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弱みを見せることは何も恥ずかしくない。--『会社は「仲良しクラブ」でいい』を読んで

nulab社の橋本さんが書いた『会社は「仲良しクラブ」でいい』を読んで、自分の弱さを開示することについて考えた。

そもそも僕は何もできない。

いや、まあ、実際はそんなことないからIT業界で生き残っているんだけど。
知識は足りないし突出した技術もないよなーって思っている。足りないって気持ちが常につきまとう。

そんな劣等感まみれの僕に本書は随分と刺さったので、この気持ちの昂りをぶわーっとまとめてみる。
伝えたいことはただ一つ「弱みは他人に見せてもいいよ」だ。

本書の概要

本書はnulab社の歴史や、代表取締役である橋本さんが考える組織にとって大切な事が書かれている。代表的なメッセージがタイトルの「会社は仲良しクラブでいい」である。

目次は以下の通り。

第1章 チームはコラボレーションで強くなる 
     ―想像以上の「想定外」が生まれる場づくり
第2章 工夫がコミュニケーションを加速させる 
     ―コミュニケーションはうまくいかなくて当たり前
第3章 最強のチームは偏愛あふれる一匹狼の群れ 
     ―メンバーの多様性がチームの多面性になる
第4章 「弱み」を見せあえば、「強み」を出しあえる 
     ―「できない」からはじまる逆説のコラボレーション
第5章 楽しめば、楽しくなる、うまくいく 
     ―だから、会社は「仲良しクラブ」でいい
会社は「仲良しクラブ」でいい 目次

「弱み」を見せあうこと

本書の中で最も興味を惹かれたのは、第4章の弱みを見せあうことへの考え方だ。この記事では主に第4章を引用して弱みの開示について書く。

僕は30才手前で完全に業務未経験の状態でIT業界に飛び込み、36才になった今もそれなりに仕事をこなしている。
本書を通して自身をふりかえると、僕の生存戦略こそ「弱さを開示すること」だったことに気付いた。

右も左もわからない状態からスタートしたので、当たり前だが本当に何もわからない。

知らない言葉と概念に取り囲まれながらも仕事をこなさないといけないので「わからないので教えてください」って誰彼問わず教えを乞いた。そして教えてもらっても大体できないので「一人でできそうにないので手伝って下さい」って一緒にやってもらった。

ただ、自分で弱みを克服することは難しいですが、まわりに開示することで、自分の弱い部分を仲間が補ってくれます。(中略)弱みをお互いに見せあうことで、お互いに貢献できる場所が見つかりやすくなり、働きやすくなるのではないかと思います。
第4章 「強み」はなくても「弱み」は誰もが持っている より

第4章の中の『「強み」はなくても「弱み」は誰もが持っている』から抜粋した言葉だ。

社会人経験が浅い時分は、ベテランの先輩方に対して「あの人は何でもできるんだなー」とか勝手に思い込んでいた。そして、ある程度経験を積んだ今では、何でもできる人なんていないことを知っている。

じゃあなんで先輩方は「これ全然わかんないんだよー」とか「よく知らんけど雰囲気で仕事をやってる」って言ってくれなかったんだろう。不思議に思う。

僕は今いわゆる主任クラスだ。
「ナカミチは主任なんだからこれくらいは知らないといけない」とか「XX年目だからこれはできるだろう」みたいな言葉をかけられたことがある。

言われた時は、確かにそうだなーと思っていたが、多分このような言葉が皆を「できなければいけない」と縛り付けているのではないだろうか。できない自分を見せてはいけないと、思い込ませているのではないだろうか。

たまたま僕は業界経験もなく会社の規則にも疎かったため、「わからん」「苦手だ」を平気で言えていただけで、皆はそうでないだろうなと思う。きっと知らず知らずのうちに、組織が期待する能力や振る舞いに応じようとしている。

幸いなことに、僕は恥ずかしさなど微塵も感じずに弱さを晒せたおかげで、数多くの人に助けてもらい、今では後輩の指導なども多少はできるようになっている。

誰にだって苦手なことはある。それを恥じることはない。

恥じるべきは弱みをさらした人間を馬鹿にすることだ。そして弱みを馬鹿にすることを許す文化だ。

そもそも「強み」とはなにか?

たとえば僕なんかは運が良いこと以外、あまり人より秀でたものを持っていない感覚でいます。(中略)それは、上には上がいることを知っているからです。
第4章 「強み」ってなんだろう? より

僕も同じことを思う。
結局のところ、狭い環境の中で他者より上手にできることがあったとしても、それが自身の強みとは到底思えない。
自己評価の問題じゃないの?と言われればそうかもしれないが、ビジネスやコミュニティを通してたくさんの人と交流していると、自分が何が得意なのか全くわからなくなる。

また、強みについて面白いことが書いてある。

「やりたいこと」と「強み」のミスマッチが不幸を生むケースが多くあります。他者からは「特に強みではない」と思われているのに、本人は変なプライドで「やりたいこと」を意固地に「強み」と思い続けていたり。そして意固地な態度は指摘しにくいので、周りを困らせてしまったり。
第4章 「強みの相互補完」には課題がある より

最悪のケースだ。
自身においても、また周囲を見回しても思い当る節がある。
自分で強みだと思い込むことが起こす不幸について言及しているが、じゃあどうすればいいのだろうか。

そもそも僕は「強みを見つけよう」とか「強みを伸ばそう」みたいな教育を受けてきた。同様の人も多いだろう。

ふと思い出したことがある。
この業界で初めての入社先での出来事だ。
あるプロジェクトが難航し、助っ人としてひむひむ (@eielh) がやってきた。僕が頭を抱えていたエラーをささっと解消する姿を見て、凄腕エンジニアに賞賛の声をあげると、こんなことを言われた。

「僕がすごいとかではなく、ただやったことがあっただけ。長くやってるから知ってただけ」

今この言葉を思い出して、僕からしたら凄腕のこのエンジニアも、上には上がいることを知っているからこんなことを言ったのか、とか考えている。

自分が強みと思うもの (それが本当に他者も認める強みであったとしても) に固執することは多分よくないんだろうなと思う。孫子も「虚実編」の中で「一度の勝利に味を占めて、同じ戦型で戦い続けるといずれ負けるので、無形こそ大切だよ」ってことを言っている。

強みとかではなく、他人より長くやってきたことくらいの認識がいいのかもしれない。

誰かに求められることが、自身の認識は問わず、他者から見たあなたの秀でたところなんだと思う。所謂「強み」というやつは自己の認識ではなく、他者の認識。きっと周囲の人の数だけ、僕やあなたの強みは存在する。そんな気がする。

「弱み」を見せあえば、「強み」を出しあえる

誰もが弱みを持っていることを当たり前に認識し、弱みを開示できる環境ってのは純粋にいいなーって思う。一般的な社会人にとって、絶対にその人でなければいけない仕事ってとても少ないはずだ。

「この立場だからできなければならない」とか「何年目だからこれをしろ」とかそんなの疲れるわ。できる人を該当する役割に置けばいいだけだ。

僕は相変わらずプログラミングが得意ではない。あとExcelでの資料作りが死ぬほど嫌いだ。その代わりチームをまとめたりお客さんと折衝するのは大好きで、今はそんな仕事をしている。
プログラマーになりたくてこの業界に入ったのだが、その場その場で求められることをやっていたら、結局人と向き合う仕事をする人になった。

本書で述べられている通り、弱みを開示することが結果的に組織を強くし、仕事を成功させることにつながっていると考えている。

web制作→プログラマー→インフラ→スクラッチ開発→マネジメントみたいな道のりを歩いてきた。
いきなり領域変更を命じられ、毎回わからんことだらけから開始した。

冒頭に書いたが、僕の生存戦略は弱みの開示だ。「わからんから教えてください」をひたすらやってきた。社内だけではなく、コミュニティやお客さんにも平然と弱みを見せてきた。

「プロのくせにわからないなどと言うな!」とお客さんに怒られたこともある。前任者が逃げ出してしまい本当に誰もわからない状態だったので、怒られようが教えてもらうしかない。

僕の経験から言うと、丁寧に教えを乞うとだいたいの人は優しく教えてくれる。弱みを笑う人は思ってるほどいない。

自分を強く見せる必要なんてないと思う。そんなのすぐにばれるし。
強い人なんて皆求めてないんじゃないかな。

おわりに

第4章に焦点を当てて書いたが、『会社は「仲良しクラブ」でいい』は全章通してお堅めの職場に対していい気づきになることがたくさん書いてある。組織とそれを形成する人間がすこしでも過ごしやすいようにと、あたたかなメッセージに溢れている。

月並みな言い方だけど、とってもいい本だった。

一点だけ愚痴を言うと、会社の机に置いておいたら偉い人が顔をしかめそうなタイトルにだけはちょっと困る。

読めてよかった。
この記事を読んで気になった方は手に取ってほしい。

#ヌーラボ仲良し本


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