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光る君へ(21)なぜ柄本佑さんの道長は無表情なのか考えてみた・大河ドラマで学ぶ脚本テクニック

大河ドラマ「光る君へ」が面白い。ということで、「「光る君へ」で学ぶ脚本テクニック」と題した動画を作っていくことにしました。動画といっても内容はスライドとテキストなので、noteにも載せていきます。今回は第21回の学びポイントです。
歴史の知識や「源氏物語」については一切触れませんので、予めご了承ください。

今回の学び

10年ぶりのラブシーン、セリフも良かったのですが、何より素晴らしかったのは柄本さんの演技だったと思います。

中でもすごかったのは、演技しないという演技、つまり「無表情」によって「光る君へ」の大事なテーマを伝えるという演技でした。

詳しく振り返っていみたいと思います。

無表情

シーン振り返り

道長を呼び出したまひろは、こう問います。

「中宮様を追いつめたのは道長様ですか?」
「伊周様を追い落としたのもあなたのはかりごとなのですか?」

道長は答えます。

「そうだ」
「だから何だ」

しばし見つめ合った後、まひろはかすかに微笑んで言います。

「お顔を見てわかりました。あなたはそういう人ではないと」

それを聞いた道長は言います。

「似たようなものだ 俺の無力のせいで 誰も彼もすべて不幸になった」

どこがすごいか

どこの演技がすごいかというと、道長を演じる柄本さんが「そうだ」「だから何だ」と言って吉高さんを見るところです。

このときの柄本さんは完全な無表情で、セリフの言い方にも、何の感情も込めていません

もし柄本さんがここのセリフや表情に、僅かでもニュアンスを込めていたら、このシーンはこれほど良くならなかったと思います。

なぜなら、ここは、まひろと道長が「心と心で通じ合う」場面だからです。

「そうだ」「だから何だ」というセリフは、道長のウソです。内心を隠した強がりです。これは後に続くセリフから明らかです。

しかし、それがウソだということは、まひろにしか見抜けない。まひろに見抜かれて、道長は初めて、苦しい胸の内を告白する。ここはそういう場面です。

「そうだ」「だから何だ」と言って吉高さんを見るとき、もし柄本さんが少しでもタメを作ったり、眉を動かしたり、瞬きしたりしたら、見ている私たちは、まひろより先に、道長がウソをついていることに気づいてしまいます。

それではまひろの「お顔を見てわかりました。あなたはそういう人ではないと」というセリフの「特別さ」がなくなってしまいます。

まひろは道長に関して、私たちには見えないものが見える。「お顔を見てわかりました」には、そういう意味が込められています。

「そうだ」「だから何だ」と言う道長の本心が、私たちにはまったく見えないからこそ、「お顔を見てわかりました」というまひろのセリフが私達にショックを与え、この二人の「特別な関係」を改めて思い出させるのです。

役者さんにとって「一切演技しない」というのは、ある意味最も難しい演技
ではないかと思います。ここで柄本さんがやっているのはまさにそういう
演技であり、かつ脚本的にはそれ以外ないという「正解」だと思います。

「俺の無力のせいで誰も彼もすべて不幸になった」
まひろに心の中を見透かされた道長は、素直に葛藤を告白します。
柄本さんの演技も、このセリフ以降感情がこもったものになります。

この演技のコントラストは、脚本の流れを見事に表現していて、情熱的な口づけで終わるこのシーンを非常に感動的なものにしていると思います。


最後までお読みいただきありがとうございました。

背景画像:
From The New York Public Library https://digitalcollections.nypl.org/items/510d47e3-fe62-a3d9-e040-e00a18064a99

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