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光る君へ(30)まひろの鳥かごに秘められた2つのドラマ的な意味を考えてみた・大河ドラマで学ぶ脚本テクニック
大河ドラマ「光る君へ」が面白い。ということで、「「光る君へ」で学ぶ脚本テクニック」と題した動画を作っていくことにしました。動画といっても内容はスライドとテキストなので、noteにも載せていきます。今回は第30回の学びポイントです。
歴史の知識や「源氏物語」については一切触れませんので、予めご了承ください。
今回の学び:鳥籠の意味
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まひろの鳥籠は、ストーリーの発端であるだけでなく、この作品のテーマを象徴する最重要アイテムです。ですから、第1回に登場して以来ずっと、空のまま、まひろ家の庇にぶら下げられています。
第30回のラストシーンでは、この鳥籠が久しぶりにアップで示されました。
そしてその直後に、道長がまひろの家を訪れます。
この編集には、鳥籠によって今一度視聴者に「光る君へ」のテーマを思い起こさせようという意図があったように思います。
まずは今回のラストシーンを振り返ってみましょう
2つのインサートショット
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夢中になって物語を書くまひろに、賢子を連れた為時が声をかけます。
「気晴らしに賢子を連れて賀茂の社に行って参るゆえ、お前は一人で書きたいだけ書け」
「お願いいたします」
そう応えたまひろは、二人が去ると筆を止め、物思いに耽ります。
そこに、空っぽの鳥籠がインサートされます。
さらに、まひろを鳥籠越しに捉えたショットが続きます。
鳥籠のショットを2つ続けるという念の入れようには、無言の強い意図を感じますよね。
そして、道長がまひろの家に現れたところで「つづく」となります
ストーリーの発端・テーマの象徴
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最初に整理しておくと、鳥籠がストーリーの発端だというのは、まひろが道長と出会うきっかけだからです。
第1回、少女時代のまひろは鳥籠から逃げた小鳥を追いかけ、それがきっかけで後の道長である三郎少年に出会いました。
この出会いが遠因となってまひろの母・ちやはが、道長の兄・道長に殺害されます。そして、ちやはの死に対する罪悪感が、まひろと道長を強く結びつける動機となります。
つまり鳥籠は、「光る君へ」のドラマ部分、史実に基づかないオリジナルストーリーの、非常に重要な発端です。
さらにこの鳥籠は、このドラマのテーマを象徴する重要アイテムでもあります。
そのテーマとは「小鳥は籠の中と外、どちらが幸せか」という命題です。
小鳥はもちろん、主人公まひろのメタファーです。
「光る君へ」のテーマ
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第1回の動画で描いた図で、テーマについて改めて説明します。
小鳥がまひろなら、鳥籠は、身分・しきたり・女性といったもののメタファーです。
母・ちやはは言います。
「一度飼われた鳥は外の世界では生きられない。だから最期まで守ってやらなければならない」
つまり、籠の中の鳥は一生籠の中で暮らすのが幸せであるという考え方です。
一方、三郎は言います。
「鳥を鳥籠で飼うのが間違いだ。自在に空を飛んでこそ鳥だ」
「でもひとたび人に飼われた鳥は、外では生きられないのよ」
母に言われたままの言葉で反論するまひろに、三郎は重ねて言います。
「それでも逃げたのは、逃げたかったのだろう。諦めろ」
つまり、鳥は籠の外で自由に生きるのが幸せだという考え方です。
「光る君へ」は、この2つの生き方のはざまで、主人公まひろが揺れ動く様を描くドラマです。
新たな関係の始まり
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さて、以上の整理を踏まえて、改めて第30回を振り返ってみましょう。
ラストシーンの鳥籠は、まひろと道長の「新たな関係の始まり」を表現しているのではないでしょうか。
これまで何度も、二人は会っては別れ、別れては会うというのを繰り返していますが、今回は今までとは違う、新たなフェーズの「再会」です。
なぜなら、道長がやってきた目的は、娘・彰子のために、「枕草子」に対抗する物語をまひろに書いてもらいたい、そういうことを頼むためだからです。
愛し合っているにも関わらず結婚できなかった二人が、今度は政のパートナーとして新たな関係を切り結ぶ。今回は、その始まりなのです。
先ほど振り返ったように、この鳥籠は出会いのきっかけです。ですから 今回のシーンは二人の「出会い直し」という意味なのでしょう。
このように考えると、鳥籠がアップで強調された後に道長が登場するという今回の演出は、とても感動的だと思います。
まひろの葛藤
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どうしてまひろは物語を書く筆を止め、物思いに耽るのでしょうか。父が賢子を連れ出してくれれば、煩わされることなく執筆に集中できるのに。
それはまひろが、母親としての自分と、作家としての自分とのはざまで、激しく葛藤しているからですよね。
つまり、またもやまひろは、「鳥籠のテーマ」で苦悩しているわけです。
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「学問は女を幸せにしない」という父や弟に対して まひろは反論します
「賢子は書物を読み 己の生き方を己で選び取れる子になってほしい」
一方 まひろに構ってほしい賢子は 大切な原稿を燃やしてしまいます。
まひろの沈黙は、女性・母親としての生き方、つまり鳥籠の中の幸せと、自己実現を追い求める生き方、つまり鳥籠の外の幸せのはざまでの葛藤を表現しています。
これは非常に現代的なテーマ設定ですよね。まひろの葛藤は、私たちの多くが抱えているのと同じものです。
前回の動画で取り上げたききょうは、この図で言えば、鳥籠の外を自ら選んだキャラクターです。今回初登場の和泉式部も、鳥籠の外の女ですよね。
彼女たちと比べると、まひろは「選べない女」です。だからこそ我々が感情移入できる主人公たりうるわけです。
空の鳥籠は、葛藤するまひろを表現するアイテムとしてインサートされています。特に2カット目の、鳥籠をなめてまひろを写したショットは、その性格が強いと思います。
ところで、我々とまひろには決定的な違いがあります。そう、まひろには道長がいるということです。
道長がやってきたのは、まひろを鳥籠の外に連れ出すためです。残念ながら、こういう幸運が現実に起こることは稀ですが、だからこそドラマは面白いわけです。
最後に鳥籠はどうなる?
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最後に、最終回の予想をしたいと思います。
まひろの鳥籠は、きっと最終回にも登場します。ただ、その際はインサートのみではないはずです。
なぜなら、これだけ重要な意味を持たせたからには、何らかの「オチ」が必要だからです。かと言って、あまり目立った扱いをするのも、ドラマ的にはバランスを欠きます。
そう考えると、一番ありそうなのは、「床に下ろされる」というアクションです。
ポイントは、この鳥籠がずっと吊るされたままだということです。吊るされているというのは、不安定な状態です。この不安定なイメージは、まひろのトラウマや葛藤と重なります。
「光る君へ」がどのようなラストを迎えるのかはわかりませんが、まひろが「源氏物語」を書き上げる つまり「自己実現」するのは決定事項です。
それと共に、宙吊りという鳥籠の不安定さも解消されるのではないでしょうか。
自分で言うのもアレですが これはかなりありそうな予想だと思います。
ひょっとしたら、まひろの鳥籠を床に下ろすのは、母である紫式部より出世したという娘・賢子かもしれませんね。
最後までお読みいただきありがとうございました。
背景画像:
From The New York Public Library https://digitalcollections.nypl.org/items/510d47e3-fe62-a3d9-e040-e00a18064a99
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