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茂見社長とユーザ起点のイノベーションを探る ー第1回 : 日本郵船 様ー 2/3

ICI総合センターが「ICIオープンイノベーションLIVE」にて、共創パートナーである 株式会社トヨコーの代表取締役社長CRC 茂見様と日本郵船株式会社の執行役員で、デジタライゼーショングループ長も務めていらっしゃる鈴木様をお迎えして3社による対談が2020年7月1日(水)オンラインにて行われました。昨日より3日連続で対談の模様をお伝えてしております。今回はPart02をお送りします。

Part01はこちら▼


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苦悩と隣り合わせだったシリコンバレーでの体験

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新会社の立ち上げ作業の最中、社長からシリコンバレー行きの話が来ました。内容としては、風を感じてこい、というミッションでした。
当時、シリコンバレーには三菱商事さんによるMラボというオープンイノベーションの拠点を目指したシェアオフィスがありました。そこにいる人たちで何か面白いことが出来たらいいね、ということでそこに入居するかたちでスタートしました。

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現地の風を感じるということでしたが、具体的には何をされたのでしょうか。

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まずシリコンバレーの田舎ぶりに驚きました。ハイテクの21世紀の超現代都市かと思って行ったら、カードは使えず現金のみとか。どこにでもある田舎の街がなぜハイテクの集積地と呼ばれているのか、それが一番のギャップでしたね。あとは死ぬほど家賃が高いことにびっくりしました(笑)。とにかく、人に会って知り合いを作るしかないので、初めに現地で行われているミートアップやセミナーに片っ端から参加してみました。カリフォルニア地域の特徴なのか、オープンでフランクで、Give&Giveの文化があり、また裏がないという印象でした。「何やってるの、NYKって?」などと、面白そうであればそこから交流が生まれました。その中から興味を持ちNYKをあらためて調べた人達からは「この事業にAI・IoT使えない?」とか「友達にこんな人がいるから紹介するよ!」などの声をかけてくれることもありました。基本的に、人と人を会わせて何かを解決するとか、何かを作り出すことが好きな人が多かったんだと思います。自分の利益のためでなく、役に立ったからうれしいなくらいの感じでした。なので「なんでそんなに親切にしてくれるんだ?」と聞いても「いいんだいいんだ、楽しけりゃ」と。そのオープンな雰囲気から人間関係が無限に広がっていく感じがありました。それが、イノベーションが生まれる風土なのかぁ、と思いました。この雰囲気にあこがれて世界中から集まってくる人がいる。当然、若手を支援しようという空気感もあり、そこからエンジェル投資家とのつながりも広がりました。エンジェル投資家も安く買い叩こうとはしないし、むしろ助言をくれるような、Give&Giveでオープンな雰囲気がそこにありました。
現地のベンチャー企業が(NYKに)期待するのは、自分のプロダクトを使用するのか、あるいは投資してくれるのか、だと思うんですよ。そして現地での日本企業の評価は「スタートアップの見学のみで成果につながりにくい」でした。なので、まず自分の会社の状況やシリコンバレーに来た理由(風を感じに来た)を伝えました。より具体的には「ウチはミドルからレイターの企業の、しかもある程度証明された技術しか使わない。なのでシードやアーリーはごめんなさい」ということですね。すると「鈴木さん何しにきたの?!」と聞かれたので、「できることは、友達になることだ!」と(笑)。 それを伝えた結果、お金にならないと判断した人は離れていったけど、面白いと思った人は近づいてきてくれた。今も連絡くれる人もいるし、面白いテックを見つけると紹介してくれる人もいる。

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どのくらいの期間、風を感じたんですか?

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だいたい8カ月くらい。ただ、半分くらいは出張でシリコンバレー以外のいろんなところに行ってましたね。テックは地元の産業によるものが多く、シリコンバレーはコンピューターやアプリ系などが主力で、ロボティクスやバイオテックはボストン、他の地域(ニューヨーク、シカゴ、テキサス、トロントなど)も含め、各地の特徴があります。船の世界はディープテックであり、コンシューマービジネスではないのでフィットする技術は少なく、いい機会だと思っていろんな場所に行きました。基本はオープンな世界なので、人と会うハードルが低く、みんな名刺も持っていない。すべてリンクトインなんですよ。
若い人に対するセミナーでは「自分のやりたい商売をしたいなら、その商売で成功している人の話を聞く事」と伝えました。リンクトインで見つけてお願いすれば、話は聞いてくれる気軽な環境がありました。「人が中心」であり、どうネットワークに入り込むか、入れば広がるという流れがあったので、いかにして面白い人と思われるか、これが重要だったと思います。

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入社当初の素の自分を、シリコンバレーでの8カ月間でも通せたんですかね

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立場的には「ずっと」は厳しかったですけどね。(笑)

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海外で多くのネットワークを築き、自身の経験を伝えるためNYKデジタルアカデミーを立ち上げられました。

デジタライゼーショングループの立ち上げ

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その後、日本に戻られてデジタライゼーショングループの立ち上げをなさったんですよね。

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デジタライゼーション、という部門が会社にできていて、何をしようかなと考えていました。でもDXをするということは考えていませんでした。DXについての定義がなく、DXのためのDXをする気はなかったので。その上で、社員が働いて楽しい会社にしたかったので、わくわくする方向に進めました。そのため、いろんなことを吸収する必要があると思いました。「俺になれ」といってもさすがに無理でしょうし(笑)。
一つはリカレント教育ではないですが、イノベーションの作法を自然体でできている人と、学術的に体系化されているものを学習する人がいましたし、みんながみんなイノベーションに必要ですが自然にはできないことが必ずあるので、それら方法を教えられる人を作ることにしました。会社の最大の財産は人なので、人づくりをしっかりしようと思い、NYKデジタルアカデミーを作って教育を行うことにしました。
アカデミーで教える際には、(講師役が)自分の会社をよく知っていること、(講師役も生徒も)その中で楽しんでもらえること、(生徒役は)教育内容が仕事に密着してないと腹落ちしないのでそれを重視すること、などの考えがあり、内製としました。さらに、自分の成功体験の言語化と理論付けして伝える能力には、その裏にある経験値が大切という思いもありました。そのような考えに基づき、新しい試みである、このアカデミーの学長をお願いした人間からは、当初「教育は受けたことはあるけど教えたことがないので“戸惑い”が抜けない」と言われたのです。そこでアジャイルで進めることにしました。その学長には「最初は生徒と考えずに仲間と思ってほしい、仲間と一緒に新しいものを作っていくんだ」、という風に伝えました。おそらく1~1年半は完成形までかかると見込んでいたので。
会社を車だと思えば、イノベーションを進めるための両輪があるとすれば一つは「人」であり、もう一つが「技術」だと思っています。イノベーションというのは、部門を作って頭を動かすことで生まれるものではなく、アイデアは常に考えているから、例えばトイレの中や寝る寸前や歩いているときに偶発的に生まれるものなので、私のところでは新ビジネスを作るのではなく、人を作り、常に最新の技術情報をアップデートすることで交差点と節点をいかにたくさん作ってあげるかということを意識しました。人は本来、自律的に考え解決する過程は楽しいはずだと思います。私がよく言うのは「うちの会社には良い種、水、空がある。ただ、それを育てる人がいない。だからそれ(育てる部署)になりたいと思っている。」と。その芽を伴走して育てるために、3チーム5ファンクションくらいの体制を整備しています。
我々のアカデミーでは、例えば物事の分析には統計学ができる人でないといけないのと同様に、同じ気持ちで盛り上がれる人、賛同してくれる人でないといけないと思っていますので、講師に大学の先生などを招くときには、それを基準に選定させてもらっています。ところで私がデザインシンキングに初めて出会ったときに、これは大喜利か芸者遊びだな、と思ったんです。つまりは瞬発力が必要だと、そのあたりが面白くて、日本に戻ってきてから大喜利の教室に行きました。その教室で意気投合した方がいて、大喜利をもっと学術的なものにして、ビジネスに役立つものにしたい、ということを考えていると聞いて、アカデミーの講師に来てもらったこともあるのです。だから基本は“ノリ”ですよね。

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ここまでの会話を受けての”ノリ”と聞くと、ものすごく重みや裏付けがありますね(笑。)

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あんまり考えずにやっているんですけどね。ワクワクするものを作ることが重要だと思いますし、みんなにワクワクしてほしいし、楽しさを感じてほしいです。

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DXというストーリーにつなげる中で、日本郵船さんの取り組まれている技術的な面ではなく、生まれてくる土壌や本質的に大事なものは何か、ということをお話し頂いている印象です。

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シリコンバレーでの体験やDXの取組での苦悩をご紹介いただきました。

DXの本質とは何か...

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法隆寺を建てた大工の西岡さん※の話にもありますが、「木を見るより土を見ろ」なんですね。だから土を作りたい。究極的に何につながるかというと、若い人が頑張ると、我々が楽になるじゃないですか。シリコンバレーの企業年齢も40歳といわれていますけど、日本もスタートアップが増えてきている。考え方もしっかりしていると思うし、若い人が能力的にできないのではなく、任せていないからできないと思っています。年功序列の中でも上位の仕事をさせてもらえる楽しさもあるはずなので、どんどん任せていくことが重要だと思うし、我々が思っているより若い人は立派で、すごいことができると考えてます。
これからの世の中は、ミレニアムやジェネレーションY/Zの時代に入り始めている。もともと刷り込まれているモノが違う。徐々に「この世界」になじんできた我々と、最初から「この世界」にいる若い人の間には認識のギャップがあります。私たちは自然にデジタルしていない世代なんですよ。例えば「デジタルする」と言っている時点で駄目なんです。今の若い人からするとデジタルは自然なこと、特殊なことではない。若いデジタル系のスタートアップと話すときに、「DXって何ですか?」と聞かれます。「デジタルトランスフォーメーションだって。デラックスじゃないんだって」って伝えますが、Natural Born Digitalからしたらトランスフォーメーションする必要がないんですよ。そもそもDXという言葉が辞書にないよね。だから、DXといっていること自体が駄目なんでしょうね。

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DXすると言っているうちは、「変わる前」ということですよね。

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DX化することが大変なことか、と聞かれますが、無理やりするものではなく自然となるものだと思っています。ちょっと努力は必要ですが。ITもデジタルも境目は曖昧な印象ですけど、デジタルもコモディティ化すると思うので、いずれ境目がなくなると思っています。
AIやビッグデータ領域になってくると、今は完成した商品がないのでテーラーメイドとなる。するとどうやってデータを与え、材料買って、レシピ書いて、という世界になります。すると覚悟が必要になってきます。要は、データ自体合っていますか、正確ですかということですね。出てくるデータはおかしかったりすることもありますからね。その検証も最初は人の判断が必要です。「あ、ちょっと感覚と違うよね」となったらクレンジングがうまくいってないのか、データが足りないのか、余計なデータが入っているのか、など様々あります。デジタルするということは、いかにデータを信用するかだと思うんですよね。終わりのない成長をいかに一緒に遂げるかの話なんです。この点を理解してもらわないとデジタルはキツイですよ。すごく汎用的で、コンシューマー側からデータが取れて組み立てられるAIであればパッケージ化や商品化されると思う。しかしインダストリーやカンパニー特有の現場や場所に適用するものは、そこで作るしかないと思っています。
デジタルは「『間違う』という前提」と「お金と時間がかかる」という点を正しく伝えてないからDX担当の人が悩んでるんじゃないでしょうか。一般的なDXの華やかなイメージの裏にある地味な苦しみ・・・このギャップがデジタルを知らない人とやっている人の間にある溝なのではないでしょうか。 

(つづく)

※西岡常一さん:法隆寺専属の宮大工。同じく法隆寺の宮大工であった祖父の意見で大工ながら入った農学校で、土の性質によって生命が変化し木も変化することを学ぶ。

明日はついに最終回となるパート3をお届けします。ご期待ください!

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