【インタビュー】 真の"健康"に向き合い続ける小児科医 株式会社Kids Public代表・橋本直也氏の素顔に迫る
新潟のヘルスケアの第一線でご活躍されている方々に、過去の歩みや原点、そして、現在の取り組みや未来への想いを伺うインタビュー企画。
今回は、小児科医で株式会社Kids Publicの代表取締役でもある橋本直也氏にお話を伺いました。医師を目指したきっかけや起業に至った経緯、また、現在取り組まれている新潟県のプロジェクトや今後思い描くことから “新潟の医療課題解決” のヒントを探ります。
株式会社Kids Public代表取締役 橋本直也氏
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まずは、現在の活動に先立って、これまでの医師としての歩みついて伺います。
医師としての扉を開く
世界を旅することで知った『達成感』
ーー橋本先生が医師を目指したきっかけや、学生時代にチャレンジしたことを教えてください。
私の実家は産婦人科医院をしていました。医師を目指したのは、自分の強い意思というよりも、そのような外部環境が大きく影響しているかと思います。物心ついた頃には、自然と医学部へ進むことを考えていました。
学生時代は、自身の視野を広げるためにバックパッカーで世界中を旅します。初めての旅先はマチュピチュ。当時、大学1年生だった私は、行きと帰りの飛行機のチケットだけを握りしめ、現地にのりこみました。日本から一番遠い地で、私は本当にたくさんの人に助けてもらい、旅を成功させることができました。
旅に出る前は自分に自信が持てていなかった私ですが、旅が終わった頃には不思議と自分に自信がついていました。多くの方に支えられながらも一つのことを成し遂げた達成感と、言葉では言い表しがたいほどの感動に心を奪われます。その後も、学生時代は長期休みがあるたびにバック1つを持参し、世界各国のいわゆるマイナー国を旅しました。その数はなんと、6年間で30カ国にものぼります。
私の人生観を変えてくれた世界中の人々、そして、勇気を出して旅することを決意した当時の自分には今でも感謝しています。
ーー 勉学だけではなく人生観が変わる経験もされた貴重な6年間だったのですね。先生が小児科に興味を持たれたきっかけは、何だったのでしょうか。
私が小児科に興味を持ったのは、医学部5年生の初めての病院実習です。その最初にまわった科が小児科でした。そこで、小さな子どもに医師として関われることにとてもやりがいと使命感を感じることになります。
子どもが元気になって退院していく姿からは、医療の美と未来を感じました。私は、小児科医として未来ある子どもたちに関わり続けたい。この信念は、その後も多くの科を経験しましたが揺るぐことはありませんでした。
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ここからは、起業に至った経緯や現在の取り組み、そして今後についてお話を伺っていきたいと思います。
現場の課題感と手のひらのスマホ
ーー 小児科医として第一線を走られていた先生が "起業する" という選択に至ったきっかけ・原体験があれば教えてください。
医師として現場で働く中、外来で虐待を受けているお子さんを診る機会がありました。その子は、大腿骨を骨折していました。目の前の子の骨折を治すことも当然大事ですが、「そうならないように何かできなかったのか」という歯がゆさを強く感じます。
それと同時に、お母さんが孤立してしまっていることにも問題意識を感じました。既存のやり方に拘らず、新しい道を開拓する必要があったんです。
”病院で待っているだけでは病気はなくせない”
まずは社会全体について学びを深めるため、公衆衛生を学びに大学院へ行きました。
ーー 大学院進学後の過ごし方や、実際に株式会社設立へ至った経緯を教えてください。
大学院へ進学当初は、まだ起業という選択肢はありませんでした。大学院での授業や研究を通して、これまでの臨床経験を俯瞰するとても学びの多い日々を過ごしていました。
当時、医療以外の様々な分野に興味を持っていた私は、医療とは関係ない別の分野の授業をいろいろと受けていました。ある日、昔からメディアやジャーナリストに興味があった私は情報学部の授業を聞きに行きます。そこで、後にWEBメディアで起業することとなる友人に出会ったのです。
当時(2014年)は、グノシーなどのWEBメディア(ニュースメディア)に注目が集まっていた時期でした。彼がWEBメディアで学生起業した時、そのメディアの医療ライターとして私も関わらせてもらいました。その経験から、改めてオンラインの可能性や起業の魅力を感じます。
私が医療現場で抱いていた課題も、手のひらにあるスマートフォンに接点をもっていくことで、問題のより上流にアクセスできるかもしれない。インターネットと医療をかけあわせ、起業することを決意しました。
真の"健康"に向き合う
ーー 起業にあたり、先生が大事にされてたことを教えてください。
私が大事にしているのは、我々が提供したサービスで本当に人が健康になった、孤立の可能性が一つでも減った、鬱が一人でも減った、という事実です。なんとなくそれっぽいことを謳って、なんとなく人を健康にしたっぽいという事ではないのです。
これは当たり前のように聞こえるかもしれませんが、実は、真面目にやるととても大変です。人を健康にするために新たな領域に挑戦し、事業を継続していくには強い信念と耐力が必要なのです。現場で様々な課題にぶち当たりながらも、多くの仲間に支えてもらいながら私は前に進んでいます。
ーー 現在、Kids Publicとして特に力を入れられていることは何ですか?
社会実装に力を入れています。その中でメインで動いているのが、自治体への導入です。日本全国どこで生まれても、オンラインで医師・助産師に繋がることが当たり前の世界を目指しています。
各自治体での導入後は効果検証をし、自分たちでその結果を情報発信することにも力を入れています。それらの積み重ねが社会実装を進めていく上で必要だと思うからです。今後もさらに拡大していけるよう頑張ります。
今後のヘルスケアビジネスに求められる人材像
ーー新潟県での実装プロジェクトを進める中で、新潟の医療課題に対してどのような印象を持たれましたか?
新潟にはヘルスケア課題に熱い想いを持ったリーダーやスタッフが揃っており、県が主体となり実行力のある形で進んでいっている、とても先進的な印象を受けています。私たちのような県外のベンチャーにチャンスをくれること、実証実験のフィールドを与えてくださっていることにとても感謝しています。
現在、新潟県村上市と関わらせてもらっていますが、市役所の方々がとても親切に接して下さいます。コロナ禍もあり、ただでさえお忙しい業務の中で実証実験にお力添えいただいていること、改めて感謝をお伝えしたいです。
ーー 地域の医療課題を解決する上で、今後どのような人材が求められると考えますか?
ヘルスケアビジネスでは、”本当に人を健康にしているか” ここにこだわり抜く人材が求められていると思います。
それには科学的検証が必要であり、客観的に見て人々が健康になっているという事実が必要です。そんなことに真摯に関われる人材、特に、医療知識や現場経験のある医療職にぜひ力になってほしいなと感じます。意味のあることと事業化の両立は非常に難しいですが、仲間が増えていくといいなと思っています。
起業というのは課題を解決するための一つの手段でしかありませんし、全ての人に起業をすすめることはしません。ただ、起業って怪しくないよねって思ってもらえたらそれで十分です。
もし起業に興味のある方は、一度、企業でインターンをすると良いかもしれません。事業継続の厳しさを学ぶ機会はなかなかないですし、これからの医療にはプロジェクトをサステナブルに継続させ、運営していくためのノウハウや経験が求められてくると思います。今の若い世代の方々は起業家やプログラミングなどができる人がたくさんいて、今後はさらに増えてくると思います。常に社会にアンテナを張り、時代に合わせて変化していきたいものですね。
皆さんへのメッセージ
ーー 最後に、新潟のヘルスケアを盛り上げたいと熱い思いを持って活動している方々に向けてメッセージをお願いします。
地方にいるとどうしても地産地消みたいな形で、新潟の課題は新潟のみで解決しようと考えてしまうかもしれません。しかし、課題解決できる手段は、顔をあげ視野を広げてみると本当にたくさんあります。
課題を発見したフィールドがたまたま新潟だったけれど、その解決策(手段)はオールジャパンで考えていくことが大切です。
新潟初の課題解決モデルを、日本全国ひいては全世界に広めていきましょう。応援しています!
本記事では、小児科医で株式会社Kids Publicの代表取締役でもある橋本直也氏のこれまでの歩みや現在取り組まれている事、そして、新潟のヘルスケア課題に取り組む方へ向けた熱いメッセージをご紹介しました。次回のインタビュー記事で、またお会いしましょう!
橋本直也氏・プロフィール
■ 橋本直也(はしもと・なおや)氏 / 株式会社 Kids Public 代表取締役
2009年 日本大学医学部卒業
2011年 聖路加国際病院にて初期研修修了
2014年 国立成育医療研究センターにて小児科研修修了
2015年- 都内クリニック勤務、株式会社Kids Public設立
2016年 東京大学大学院 公共健康医学専攻修士課程卒業
2020年- 成育医療等協議会委員、健やか親子21推進協議会幹事
にいがたヘルスケアアカデミー
受講生:新潟のヘルスケアをより良くしたい!と考えている県内外の方々
主催:ヘルスケアICT立県実現プロジェクト
運営:株式会社BSNアイネット・ハイズ株式会社
後援:新潟県
Twitter:アカデミーの活動や関連情報、新潟のヘルスケア情報や潜在的な課題などを発信しています。
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