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ごはんハラスメント

ごはんハラスメント。
これは、私が体験したとある出来事について、言葉として表すならきっとこうであろう、と作った言葉です。
食事ハラスメント、メシハラスメントでもいい。
食ハラ、メシハラと略せるからこっちの方がいいかもしれません。

さて。
私がなぜこの言葉を思いついたか、という話をします。
先日、お世話になっている住職さんの誘いで、仏教関係の研修会に参加してきました。
その講師が、私がとても尊敬している住職さんだったこともあり、誘っていただいたのです。
とても貴重でありがたい体験だったので、このことはまた別の記事で書きたいと思います。

研修会が始まる前に、まずお昼ごはんの時間がとってありました。
会場のお寺に着く前に住職さんから、今日のお昼はカレーみたいだよ!と聞いていたので、とても楽しみにしていました。
しかし、お盆に乗せられて運ばれてきたカレーを一眼見て、ビックリ。

なんじゃこの大盛りは…!

白米にかかったポークカレー、別皿にバターチキンカレー、さらに別皿にキーマカレー。
そして箸休めであろう野菜のお漬物。
極め付けに、ナンも運ばれてきました。
お坊さんって、粗食なんじゃないの…?
3種カレー食べ比べセットだと…?と私の概念は簡単にぶっ壊されてしまいました。
後から聞くと、修行中はとても粗食だが、普段はそうでもないそう。
パンもお菓子も、なんでも普通に食べるみたいです。
しかし、研修会の要項には「粗末ですが昼食の用意がございます」とあったために、それを間に受けて、ご飯と味噌汁程度のものを想像していました。
だから、カレーだと聞いてまず驚いたのに、さらにビックリ、この量です。
「どんどんおかわりしてね〜!」
カレーからナンまで、全て手作りしてくれた会場のお寺の奥さまの声が、響きわたります。
いやいや、無理ですって。

いえ。本当のことをいうと、食べられるのです。
私はドーナツを10個、アイスクリームを1.5リットル食べられる女です。
しかし、チートデイのように、食べよう!と決めた日はいいですが、普段は健康的な食事がしたいと考えている私。
突然の大盛りカレーセットに戸惑いが隠せません。
しかも、小麦製品を控えたいのにナン付き(笑)
隣の住職さん(連れてきてくれた方)に、「全部食べられる…?無理しないでね…」と心配そうな顔で声をかけられました。
彼はとても優しいのです。

いや、食べられます。
むしろ、おかわりできるくらいです…!

しかしですよ。
周りはお坊さんだらけで、ただでさえアウェーなこの環境に縮こまっているのに、元気におかわりなんてできやしません。
しかも、一般の若い女性である私がとても珍しいのか、チラチラと視線を感じる中で、大口を開けてカレーを頬張るわけにはいきません。
結果、自分に与えられた分をきちんと完食し、おかわりすることなく、私は研修会が始まるのを待つことにしました。

研修会の中盤、休憩時間が設けられていました。
私は、難しい研修内容に頭を使って疲れていたので、少しぼーっとして頭をリセットしよう、そう思っていました。
そこへ、1人のお坊さんが声をかけてきたのです。

「よかったら、ケーキあるのでどうぞ^_^」

ケーキ、だと…?!?!
さっきあんなに、数時間前あんなにたらふくみんなでカレーを食べたではないか。
しかも、ケーキまでも奥さまの手作り。
奥さま、一体何者なんだという疑問も湧き上がってきて、頭は混乱状態です。
これも後から聞いた話で、こちらのお寺では座禅教室なるものを定期的に開催しており、その会のお昼ごはんも奥さまが作っているそう。
そりゃあ大人数の料理作るのも慣れたものだ、味もお店レベルだし…と納得してしまいました。

ケーキが、3種類ほど奥のテーブルに並んでいるのが見えます。
前の席のお坊さん2人が、俺は抹茶にしたぞ〜!とか、僕は2つ食べた!とか話しているのが聞こえてきて、なんてお茶目なんだ…とほっこりした気分になりました。
お坊さんにも別腹はあるんですね。
私はもちろん、ケーキは食べませんでした。
食べられる胃袋は持ち合わせていますが、健康と体型維持を考慮し、今日は辞めておこうという判断をしたのです。
本当の私はケーキ2個どころか、下手したらホールで行けちゃうわよ♡な胃袋の持ち主です。

研修会も終わり、会場を元の形に戻し、さあ帰ろうというところでした。

「ケーキ余ってるよ、お茶していかない?」

これぞケーキハラスメント!!もうやめて!!
奥さま、私の理性はもう限界なのです。
食べたいけど(食べられるけど)今日は辞めておこうというスタンスが崩れてしまいそうでした。
しかも、住職さんが車で連れてきてくれたので、住職さんがお茶にするなら、私もお茶をいただかなければならないという強制イベントになってしまいます。
奥さまの娘さん(かわいい)が、律儀に私にコーヒーを運んできてくれました。
とてもかわいくて嬉しかったけど、お姉さんコーヒーは飲めないんだ(涙)

結果から言うと私は、鉄壁のガードにより、ケーキハラスメントを回避しました。
「カレーお腹いっぱい食べたので、ケーキは大丈夫です!とても美味しそうなんですけど、夜ご飯も入らなくなっちゃうし…!」という言い訳と、住職さんの「戦後の子どもたちじゃないんだから、本当に遠慮しているわけじゃないのよ奥さん。しかも彼女、男性でもキツい量のカレーも完食してたし…」というフォローのおかげで、無事に胃袋を死守することができました。

何をどれくらい食べるか、それくらいは自分で決めたいのです。
住職さんは一度断っていましたが押しに負けて、ずっしりと重そうなチョコレートケーキを食べていました。
(ちなみに見出し画像はイメージです。奥さまが作ってくれたものの写真が撮れなかったので、とあるカフェで食べた、似ているものにしました。)
帰りに車で聞いたのですが、住職さんはこのお寺の座禅教室にも参加したことがあるそうで、ここに来ると座禅しに来たのか太りに来たのか、わからなくなるよ…と苦笑いしていました。

とにかく、自分が作ったおいしいものをたくさん食べて欲しい奥さま。
カレーやケーキは全員好きだろう、という考え。
遠慮ではなく、本当に食べたくないから食べないと言うと、ガッカリした顔をする。
これはまさに、ごはんハラスメントだ、そう思いました。
とても華奢な奥さまでしたが、奥さまは同じことを言われて、大盛りのカレーにケーキに、全部食べられるのだろうか。
でも、屈託のない笑顔の中に、悪意は全く感じられませんでした。

良かれと思って相手に言った言葉が、相手を苦しめているかもしれない。

無意識のうちに自分もそうしていないか、改めて考えさせらた出来事でした。
カレーは最高においしかったし、研修会はとてもいい経験でした。
ナンに興奮する住職さんも見れたし(笑)

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