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濱口秀司のstructured chaos理論〜クリエイティブなアイデアを生む実践的手法

 前回のnoteでは、濱口秀司氏の"Break the bias"という概念を紹介しました。バイアスブレイクと呼ばれるこのクリエイティブな発想を生み出す手法は、消費者側からではなく、生産者側からアイデアを出す点で、実務上、非常に使い勝手の良い手法でした。

 この"Break the bias"を実現するための理想的な思考状態として「ストラクチャード・ケイオス」の概念があります。本稿では、理論の紹介に加え、実際に使える「ストラクチャード・ケイオス」について考えていきたいと思います。

"Structured chaos"とは?

 「ストラクチャード・ケイオス」は、濱口氏の提唱する概念で、論理思考と非論理思考の中間にある、最も創造性の高い思考モードのことです。濱口氏は「ストラクチャード・ケイオス」について、以下のように説明されています。

"難しいことなのですが、論理思考と非論理思考を組み合わせて考えるのは、非常に重要だと思っています。ぼくの考える、一番創造性の高い思考モードというのは、まさに論理思考と非論理思考の中間にあるんです。それを、ぼくは「ストラクチャード・ケイオス」と名づけています。"

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出所:https://diamond.jp/articles/-/74287

 バイアスブレイクは、バイアスの構造化と強制発想によってクリエイティブな発想を生む手法でした。論理的思考と非論理的思考の中間にある「ストラクチャード・ケイオス」の状態にマインドを持っていけば、バイアスブレイクが成功する(新規性が生まれる)可能性が高くなる、という論理は非常に明快です。

 私は、この「ストラクチャード・ケイオス」の概念を、"SC(Structured Chaos)理論"と読んでいます。この"SC理論"は、バイアスブレイクを実現するための”How”の部分を説明する理論という位置付けになります。つまり、「どうやったら新規性が生まれるのか?」を説明する概念と理解できます。

「ストラクチャード・ケイオス」は本当に正しいのか?

 しかし、論理思考と非論理思考の中間にある「ストラクチャード・ケイオス」という理想的な状態は、誰でも実際にそういう状態になり得るのでしょうか。

 私自身、一人ブレストでアイデア出しとバイアスブレイクのトレーニングを繰り返している中で、「ストラクチャード・ケイオス」の状態は、決して論理思考と非論思考の中間に存在する訳ではないと思うようになりました。

 ただし、いいアイデアが生まれた時は、結果として「ストラクチャード・ケイオス」の状態になっている、ということもわかりました。

 何を言っているかよくわからないと思うので、ここから図で説明したいと思います。

「ストラクチャード・ケイオス」を実現し、クリエイティブなアイデアを生む実践的なテクニック

 濱口氏が提唱する"Structured Chaos"は、↓下図↓のような状態です。

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 しかし、アイデア出しをしている時の思考の動きを観察すると、実際は、「アイデア出し」→「気づき」→「追加アイデア出し」→「構造化」→「気づき」→「追加アイデア出し」→「構造化」のように一連の思考作業を繰り返しています。

ここで、Structuredモードを(S)、Chaosモードを(C)とすると、

「アイデア出し(C)」→「気づき(S)」→「追加アイデア出し(C)」→「構造化(S)」→「気づき(S)」→「追加アイデア出し(C)」→「構造化(S)」

と、Structuredモード(S)とChaosモード(C)を交互に行き来しながら、アイデア出しをしていることに気づきました。

 この状態を示す言葉は、"Structured Chaos" よりも、"Structured and Chaos"と言う方が、より正しく状態を表現しているのではないかと思います。"Structured and Chaos"は、↓下図↓のような状態です。

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 Structuredの状態では、アイデアを観察し、構造化することで、次のアイデアの着想点を見出そうと、徹底的に論理側から思考しています。一方、Chaosの状態では、着想点からアイデアをひねり出そうと徹底的に直感側から思考しています。

 そのため、「ストラクチャード・ケイオス」モードが存在するのではなく、思考実験の中でStructuredモードとChaosモードを行き来することで、結果的に擬似的な「ストラクチャード・ケイオス」の状態になっている、と考えるようになりました。そして、これを"falso structured chaos(偽ストラクチャード・ケイオス)"と呼んでいます。↓下図↓のような状態です。

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 したがって、現実的にクリエイティブなアイデアを生む実践的なテクニックは、「Structured側とChaos側に極端に振り切ることを繰り返すことで、擬似的な”ストラクチャード・ケイオス”の状態を生み出し、創造性を高める」ことだと結論付けました。

 ここまでは一人での思考実験(アイデア出し)を前提に書いて来ましたが、複数でのブレストでも同じだと考えています。つまり、ファシリテーターがStructured側を担い、ブレスト参加者はChaos側に振れることでうまくいく可能性が高まると考えています。このテーマは、別の機会にnoteを書こうと思います。

まとめ

 創造性の高い状態を説明する概念としては「ストラクチャード・ケイオス」は有益な概念だと思います。しかし、実務上、アイデア出しをする際にそのような状態を目指すことは現実的ではありませんでした。"SC理論"は「概念としては正しい、しかし、実務上は現実的でない」と感じています。

 しかし、両極端に両者を行き来する手法を取ることで、結果的に、擬似的な「ストラクチャード・ケイオス」の状態に近づくことができる、という結論を導き出しました。今のところ、これが最も現実的なクリエイティブなアイデアを生む実践的なテクニックだと考えています。

学習者向け参考資料

 もっと濱口理論について学びたい方は、「SHIFT:イノベーションの作法」という論文集が販売されていますので、ご参考ください。

 濱口秀司氏の思考法の多くは、実はWeb上でのインタビュー記事などで公開されています。濱口秀司氏の思考法が学べる厳選リンク集を以下のnoteにまとめたので、グーグルで検索して同じ記事を探す時間をSaveし、その時間を学びに当てたい方はご参考ください。 

 濱口氏の思考法は、実際の仕事に役立つものが多いので、これからもnoteに濱口理論のまとめ記事を更新していきたいと思っています。どうぞご支援よろしくお願いします。


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