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ますく堂座談会レポート「インフラとしてのジャニーズ 令和の初めに『少年たち』を語る」(冒頭部を抜粋)

ジャニーズ黄金期としての「平成」


益岡 さて、本日は二〇一九年五月一日です。つまり今日から新しい元号の「令和」が始まるということになるわけですが、こんな「しかるべき日」に、ある意味では大変相応しく、またある意味では非常に罪深い(笑)この座談会にご参加いただいたことに、まず感謝したいと思います。
今回の企画は、「読書サロン」というセクシュアルマイノリティが登場する小説を読む読書会の新年会で、トットさんとみずきさんと一緒にずっとジャニーズの、特に「8時だJ」の話を二時間くらいし続けていたのがきっかけです(笑)
皆さんご存知のとおり、滝沢秀明くんが昨年末をもって、裏方に専念するということで引退されたわけです。その記念に「タッキーさようなら企画」が各テレビ局で組まれることになった。テレビ朝日の「8時だJ」同窓会スペシャルも、その一環として放送されたわけですが、この番組は一九九八年四月から翌年の九月までの放送だったということで、わずか一年半なんですね。でも、三人の中には強く焼き付いていた番組だった。それはおそらくこの番組が「ジャニーズJr.の黄金時代」を体現した番組だったからなんですよね。
新年会での話題も、とにかくあの頃のJr.は黄金時代だったというところからはじまって、ドラマの話になり、いったん、ジャニーズから話題が離れても「8時だJ」の話にまた戻して、ずーっとジャニーズの話ばっかりしていたんです。
一同 (笑)
益岡 そのときに、実はだいぶ話しちゃったんだけど、これはしっかりと場をつくるべきじゃないかと。あらためて、もっとジャニーズについて一生懸命話してみた方がいいんじゃないか、と(笑)
ただ、なにかテーマになるもの、「課題作」のようなものがないと語りづらいよね、という話になった。往年のタッキー主演ドラマとか、SMAPの代表作からなにかとか、象徴的なものはないかという話になったときに、トットさんが、『少年たち』という映画がもうすぐ上映されると教えてくれたんですよね。一番新しいジャニーズのアイドルたちが、歌って踊って、どアップで、というような「ザ・アイドル映画」と呼ぶべき作品が発表されるから、と。
私たち、新しいジャニーズの子たちはひとりもわからない……と不安そうに言ったら、トットさんが「関東から関西までぜんぶわかる」って仰ったので、「ほんとに?」ということで、じゃあ、この映画をテーマにして座談会をやってみようということになりました。
この映画は三月に上映が開始されたのですが、五月になった今でも、上映方式を変えながら続いておりまして、応援上映がかなり大々的に行われた時期を経て、今は、出演者たちが歌や踊りを実演してから映画に入って行く、あるいは、映画を観たあとで、出演者たちが実演してくれる「実演+上映」という形式で上映されています。これは前段として「舞台挨拶の豪華版」のような特別上映があって、その録画を流している。「特別上映のディレイ・ビューイング」という趣向です。
今朝、そのバージョンであらためて鑑賞して来たんですが、非常に新しい上映の仕方であるとともに、ジャニーズの凄さがより味わえる手法であると感じました。
今回の座談会は二部制を考えておりまして、映画『少年たち』を語る前半を経て、後半では、ジャニーズ全般について語って行きたいと思っています。
個人的には、平成の三十年間というのはジャニーズの黄金期であったと考えています。平成は「ジャニーズの時代」だったといっても過言ではない。そしてそれは「SMAP以降のジャニーズ」だと思うんですね。
僕は、正直ジャニヲタではない。誰かのコンサートに行ったこともなければファンクラブにも入っていない。それでも、いざジャニーズの話をし始めたら二時間でも三時間でも話すことがある。それは、僕がテレビにまみれて育ってきた世代であって、そしてそのテレビの中には、常に彼らがいたからだと思うんです。
その実感を、自分なりにまとめてみたのが、「ジャニーズ平成史 私的年表」という資料になります。これは僕が今朝一時から五時までかけて作ったものなのですが……
吉川 一時は朝じゃないですよ(笑)
益岡 これともうひとつ、「木村拓哉の主な連続ドラマ出演作」についてまとめたものを持ってきました。木村拓哉主演のテレビドラマについて、脚本・共演者・視聴率などをまとめたものです。本当はSMAP全員分をつくりたかったんですが、木村さんの分だけやって、「これ以上はもう無理だ」と。
一同 (笑)
益岡 これ以上無理だし……やっぱり、平成のジャニーズ史を振り返った時に、「キング・オブ・ジャニーズ」は木村拓哉だったのではないか、と。もちろん、バラエティということになれば、ツートップとして並び立つ中居正広ということになるのでしょうが……
萬澄 これは、やっぱりキムタク中心に話したいということなの?
益岡 いえ、特にそういうつもりはないです。第二部は、皆が思い入れのある話を自由にしてくれればいい。その中で盛り上がったトピックを拾って議論していければ良いと思っています。
他に持ってきた資料としては、『少年たち』のパンフレットと……最近出たジャニーズ本から『異能の男 ジャニー喜多川 悲しき楽園の果て』(小菅宏著/徳間書店)──書かれている内容は色々と興味深いのですが、曲名の間違い等、かなり焦ってつくられたような印象も受ける一冊です(笑)
ただ、これを焦ってつくったということはどういうことなのか……この作者の方がどういった方かはよく存じ上げないんですが、かなり古くからジャニーズを取材をされている方のようなので、もしかするとジャニーさんの体調が、僕らが知る以上にお悪いのかな……と個人的には感じてしまいました。
もうひとつ、この国の「男の美の基準」をつくってきた集団が「ジャニーズ事務所」だとするならば、ここ数年、それに対抗するというか、新しい軸を立ち上げようとしているのは、EXILEファミリーこと「LDH JAPAN」ということになるのだろうと思います。そういう観点からですね、今、公開中のLDH映画『PRINCE OF LEGEND』を観てまいりました。これは、そのパンフレットで……いや、この映画、面白かったんです。面白かったんですよ。ただ、まあ……あと、五年、十年はジャニーズの優位は揺るがないと僕は思いました。
一同 あー(笑)
益岡 まあ、そんなところもですね、追々、お話していきたいと思っております。
それとやっぱり最初に触れておきたいのが「ますく堂なまけもの叢書」がジャニーズを取り上げるのは最初ではないということです。第四弾の『自称読書家たちが加藤シゲアキを読まずに侮るのは罪悪である』は、ジャニーズ事務所初の小説家である加藤シゲアキ作品を取り上げた一冊になっております。それで、これが刊行されたばかりの頃は、正直、あまり売れなかったんですけれど、ほんの数日前から物凄い勢いで売れ始めまして。
萬澄 え? ベストセラーに?
益岡 いや、元々、そんなに刷ってないから(笑)ただ、ツイッターで四千人くらいフォロワーのいるシゲファンの方がリツイートして下さったんですね。多分それで急に売れ始めたんだと思うんですけど、そこで驚いたのが、ジャニーズファンの方は、ちゃんと感想を下さるんですよ。かなり長文の感想がツイッターのDMに届いて……
吉川 え? どんな感想なんですか?
益岡 中身は色々ですけど……あの本には戦略的に、かなり過激な言葉を使って書かれた原稿も掲載されていますので……
萬澄 (笑)
益岡 そういう点で傷ついたという意見もありますけれど(笑)概ね好意的で、「シゲのことを気にして下さってありがとうございます」といったような……
吉川 お母さんみたい(笑)
益岡 NEWSファンの皆さんは、この年表を見てもらえばわかる通り、だいぶ御苦労なさっておられるので、人間が出来ていらっしゃるのかもしれませんけれど……ただ、「小説としてしっかり批評してくれたのが嬉しかった」というお声が僕はとても嬉しくて。こんな小さな媒体なのに、馬鹿にせず、とても丁寧に読んでくださっている感想ばかりで、大変感動しました。
なので……ということではないですが、いつにも増して、「しっかりやらなきゃ!」という思いで臨んでおります(笑)
というところで、映画を観て来られた方も、ご都合で観られなかった方もいると思うのですが、まずは、自己紹介も兼ねて、「私にとってジャニーズとは」ということをお一人ずつ、軽くお話しいただいてから始めたいと思います。
美夜日 美夜日と申します。今日のテーマはあまり詳しくないのですが、「日本文化・ジャニーズ」を教わろうと思って参りました。どうぞよろしくお願いします。
河合 河合と申します。「むかで屋Books」という屋号で、江古田オイルライフというお店の脇で不定期に青空古本屋を展開しつつ、他のイベント等でも古本を売っております。実は『「おっさんずラブ」という革命』の中で紹介されていた「シゲの本を買いに来た客」というのは私の事で、そのときは一読者として読んでいたのですが、商品として扱いたいと思いまして、「おっさんずラブ」と「シゲ」の本については、現在、当店でも取扱わせていただいています。
私は一九七九年生まれなのですが、シブがき隊あたりからは覚えているかな、という感じで……私の印象では、光GENJIくらいまでは、ジャニーズって、もっと変な存在というか、非日常的な、浮いた存在だったと思うんですね。それが、SMAPが出て来て、かなり地に足の着いた路線に変わっていったという感じがあります。そのことで広い支持を得て行ったという印象がある。
あとは、SMAPが受け入れられる前は、女性が男性の容姿について論評というか、「何か言う」ということは、すごく後ろめたいことであるという空気があったと思うんですね。私は多分、その空気を強く感じていた最後の世代にあたると思うんですけれど、そのハードルをすごく下げてくれた存在が、SMAP以降のジャニーズだったんじゃないかな、という思いがあります。
ただ、最近のジャニーズは全然わからないので、是非、お勉強させていただきたいと思います。よろしくお願いいたします。
吉川 吉川と申します。私は今回、映画を観て来られなかったんですけれど、ジャニーズについては、小さなころ、光GENJIの「ガラスの十代」がヒットしていたことをすごく良く覚えています。あと、友人に、熱狂的なジャニーズファンで、Jr.からベテランまでみんなチェックしていて、毎月のように誰かのライブに行っているという人物がおりまして、その子に連れられてV6デビュー直前のイベントで代々木公園へ行ったことが強く印象に残っています。
私も最近のジャニーズについてはあまり詳しくなくて、ただ、ジャニーズのグループ名はインパクトのあるものが多いので、「美 少年」というのがいるのか、すごいな、と。
一同 (笑)
吉川 そんな感じで、一通り注目はしています。本日は、どうぞよろしくお願いします。
ますく堂 ますく堂です。『少年たち』を観に行ったらちょうど応援上映の回だったんですけど、ファンの方たちがとても親切で……「ああ、そっちいっちゃダメ!」とか、まあ、ネタバレっちゃ、ネタバレなんだけど……
一同 (笑)
ますく堂 でも、みんな、あったかいんですね。みんな、笑いながら、悪役にも愛を傾けながら(笑)多分、それぞれ、特別に好きな子とかいると思うんですけど、それでも、誰かだけというんじゃなくて、その他の子たちにも愛を持っているというか……ジャニーズファンの皆さんに対しては、とても良い印象を持ちました。
ただ、映画自体は……最初の十分で正直、帰ろうかと思いました(笑)
一同 (笑)
ますく堂 ただ、それもきっと私がジャニーズをわかっていないからなんだろう、と。そのくらい、わからないので、今日は色々と教えていただければと思います。
萬澄 萬澄と申します。「なまけもの叢書」の座談会に参加するのは「シゲ本」以来となります。私は益岡さんとは、大学の「ミステリークラブ」という、推理小説研究会で出会ったんですね。ですから、基本的に私は、小説も映画もテレビドラマもすべて「ミステリー」を中心に観ている。そうすると、「ミステリードラマ」の名シリーズにはジャニーズの皆さまが出ておられるので、大変馴染み深い。ファンと呼べるほどかはわかりませんが、CDも相当買っています。
益岡 かなり買ってるよね? 僕、あなたの歌唱でしか聞いたことのないジャニーズの歌、結構ありますよ(笑)
萬澄 ええ、カラオケでね。よく歌います。そんなわけで、ジャニーズとはずっと付かず離れずでやってきたという感じです。
最初のイメージというと……私は一九七八年生まれですから、シブがき隊ももちろんわかるんですが……やはり、光GENJIがローラースケートで歌っていたところが印象深いですね。ただ、私の家は演歌が基本で、ニューミュージックやジャパニーズ・ポップは聴かない。だから歌番組もあまり観なかったんです。なので、僕にとってのテレビというのは、バラエティやドラマが中心なんです。光GENJIは八〇年代の終わりくらいがピークですよね……
河合 そうですね。
萬澄 そうですよね。でも、そうすると、その後に続くグループは……男闘呼組?
益岡 いや、男闘呼組は光GENJIと同世代でしょう。
河合 次、ということになればSMAPだと思いますね。
萬澄 でも、SMAPが売れるまでには時間がかかりますよね?
河合 そうです。二、三年は全然売れなかった。ジャニーズは次の光GENJIを出そうとして、同じような路線でSMAPも押し出そうとするんですね、いったんは。でも、それはうまくいかなくて、今はジャニーズ事務所から独立した飯島三智さんというマネージャーが「もうちょっとリアル路線で」ということで、「現実に街を歩いていそうな、等身大の若者感」を演出した結果、大ヒットした、という流れだと思います。
萬澄 私も、その時期、ジャニーズとは疎遠になっちゃうんです。
一同 (笑)
益岡 疎遠って(笑)……でも、光GENJIとSMAPの間に、「忍者」がいるじゃない? 僕はあまりよく知らないけど、当時、観ていた限りでは……あまりうまくいかなかったじゃないですか?
トット そうですね。最近またジャニーズJr.を大勢集めて、少年忍者を名乗らせていますけど。
益岡 あのとき、ちょうどTBSのお化け番組だった「ザ・ベストテン」が終わって、それに倣うように次々と他局の番組も終わって行って、歌番組の冬の時代がやってくる。
萬澄 九〇年代は歌番組にとっては変革の時代といえると思いますね。同じTBSの「COUNT DOWN TV」のようなランキングをPVだけで「情報」として伝える番組とか。
吉川 あとは、フジテレビの「HEY! HEY! HEY!」とか、TBSの「うたばん」とか、トークが中心になっていく。
萬澄 SMAPを私が意識し出したのは九〇年代中盤以降ということになると思うんですけれど、それは歌番組ではないんですよね。キムタクにしても、まずはドラマだった。この資料は「あすなろ白書」から始めてますけど、私はこの少し前の一色紗英と内田有紀主演の……
吉川 「その時、ハートは盗まれた」(一九九二年、フジテレビ)! 観てた、観てた!
萬澄 あの作品で私は初めてキムタクを観るんですよ。まったく、ジャニーズだとか、アイドルだとか、そういう予備知識なしにね。それで、大変な人が出てきたと思った。ひとりだけ別の世界から来たような人が出てきた、と。スター性のある、巨大な人が出て来たと、大変なショックを受けました。でも、ジャニーズだという意識はなく、観ていたわけです。
「ジャニーズのタレントが主演をしたドラマ」という観点で私がはまっていったのは……TBSの「人間・失格~たとえばぼくが死んだら」(一九九四年)かな……これは、KinKi Kidsを最初に意識したドラマでもあるんですが……だから、僕は今でも、KinKi Kidsが一番好きなんです。その後も、日本テレビの土曜グランド劇場で放送された「金田一少年の事件簿」(一九九五年~)があって、「銀狼怪奇ファイル」(一九九六年)があって……
吉川 「ぼくらの勇気 未満都市」(一九九七年)
益岡 「家なき子2」(一九九五年)!
萬澄 そう、それね(笑)あとは「青の時代」(一九九八年)があって……TBSの金曜日九時は一時期、KinKi Kidsのための枠みたいでしたよね。
みずき 「若葉のころ」(一九九六年)
吉川 ああ、あったね。
益岡 「セカンド・チャンス」(一九九五年)
萬澄 ああ、「セカンド・チャンス」ね……
益岡 もう、若い世代の方には暗号に近い会話ですね(笑)
萬澄 失礼しました(笑)KinKi Kidsでは、私は剛くんのファンなんです。光一くんももちろん好きですけど、やっぱり剛くん。ミステリーファンという立場とドラマファンという立場、両方を満たしてくれる存在が堂本剛くんなんですよね。だから最近の彼を観ているとちょっとさびしいというか、悲しいというか……
美夜日 ミュージシャン路線に……
萬澄 うん、ちょっと私からは遠ざかったというか、複雑な……もっとドラマ出て欲しいな。「33分探偵」(二〇〇八年、フジテレビ)みたいなの、またやって欲しいな……
吉川 「金田一少年」はジャニーズのお家芸みたいになってきましたよね。剛くん、松潤、亀梨くん、山田涼介くん……
萬澄 最近のジャニーズもですね、一応はチェックしているんですよ。最近のグループだと私はKis‐My‐Ft2推しなんですけれど、その後ということになるともう「認知」という意味では、Sexy Zoneの中島健人くんが限界なんです。これ以上新しい方たちは……King&Princeも観ておりますけど、私にはピンとくる人がいない。ただそれはね、私が年をとったということだと思います。彼らが輝いていないわけじゃなくてね。世代的に、もう、中島くんあたりをキャッチするのが限界だったんだろうと思っています。
益岡 いや、この『異能の男』の中でもね、ジャニーさんがジャニーズのタレントについて「最近、見分けがつかなくなってきた」と話しているところが出てくるんですよ。
僕は最近、ジャニーズをモチーフにした小説を書いたんですが、その中で、タッキー的なポジションの登場人物に「ジャニーズのタレントとその他のイケメンの境がつかなくなったら、我々は終わりだ」ということを言わせているんだけれど、この、ジャニーさんの変化を読んだときに「あれ、終わるのかな」と思ってしまったんですね、思わず。そして、なんとなく淋しくなった。
まあ、もちろんジャニーさんはお年だしね、なにか達観したような気分でそうした発言をなさったのかもしれないけれど……
美夜日 自分で採用したんじゃないかもしれないですもんね。全員が全員、ジャニーさんが採用するわけじゃないんでしょうし……
益岡 まあ、未だにね、書類には目を通すようですけど……
萬澄 面接はさすがにね、全部はやっていないでしょうが……私はとりあえず、こんな感じで。よろしくお願いいたします。
みずき みずきといいます。益岡さんと「読書サロン」でジャニーズ話が盛り上がって、この企画になりました。なので、ジャニーズは結構好きです。
私が特に好きなのは、この年表にはあまり触れられていないんですが、タッキーと同世代くらいの、Jr.黄金時代と呼ばれた人たち。生田斗真くんとか、山下智久くん、デビュー前の嵐とか、そのあたりの人たちについては詳しいと思います。
今、テレビに出ている人たちも、そのJr.全盛期の人たちのことはもちろんわかるのですが、グループとしては、Hey!Say!JUMPあたりからはもうあやしいかな、と……でも今回、『少年たち』を観て、あのJr.全盛期に夢中になった頃の気持ちが蘇ってきました。
一同 (笑)
みずき 「やっぱりJr.、いいよね!」という気持ちが蘇ってきました。今日はすごく楽しみにしてきましたので、どうぞよろしくお願いします。
トット トットです。今日は気合いを入れて、木村拓哉のTシャツ(二〇一一年『開放区2』初回特典)で来ました。
吉川 わー、まだ、髪が長いときだ。
益岡 不動のエースだね。
トット 夢中になったひとたちをざっくりいうと、V6──カミセンの三宅健くん、森田剛くん。そのあとは、KAT‐TUNの赤西くん、上田くん。
益岡 やんちゃ系だ。
トット そのあと、Hey!Say!JUMP、Jr.で言うと、美 少年という……きれいで、かわいいグループに惹かれます。全体としては、かっこいい路線の方が強いのかな、今のジャニーズは。
美夜日 三宅くんはEテレの「みんなの手話」なんかにも出てますけど、こういうものもチェックしているんですか?
トット 可能な範囲でチェックしてます。健君の載ってる雑誌を、引っ越しのときにすべて処分したということもあって、遠目で大丈夫になった(笑)
ティーヌ 先ほどから度々お話に出ている「読書サロン」を主催しております、ティーヌと申します。
ジャニーズは、正直、まったく興味がないといってもいいのですが……
一同 (笑)
ティーヌ この『少年たち』という映画は、益岡さんに誘われなければ絶対に観ない映画で、「これはチャンス!」と思って観に行きました。それで、ジャニーズにはまったく興味がないと思っていたんですけれど、これを観た結果、やっぱり、三十一年間生きて来て、テレビや映画やCMや雑誌や舞台で摂取して来たものの中で、圧倒的にジャニーズが占める割合が大きいんだということに気づかされた。映画を観ている内に「私、結構、ジャニーズのこと、わかってるかも」と思えてきてしまったんです。まずはそれに驚いた(笑)
一同 (笑)
ティーヌ それでも、やっぱりジャニーズとは疎遠で……家には八年前くらいからテレビを置かなくなってしまったので、直接的な関係といえば、舞台なんです。ジャニーズのタレントさんが出演する舞台を観にいく機会があって、やはりジャニーズの人がいるときといないときでは雰囲気が違うというのを感じたこと。もうひとつは、職場が外苑前なんですが、嵐のコンサートがあるときには街の風景が変わってしまうんですよね。肌感覚として、環境が変わったということが明らかにわかる。そうした、ジャニーズの影響力があってこそ生じる異様な空気感について、今日は、お話してみたいと思っております。よろしくお願いいたします。

あまりにも型破りなジャニーズ・エンターテインメント


益岡 それでは、あらためて映画『少年たち』について話していこうと思います。
萬澄 この『少年たち』という舞台はいつから……このパンフレットには二〇一〇年代からというような記載が……
河合 二〇一〇年というのは復活公演というようなかたちで……元々はフォーリーブスなんです。だから初演は六〇年代ですね。その頃から断続的に上演されてきた舞台です。
ティーヌ この映画をなんの前情報もなく観て、「良く出来てんなあ」と思ってネットで調べたらもう五十年も前からやっていると知って大変驚きました。
河合 ただ、このパンフレットに書かれている『少年たち 格子なき牢獄』の前は二十年近くやっていなかった。中断期間があったんです。でも、復活してから八年間は上演され続けて、そして、映画になったという経緯があります。
トット ファンにとってもジャニーズにとっても思い入れのあるコンテンツだったということですよね。
益岡 先ほど触れた実演上映の舞台挨拶においても、主演のジェシーが「この『少年たち』はジャニーズのお家芸だ」というようなことを言っていたんですよね。歌舞伎十八番のような、伝統的な出し物だというようなことをいったように僕には思えた。ジャニーズの、しかも大変若いアイドルがこういう言い方をするというのは、大変珍しいことなんじゃないかなと感じたんですが……
トット 彼ら自身も「特殊なものをやっている」という意識はあって、でも、この作品の「他の物語とは違う表現」を凄く愛しているから、俯瞰的な言い回しになったのだと思います。テレビドラマや映画とはちがう、「少年たち」のような舞台や、コンサートといった、「生の表現形式」を愛している、信頼していることは間違いない。
ティーヌ この作品の冒頭は好戦的な雰囲気であるし、内容も割と重くて暗い。こういうものはそれこそEXILEファミリーの方がうまくやるんじゃないのかな、と思って観ていたんですけれど、最後の最後でもう一度オープニングをやり直すような、今度はドラマとは外れて、ニコニコしながら、アイドルとしてのスマイルでやり直していくようなエンドロールを観たときに「これはすごいな」と思いました。正直、ここが一番すごかった(笑)
カメラの映り方、自分たちが観客に、ファンにどう観られたいか、どう観られるべきか、どんな自分たちをファンが期待しているのかが完璧にわかっていて、わちゃわちゃやっている。
美夜日 アイドルとしての自分を客観視できるひとたちだということですね。
ティーヌ その完璧さに比べると映画本編はむしろ「慣れないことやってる感」が出ちゃっているような気さえしました(笑)
益岡 今日観てきた実演付き上映──最初からこのかたちで観たかったと正直、思いましたね。若いアイドルたちの身体能力の高さが大変わかりやすく表現されていて、とても良かった。あのレビューを観たあとで、映画のファーストシーンたるミュージックビデオのような一幕に繋がって行けば、もっと自然にわくわくできたような気がする。
美 少年とか、「ジャニーさん、また変な名前付けて~」とか正直思っていたけれど、あの実演舞台挨拶で、ちょっと尋常じゃないほど滑らかな、レベルの高いダンスを見せつけられると「ああ、この子たちは確かに世界進出させた方がいいんだろうな」と納得させられてしまった。この映画のメインキャストはSix TONESやSnow Manだと思うんだけど、彼らは二十五、六歳が中心で、美 少年はさらに若いチームだと思うんですが、この若さ、少年としてのまだ細い、軽やかな肉体がとても生き生きと躍動しているところに、大変な「少年美」を感じたんです。
ちょっと話が飛びますけど、『溺れるナイフ』(二〇一六年)という映画で、菅田将暉がものすごく身体を絞って、神職の子というか、神様に許された少年のような役を演じたことがあった。舞踊のような動きで山を駆けて行くシーンがあまりに美しくて、その身体能力に驚いたんです。でも今回、美 少年のパフォーマンスを観たときに「ああ、ジャニーズの若い子たちは菅田将暉程度の動きなら簡単に出来てしまうんだ」と、驚嘆したんです。もちろん、役の中で、演技の中で同じことができるかといったら別だろうし、そういう意味で『溺れるナイフ』の菅田将暉の価値が薄れるわけではまったくないと思うけれど、それでも、こと「身体能力」という面において、このジャニーズという集団の凄みというか特別さを思い知らされた。
河合 そういう凄みが本来のジャニーズだったんだと思うんです。でも、光GENJIを最後にそういうジャニーズらしさが受け入れられない時代がやってくる。あまりにも完成度が高くて虚構的なパフォーマンスが大衆と乖離してしまったんですね。
そんな中、SMAPは登場する。初めはSMAPも光GENJI的に売り出されたんだと思うけれど、それはうまくいかなかった。そこで、マネージメントを担当した飯島三智さんがヒップホップやクラブの要素を入れてわざと踊りを揃わなくさせたんですね。より身近な存在へとアイドルのイメージを一新していった。その先にバラエティやトレンディドラマ俳優としてのジャニーズの在り方が生まれていく。
わたしが『少年たち』を観て思ったのは、「ジャニーズは本来の、正統的な流れに回帰しようとしているのではないか」ということなんです。私たちの世代はSMAPこそがジャニーズだと思ってテレビを観ていたわけだけれど、その陰で連綿と本来の「ジャニーズらしさ」は続いていた。
美夜日 ずっと訓練してたんだ、誰かは。
河合 私たちはちょっと崩したSMAPこそがジャニーズだと思っていたから『少年たち』を観せられて驚いているわけですけど、それこそあおい輝彦あたりから連綿と続くジャニーズの血脈というのはずっとある。私たちの見えないところで「完成度の高い虚構的なパフォーマンス」を実現すべく、訓練し続けている集団なんですよね、ジャニーズというのは。
萬澄 なんか懐かしい感じがした。久しぶりにこういうのを観たな、という。
ティーヌ テクニック的なところは本当に凄いと思いました。「観られる主体」としての意識が物凄い。
みずき 私は正直、全然、期待しないで観にいったんです。最初の十分くらいはちょっと帰ろうかな、と思ったんですけど……でも、しばらく観ていたら、やっぱりパフォーマンス力の高さに魅了されていった。そういう基礎能力の面では黄金時代のジャニーズJr.たちより上なのかもしれない。
トット レベルは高いですよね。
みずき 歌がすごくうまいし、完成度は高いのかな、と。
河合 それは、黄金期のジャニーズJr.もやはりSMAP的なものを目指していたからなんでしょうか。
トット いや……いや、SMAPは踊れない中でも踊れないグループだから……
一同 (笑)
吉川 まあ、同世代のTOKIOも踊らないグループですもんね。
トット テレビのバラエティタレントとして華があってまわしが上手いのがジャニーズだと思われているけど、本業は「舞台」なんだという意識がジャニーズの中にずっとあったんだと思います。
河合 その通りだと思います。私が観ていたのは「異端のジャニーズ」であって、ジャニーズの中の保守本流はむしろこちらなんですよね。私は「日本の美男子と女たち」という卒論を書いたときにジャニーズを扱ったんですが、そのときにはすでに「ジャニーズ=SMAP」というような時代になりかかっていたものだから、「保守本流」にあたらずに書いてしまったという後悔があるんです。
トット それだけSMAPの活躍は凄かった。
ティーヌ 私は『少年たち』のストーリーにもすごくびっくりしたんです。日本で最大の男の子アイドルグループのトップが直接プロデュースして五十年間演じ続けている舞台の内容が「少年院の物語」だという……しかもかなりマイノリティのひとたちが取り上げられていて……これ、「アベンジャーズ」より売れるべきなんじゃないの?と思った。
美夜日 そう。意外とこの作品が背負っているものって重いんですよね。
トット 戸籍がない、とか。
河合 あれ、びっくりしました。戸籍がない人が成長していくということの困難──それにリアリティが出て来たというか、社会問題化してきたのってここ五年くらいのことだと思うんですよ。
美夜日 私は、学生が介護疲れで精神の限界を迎えて犯罪をおかしてしまうという設定に驚きました。これも現代を象徴する描写だと思う。
ティーヌ 私はこういう、「虐げられたひとたち」の物語をアイドルが演じるという構図が凄いな、と思った。こんな国、他にはないんじゃないですかね。国民的アイドルというのは、やっぱりヒーローなわけで、ヒーローが演じるべき枠組みの中で出演作も決まってくるというようなところがあると思うんです。
私、この映画は「ギムナジウムみたいなところにいる美少年たちの群れを眺めるための作品」みたいなイメージで観にいったものだから、全然違うということに衝撃を受けました。正直、ちょっとジャニーズを馬鹿にしてたな、と反省した。この内容を全国的に、大々的にロードショーするということを決められる組織なんだな、ジャニーズは、と。
益岡 内容もそうだけど、この表現形式が僕はすごいと思っていて、誰も彼もが無防備に楽しめる内容ではないよね、この映画は。
トット 一般的なエンターテインメントにはなっていないですよね。
益岡 異端文学だよね(笑)
一同 あー(笑)
河合 その感想はわかるんですけど、ただ、私はこの映画を観ながら、観に来ている方たちの反応を見ていたんですね。物語のラストで、刑務所がホテルになって、その劇場でレビューが演じられる。刑務所から散っていった彼らも社会に包摂されてそれぞれ居場所を見つけていくというところで、観ている方たちの気持ちがふわっと開いていったような、そんな空気を感じたんですね。私が観たときはあまり若いお客さんはいなかったんですけど、ああいうものを今まさに、あの映画の登場人物くらいの年ごろで、それぞれの悩みを抱えている子たちが観たら、エンパワーメントというか、「ああ、やっていけるかもしれない」という気持ちになれるんじゃないかと。そういう意味では、ただ、「マイナーな映画」という範囲にとどまっているものではないように思います。
美夜日 重い設定がただ重たいままにされているわけでもないですしね。割とさらっと処理されていく。
ティーヌ この作品が成立した五十年くらい前だと、芸能人と言われている人って、在日というバックグラウンドを持っていたり、親に売られて芸人になるというような経歴を持っていたりすることがあったんじゃないかと思うんです。実は、この映画に登場するキャラクターたちの設定とかなり近しいところに演者の境遇があったんじゃないかと思うんですけど。
河合 最初にやったフォーリーブスの北公次という人は生い立ちを自叙伝として残しているんですが、かなり貧しい家で中学までしか行けなくて、そこをジャニーさんに拾われたというような経緯がある。彼を売り出すために色々な人材を集めて来てフォーリーブスをつくったというような実態は確かにあるんですね。
美夜日 タッキーも貧困家庭だったというエピソードが年末の特番で語られていましたね。
ティーヌ そういう背景を持つ子をたくさん預かる中で、そういう子たちの癒しというか、回復のための装置として『少年たち』という舞台があったんじゃないかということは考えられるんじゃないかと思ったんですね。たとえば虐待を受けた子どもたちの回復を促すために虐待をテーマとしたドラマを演じさせるという治療のプログラムがある。ジャニーさんがしようとしたことは、それに近いことだったんじゃないかと感じたんです。
河合 それはあるかもしれないですね。この映画でも、最後にたどり着くところは「劇場」ですよね。ジャニーさんが男の子たちを劇場に導くことで果たし得ていた役割というか、「ジャニーさん、これやりたかったんだ」という強い意志を感じました。
美夜日 あの和風の舞台、良かったですよね。
益岡 うん。僕はあの描写は、「あと百年はやりますよ。日本の代表として」という決意表明として受け取りました。
一同 (笑)
益岡 あの和風の舞台はつまり、「滝沢歌舞伎」のメタファですよ。これからの滝沢秀明体制を象徴しているメタフィクショナルな仕掛け。「たとえ肉体は滅んでもジャニー喜多川の精神は死なない」という……まあ、ここに至ってこの作品の凄みというか覚悟というか……いや、萬澄さんとはちょっと話したんだけど、この作品を単純に「日本映画」という枠組みの中で評価してはいけないんじゃないか、と。
萬澄 ええ。日本映画ファンとしては、まったく評価できないです。
益岡 この方の評価は日本映画としては21点だ、と。でも、それはそれとして、作品としては肯定するしかない、と。
萬澄 それはもう、肯定するしかない。満足した以上は。
一同 おー!
萬澄 私は映画というよりは、ステージを観に行って「満足した」という印象ですね。
ティーヌ 私は邦画自体あまり観ないので映画としての評価というのは正直わからないですけど、ミュージカル的なものとして捉えたときには、「ヘドウィック」や「キンキーブーツ」と比べてもなんら劣るところがない。物語としても、マイノリティが立ち上がる、解放に向けて進んでいくドラマとして捉えるととてもわかりやすく創られていて非常に素晴らしいものだと思う。むしろ、「みんな、なんでもっと観ないの?」と思った。
益岡 それは同感。なんか、ジャニーズファンだけが観に行く作品というか「普通の人は観に行かない映画」というような枠組みで扱われているような印象があることは本当に残念です。ただ、まったく舞台や音楽劇のようなものを観たことのないひとが普通のストーリー映画として観に行ったときに、ちょっと、簡単には対応できないんじゃないかという懸念はある。
美夜日 でも、私の隣におばあちゃんくらいの年代のお客さんがいたんですよ。その方に映画を観終わった後、「今、出ていた方たちは全員ジャニーズの方なの?」と突然、質問された。「え? そこから?」と驚いたんですけど、その方はNHK BSプレミアムで「ザ少年倶楽部」をいつも観ていて、そこで紹介されていたから観に来たんだ、と。「いい映画だったわね」と大変感動されて帰られた。だから、いわゆるジャニヲタまで行かなくても、「テレビでジャニーズを楽しんでいる」という層ならば十分理解できる内容だったんじゃないかと思うんですよね。
河合 ストーリーの面で言えば、先ほど、かなり現代的な要素が入っているという指摘があったと思うんですが、一方で、やっぱりこれは「ジャニーさんの生きた時代」がベースになっていると感じられるところもあって、ところどころに昭和の刻印が刻まれている。例えば、ベテランの看守長を演じた伊武雅刀の部屋に貼ってある写真。かつて、この少年院で生活した子どもたちの写真は白黒のかなり古いもので、「いったいお前はいくつなんだよ」と言いたくなるわけですが、これはあえて配置されていると思うんですね。この物語の舞台は二〇一二年であると明示される中で、五十年前から上演されている『少年たち』の世界観もまた表現されていく。そういう意味ではこの映画そのものが「ジャニーさんの生きた時代」そのものだというような印象も受ける。結果、現代的なトピックと一緒に、「少年」というものを巡る普遍的なドラマも示されているのではないかと思うんです。
美夜日 あの少年たちは、ジャニーさんの自画像なんでしょうか?
河合 私は、ジャニーさんは、ジェシーくんであり、少年院長役の横山くんでもあると思います。

※座談会全体では66,000字ありますので(笑)、続きが気になる方は、是非、本誌をご用命ください。https://ichizan1.booth.pm/items/2178207


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