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技術協力として世界に広がる一村一品プロジェクト

以前の記事で、JICAの業務実施単独型についてご紹介しましたが、JICAのスキームには、技術協力というものがあります。今回は、この技術協力について、どのような仕事なのかを当社コンサルタントの松井より紹介します。

松井真由美
新卒で開発コンサルティング会社に入社し、JICA無償資金協力、円借款事業に携わる。23歳で中小企業診断士試験に合格し、ビジネス分野のプロジェクトに従事し始める。2015年にアイ・シー・ネットに入社し、ビジネス分野とジェンダー分野のJICA技術協力、国際機関、省庁プロジェクトに数多く携わる。

技術協力とは

日本政府の技術協力とは、途上国自らの課題解決能力向上のため、日本がもつ技術や知識を活用して、その国の人材育成や仕組みづくりなどをする取り組みです。開発コンサルティング企業や、その他の公的・民間・学術機関などに所属する専門家がJICAと契約し、複数の専門家から構成されるチームを現地に派遣して数年にわたって活動します。当社は世界150か国でさまざまな分野の技術協力を実施していますが、今回は、アルゼンチンで実施している一村一品プロジェクトについてご紹介します。

日本発祥の一村一品運動

一村一品運動は、単に各コミュニティの特産品づくりだけでなく、地域の魅力を再発見し、それを軸とした地域ブランディングをすることで、住民が自分たちの地域を誇りに思い、地方創生につなげる取り組みです。1979年に大分県から始まった一村一品運動は、JICAの技術協力によってアジア、アフリカ、ラテンアメリカなど世界30ヶ国以上に広がっています。

案件概要と実施体制

当社は2021年からアルゼンチン「一村一品のコンセプトに沿った市場志向型インクルーシブバリューチェーンの構築プロジェクト」をJICAから受託し、アルゼンチンの行政機関や自治体、生産者グループと共に、一村一品の考えを取り入れた地域開発をしています。一村一品を先行導入した8つの地域で、ブランディングや生産~販売までのバリューチェーンの構築を支援しており、成功例や失敗例などの教訓を抽出しながら、一村一品運動を全国的な取り組みに広げています。最終的には私たち専門家がいなくても、アルゼンチンで一村一品が定着し、現地の人々で進めていけるようになることを目指しています。
 
今回当社から派遣されている専門家は5名で、日本人3名、コロンビア人1名、メキシコ人1名からなります。一村一品の制度・戦略作り、地域ブランディング、マーケティング、商品・観光開発、生産性向上など、それぞれの専門性を駆使しながら協力して業務にあたっています。現地にはローカルコンサルタントが5名と、中央省庁にも10~20名ほど担当者がおり、自治体職員や生産者など地元の人々を合わせると、これまで1,000人以上を巻き込んでいます。
 
当社はコロンビアで一村一品プロジェクトを実施した経験があり、その時のメンバーが今回も含まれているため、ラテンアメリカで一村一品を広めた知見を最大限活用してプロジェクトを実施しています。

ぶどうの産地にて、アルゼンチンで共に活動するメンバーと

各地域が成果を発表

アルゼンチンにおける一村一品運動の集大成として、2024年6月に成果発表セミナーを実施しました。中央省庁の行政官に加え、一村一品運動を取り入れたアルゼンチンの8つの地域から自治体や生産者の代表者約120名が集結し、各地域の一村一品運動の成果や教訓、今後の展望について発表しました。

成果発表セミナーには、往復4日間かけて駆けつけた参加者もいます

そこで発表された一村一品の成果のひとつとして、カタマルカ州の「織物ルート」を紹介します。カタマルカ州ベレン県は、アンデス山脈に程近い高地乾燥地帯で、ビクーニャ・リャマなどの毛織物を一村一品の特産品としています。先住民文化が守ってきた伝統的な紡錘・機織りの手仕事は、ベレン県の地域の魅力を下支えしています。県内の多くのコミュニティに織物産業がある中、私たちの取り組みでは、各コミュニティが織物産業の中でも商品や魅力を差別化し、「織物ルート」として各コミュニティに足を運んでもらうような観光ルートを作り、地域全体の活性化に取り組んでいます。

この動きを受け、UNESCOが”Chaku”と呼ばれるインカ帝国時代から続く持続可能なビクーニャの毛刈りの儀式の文化的価値に注目し、プロジェクトチームや州自治体とともに、無形文化遺産の登録に向けたパイロット活動が開始されました。

特産品のポンチョ(毛織物)を羽織って発表している様子

仕事のやりがい

この仕事の面白さは、なんといっても現場の近さです。開発コンサルタントは政府からコミュニティまで幅広い現場で活動し、最終受益者とも直接関わることができます。現地政府が技術協力で得た成果を政策に取り入れたり、コミュニティの人々の行動変容を見たりすると、開発コンサルタントとしての仕事が役に立っていると実感します。

技術協力は「生きているプロジェクト」とも言われ、調査や活動を進めた結果、プロジェクトの枠組みが変わったり、想定外の帰着点にたどり着くこともあります。また、社会課題の解決策には正解がありません。このような中、求められている成果の一段上を狙って、クリエイティブな提案をすることにやりがいを感じるならば、開発コンサルタントは魅力的な仕事だと思います。