(Independent Reviewing Officers)」の制度であり、裁判所からも行政からも独立した第三者機関である独立監督官が、地方当局が同意に基づいて及びケア命令によって受け入れている児童に対してケアプランを着実に遂行しているかどうか、児童の権利が守られているか等を監督することを内容とする(2002年養子及び児童法118条によって改正された1989年児童法26条)。制度開始からあまり時間を経ていないため、その評価は定まっていないとのことであるが、この改正からは、ケアプランの内容の適否及びその遂行過程に裁判所が関与しないことが大原則とされている枠組みにおいて、行政によるケアプランの適切な履行をどのように確保するかがなお課題とされていることが伺える。この課題が重要であるのは、履行が確保されなければ子どもの利益又は権利が損なわれるおそれがあるからであることは当然であるが、他方で、子どもの利益又は権利を確保するために定められたケアプランが守られないのであれば、そもそもそれを前提になされる国家介入の正当性が問われかねないということもある⁶⁶。

⁶⁵ 現地調査での Lowe教授及び Douglas教授との面談調査による。独立監督官を導入した最近の改正についても、同じ面談調査から示唆を得たところである。
⁶⁶ 後掲 Masson et al.,n.21-039. 

4 まとめに代えて

 イギリスとフランスの児童保護法制は、枠組みが大きく異なっており、そして、本報告書では必ずしも十分に明らかにできなかったが、その基礎となる理念には相当な違いが存するものと想定される。しかし、同時に、それにもかかわらず、どちらの国においても、現実に児童の世話をする者は日常的行為の範囲内に限っては独自に遂行することが可能であるとされること、国家介入の要件が子どもの状態を基準に定められていること、裁判所の関与のあり方と行政機関との関係について自覚的に調整が図られていること、親子関係自体が否定されるような最終段階に至るまで失われない親権のいわば中核的部分が意識的に選別されて制度化されていることなどの共通点が認められることが興味深い。比較法的知見を参照しつつも、日本においてあるべき理念について議論を尽くし、具体的かつ現実的な立法案に結びつけることが肝要である。


【現地調査の概要】

 本報告書は、後掲の参考文献を参照したほか、児童虐待防止のための親権制度研究会から派遣された現地調査(2009年9月11日~22日、於・フランス及びイギリス)に基づいて執筆されている。現地調査において、面談調査に応じていただいた方々は次のとおりである*。

○フランス
 Michèle Creoff (Directeur générale ajointe,Pôle enfance et famille,Direction général des services départementaux,Conseil Général du Val-de-Marne)
 Pauline de Saint Hilaire(Adjointe de la responsable du pôle juridique et judiciaire, La Défenseur des Enfants)
 Laurence Hudry(Chargée de mission au Service Réclamations, La Défenseur des Enfants)
 Laurent Leveneur (Professeur de droit privé,Université Panthéon-Assas,Paris)
 Marie-Laure Cicile-Delfosse (Professeur de droit privé,Faculté de droit de Rennes)
 Dominique Attias (Avocat à la Cour)
 Gaby Taub (Correspondante territoriale,La Défenseur des Enfants)
 Dominique Salvary (Juge aux Affaires Familiales, Tribunal de grande instance de Paris)
 Hervé Hamon, (Président du tribunal pour enfants, Tribunal de grande instance de Paris)
 (順番は、面談の日程順による)
○イギリス
 Nigel Lowe (Professor of Law, Cardiff Law School, University of Wales)
 Gillian Douglas (Professor of Law, Cardiff Law School, University of Wales)
※Isabelle Konuma さん (Maître de conférences, Institut National des Langues et Civilisations Orientales) には、フランスでの面談調査の際の通訳及び質問項目の翻訳の労をおとりいただきました。また、Vincent Hubault 氏(Chef de bureau des Méthodes et de l’Action Éducative, Direction de la Protection Judiciaire de la Jeunesse,Ministère de la Justice)及び南方暁教授(新潟大学実務法学研究科)には、フランス及びイギリスでの面談の設定をご仲介いただきました。ここに記して、感謝いたします。

【参考文献】

○フランス
 François Terré et Dominique Fenouillet, Droit civil:les personnes,la famille, les incapacités,7e éd.,2005,Dalloz.
 Philippe Malaurie et Hugues Fulchiron, Droit civil:La Famille,3e éd.,2008,Defrénois.
 Pierre Verdier et Fabienne Noé, Guide de l’Aide Sociale à l’Enfance, 6e éd.,2008,Dunod. 32
 Michel Huyette et Philippe Desloges, Guide de la Protection Judiciaire de l’Enfant,4e éd.,2009,Dunod.
 J.-M Lhuillier.,Aide Sociale a l'Enfance;Guide Pratique.,9e éd.,2009,Berger-Levrault.
 Pierre Verdier et Michel Eymenier,La Réforme de la Protection de l’Enfance,2009, Berger-Levrault.
 山脇貞司「フランスの育成扶助(assistance éducative)制度」ケース研究 203 号 2 頁(1985)
 田中通裕『親権法の歴史と課題』(信山社、1993)
 山本和彦『フランスの司法』200207 頁(有斐閣、1995)
 加藤佳子「フランスの児童虐待への対応法と実態」吉田恒雄編『児童虐待防止法制度』96 頁(2003)
 菊池緑「フランスの里親制度(Ⅲ)」『里親制度の国際比較』72 頁(2004)
 松井一郎・才村純『ドイツ・フランスの児童虐待防止制度の視察報告書フランス共和国編』(子 どもの虹情報研修センター、2004)
 岩瀬徹ほか『児童虐待への法的介入』平成 17 年度~平成 18 年度科学研究費補助金(基盤(B))
 研究成果報告書(「第3章 フランスにおける児童虐待への法的対応」〔町野・水留〕)(2007)
 田中通裕「フランスの親権法」民商 136 巻 4・5 号 465 頁(2007)
 澤野和博「フランス医療における同意と未成年者の保護」『子どもの医療と法』239 頁(尚学社、 2008)
○イギリス
 Andrew Bainham,Children-The Modern Law,3rd ed.,2005,Family Law.
 Nigel Lowe and Gillian Douglas, Bromley’s Family Law,3rd ed.,2007,Oxford University Press.
 J.M.Masson,R.Bailey-Harris and R.J.Probert, Cretney Principles of Family Law,8rd ed.,2008,Sweet & Maxwell.
 Richard White,AP Carr,Nigel Lowe and Alistair MacDonald,The Children Act in Practice, 2008, LexisNexis.
 Jane Fortin,Children’s Rights and the Developing Law,3rd ed.,2009,Cambridge University Press.
 Barbara Mitchels and Helen James,Child Care and Protection-Law and Practice,4rd ed.,2009,Wildy,Simmonds & Hill Publishing.
 英国保健省編、林茂男他監訳『英国の児童ケア:その新しい展開』(中央法規出版、1995)
 峯本耕治『子どもを虐待から守る制度と介入手法』(明石書店、2001)
 許末恵「イギリスの里親制度(Ⅱ)」『里親制度の国際比較』30 頁(ミネルヴァ書房、2004)
 川田昇『親権と子の利益』(信山社、2005)
 許末恵「英国における親責任をめぐる法規制について」民商 136 巻 4・5 号 99 頁(2007)※
 大久保香織他「英国における児童虐待防止制度の実情について」家月 61 巻 8 号 49 頁(2009)
 その他に、※を記した論文に引用された参考文献
2009年1月
(東北大学大学院法学研究科・准教授 久保野 恵美子)

(了)

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