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光る君へ(15)道兼さんへの手紙・大河ドラマで学ぶ脚本テクニック

割引あり

前略 道兼様

「光る君へ」第15回を拝見して、大変心配しております。
あなたは道長に騙されています。

「俺は父上に騙されて、ずっと己を殺して生きてきた」

あなたはそう嘆きますが、道長もまた、あなたを操ろうとしています。

あなたが道長の言葉に涙するのは、失意のどん底でこれ以上なく弱っているからです。
どうか本来のあなたに戻って、このドラマをさらに盛り上げてください。

「光る君へ」は、あなたが始めた物語です。

あなたが三郎の足を傷つけなければ、まひろと道長の再会はありませんでした。
また、あなたがまひろの母・ちやはを殺さなければ、まひろと道長が強く結ばれることはなかったでしょう。

さらにあなたは、人殺しの罪に対する罰として、父の兼家から「汚れ仕事」を命じられ、その役目を完ぺきにこなしました。
兼家一家の栄華も、あなたなしでは語れません。

あなたのダークなご活躍があってこその「光る君へ」です。

にも関わらず、第15回で描かれたあなたのお姿は、実に哀れなものでした。
しかもWikipediaによると、あなたはあと2年くらいで病死してしまうようです。
これは大問題です。

あなたがこのまま、大した活躍もせず死ぬなどということは、脚本的にあってはならないことです。
あなたはこのドラマのために、最後の大きな仕事をやらねばなりません。

「摂政の首が取れたら、未練なく死ねる」

あなたはそう言いますが、残念ながら、あなたが摂政である兄・道隆の首を取るのは不可能です。

なぜなら、道隆も病で死ぬからです。
大河ドラマはWikipediaには逆らえません。

道長はあなたをこう叱咤します。
兄思いの優しいセリフに聞こえますが、これにはがありますから、絶対に乗ってはなりません。

「兄上はもう父上の操り人形ではありません.。己の意志で好きになさってよいのです」
「私は兄上にこの世で幸せになっていただきとうございます」
「兄上は変われます。変わって生き抜いてください。この道長がお支えいたします」
「しっかりなさいませ。父上はもうおられないのですから」

つまり道長は、あなたにこう言っているのです。
「父は死んだから、自分の意志で自分を変え、この世で幸せになれ」

道長の腹の中を、冷静になって想像してみてください。
道長が本当に言いたいことは、結局こういうことです。

「生きて罪を償え」

私の解釈を疑うのなら、ぜひ第6回の道長のセリフを思い出してください。
父に諭された道長は、あなたにこう言います。

「兄上には我が家の泥を被っていただかねばなりませぬゆえ、あのことは忘れまする
「父上がそう仰せになりました」

あのこととは、あなたがまひろの母を殺したことです。
あなたがその罪の代償として汚れ仕事を命じられたように、道長もまた、父に命じられて恨みを封印したに過ぎません。
そうであれば、父なき今、道長があなたに罪の償いをさせたいと思うのは当然のことです。

道長にしてみれば、あなたはとんでもない兄です。
幼い頃は日常的に理不尽な暴力を振るわれ、恋人の母親を殺され、あげくに「お前が俺をイラつかせたせいだ」と、罪の一端を担わされたわけですから。

そんな道長が、ただ素直に兄を励ますわけがありません。
道長はあなたに、これを機会に真っ当な人間になれと言っているのです。 しかしドラマでは、真っ当なキャラクターほどつまらないものはありません。

あなたはまだ、自分が殺した女がまひろの母だとは知りません。
あなたがそれを知らずに死ぬということは、脚本的にありえません。
それを知る場面は必ず描かれます。

ですが、道長の優しい言葉にほだされて、罪を悔い改めるようなことは何卒おやめください。
道長に付き添われたあなたが、まひろの前で手をついて詫びる、そういう場面は、あなたには似つかわしくありません。

光あるところには必ずができます。
その影こそ、あなたが生きる場所です。
今いちど本来のキャラクターに立ち返り、最後のダークなご活躍を見せていただきますようお願いいたします。

そして死ぬ際には、その影を道長にお与えください
彼の栄華を一層輝かせるために。

気の利いた漢詩も、雅な和歌もない無粋なお手紙、大変失礼いたしました。


最後までお読みいただきありがとうございました。

背景画像:
From The New York Public Library https://digitalcollections.nypl.org/items/510d47e3-fe62-a3d9-e040-e00a18064a99

動画


蛇足メモ

兼家の死の描き方は私の予想に近いものでした。

道隆の死はおそらく、かなりアッサリ描かれると思います。
道隆は脚本的には「小物」だからです。

問題は道兼です。
手紙にも書きましたが、道兼はここまでの脚本において、主人公道長と同等かそれ以上に重要な存在だからです。

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