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現地の人びとのストーリーに触れられる、事後評価の仕事

JICA案件では、その効果を図ったり、改善したりするために事業評価が行われています。案件の実施前や中間時点、終了時、事後といったタイミングで評価がされるのですが、開発コンサルタントの仕事の一つとして、この評価業務の一部を評価の専門家として従事することがあります。当社では長年さまざまな案件での評価を担ってきました。今回はインドを中心にこれまで多くの事後評価を実施してきた当社コンサルタントの大西に、事後評価の仕事内容とそのやりがいについて聞いてみました。

大西由美子
2004年からアイ・シー・ネットで勤務。南アフリカの農村開発に1年半従事したのち、インドへ異動。2006年から4年間は旧JBIC・JICAのインド事務所でODA事業に携わる。2011年頃からはODA事業のモニタリングや評価の業務をメインで担当。ビジネスコンサルティング事業部でインド進出を目指す日本企業の支援も行っている。

事後評価とその役割

JICAの案件が終了して数年たった後に案件の効果がどうなったかを見て評価する、事後評価というものがあります。事後評価を簡単に説明すると、JICAの評価ガイドラインに基づいて、個々の案件がどのような成果を上げているかを確認したり、案件自体が実施国の政策や開発計画、開発ニーズに沿って実施されたかを確認したり、また事業の期間や費用に照らし合わせて円滑に実施されていたか等のプロセスを確認したりします。案件のKPIとなる指標が達成されたかどうかと、持続性があるかどうかは、評価をするうえでも大きなポイントとなります。

事後評価の目的としては大きく2つあり、透明性を保ち説明責任を果たすこと、そして当該案件からの教訓を次に生かすことです。事後評価と聞くと、監査のように調べられるというイメージを持つ方もいると思うのですが、長年実施してきて感じるのは、評価のプロセスを通じて、案件を実施してきた方たちの振り返りにも役立つということです。また彼らにとっては、外部の人である私達のような評価者に自分たちの苦労や功績を認めてもらえることは嬉しいことであり、案件を実施した側だけではなく受益者にとってのモチベーション向上にもつながっていると感じます。

評価者に必要な能力や経験

評価をするにあたってまず必要になるのは、JICAの評価ガイドラインを知っていることです。スキルで言うと、社会調査や基礎的な統計スキル、ヒアリング能力やインタビューの技法、分析力やクリティカルシンキング、さらに、その国の事情を理解していることやネットワークを持っていることなどが挙げられます。大学で学ぶことより社会人になってから学べることが役立つ方が多いですね。また評価を専門とするコンサルタントにも得意な分野があることが多いのですが、私は分野を問わずインドという国を強みに、インフラや森林関係などの案件の評価に携わってきました。その中でも印象に残っている評価案件について少し紹介したいと思います。

記憶に残っている評価案件

孵化したウミガメ

インド南部のタミル・ナド州における生物多様性保全の事後評価は印象深いものでした。案件概要は、エコツーリズムにも力を入れたウミガメやゾウなどの野生動物保護と森林保全でした。この案件では、エコツーリズムを通じた地域開発によって、これまで何もなかった地域に観光客が増えたことで、住民たちが仕事をする機会を得て生計を立てられるようになったり、観光客が増えたことで道が整備され、子どもたちも町の学校に行き英語教育が受けられるようになるなど、大きな波及効果も見られました。

この案件が印象に残っている理由は大きく2つあります。一つ目は、上述のように生物多様性保全の効果、波及が生まれていること。そしてもう一つは、調査で聞いた女性の話です。

この案件では、ウェルビーイング調査といって、プロジェクトを通じて関係者の幸福度がどう変化したかを測るヒアリングを実施しました。その中の一人に、今回の案件でコミュニティのリーダーを務める女性がいたのですが、その成長ストーリーを聞き、これまでの案件がこの女性にもたらした大きな変化を感じることができました。

保守的な家庭で育った彼女は、教育もまともに受けられず18歳という若さで見知らぬ男性と結婚、人前で話す経験などもちろんなく怖くて逃げていたのですが、周囲に勇気づけられて徐々に成長し、今回のエコツーリズムの案件でも得意な数字を活かして会計を担当するなど、今では立派なグループリーダーとして力を発揮しています。シャイだったとは信じがたいほど現在の自信に満ちた姿を見て、案件を通じた受益者の変化や成長、幸福度の変化を実感することができました。

受益者へのインタビューをしている様子1

この仕事のやりがい

こうした話をヒアリングしていると涙が出そうになることがあります。自分は、案件の実施には関わっていないですが、案件を通じて成長した現地の人びとと関わり、話を聞くことができることは、評価者として喜びを感じる瞬間です。また、受益者にとっても、成長した自分自身の話を外部から聞きにきてくれるということは自信にも繋がり誇りとなっています。だからこそ、受益者からヒアリングをする際はできる限りその人の言葉で話を聞きたいと思っています。海外だとどうしても言葉の壁があるので通訳者を介することが多いのですが、通訳者とは事前に十分な打ち合わせをして、通訳者の解釈ではなく、なるべく受益者の言葉をそのまま通訳をしてもらうよう依頼するなど、準備も大事にしています。

受益者へのインタビューをしている様子2

評価を通じて、物事をさまざまな角度から見る癖がついたり、ひとつの情報を鵜呑みにせずに情報を集めたりと、探偵になったような気持ちになることもあります。ですが、評価自体が最終的に現地の人びとの生活に直結したり、今後の案件をより良いものにしていくと考えると、大事な仕事だと思うと同時にやりがいを感じます。

最後に

事後評価を経験することで、目の前のことだけではなくて、目標をしっかりと決め、先々のことまでを考えることが癖づきました。最近は評価の仕事だけではなく、実施する立場として案件に関わることも多いのですが、案件が終わった後も、その効果が波及し持続するか、そして受益者の生活や行動が変化するかを常に考えながら活動することで、案件の質が上がっていると感じます。