小説 俺は走るのが好きだ

俺は走るのが好きだ。

知り合いとこんなやりとりになった。

「おい、俺は走るのが好きなんだけどよう、今からお前も走るぞ、このやろう。」

「走らないです。」

「なんでだよ?」

「走りたくないからです。」

「おい、情けないこと言うんじゃないよ。いいから走るぞ。」

「僕の方が速くても知りませんからね。」

「なんだと、このやろう!生意気なことを言いやがって。」

「僕が勝ったら、二度と一緒に走るなんて言わないでくださいよ。」

「上等だ。必ず勝ってやるからよ。」

「じゃあ、今から外行きましょう。何メートル走りますか?」

「いや、ちょっと待て。」

「え?」

「今回、勝つとか負けるとかそういうのはいいんじゃないのか。俺はよう、気持ちよく走りたいだけなんだよ。別に勝負事をしようと思ってるわけじゃないんだよ。」

「負けるのがこわいんですか。」

「そうじゃないけどよ。」

「じゃあ、一人で走ってください。」

「ちきしょう。わかったよ。一人で走ればいいんだろ、このやろう。ちきしょう。」



こんなことはない。

実際の自分はほとんど走ることがない。

人に一緒に走ろうと誘ったこともない。

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