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NHK「ニュースなるほどゼミ」で紹介されました

NHKの「ニュースなるほどゼミ」という番組で取り上げていただきました。
(NHK+で6月18日17:58まで視聴可能)

取材され、番組を見て、色々と思うところがあったので、忘れないうちに書いておこうと思います。

プロは凄い

この番組の収録は1日で行われたのですが、授業の収録が45分、児童へのインタビューが60分、私へのインタビューが60分、教員の座談会が90分。それくらいカメラが回っていたと思います。でも、実際に使われた映像は10分程度。

動画の編集をやっていると「このシーン、切ろうかなぁ。切るとわからなくなっちゃうかもなぁ。でも長くなっちゃうしなぁ。」と悩むことがよくあるわけですが、バッサバッサと切って、使えるところだけ使って、きちんと番組として成立させている。プロは凄い、と思わずにはいられません。

それと、とにかく自分のクラスがメチャクチャいいクラスに見えたのが笑えました。いや、いいクラスなんですよ。いいクラスだとは思っていますが、それは日々起こるドタバタも含めて「いいクラス」だと思っているわけじゃないですか。しかし、テレビだと(よく見れば気づく方は気づくかもしれませんが)そうしたドタバタの部分ではなく、いい面が際立っています。

凄いと思ったのが子どもたちへのインタビュー。かなり緊張していたはずですが、少なくとも使われている映像では実に自然に語っています。これは取材に来てくださった木村祥子解説委員の聞き方が素晴らしかったからだろうと思います。一人一人の子どもたちの声をじっくりと聞いてくださっていましたが、その雰囲気の作り方は非常に上手いな、と思いました。

とは言え、「あー、ここ切られちゃったかぁ」と思うところもなくはなかったです。

番組では、国語の授業が紹介されています。「思いやりのデザイン」という説明文の授業で、番組ではAIに「筆者の主張」を聞くところ、「主張は必ず文章中にあるものなのか」を聞くところで終わっていますが、実は続きがありました。

AIに「文章の中の筆者の主張をどうやって見つけたのか」を問い、それに対してAIが出してきた答えを元に「どうやって筆者の主張を見つけるか」について考えを深めるようなことも行いました。まあ、でもそこまで入れると番組としては冗長になりますね。

子どもはAIをどう捉えているか?

さて、興味深かったのは子どもたちの発言。私はインタビューを受けていない方の児童の面倒を見ていたので、インタビューで子どもたちが何を答えていたのか、番組を見るまでまったく知りませんでした。

興味深い発言がいくつかありました。ちょっと前提を書いておくと、私はこの授業の前に、AIを児童に紹介する授業をいくつか行っていたのですが、その結果、児童はAIに対して「嘘の答えを返してくる信用のならないもの」というイメージを持っていたと思います。

ところがこの日の授業では、AIは正しく「筆者の主張」を返してきました。それに対して子どもからこんな声が漏れます。
「AIの本気が見られた」
どれくらいの意識でこの子がそう言ったのかはわかりませんが、「本気」という言葉を使ったということは、AIに「調子の波がある」といった人間っぽさがあると感じているのだろうと思います。この「AIに人格とか人間っぽさを感じる」という辺りは、我々が子どもたちにAIを紹介する際、注意しておかねばならないポイントでしょう。

しかし「AIと人間の先生だったらどっちがいい」という質問には(映っている子どもに関しては)「人間の先生がいい」と言っています。それには様々な理由があるのでしょうが、まだ子どもたちもAIという存在とどう付き合っていけばいいのかが明確になっていない部分があるのでしょう。この辺りも我々にとっては宿題の一つと言えそうです。

最初にネガティブな面を見せることは本当に正しいか

番組では、3人の解説委員と3人のゲスト(勝村政信さん、宇治原史規さん、横山由依さん)がAIについて語り合うわけですが、それを見ながら「自分のアプローチは本当に正しいのだろうか」と考えるようになりました。

上記で紹介した実践で、私は児童の中に「AI、凄い!」「AI、嘘つき!」「AI、ちゃんと答えてくれない」という様々な経験をさせてきたつもりでしたが、国語で勉強した「白いぼうし」についてAIが的外れな読書感想文を書いてきたことがよほど印象的だったようです。

授業の中でAIに筆者の主張はどこかを聞いたわけですが、その前に「AIはまともな答えを返してくると思う?」と聞きました。すると子どもたちの多くは「ダメだろう」という意見。番組の中では私の「君たちのAIへの信頼度がめちゃくちゃ低いことがわかった」という発言が紹介されています。AIに聞く前の意識がそうだったからこそ、「AIの本気」発言にも繋がったのだろうと思いますが、この「最初にAIのネガティブな面を知らせておく」というアプローチは正しいのでしょうか。

勝村さんが「(「白いぼうし」の経験なく)最初にちゃんとした答えを出し続けていたら、信じてしまうっていうことですものね。これはかなりやっかいですよ。」と発言されていて、スタジオもそれに頷くような雰囲気に見えました。

ですが、もう一度書きますが、この「最初にAIのネガティブな面を知らせておく」というアプローチは正しいのでしょうか。いや、書き方を変えましょう。この「最初にAIのネガティブな面を知らせておく」というアプローチはいつまで使えるのでしょうか。

生成AIが進化するスピードは我々の予想を遥かに超えています。今回、私が取ったようなアプローチができなくなる、つまりAIが容易には間違えなくなるような時代も来るのかもしれません。その時に教師はどんなアプローチでAIとの付き合い方を教えていくべきか。

大きな宿題を課されているな、と感じる部分です。

知らせるか、遠ざけるか

小金井小パートの終わり近く、ITに強い三輪解説委員が「あまり小さいときからさわらせない方がいいと感じている」と発言しています。理由は「『これはダメだ』と判断できるまであまり触らせない方がいい」というもの。

「えー、そんなまとめなの」と思っていたら木村解説委員が「止めたとしても自分たちの真横には必ず対話型AIがいる。変な使い方をするよりは、早い段階から危険なことを教えたほうがいい。」と発言。NHKの解説委員の間でも意見が割れるような問題であるわけですね。そこが浮き彫りになったこと、だからこそ我々は考え続けなければならないということが明らかになっただけでもこの番組の価値は高いと思いました。

文科省のガイドラインがもうすぐ出るはずです。どんなものになるかはわかりませんが、おそらく小学校では「児童が直接触れることは禁止。ただし、教師が主導して授業の中で活用することは試みていくべき。」みたいなことになるのではないかな、と予想しています。

どうやって教育現場で生成AIを活用していくのか。我々のトライはこれからが本番です。

AIはTV版ドラえもんか、映画版ドラえもんか

「これはカットされるのだろうな」と思っていたのに採用されたのが「ドラえもん」発言。座談会パートの最後で私がこんなことを言っています。

ドラえもんってすごいんだけど、何でも出してくれるんだけど、だいたいとんでもないことになるじゃないですか。「なんとなくあんな感じなんだよ」というのをつかんでくれればAIとの距離感はわかるのではないか。

他局の番組を引き合いに出しているのに、それを使ってくださったことには感謝しつつ、本当はこんな続きがあったんだけどな、というのを紹介しておきましょう。

テレビのドラえもんはだいたいひどいことになるし、のび太もダメダメなのですが、これが映画ドラえもんになるとガラッと変わる。のび太はすごく強い意志、例えば「友達を助けたい」といった想いがあって、その強い願いを叶えるためにドラえもんのひみつ道具がとても有効に機能するわけです。
AIもそうなんです。使う側の意志が薄弱だと大した答は返してこない。でも、使う側の人間に「これを実現したい」という強い意志があって、くり返しAIに真理を求めるように対話を重ねていくと非常に高度なアウトプットを出してくる。そういうところがあります。

この説明があってこその、番組の中でも使われた「強い正しい思いがあることがいちばん大事」という発言だったのですが、さて、番組を見た方には伝わっていたでしょうか? まあ、TV版だ映画版だと言いすぎましたから切られたのは仕方ないのですが。

おわりに

今回の取材で非常に嬉しかったのは、私以外の小金井小の先生方を登場させられたことでした。ICT部会の小池さんと佐藤さんはともかくとして、算数部の尾形さん、家庭科部の西岡さんも登場させることができたのは大きかったです。こうやって巻き込んでいくと、生成AIの活用を学校全体で考えてくれることに繋がっていくのではないかな、と期待できますからね。

それにしても佐藤さんの「子どもの困りごとを、子どもと一緒にAIに相談してみる。出てきたアイディアの中から良さそうなものを子どもが選ぶ」というのは、教育現場における生成AI活用としては画期的かつすぐに使えるテクニックだと思いました。これ、どこかにちゃんとまとめてほしいです。

何度も書いている気がしますが、生成AIを巡る動きは非常に速いので、「今日は正しいと思ったことが明日は間違っている」といったことになりかねません。ですから、この番組の内容も来年見たら「こんなことを言っていたの?」と呆れられることになるかもしれませんが、「2023年の時点で小金井小は生成AIのことを真剣に考えていた」という記録にはなるでしょう。

それが価値あるものになるか、それとも黒歴史になるか。全てはこれからの我々の挑戦にかかっているのです。


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