見出し画像

別離後の養育の取決め(オーストラリア)

オーストラリアでは別離後の父母はどのような養育の取決めをしているのでしょうか?オーストラリア政府機関が2019年10月に発行した冊子「Parenting arrangements after separation」を翻訳して紹介します。

オーストラリア家族問題研究所(AIFS)
2019年10月

©オーストラリア連邦2019
AIFSのブランドマーク、オーストラリア連邦の紋章、第三者が提供するコンテンツ、および商標で保護されている素材を除き、本書に掲載されている全てのテキスト素材は、クリエイティブ・コモンズ 表示 4.0 インターナショナル・ライセンス(CC BY 4.0)に基づいて提供されています。営利、非営利を問わず、本作品をコピー、配布、引用することができます。但し、著作物の著作権者がオーストラリア連邦であることを明記する必要があります。第三者が著作権を有するコンテンツは、元の著作権者のライセンス契約に従うものとします。

オーストラリア家族問題研究所は、家族の機能と福祉に関する研究に基づいた情報の作成と普及に努めています。出版物に記載されている見解は個々の著者のものであり、オーストラリア家族問題研究所やオーストラリア政府の見解を反映したものではありません。

主要なメッセージ

●別離した親の約3%は、養育の取決めをする主な手段として、裁判所を利用しています(約6000人の別離した親の別離後約18カ月後のサンプルに基づいています)。この対象は主に家庭内暴力、子どもの安全上の懸念、その他の複雑な問題の影響を受けている家族です。
●殆ど(97%)の別離した親は、養育の取決めを決定するために裁判所に行くことはありませんが、16%は家族紛争解決サービスまたは弁護士を利用しています。
●裁判所ファイルに基づく調査によると、裁判所を利用した取決めと利用しなかった取決めの両方で、子どもは大半の時間を母親と一緒に過ごし、父親とは定期的に会うケースが一般的でした。
●ごく一部の裁判官の裁判所命令によって決定されたケースでは、その45%が母親による単独親責任、11%が父親による単独親責任でした。
●一方の親との交流を認めない命令は稀で、全裁判所命令の3%が対象となります。

裁判所の命令と一般的な別離親の母集団とでは、2つの重要な点で取り決めが異なります。
●裁判所命令の取決めは、子どもと父親が交流しないというケースは少なく、一般的な別離親の母集団が9%であるのに対し、裁判所命令では僅か3%でした。
●子どもが殆どの時間を父親と過ごすような取り決めは、訴訟が発生した際に出された命令では、一般的な別離親の母集団(2%)よりも多く見られます(10~19%)。

概要

 AIFSは過去10年以上にわたり、別離した親の全国代表サンプルを対象とした調査を含む、別居後の養育の成果に関する複数の大規模な研究を行ってきました。
 具体的には、2つのマルチメソッド研究(Kaspiew et al.2009, 2015b)で以下の法改正を評価しました。
・1975年家族法の2006年改正前後の状況
・1975年家族法の2012年改正前後の状況

 2012年改正の評価には、改正後に開始され、2014年11月30日までに確定した案件の997件の裁判ファイルを対象とした裁判の成果の分析(Kaspiew et al.2015c)が含まれています1。また、この評価には「別離した親の調査」(Kaspiew et al., 2015a)も含まれており、平均すると別離してから18カ月経過した約6,000人の別離した親をサンプルにした調査データを分析しました。
これらの分析結果は以下の通りです。

別居後の最も一般的な子育ての取り決めは何ですか?

AIFSの調査によると、別離後の子どもの養育方法にはかなりのばらつきがあることがわかっています(図1参照)。子どもの年齢や両親の仕事の形態などが、意思決定に大きな影響を与えます。

図1 別離後における子どものケア時間の取決め(2014)

画像1

備考:離別した親の調査2014年。データは重み付けされています。観測数はn=5,305。対象となる子どもの親が両方とも調査に参加している場合(n=523)、その中から一方の親のデータを無作為に抽出しました。四捨五入の関係で、比率の合計が100%にならない場合があります。
出典:カスピューら、2015a
クレジット:オーストラリア家族学研究所2019(aifs.gov.au/copyright)

 離別した親の調査2014年(Kaspiew et al, 2015a)によると、別離後約18カ月に最も一般的な取決めは、子どもが殆どの夜(1年間で少なくとも66%の夜)を母親と一緒に過ごす暮らしをしていることが分かりました。

 次に多い取決め(全ケースの18%)は、子どもが夜は全て母親と一緒に過ごし、日中にだけ父親と会うパターンです。これまでの調査では、特に2歳未満の子どもにこのパターンが多いことが分かっています(Kaspiew et al.,2009)。

21%のケースで、ケア時間は両親間で実質的に共有していました(つまり、子どもは1年間に35%から65%の夜を母親/父親と過ごしています)。共有時間の取決めの殆どが、父親より母親との時間が多くなっていました。均等な共有時間を取り決めたケースは10%未満でした。

子どもが父親と接触しないのはかなり珍しいケースです(全ケースの9%)。

法律に定められていること
 1975年家族法に基づき、裁判所は養育の2つの広範な側面について命令することができます:1つは親責任であり、もう1つはケア時間です(Kaspiew et al., 2015b)。
 裁判所は、これらの命令を下す際に子の最善の利益を第一に考える必要があります(60条CA)。
 裁判所は、両方の親との有意義な関係を持つ子どもの権利と、家庭内暴力や児童虐待の被害から保護される必要性を含む様々な要因を考慮する必要があります(60条CC(2)と2A)。その他の要因には、子の意見と各親との関係の性質が含まれています(60条CC(3))。
 この法律では、親が家庭内暴力や子どもの安全上の懸念のために適用されるべきではない、あるいは他の理由で反証される場合を除き、裁判所に均等な共同親責任の推定を適用することを義務付けています(61条DA)。
 均等な共同親責任の命令が下された場合、裁判所はまた、子どもがそれぞれの親と均等または「実質的に重要な」時間を過ごす命令が現実的であり、子の最善の利益になるかを考慮しなければなりません(65条DAA)。
 推定を適用して均等な共同親責任の命令が下されない場合、裁判所はどのような時間の取り決めが子供の最善の利益になるかを決定します。それでも、均等な時間や実質的に重要な時間を考慮する場合もあります。
 推定が適用されない場合でも、裁判所は、子の最善の利益になると判断した場合には、共同親責任の命令を下すことができますし、しばしば下します。
 家庭内暴力や児童虐待の被害から子どもを保護する必要があるという証拠がある場合、裁判所は子どもが両方の親と有意義な関係を築く権利よりもこれを優先する必要があります(60条CC2A)。稀なケース(3%)では、裁判所は子どもが親に会わないように命令することを意味し、その他のケース(4%)では、監督付きの面会を命令することで子どもが親に会い続けても安全でいられるようにすることを意味するかもしれません(Kaspiew et al.、2015c)。

親が裁判所を利用して養育に関する命令を受けるのは一般的なことですか?

殆どの親(97%)が裁判所を利用しません。親同士で取決めをしています(表1)。
親の約10が、養育の取決めを整理する主な手段として家族紛争解決を利用しています。6人の親が弁護士のみを利用しています。

 表1 養育の取決めを整理した親が利用する主な手段(2014年)

画像2

備考:別離した親の調査2014年。データは重み付けされています。「分からない」「答えたくない」の回答は、この分析から除外しました(1%未満)。四捨五入の関係で、比率の合計が100%にならない場合があります。ある母集団内での父親と母親の間の統計的に有意な差は次のように表示しています。†p<0.05;††p <0.01;†††p<0.001。
出典:カスピューら、2015a

養育の取決めのために裁判所を利用した親の3%のうち、殆どの親が家庭内暴力(身体的暴力54%、精神的虐待85%)を経験したと「別離した親の調査」は報告しました。50%近くが、安全性(自分自身、子ども、またはその両方; Kaspiew et al., 2015b)への懸念を報告しています。

裁判所を利用した親が報告したその他の問題には、メンタルヘルスの問題(59%)と薬物乱用(42%)がありました。

親が裁判所を利用する場合、取決めはどのような結果になるのでしょうか?

裁判所命令に至るルートは3つあります。
●裁定事項:これは、裁判官が証拠を聞き、決定を下す場合です。これは最も一般的ではないケースであり(ALRC 2019)、複雑な事実と証拠を抱えている可能性が最も高いケースです。
●訴訟後の同意:これは、裁判を開始したものの、本格的な裁判を行う前に両親が合意した場合に生じます。この場合も事実関係が複雑になっていることが多いケースです。
●純粋な同意:裁判所命令に至る3つ目の最も一般的なルート(ALRC 2019)は、家族紛争解決の実務家や弁護士を通じて両親が自分たちの間で合意し、同意命令を申請することで合意を正式化する場合です。このケースは、他の2つに比べて家庭内暴力や安全面での懸念などの問題が発生する可能性は低いケースです。

後述する取決めの結果(Kaspiew et al., 2015c)は、裁判所命令の種類別に整理しています。

親責任の命令

裁定事項
両親に対する共同親責任の命令は、裁判官がこの問題を決定する場合に最も少なくなります。共同親責任の命令は裁定事項のケースの40%でした。母親が単独親責任を負う命令は、子どもの45%に対して下され、父親が単独親責任を負う命令は子どもの11%に対して下されました。

訴訟後の同意
訴訟を開始したものの判決前に解決したケースでは、共同親責任の命令が非常に多く、子どもの94%に適用されています。単独親責任の命令は非常に少なく、母親の場合は子どもの4%、父親の場合は子どもの2%となっています。

純粋な同意
共同親責任権は、親同士が合意に達した場合に最もよく見られる結果です。純粋な同意のサンプルでは、これらの命令は92%の子どもに適用されました。単独親責任の命令は、母親の場合は子どもの4%、父親の場合は子どもの3%に適用されました。

表2 裁判所命令の種類別の親責任結果

画像3

備考:裁判所の成果プロジェクト。パーセンテージは重み付けしたデータに基づいています。
出典:カスピューら、2015c

ケア時間の取決め
裁定事項
 命令の対象となる殆どの子ども(64%)は、主に母親と一緒に暮らしており、父親と一緒に夜の35%未満を過ごしていました。共同ケア時間の命令が下されたのは子どもの17%でした。
 裁定を受けたサンプルでは、子どもの19%が父親と暮らし、母親と過ごす夜の割合が35%以下となっています。注目すべきは、このような取り決めは、親が自分たちで解決するよりも、裁判所が介入した場合に起こる可能性が遥かに高いということです。

訴訟後の同意
 訴訟が開始された後に、実際には裁判官によって問題が決定されることなく、両親が合意した場合、子どもの75%が母親と一緒に暮らし、父親と過ごす夜の割合を35%以下にするという命令が出されました。
 さらに、子どもの15%が共同ケア時間を取り決め、子どもの10%が父親と暮らし、母親と過ごす夜の割合が35%以下であるという取り決めをしていました。

純粋な同意
 訴訟によらずに両親が合意した場合、子どもが殆どの時間を母親と過ごすという命令が子どもの64%に適用されました。このグループにおける共同ケア時間の命令は、他の2つのグループよりも多く、子どもの33%に適用されました。主に父親と暮らし、母親と一緒に夜の35%未満を過ごすという命令は、子どもの4%に適用されました。

裁判所が両親のどちらかと子どもが接触しないように命令することはよくあることですか?

接触禁止の命令が下されることは非常に珍しいことです。3つのカテゴリーの裁判所命令の全ケースにおいて、父親との接触禁止命令を受けた子どもは僅か3%、母親との接触禁止命令を受けた子どもは0.2%だった(Kaspiew et al., 2015c)

表3 父親/母親と対面式の養育時間を設けることを禁じられた子ども(2014)

画像4

備考:パーセンテージは重み付けしたデータに基づいています。
出典:カスピューら、2015c

 裁判所は、子どもの安全が懸念される場合、親戚や友人、またはこのサービスを提供する組織が運営するセンターのいずれかで、子どもと親との接触を監督するように命令することができます。監督付きケア時間の取り決めは、子どもの4%に適用されています(Kaspiew et al.、2015c)。

(了)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?