大切な人は必ずそばにいる
いつの間にか、瞬間移動したようだ。
自宅で娘と寝ていたはずの私は、いつの間にか実家の自分の部屋に一人佇んでいた。
ドアのノック音がした。
部屋に入ってきたのは、父だった。
「やあ、久しぶり。」
と言って父は、紙袋を私の前にそっと置いた。
「あ、うん。」
父が何を持ってきたのかと袋を覗いたら、袋いっぱいに大小色様々な駄菓子が詰め込まれていた。
懐かしいな。
幼い頃、近所に駄菓子屋さんがたくさんあって、いつもどれにしようかと迷っていた。宝島の宝の山みたいだった。
でもなぁ…もう大人の私に駄菓子なんて。
どうせなら高級チョコとかが良かった。まぁいいか。
「ありがとう」
と言いつつ頭の片隅でぼんやりと、父さん…3年前に死んでるんだよね。。なんて考えながら父を観察した。
足はあるし、ちゃんと靴下まで履いている。
家の中ではいつも裸足だったくせに。
幽霊には足がないなんて、嘘だな。
ぼんやり考えつつ私の目は静かに、父を見ていた。
「いつまでこっちにいられるの?」
「また、来るよ。」
「もう少し話をしようよ。」
自分では考えられないような言葉が出た。
だって、父がいたときは部屋に入ってこられるだけでうんざりしていたし、話をしたいなんて気持ちもほとんど湧かなかったから。
息をするのを意識しないように、父がそこにいるのは意識しないくらい当たり前のこと。そんな当たり前のことに望みなんて抱かないだろう。
話…どんな話を?
会話って、どうすればいいんだっけ。
もっと会話していればこんなこと考えずに済んだのかな・・とだんだん後悔の気持ちが混じってきた。
「じゃあ、もう行くよ。」
「あ、うん…またね。」
私は父を見送り目を覚ました。
涙が、溢れていた。
その日は娘の七五三。
祖母の着物を着せる日。
父はきっと私じゃなく、孫娘にお祝いを伝えたかったんだ。
だって娘は駄菓子が大好き。
娘の成長を、そばで見ていたのか。
袋いっぱいの駄菓子なんて。
父らしい。
もし、大切な人がいなくなっても…
悲しみに暮れ現実から離れたいと、強く願っても…
目に見えない、触れられない苦しさは時とともに霞んでいく。
それは忘却ではなく、今までその人と積み重ねてきた記憶の再構築。
そして突然再会できた時、新たな関係を見出し、感謝の心で満たされるのだ。
大切な人は、必ずそばにいる。
そう確信した朝だった。
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