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『オットーという男』(The Man Called Otto)2023

『オットーという男』(The Man Called Otto)2023
 2023年5月30日(火)Amazonプライムで視聴。
 気難しく、いつも不機嫌で、何かにつけ、誰かにつけ「idiot!(ばかものが!)」と罵る独居老人をトム・ハンクスが演じる。彼の名前はオットー・アンダーソン。
 彼は亡き妻の記憶の中に生きており、何度か自死を試みている。彼はこの世で生きてゆく希望を完全に見失っている。にもかかわらず、昔から彼が住んでいる集合住宅の自治会長だった頃の習慣で、毎朝住宅地中を見回る癖はやめられない。
 ところが同じ集合住宅の向かい側の部屋に、陽気なメキシコ人家族が引っ越してくるところから、彼の孤独で絶望的な人生に変化が起き始める……という話。
 実はこの映画は『幸せなひとりぼっち』(2016、原題はEn Man Som Heter Ove 『オーヴェという男』)という北欧の映画を、そのままアメリカに舞台を移して、ほとんど同じ内容でリメイクしたものだ。ストーリーの細かい部分までそっくりである。
 だから、元の映画を観たことのある私にとっては、どの場面でも次の展開が読めてしまうので、目新しさは無かったのだけれど、やはり良い物語であることには違いないと思う。
 孤独に歳をとってゆき、生き続けることに希望が持てなくなった老人は、この現代社会において増え続けているのだろう。この映画では、元々赤の他人だった人々が、擬似家族のようなつながりを生み出してゆくことで、オットーという男の居場所を作り出してゆく。
 夫婦は最も強い人間の絆のひとつかもしれないけれど、必ずどちらかが先立ち、もうひとりは独りになる。あるいは、夫婦という基本的な人とのつながりが崩壊してしまい、最も頼りがいのあるはずの関係を喪失してしまう人もいる。
 そんな人を救えるのは、血縁の垣根を超えた新しい家族のようなつながりなのだと、この物語は主張しているようだ。人間が「死んでしまいたい」と思うことなく、生きてゆく手応えを感じながら生きるためには、孤独から救い出されるための「よすが」となる家族のようなものが必要であり、そのためには血縁に基づいた家族の枠にとらわれている場合ではないのだと、この映画は訴えかけているのである。
 この映画では、そのようなつながりを生み出すきっかけを、引っ越してきたメキシコ人の主婦が生み出してゆく。彼女は「頼り頼られ」という、助け合いの関わり合いに否応なく周りの人々を巻き込んでゆく。自分ができることを人のためにし、人から助けてもらうことも遠慮しない。こういうキャラクターが人と人のつながりには必要なのだろう。
 いまの日本でも「無縁社会」という言葉が時折聞かれる。人がたくさん近くに隣り合って生活しているのに、互いに支え合う「よすが(縁)」が無いのだ。
 昔は良かったとまでは言えないと思う。昭和前半ごろまで、ご近所で味噌や醤油の貸し借りも行うような世界があったのだろうが、その代わり人間関係の煩わしさや息苦しさもあっただろう。
 現代は、そのような煩わしさ、息苦しさを捨てた結果、互いに助け合い、支え合って一緒に生きてゆくつながりも見失われてしまった。何がいいのか、どこがちょうどいいバランスなのか、難しいところである。
 しかし少なくとも、孤独に陥りがちな老人が生きてゆくためには、過去の美しい思い出を大切に守りながらも、現在の「頼り頼られ」ながら生きる関係が必要なのだろう。
 老人は老人同士で集まって施設で暮らしていてください、ではなく、老人も巻き込んで一緒に生きてゆくような地域を作っていかないと、誰もが幸せな人生を全うすることはできない。誰もがやがて歳をとってゆくのだから。
 何度観ても、そんなことを考えさせられる味わい深いストーリーの映画である。
 

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