樹
樹は何を語っているだろうか?
農学研究科教授の清和研二氏著書『樹に聴く 香る落葉・操る菌類・変幻自在な樹形』を読み終わった。植物も生きているということは感じていたけれど、具体的にどのように生きているのかは本著を読むまでちゃんと考えたことは無かった。小学生の時に受粉のシステムなどを学んだはずだけれど、それらをすっかり忘れていたとも言える。
本著では生育場所の異なる12種の樹を題材に、成長の仕方や子孫の残し方などを詳述している。また、それぞれの樹木やそれらの花、種子などのスケッチも併せて掲載されているため、実際にイメージをしながら読み進めることも出来た。樹木毎の違いについて学ぶことは非常に面白いものであった。また、当たり前ではあるけれど、樹にも成長過程の若木があることに改めて気付くとともに、大木や老樹に至るのはごくわずかだということも知ることが出来た。
さて、本著を読んでの一番大きな感想は、樹は忍耐強いということだった。樹の成長には光合成が必要であり、そのためにはギャップ(空間)が生じて光が葉に当たる必要がある。ただ、森の奥深くなどは鬱蒼としていて光が当たらないケースもあるが、その時は発芽を抑制したり成長を留めながら、周囲の樹が朽ちてギャップが生じるのを忍耐強く待っている。また、土中では根を広げながら光のある場所で新たに発芽したり、菌類と共生することで養分を補充しているケースもある。成長が出来るその時まで、じっと耐え忍んでいるのだろう。
一方で、川の近くや斜面では、洪水や地滑りなどの影響でなぎ倒されやすい樹もある。これらの樹は、早く成長して早く受粉を行うといった活動をしているケースもあり、環境に即した繁栄の仕方をしている。種子を遠くに運ぶ方法も、風に飛ばされるケースもあれば、鳥の糞として運ばれるケースもあり、それぞれの樹が知恵を絞って子孫を残そうとしている様がうかがえる。生態系とか共生という言葉を改めて考えた一冊でもあった。
本著を読み進めながら、近所の公園や道を歩いてみると、確かに大きな樹だけではなく、芽が出たばかりの草や、若木がたくさんあることに気付いた。また、樹の形もまっすぐ伸びているだけではなく、枝を横に伸ばすものや、曲がりくねっているものもあったし、風で倒れている場所も見つけた。そういう場所には確かに、新しい若木が数本育っているケースも見かけ、自然の複雑さや偉大さを改めて感じたように思う。
樹はもちろん物理的には喋らないけれど、その生き様によって人間に伝えていることもあるのではないだろうか。そして、そういう自然の声に耳を傾けることが、世界と関わりを持って生きる、最も原始的で初歩的なことではないか。それを忘れて人間社会の中だけで自然を排除して生きていないか。そのような問いを改めて思い出させる一冊でもあった。
樹のように、謙虚で忍耐強く、レジリエンスのある生き方をしていきたいものだ。
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