う わさの

見覚えのあるマフラーが目の端をかすめたのは、お袋が買い忘れたコンソメを買いに行く途中の交差点。弾かれるように振り返ると、いつもの後ろ姿が遠ざかっていくところだった。

ピョコピョコ跳ねるように歩くあいつの隣に俺と同じ制服の後ろ姿
たぶん俺より背が高い、その首元には揃いの、


右肩に軽い衝撃を受けて我にかえる。迷惑そうな顔をして歩き去っていくおっさんの背中に小さく、謝罪の言葉を投げた。空中で歩行者用の信号が点滅している。今さら走る気にもならず、一歩下がって歩道に戻った。

ポケットに入れたプレイヤーを左手で操作し、音量を上げる。昨日借りたCDに入っていた、よく知らない曲。

さっさと帰ってコタツに入ろう。たしか姉貴のアイスが冷凍庫に残っていたはずだ。

冷たい風にさらされた鼻の奥が痛い。信号が変わったのを見届け、また、だらだらと歩き始めた。