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濱口秀司のイノベーション発想法を社内で活用してみてわかったこと

濱口秀司氏の"Break the bias"の発想法は最高だと信じています。しかし、社内で使ってみると驚くほど上手くいかないことがわかってきました。アイデアが形にならないのであれば、アイデアそのものに価値は生まれません。本稿では、濱口秀司氏のイノベーション発想法が社内で上手く使えない原因について考察します。

Break the biasはなぜ上手くいかないのか?

濱口秀司氏の"Break the bias"を自分なりに言語化すると、

「思考の癖を可視化することでこれまで考えていない領域や方向性を見つけ、そこで強制発想することで、クリエイティブなアイデアを発想すること」

と定義づけています。

ポイントは、思考の癖の可視化(軸の設定)であり、これができれば、比較的容易に強制発想につなげることができます。

しかし、会社で使おうとすると、現実にはなかなか上手くいきません。意気揚々とこれだというアイデアを披露しても、「は?何言ってるの?」という顔を向けられることがほとんどです。結構、泣きたい。

このうまく行かない原因は何なのか?(思考法の技術的な問題ではなく)会社の中での事業という「場」に焦点を当てて考えてみると、構造的な原因が浮かび上がってきます。

1.そもそもクリエイティブな発想を求められる場面が少ない

会社は、事業を運営することで成り立っています。キャッシュジェネレーターである既存事業が最も効率的に投資を回収できるテーマであり、追加費用に対する費用対効果がよいことは明白です。

「事業拡大のための新規事業」と言う一方で「投資効率を考えると新規事業は費用対効果で劣る」というジレンマを、経営から現場までどのレベルでも常に抱えることになります。そうすると新規事業、その中でも特にクリエイティブな発想をベースにするアイデアは、必然的に優先順位が下がります。

会社では、事業や利益を拡大するために、クリエイティブなアイデアよりも、費用対効果が見えるアイデアが好まれます。そうした中では、クリエイティブを生み出す発想法の"Break the bias"を活用できる場面は、どうしても少なくなってしまいます。

2.クリエイティブなアイデア故に乗り越えるべき課題が多い

クリエイティブなアイデアを実行しようとすると、そこそこのアイデアと比べても、クリアすべき不確実性が格段に多くなります。

不確実性は、正解が「判断できない」ことが特徴です。そのため、「よくわからない」中で「GO」の判断を取り付けていかなければ、社内で不確実性の高いプロジェクトを進めていくことはできません。

クリエイティブなアイデアほど「よくわからない」度が、劇的に上がります。クリエイティブである故に、簡単にそのアイデアを検証できないからです。そのため、クリエイティブなアイデアに挑戦しようとすると、間違いなく実行の難易度が高くなります。

3.実はより現実的な策が多く残っている

新規事業には、既存事業からどれくらい離れるかに応じて、いくつもの手の打ちようがあります。いわゆる事業開発と言われる分野で、既存のアセットを活用して事業を拡大していく方策がまず頭に浮かびます。

1.新規技術による既存市場への新しい提案

2.既存技術の新規市場への展開

3.新規技術による新規市場への挑戦(難易度高い)

既存と新規

「2.既存技術の新規市場への展開」では、新規顧客への展開、新規用途への展開、新規産業への展開、新規事業への参入など、やり方は様々ありますが、実は「やっていないだけ」「やったというけど、大してできていないだけ」という未開拓分野が多くあります。それは優先順位の問題なのか、人材の問題なのかは、会社によると思いますが、間違いなく、既存事業を拡大する現実的な方策が多く放置されている事実があります。

そうすると、どちらでもできる人であれば、より効率的に成果を出せるそのような未開拓分野で実績を上げることを選ぶ方が、全くの新規事業に取り組むよりも合理的選択になります。

事業創出に"Break the bias"を活用するためには

イノベーティブなコンセプト創出の発想法である"Break the bias"は、本当に全く新しいものを求められている特殊な場(コンセプト創出のステージ)において、一番力を発揮します。例えば、スタートアップやビジネスコンテストなどで初期コンセプトやアイデアを考える際には非常に使えると思います。また、BtoC商品で真新しさを求められる商品開発アイデアを考えるのにも使えるかもしれません。

一方で、社内での事業創出の際には、どうしても既存事業との関係性を考え、新規性の度合いを調整する必要があります。"Break the bias"による新異性アイデアを出すこと自体は有意義ですが、そのアイデアを形にするためには、既存事業からの距離感が大切になります。

たとえ、社内のビジネス創出プログラムなどで、スタートアップに準ずる新事業創出の機会(既存事業とのシナジー問われない)を与えられたとしても、社内リソースを使わなければ、社内起業をするメリットを最大限活用することができません。社内企業の最大のメリットは、初期の事業立ち上げ期における人件費負担の実質的免除と、社内リソースの活用(設備、技術、知識、情報など)の2点です。これを活用しないのであれば、社内で事業創出に挑戦しなくてもよいのではないでしょうか。

まとめ

>濱口秀司氏のイノベーション発想法は、社内でビジネスアイデアの方向性を考えるのには大いに役立つが、実際はその次のステップとして既存事業との距離感を考える必要がある。

社内で、不確実性の高いプロジェクトを進めていくためには、アイデアはクリエイティブであるだけではダメなのです。そのアイデアをクリエイティブかつ現実的なアイデアにまで落とし込む必要があります。これは非常に面倒ですが、ビジネスアイデアをドライブするために社内のアセットを使用させてもらうには、避けては通れない説明プロセスの一つと考えています。

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TANAKA ICHIRO / 大企業の事業開発
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