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PhD留学: カナダ大学院のメリット

今日はトロント大学に来て、あらためて、カナダ大学院を最終的に選択して良かったと感じていることを紹介しようと思う。一般論とトロント限定の話題の両者が混在していることはご容赦願いたい。

①PhD同級生に見る多様性の高さ

トロント大学に進学して最も良かったと感じているのは、コホート(同級生)における多様性の高さだ。まず人種的には、自分の同級生は外国人中心で、カナダ人もアジア系のみ(かつカナダ生まれではなく移民)のため、アメリカの大学院にありがちな白人とその他有色人種での分断がなく、全員が疎外感を感じることなくフラットに付き合える非常に良い関係を築けていると感じている。白人のカナダ人が一人もいないことは正直言うとちょっと驚いたが、何せPhD生だけだと10人の小所帯なのでこういうこともあるのだろう。また、米国大学院にありがちな中国人だらけということもないので、とてもバランスが良いと感じている。

人種のみならず、年齢面でも多様性が高い。自分が最年長なのは言うまでもないことだが、33歳既婚女性の中東出身の同級生もいれば、金融業界で3年の社会人経験を経た後にイギリスの大学院で修士を取得してPhDに進学したメキシコ人同級生もいる。そのメキシコ人の同級生は進学直後に結婚式を挙げにメキシコに一時帰国しており、PhD進学をしながら結婚を経て家庭を築くという選択を自然に行なっているわけだ。他大学の知り合いでもPhD中に結婚した人がおり、日本だと「学生結婚」というレッテルを貼られて奇異の目で見られがちなことが、こちらではPhD取得を目指しながら家庭を持つことが自然に受け入れられることは本当に素晴らしいことだと思う。当然、自分自身も自然に受け入れられていてとても居心地が良い。

年齢に関して言うと、同じ授業を履修している人と話していて少し親しくなった後で、10年以上の社会人経験があることを話すと、さすがに相手に良い意味で驚かれるが多い(笑)。幸いなことに比較的若く見えるらしく、少し年上ぐらいにしか思われていないようで、「え、何歳なの!?」という反応をされることを楽しく感じている。「10年以上も大学を離れていたのに何でそんなに数学できるんだ?」とか、「子育てしながらどうやって勉学と両立しているんだ?」、「MBAも取得してそんなに順調なキャリアを築いていて何故?」とか、そういう反応を楽しめる余裕を持てていることが何よりもこの環境を選んで良かったと感じる点だ。

今後の進路に関して、アカデミア志望だけでなく、インダストリー志望のPhD生が多いことも重要だ。つまり、こちらではPhD取得後にインダストリーに進むことが当然のことと考えられているのだ。自分はアカデミア志望だが、アカデミアの競争は極めて厳しいので、どこかのタイミングで断念する可能性はある。そうした場合でも就職先について不安に感じる必要がないことは日本では考えられない大きなアドバンテージだ。

②ファイナンス面での大きなアドバンテージ

米国大学院に比べて最大のアドバンテージはファイナンス面だろう。米国大学院に進学した場合、大学院以外から収入得る手段が極めて限定されるため、特に家庭を持つ社会人とって大きな障害になってしまうことが多い。カナダ大学院への進学はこの点で極めて大きなアドバンテージがある。

第一に、配偶者の就労に一切の制限がないことが最大のメリットだ。カナダでは留学生の配偶者がOpen Work Permitという一切制限のない就労許可証を得ることが出来るため、配偶者がキャリアを断念することなく進学することを可能にしてくれる。これはファイナンスの観点を超えて非常に大きな意味があることだ。特にPhD生活は5年と長いので、配偶者にとってもじっくりと時間をかけてPhD取得後を考えてキャリアを形成していくことを可能にしてくれる。当然、留学生本人が大学院から得る収入を補強することにもなる。米国では配偶者は就労が全く認められていないため、キャリアを継続するのは大きなハードルがあるし、生活も厳しくなろう。こういう理由でPhD進学を断念した方が少なからずいると思うが、悩んでいる方は是非カナダ大学院を選択してほしい。

加えて、カナダの手厚い児童手当を外国人でも受給できることが子育て家庭にとって心強いサポートになる。カナダでは、連邦政府並びに州政府からそれぞれ児童手当が支給されるのだが、1年半以上滞在しており、Tax Returnを行なってさえいれば、外国人でも受給可能なのだ。実際の支給額は年収に依存するが、仮に大学院からの収入のみの場合で計算すると、連邦政府分だけでも児童一人当たり月$500程度が支給されるようである。日本の子供手当より遥かに手厚いことが容易に見てとれると思う。

留学生本人も大学外での就労制限が少ないので、収入を補う方法が柔軟にあることが大きい。米国だと基本的にはインターンシップに頼るしかないのだが、インターンシップはPhD5年間でトータル1年分しかできないし、そもそもインターンシップをやりすぎると卒業が遅れてしまうという問題もある。その他、大学からのファンディングパッケージでカバーされない家族分の医療保険の保険料のほとんどが組合を通じて返ってくるという点も、細かい話だが大きなメリットであると感じている。

実はこうしたアドバンテージがあることを全く知らずに受験していて、トロント大学に進学することを決めてから初めて知って驚くばかりだった。残念ながらこういう情報は日本ではほとんどシェアされていない。カナダ大学院であれば、米国大学院に比べてファイナンス面での心配があまりなくPhD進学を実現できることが多くの方に知ってもらえるようになればと思う。

③人種的多様性の豊かさ

最後にカナダの人種的多様性の豊かさについて触れたい。米国も多様性が高いと思うかもしれないが、米国でも長く生活して来た観点から言うと、カナダは圧倒的に多様性が高く、外国人が暮らしていても自分が外国人であると疎外感を感じる場面が極めて少なく、自然に溶け込める点で大きく米国とは違うと感じている。移民を積極的に受け入れ、文化を大切にしようとするカナダの政治的・文化的背景が大きく影響していると感じる。

少し具体的に話すと、会話した時の相手の表情とか話し方の違いが顕著だ。米国と異なり、初対面の相手と話す時に外国人扱いを受けることが極めて少なく、アジア系カナダ人という前提で会話をすることが多い。例えば、名前を名乗った後でも、カナダのどこ出身か?と聞かれることが多く、カナダに来たばかりだと話して驚かれる場面も少なくない。

カナダ以外の英語圏の生活経験がある方と話していた際にも話題になったが、カナダの英語は極めてフラットで聞き取りやすい。これもまた移民が多く、多様性を前提とするカナダならではの英語の進化なのだろう。相手のバックグラウンドに関わらず伝わりやすい話し方を自然に身につけて来たのではないかと思われる。(イギリス英語のアクセントが強いのは有名だが、アメリカでも地方ごとに訛りがあって、その地方特有の訛りに慣れないと会話が聞き取りづらい。)

外国人として暮らしながら、外国人であると意識させられることなく、居心地の良いホームとして生活を送ることができることはこの上なく素晴らしいことだと思う。

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