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父母の離婚後の子の養育に関する海外法制について【北米】

 この記事は法務省HPに掲載されている「父母の離婚後の子の養育に関する海外法制について」の【北米】をnoteに転載したものです。

第1 アメリカ(ニューヨーク州)

1 離婚後の監護の態様

  • 監護(custody)¹には,法的監護と身上監護がある。離婚後は,法的監護・身上監護について,単独及び共同での行使が認められている(家族関係法第240条)。なお,全ての監護及び面会交流に関する裁判において, 家庭内暴力の有無が考慮されなければならない(同条)。

  • 法的監護については,両親が敵対関係にない場合のみ,離婚後も,両親が共同して行使することになる。

  • 身上監護は,子と共に居住する権利であり,子と一緒に住んでいた期間が長い方の親が取得する傾向にあるという。

2 離婚後の監護についての両親の意見が対立する場合の対応

 両親の意見が対立する場合には,仲裁者又は調停者が調整に当たることがある。

3 子がいる場合の協議離婚の可否

子の有無にかかわらず,争いのない離婚の場合でも書類を裁判所に提出し,裁判所の確認を受けた上で,離婚が認められることになる。

4 離婚後の面会交流

⑴ 面会交流についての取決め
 離婚時に面会交流について取決めをすることは義務付けられていない。両親の一方又は双方の要求に応じて,裁判所が決定する。

⑵ 面会交流の支援制度
 両親間の仲裁者又は調停者が調整に当たることがある。 面会交流の合意についての違反が著しい場合には,刑事事件として扱われることもある(子の保護への干渉に関する州法135.45,135.50及び実の両親による子の誘拐に関する連邦法)。
 裁判により支払を命じられた養育費を受領している同居親が,裁判により命じられた面会交流を不当に妨害した場合には,裁判所はその裁量において,面会交流が侵害されている間,養育費の支払を停止するか,支払遅滞による責任を免除することができる(家族関係法第241条)²。

5 居所指定

 離婚後に,子を監護する親が転居する場合には,裁判所の許可が必要とな る。

6 養育費

 離婚時に養育費について取決めをすることは義務付けられていない。父母の一方又は双方の要求に応じて,裁判所が決定する。

7 嫡出でない子の親権

 父が認知した場合には,父が監護をすることが認められている。

¹ アメリカ法の親権及び監護概念については,山口亮子「アメリカ」各国の離婚後の親権制度に関する調査研究業務報告書(平成26年)95頁以下参照。
² 山口・前掲注1)111頁。

第2 アメリカ(ワシントンDC)

1 離婚後の監護の態様

 監護には,法的監護(Legal custody)と身体的監護(Physical custody) があり,離婚後に共同行使するものについて,条文上限定は加えられていな い。
 法的監護とは,子に対する法的な責任を意味し,子の健康,教育,一般的な福祉に関して決定する権利,子の教育,医療,精神状態,歯科治療,その他の記録にアクセスする権利並びに学校職員,医療提供者,カウンセラー及びその他の子と交流する者と話をし,それらの者から情報を入手する権利が含まれる。身体的監護とは,子の住居形態を意味し,子の住居や面会交流の スケジュールが含まれる。

2 離婚後の監護についての両親の意見が対立する場合の対応

 最終的には,裁判所が子の利益の最大化の観点から決定する。

3 子がいる場合の協議離婚の可否

 認められている(裁判所に申請する必要はあるが,当事者間で争いがない場合には,申請がそのまま認められ,裁判所の実質的な関与はない)。

4 離婚後の面会交流

⑴ 面会交流についての取決め
 離婚時に面会交流について取決めをすることは義務付けられていない。

⑵ 面会交流の支援制度
 例えば,監護権についての裁判所での手続の初期段階で,全ての親がクラス(Parenting Class)を受講することが義務付けられており,そこでは裁判所の手続が説明されるほか,裁判所の決定によるのではなく当事者間の合意により監護についての詳細を決めることが薦められる。

5 居所指定

 多くの場合,監護の条件について定めた合意又は裁判所の命令の中で転居の制限について規定されるほか,法律上も,他方の親の正当な監護権の行使を妨げる行為が原則として禁止されている。

6 養育費

⑴ 離婚時に取り決めることが義務付けられているか
 義務付けられていない。

⑵ 養育費支払実現のための制度・援助
 コロンビア特別区政府の司法長官室養育費支援部門(Office of the Attorney General, Child Support Services Division)において,親の所在の特定,養育費を求める親を代理し裁判所の支払命令の取得,支払命令の執行(給与差押え,自動車運転免許・車両登録・パスポートの停止による間接強制等)といった支援を提供している。

第3 カナダ(ケベック州)

1 離婚後の親権行使の態様

  • 離婚後も,両親は共同して親権(parental authority)を行使する。

  • 離婚の申請があった場合には,裁判所は,配偶者間に合意があるときはそれを考慮し,また,子の利益と権利を尊重することを重視して,子の監護(custody)及び教育についての裁定を行う必要がある(州民法第514条,第521条)。

2 離婚後の共同親権行使についての両親の意見が対立する場合の対応

  • 親権の行使について両親の意見が一致しない場合には,両親の一方又は双方は,その意見の対立の解決を求めて裁判所に提訴することができる (州民法第196条,第604条)。裁判所は,両親の和解を奨励した上 で,子の最善の利益の原則に従って判断する(同法第32条,第33条, 第196条,第604条)。

  • 裁判官は,判断の際に専門家の意見を参照することができる(州民事訴 訟法第425条以下)。

3 子がいる場合の協議離婚の可否

 子の有無にかかわらず,協議離婚は認められていない。

4 離婚後の面会交流

⑴ 面会交流についての取決め
 離婚時に面会交流の内容について取決めをすることは義務付けられていないようであるが,裁判所は,離婚に際し,両親の一方又は双方の請求により,子の監護及び養育費に関して臨時命令を発することができる(州民法第15条~第20条)。

⑵ 面会交流の支援制度
 ア 面会交流監督サービス
  親が監督の下で子を訪ねることができるというサービスであり,面会交流が妨げられたり,困難であったり,面会交流について紛争が生じたりした場合に利用することができる。
 イ 認可支援サービス
  親は,面会交流等に係る家庭裁判所判決を,安価で改訂させることができる。

5 居所指定

 両親は,転居することはできる。
 しかしながら,同居親が,非同居親から遠く離れた場所に転居しようとする場合には,非同居親は,子の監護について取り決められた時点ではそのような転居は想定されていなかったことを理由としてこれに反対し,子の監護権を求めて裁判所に訴えることができる。

6 養育費

⑴ 離婚時に取り決めることが義務付けられているか
 離婚時に養育費について取決めをすることは義務付けられていないようであるが,裁判所は,離婚に際し,両親の一方又は双方の請求により,子の監護及び養育費に関して臨時命令を発することができる(州民法第15条~第20条)。

⑵ 養育費支払実現のための制度・援助
 ア 養育費支払支援法による対応
   養育費支払支援法により,州収入省は,養育費を支払うべき者からこれを徴収し,養育費を受け取るべき者にこれを支払う権限を有する。
 イ 認可支援サービス
  親は,養育費等に係る家庭裁判所判決を,安価で改訂させることができる。
 ウ 子の養育費再調整行政手続サービス
  このサービスにより,親は,極めて安価に子の養育費の再調整をすることができる。利用申請は,両親の一方又は双方が行うことができる。 再調整後の養育費については,親がその金額に同意しない場合は裁判所に再見直しの申請を行うことができる。

7 嫡出でない子の親権

 認知等により親子関係が確立していれば,親権の共同行使が認められている。

第4 カナダ(ブリティッシュコロンビア州)

1 離婚後の監護の態様

  • 子と同居していた親は,離婚(別居)後も,子に対して監護権 (guardianship³)を有する(州家族法第39条第1項)。各監護者は,監護者間の合意又は裁判所による異なる決定がなければ,その協議が不合理又は不適当でない限り,他の監護者との協議により,親権(ブリティッシュコロンビア州では親責任(parental responsibilities)という用語が採用されているが,本報告書においては,以下においても,「親権」と記載する)の全てを行使することができる(同法第40条)⁴。子の監護者(guardian)のみが,親権を行使することができる(同条)。
     なお,監護者の合意又は裁判所の決定により,一人の監護者が単独で親権の全部又は一部を行使することや,監護者が共同で親権の全部又は一部を行使することを定めることもできる。

  • 連邦離婚法においては,子についての決定責任(decision-making responsibility⁵)は,両親の双方又は一方に付与することができるとされている(離婚法修正第16.3条)。

2 離婚後の共同親権行使についての両親の意見が対立する場合の対応

  • 監護者の間で,親権行使に関して合意をすることができない場合には,裁判所は,監護者にどのように親権を付与するかについて定めることができる(州家族法第45条)。その際,裁判所は子の最善の利益に基づいて判断する(同法第37条第1項,考慮事項は,同条第2項に列挙されて いる)。

  • 監護者間で意見が対立するような場合に,裁判所は,判断の参考にするために専門家に報告書の作成を命じることができる(同法第211条第1項)。報告の内容は,子のニーズ,子の意見等である。この場合の専門家とは,家族司法カウンセラー(family justice counsellor)⁶,ソーシャルワーカー,その他裁判所によって認められた者である(同条第2項)。

3 共同親権行使における解決困難な事項

 後記6で紹介する子の転居をめぐる紛争が解決困難な事項として挙げられている。

4 子がいる場合の協議離婚の可否

  • 子の有無にかかわらず,協議離婚は認められておらず,裁判所の決定が 必要である。もっとも,夫婦が,親権行使の方法,扶養料,財産分与等に ついて合意に達している場合は,当事者は裁判所に出頭する必要はなく, 裁判官が書面を確認することにより離婚が認められる。

5 離婚後の面会交流

⑴ 面会交流についての取決め

  • 離婚後も,監護者である親は,子と共に過ごすことができるが,それは親の権利ではなく,子の最善の利益のみを考慮して認められるものである(州家族法第37条第1項)。

  • 子の監護者ではない親と子が共に過ごすことは,「子との交流」 (contact)と呼ばれる。この交流も親の権利ではなく,子の最善の利益のみを考慮して認められる。交流の内容は,子の監護者である親との合意によって定めることができるが,合意をすることができない場合には,裁判所が決定をすることもできる(同法第59条第2項)。

  • 州家族法においては,両親が離婚時に面会交流について取決めをすることは義務付けられていない。ただし,裁判所は,両親が面会交流も含む適切な養育計画を作成していないと離婚を認めないこともある(上記2も参照)。

⑵ 面会交流の支援制度
 ア PAS(Parenting After Separation)
  州政府が出資し,司法省(Ministry of Attorney General)の家族司法サービス部門(FJSD,:Family Justice Services Division)が 運営するサービスである。別離後の両親に対し,適切な面会交流の時間や交流の合意をすることができるようにするための情報を提供する,教育コースである。州裁判所に養育計画や面会交流等についての決定を求めた両親は,必ずPASを受けなければならない。
 イ 家族司法カウンセラー⁷による支援
  両親は,面会交流についての適切な合意をすることができるように,家族司法カウンセラーからの情報提供,援助を受けることができる。

6 居所指定

 州家族法には,他の監護者の同意がないが,転居を希望する者が転居の許可を求める手続が規定されている。
 ア 監護者が転居したい場合において,養育計画や面会交流についての合 意又は裁判所の命令がないときには,まずそれらについて定められなければならない。
 イ 養育計画や面会交流についての合意又は裁判所の命令が既に存在する 場合には,次のようになる。

  • まず,「転居」とは,子又は子の監護者の居所を変更し,子と監護者その他の者との関係に重要な影響を与えるものと定義されている(州家族法第65条第1項)。

  • 自分自身又は子の転居を計画している監護者は,他の監護者(や子との面会交流が認められている者)に少なくとも転居の60日前に転居の予定を文書で通知しなければならない。この通知には,転居の日及び 転居先を記載する必要がある(同法第66条)。これを受けて,他の監護者が裁判所に転居の禁止を申し立てない限り,転居は許可される(同法第68条)。なお,転居禁止の申立ては,上記の通知を受けた日から30日以内に行わなければならない。

  • 裁判所の転居許否の基準については,州家族法に規定が設けられている(同法第69条)。
     子と過ごす時間が両親間で概ね均等とされている場合には,転居を計画する監護者は,①当該転居は公正なものであること(in good faith),②子と他の監護者との間の関係を維持するための合理的で有効な提案を行ったこと,③転居が子の最善の利益にかなうことを主張立証しなければならない(同条第5項)。
     他方で,子と過ごす時間が両親間で均等とされていない場合には,転居を計画する監護者が,①当該転居は公正なものであること,②子と他の監護者との間の関係を維持するための合理的で有効な提案を行ったことを主張立証した場合には,裁判所は,当該転居は子の最善の利益にかなうものとして,転居を許可しなければならない。もっとも,他の監護者が,当該転居は子の最善の利益にかなわないと反証した場合には,裁判所は,転居を禁止することができる(同条第4項)。

7 養育費

⑴ 離婚時に取決めをすることが義務付けられているか
 離婚時に両親が養育費について取決めをすることは,州家族法においては求められていない。ただし,離婚時に両親が養育費について合意をしていないと,裁判所は離婚を認めないこともある(上記4も参照)。

⑵ 養育費支払実現のための制度・援助
 上記5⑵で紹介したPAS及び家族司法カウンセラーによる支援に加えて,FMEP(Family Maintenance Enforcement Program,家族扶養履行強制プログラム)という制度がある。
 両親の一方がFMEPに登録をすれば,FMEPは,合意され又は裁判所に命じられた養育費の取立てを行う。FMEPは,支払義務者との間で,支払を適切に行うための合意をし,もし支払がされなかった場合には,履行強制を行う。
 FMEPは,司法省の1部門によって運用されており,養育費を受領する親は,無償で当該サービスを利用することができる。

8 嫡出でない子の親権

 親子関係があるのであれば,婚姻の有無にかかわらず,全ての親が子に対して監護権を有し,それぞれが親権を行使する。

³ 従前,”custody”という語が用いられていたが,2013年の改正により,州家族法においては“guardianship”が用いられるようになった。
親権行使の具体的な内容は,州家族法第41条に列挙されている。例えば,日々の子に関する決定及び子の世話・監督,子の居所の決定等が挙げられる。
連邦離婚法においては,”custody”に代わって,”decision-making responsibility” が用いられるようになった。Decision-making responsibility を有する親は,子の健康,教育,文化・言語・宗教・精神,課外活動について,子の福祉を考慮して決定を行う。
司法省の家族サービス部門(FJSD)に属し,家族調停者として訓練を受けている者である。家族司法カウンセラーは,情報提供をしたり,解決案を提示したりする。両親に対しては,サービスは無償で提供される。地域によっては,両親は裁判所の審理の前に,家族司法カウンセラーと面会することが義務付けられている。家族司法カウンセラーは,面会交流等に関する情報提供をし,両当事者が合意に達することができるように援助をする。この場合も,両親は利用の対価を支払う必要はない。
前掲注 6)も参照。

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