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この国は、もう滅ぶしかないのか!? 2 『自民党という絶望』

日本の「買い負け」が加速するとどうなるか

 結局、輸入依存度がきわめて高い、食料安全保障がきわめて脆弱な国になってしまったわけですね。

鈴木 日本の食料白給率はカロリーベースで38%なのですが、これが先進国でも一番低いのが問題だと言われていますね。ところが、実質はもつと低いのだということが明らかになってきました。実は8割が国産と言われていた野菜でも、その種はおよそ9割が海外で種取されたものが入ってきています。あるいは、化学肥料の原料はほぼ100%を輸入に依存しているということなども勘案すると、すでに食料自給率は10%を切っているのではないでしょうか。
 いずれにしても、きわめて危うい状況にあることは間違いないのですが、今や、その危機が現実に私たちの足元をおびやかし始めています。
 そのひとつが、2021年秋からの中国の食料輸入の激増にともない食料価格が高騰し、が完全に「買い負け」している状況が続いていること。

 国の大豆輸入量は年間約1億トンです。日本が大豆の94%を輸入に依存しているとはいえ、総量は300万トンにすぎません。1億トンと300万トンでは比較になりません。
 中国で大量に買い取ってくれるというのに、その後わざわざ大型コンテナ船から小分けにして積み直し、高騰している輸送コストをかけて日本に売りにきてくれるでしょうか。中国がもっと買い増しすることになればなおのこと、輸出国は日本などに大豆を売っている場合ではない、ということになるでしょう。円安などの要因も相まって、日本が買い負けをする状況は今後も加速する可能性が非常に高い、と見るべきでしよう。
 もうひとつが、ウクライナ紛争の勃発によってロシアとベラルーシに大きく依存していたカリウムが入って来なくなるという事態が、現実のものとなりつつあることです。「敵国」には資材を輸出しない、という両国の姿勢をアメリカは批判していますが、実際に同様のことをやってきたのはアメリカ自身でしょう。まさに「食料は武器」なのです。
 カリウムは化学肥料の原料になるのですが、この資材を日本は100%輸入に頼っていました。リンと尿素も化学肥料の原料で、ほとんど100%輸入に頼っており、これらは中国に大きく依存していたのですが、中国が、「自国での需要が大きく上がっているために日本にはもう輸出できない」と言い出したのが2020年のことです。そのため、価格が2倍に跳ね上がるなど相当に厳しい状況に陥り、今や、そもそも原料が入ってこないので、製造中止せざるを得ない配合飼料も出てきている状態です。
 このままでは、肥料そのものを農家に供給できないという事態になりかねない。化学肥料がなければ、通常の慣行農業(農薬、化学肥料を使う一般的な栽培方法)であれば収穫量は間違いなく半減します。そして、日本の農家の99。4%は慣行農業です。この事態を政府あるいは日本の消費者は、どれほどの危機感を持って受け止めているのか、甚だ疑問です。
 私はこれまでも、日本の食の安全保障の脆弱さについてずつと警鐘を鳴らしてきましたが、いよいよここに至って、食料や資材が「本当に」人ってこなくなるという事態が現実のものになりつつあるということを直視する必要があります。

 

そんなタイミングで、まさにラトガース大学などの研究チームから、驚くような試算が出てきたわけですね。

鈴木  そうです。局地的な核戦争が起きた場合、世界で被曝による死者は2700万人だが、それ以上に深刻なのが、物流がストップすることによる2年後の餓死者であるという分析がなされました。それによると、世界で2億5500万人の餓死者が出るが、それが日本に集中するという。世界の餓死者の3割は日本人で、日本人口の6割、7200万人がアウトになるという試算でした。多くの人はびつくりしていましたが、日本の実質の自給率を考えれば、驚くことは何もなく、むしろ当然な分析だと思います。多くの人はびっくりしていましたが、日本の実質の自給率を考えれば、驚くことは何もなく、むしろ当然な分析だと思います。

「コメ余りだから作るな」「牛乳も搾るな」

鈴木  最大の問題は、この後に及んでなお、岸田政権から食料自給率をいかに上げるかという議論がまったく出てきていないことでしょう。
 いまだに「経済安全保障」の発想から抜け出せずに、国内の農産物はコストが高いのだから基本は輸入依存でいく、貿易自由化を進めて調達先を増やしておけばよい、といった論調で日本の食料政策が進められています。
 岸田政権の農業政策の目玉は何かと言えば、「輸出5兆円」だとか「デジタル農業」だとか、喫緊の課題である食料自給率とは何ら関係のない空虚なアドバルーンを打ち上げているだけ。このままでは、たとえカネがあつても肝心の国民の命そのものが守れないのだ、という現状認識が欠落しているとしか思えません。そもそも、農産物輸出を現状の1兆円から5兆円に拡大すると言いますが、現在の1兆円も完全なる「粉飾」です。輸入原料を使用した加工食品の占める割合が多く、本当の国産農産物の輸出は1000億円もありません。
 もちろん、輸出振興も農業のデジタル化も、必要に応じて進めていくことは否定しません。しかし、ウクライナ紛争による物流の停滞や、円安による買い負け加速などが進み、現場の農家では肥料も飼料も価格は一昨年の2倍になり、燃料も含めた生産コストは急激に上がっています。それにもかかわらず、コメの価格も牛乳の価格も上げてもらえない、価格転嫁をしてもらえないという状況で、日本の農家の4割が消えてしまうのではないか
というくらいの事態に至っています。
 

ところが、日本政府は「コメ余りだから作るな」「牛乳も余っているから搾るな」ということを繰り返しています。余っているのではありません。コロナ禍に直撃され、消費者の多くが買いたくても買えないという状況に陥っているのです。日本の貧困が顕在化したということです。


 本来、日本政府がすべきことは、農家からコメや乳製品を買い上げて、食べることができなくなった人たちに届けることです。そうした政策が、巡り巡って日本の自給率の引き上げにつながつていくのです。
 実際にアメリカは、年間1000億ドル近い農業予算の64%を、消費者支援のSNAP(旧フードスタンプ)に回しています。所得に応じて最大で月7万円程度の食品を購人できるEBTカードを配布するというシステムです。これにより、消費者も助かるし、国内の生産者も助かる。だから、この消費者支援が農業予算として振り分けられているのです。
 なぜ同様のことを日本政府はできないのでしょうか。今や、国内生産力を高めて、コロナ危機やウクライナ危機を乗り越えていかなければならないというのに、相変わらず、生産調整しろ、牛乳を搾るな、牛を殺せと言っている。この大局的見地の不在は絶望的と言うしかありません。
 生産資材の価格上昇は酪農家や畜産農家を直撃しており、熊本県では「9割の酪農家が赤字。もはや数ヵ月も持たないかもしれない」というような話も出ています。2022年1月から11月の農業倒産は過去20年間で最多、とくに畜産農業の倒産が前年同期比188・8%増と急増しており、鹿児島の年商30億円の大型養豚農家も倒産しました。
 まさにギリギリの瀬戸際という状況なのですが、ところが、そんな状況になってなお、
2022年10月10日に鹿児島県を訪れた岸田首相は、資金繰りにあえぐ飼育農家との車座対話をしたのちの記者会見で「今こそ輸出力の強化だ」とのたまった。生産を効率化し、国際競争力をつけて輸出を目指せ。これが、資金繰りに窮して明日にも倒産しようとしている農家を前にして政府が打ち出すべき政策でしょうか。


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