漢二人、荒海・涙のリヴァイアサン一本釣り #1200文字のスペースオペラ
天の光は全て海。あの煌く輝く珠一つ一つが膨大な虚水を孕み、銀河量子漁師達が命を懸けて平面カジキを獲る、γ線荒れ狂う負荷い負荷い海なのだ。
俺の爺さんも量子漁師で、三世紀前まで対消滅エンジンの放射も艶やかに、HR旗を恒星風に靡かせて、イナセな真紅の宇宙艇で伝統の波動関数漁方でがっぽり稼いでいたらしい。
俺はと言えば、暗黒銀河団皇帝である親父がダークマター資源を独占しようとしたのを阻止する闘いで、自慢の艇と相棒を失った。
今はしがない東大守さ。赤門クエーサーが発するパルスで海に出て行く量子漁師達を送り出す。
やりがい何て特にないが、平和でいい仕事だ。
あんたは? 旅行者? 嘘だね。あの艇に積んである銀河フィラメント網は白色矮鯨を獲る為の物だ。
いや。止めはしないよ。密猟だろうがね。何、違う。成程、故郷の掟で。長の娘へ婿入りするには自分で獲った獲物の大きさで競う必要が。
確かにこの先は白色矮鯨の回遊するΩ海。しかし一人で行くのは余りに無謀。ここで会ったのも何かの縁だ、俺も同行させちゃくれないか?
「危ない!」
東大守の声に、僕は網から咄嗟に手を放す。体長3万尺はある雄大な白色矮鯨が攻性ブリーチングを行ない、鋭い三角エーテル波が船殻を叩いた。
既に積んできた核銛のうち過半数を使っている。早目に決着をつけねば超潮吹爆発でΩ海ごと僕達が蒸発しかねない……!
「うおりゃー!」
東大守が見事なスイングバイ投法で核銛を撃ち込む。白色矮鯨は重力波の悲鳴を上げて潜航しようとする。僕はそこを見逃さなかった。網を目一杯拡げる。網目のヴォイドが虚無の輝きを発し、白色矮鯨の立派な星虹に絡みつく。
「放すなよおっ!」
返事も出来ない。僕の両脚のブラックホールはしっかりと11次元甲板をグリップし、両腕のゲーデルドライブがフル稼働を開始する。手応え有り!
「一本!!」
古の量子漁師投げ技の一つ、釣り込み腰で僕は白色矮鯨を釣り上げた!
甲板の上の歪曲空間に捉われた鯨は周囲の海水を取込み爆発しようとするが、僕は宇宙紐で素早く締めた。超生命の命が手の中で喪われる感覚に慄く。
「やったな兄ちゃん……」
「東大守さん!?」
僕は駆け寄る。鯨に寄生する不死津星の存在を忘れていたなんて! 黒点だらけの不死津星から飛び出したX線フレアは東大守の胸を貫いていた。
「へっ海で死ねるなら本望だぜ……」
「いけません、これを!」
僕は鯨の肉を東大守の口に含ませる。GUTに従い傷が回復していく。
「お前……これは故郷に持って帰らなきゃならんのだろうが」
「貴方が死んだらこの鯨はウェンカムイになってしまう。そんな物持って帰れませんから」
僕は笑ってそう言った。東大守も苦笑し起き上がる。
「この先のα海は秘密のリヴァイアサン産卵場」
僕は目を見開く。リヴァイアサンは宇宙最大の魚介類である!
「あんたの凱旋、是非見届けさせて貰うぜ」
僕と東大守は握手を交わす。遥か彼方で赤門の光が煌めいた。