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こんなに使われないマイナカードを何としても保険証の代わりにしようという権力の意図とは何なのか?

2024年5月16日 3面 マイナ活用 むしろ負担  朝日新聞

 マイナンバーシステムが自治体で機能していない実態が会計検査院の調査で明らかになった。政府が巨額を投じた行政のデジタル化策が、効率化につながらず、かえって負担を増やしかねなくなっている実態も見えてきた。 ▼1面参照

 今回の調査のきっかけは2年前。検査院が一部の自治体を対象に実施した別の政策に関する調査だった。
 その政策に関連するマイナンバーシステムの機能に、使われていないものが散見され、検査院内に懸念が広がったという。「まさか全国的な傾向ではないよな」
 「放置したらまずい」とデジタル分野の専門調査チームを投入し、行われたのが今回の調査だった。対象を全自治体に広げた結果、明らかになったシステム活用の低迷ぶりに、検査院幹部はこう口にした。
 「やっばりなと思う一方、予想以上だった」
 行政の現場の仕事が効率化する――。そんなふれこみだったシステムがなぜ自治体で使われないのか。

 

「かえって現場の事務作業が増える」


 新潟県健康づくり支援課の担当者はこう明かす。どういうことか。
 指定難病患者への医療費支給の手続きを担う同課には、年間約1万3700件(2022年度)の申請がある。ただ、業務でマイナシステムは使わず、申請者には、医師の診断書や住民票、課税証明書といった書類を提出してもらっている。
 設計上マイナシステムで入手できるのは必要書類の情報の一部だけで、システムを使ったとしても、紙で書類を受け付ける窓口業務はなくならない。従来の窓口業務に加え、システム対応の作業が純増することになってしまう。
 またシステムによる照会では必要情報が届くのに数時間~1日以上かかり、作業効率が下がるという。先行導入した他県からは、エラーが出て情報を入手できず、申請者に紙提出を求め直すなど「業務量が増加した」との情報も入っており、導入すれば「人員が足りなくなる可能性がある」
(同課)という。
 ほかに、システムを使おうにも使えないケースもある。たとえば北九州市。障害者手帳の更新に関する手続きでマイナシステムを使おうにも、市側のシステムが対応していないといい、「市民の利便性のために活用を検討しているが、日々の膨大な申請処理に追われ現時点では対応できていない」(担当者)という。(根津弥、座小田英史、岡戸佑樹)

証明書いらなくなるはずが    国保手続き住民も手間

 住民側には、本来なくなるはずだった負担が生じ続けている。
 なかでも、検査院が「非常に大きな影響が出ている」と指摘したのが、会社の退職などに伴い、自治体に届け出る国民健康保険の切り替え手続きだ。
 詳細を調べた451自治体の大半でマイナシステムの機能が使われず、22年度は約220万人が、証明書などの提出を求められていた。国はシステムで前職の情報が得られ、証明書はいらなくなるとしてきたが、自治体が活用しようとしたところ、最新の情報に更新されておらず使えなったという。
 背景には、健保の新規加入や資格喪失の情報を会社側でサーバーに登録する作業に時間がかかるという実情がある。検査院によると、健保のうち1~2割が、情報登録を終えるまでに2週間以上かかっていた。

内閣官房参事官補佐としてマイナンバー制度設計に関わった水町雅子弁護士
 国はマイナンバーで多くのことが出来るシステムを作ったが、PDCA(計画、実行、評価、改善)サイクルができていない。システムを作ることが目的化してしまつているのではないか。本当に必要な業務を正しく選定し、効果を国民や自治体が実感できるようにしなければならない。

元会計検査院官房審議官の星野昌季弁護士
 行政のデジタル化は必要なことだが、マイナンバーの利用普及などには莫大な国費が投じられており、今回の実態をみて納得できる国民はいないはず。システム設計が過大だった疑いもあるのではないか。霞が関では現場を理解しないで制度設計をすることがある。地方のせいにせず国が責任を取らないといけない。

2024年5月16日 3面

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