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島薗進・釈徹宗・若松英輔・櫻井義秀・川島堅二・小原克博『徹底討論! 問われる宗教と“カルト”』NHK出版新書、2023

 日本を代表する宗教学者たちであり、カルト問題に詳しい6名による対談をベースに、それぞれの対談参加者が執筆された小論を挟む形で構成されている。対談のテーマは、第1部が「問われる宗教と“カルト”」、第2部が「われわれは宗教とどう向き合うべきか」。
 本書が出てきた背景には、もちろん2022年7月8日に起こった、安倍晋三元首相殺害事件によってあらわになった、旧統一教会(現、世界平和統一家庭連合)と自民党政権との癒着、そしてこの旧統一教会が展開してきた霊感商法などによる膨大な資金集めを始めとする数々の反社会的活動などの問題がある。
 この本は、その旧統一教会の実態を宗教社会学的に、また歴史的にあぶり出し、その問題点を明らかにしている。また、日本では宗教が、特に教育の場においてタブー視されすぎたために、日本人の「宗教リテラシー」が育ってこなかったことも、問題の原因のひとつであることを明らかにしている。
 と同時にこの本では、日本の宗教界がこのような反社会集団としてのカルトを、正しく批判してこなかったことへの厳しい指摘がなされている。さらには、キリスト教会のような既存の宗教集団自体が、カルト化してしまっている危険性に対しても鋭く警告している。
 例えば、キリスト教会が信者獲得のために、「洗礼を受けなければ地獄に落ちる」とか、「献金をしなければ救われない」といった論理で、恐怖を道具にしながら伝道活動をすることなどの危険性に思い当たるクリスチャンもいるのではないだろうか。
 また、保守的な家庭観や性倫理を、それ自体が悪いものとは言えないまでも、人間の自由を奪って拘束する形で強制することが、果たして妥当なのだろうかといった問題など、キリスト教会が胸に手を当てて考えるべきヒントがいくらでも出てくる書物である。
 対談と小論によって、カルトの問題性が浮かび上がってくるだけでなく、「そもそも宗教とは何か」「本来どうあるべきなのか」「日本人が宗教リテラシーを身につけるにはどうすればよいのか」といった、宗教と信仰の本質にまで至る討論と論考がなされていることが非常に興味深く、私たちに思索を促すものとなっている。
 いま宗教に少しでも関わって生きている人間にとっては、必読の書であると同時に、普段「自分は宗教に関わっていないはずだ」と思っている多くの人にも読んでほしい。
 日本の宗教教育は「空白」だ。しかし、これからはさまざまな信仰を持つ人々と世界で、また日本で出会ってゆく。そのときに、自分は特定の宗教の信者ではないと言っているだけでは済まない。さまざまな人間と渡り合う中で、全ての人間にある「尊さ」を守りあって共生するために、「宗教リテラシー」がどうしても必要になってくる。この本はそれがなぜ必要なのかということを理解するための入り口として好適であるので、強くお薦めする。
 ただ、対談に参加した面々がいずれも同じような世代の男性ばかりということには、ジェンダー・バランスの悪さは感じざるを得ない。これは、この業界(?)のこれからの課題であろうとは思う。

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