仇統のアスタリスク
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仇統のアスタリスク

 天にある二十八の沈まぬ明星。その一つ、アルファルドが一際輝く夜に産まれたから、お前の名前はアルファというんだよ。
 僕の頭を撫でながらそう教えてくれた姉は、もうどんな言葉も発さない。花嫁衣装が血で染まっていく。
 結魂式の最中だった。花婿と花嫁の血を一滴ずつ、一抱えもある星紅玉『竜の心臓』に垂らす事で血統院に二人が夫婦であると登記する。
 花婿は村一番の狩りの名手ギェナー。喉を切り裂かれ苦悶の表情のまま動かない。
 二人だけではない。村唯一の星統教の寺院に、星々に寿がれた新たな夫婦を祝おうと、村人総出で集まっていた。天市垣の森の奥深くにあるこの村は娯楽に飢えていて、祝い事あらば皆で騒ぐのだ。礼拝堂は今や死と沈黙が支配していた。
 ギェナーは好きだ。でも姉はもっと好きだった。取られる所を見たくなくて、だけど唯一の肉親が出席しないのも姉の心を痛めそうで。だから僕は秘密の隠れ場所、星十字の台座の中に入って式を眺めていた。
 それが生死を分けた。司教様が祝詞を倡え終える前に、奴らは闖入してきた。銀の鎧。二十八星の紋付きの外套。銘々手には武器。
 王国兵。初めて見た。一瞬興奮したが、すぐにそれは冷め、恐怖が僕を支配した。王国兵達が警告も無しに、困惑する村人を殺し始めたから。
 絶叫。哀願。絶叫。血臭。
 僅か十分程で殺戮を終えると、隊長と思しき人物は血塗れた『竜の心臓』を回収し、ただ一言「火をつけろ」とだけ命じ出て行った。
 全員が去ってから僕は台座から這い出して姉に近寄った。
 窓硝子が炎色に染まる。
 世界が焼け落ちる音を聞きながら、僕は死体に縋ってただ哭いた。

 天市垣の森に散在する巨木の一つ。その枝から遠眼鏡を使って煙が立つ方角を覗く男在り。典型的な旅装。しかし腰に佩いた剣には二十八星の紋。
「先を越されたかなこりゃ。まあでも行くだけ行ってみるか」
 男は独りごちると遠眼鏡を仕舞い、身長の数十倍の高さから跳ぶと、そのまま走りだした。

【続く】

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居石信吾

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いっぱいちゅき……
ニンジャヘッズ。現在逆噴射小説大賞 投稿作「ポスト・ポストカリプスの配達員」の続きを連載中。