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光る君へ(34)どうして雨宿りシーンは繰り返されるのか理由を考えてみた・大河ドラマで学ぶ脚本テクニック

大河ドラマ「光る君へ」が面白い。ということで、「「光る君へ」で学ぶ脚本テクニック」と題した動画を作っていくことにしました。動画といっても内容はスライドとテキストなので、noteにも載せていきます。今回は第34回の学びポイントです。


今回の学び:雨宿りの意味

今回の「雨宿り」シーン、今ひとつピンとこなかった方が多いのではないでしょうか?
なぜ、まひろは彰子を あんなにじっと見つめるのでしょうか?そしてなぜ、意味ありげに微笑むのでしょうか?
ということで、今回は「雨宿り」シーンのの意味を考えます。

ドラマを考察する動画なので、いつもは知識事項には触れないのですが、今回は「源氏物語」の内容から始めたいと思います。
どうしてかというと、そこから考えるほうが、「雨宿りの意味」つまり、「雨宿りシーンの演出意図」が深く理解できると思うからです。

原稿のアップ

今回、まひろが書いている「源氏物語」の原稿が、3回アップでインサートされます。

私のような素人でも読み取れる単語をピックアップして調べると、該当箇所はこうなります。

1つ目は、道長が訪ねてくるシーン。
手つきやせ丶丶」と読めます。これは「源氏物語」3帖「空蝉」の一節で、空蝉の「手つきが痩せている」という描写ですね。
空蝉という登場人物は、紫式部が自分自身をモデルにして書いたと言われているそうです。

2つ目は、弟の惟規が訪ねてくるシーン。
雨夜の品定めの後」と読めます。これは4帖「夕顔」で「雨夜の品定め」を回想しているところです。「雨夜の品定め」とは、雨の夜に男たちが女の品評会をやる話です。
つまり、このシーンでまひろが思い出しているのは、第7話の「雨宿り」シーンです。これは後で詳しく検討します。

3つ目はセリフで説明されるので分かりやすいですよね。
5帖「若紫」の出会いの場面で、幼い紫の上が言ったセリフ「雀の子を犬君が逃しつる」です。
まひろは、扇に描かれた自分と道長の出会いを思い出して、この一節を書き始めます。

こうやって並べると一目瞭然ですが、わざわざインサートされた原稿のアップはいずれも、まひろが自分自身を振り返り、それをネタにして「源氏物語」を書いている、そういうことを表現しています。

タイムパラドックス?

ちょっと待て、まひろというキャラクターにしても、彼女の経験にしても、「源氏物語」をもとにして作られたフィクションじゃないか。それを元ネタなんて表現するのはおかしいだろう。
そういうツッコミはごもっともです。

「源氏物語」にインスパイアされて書かれたエピソードがもとになって、その「源氏物語」自身が書かれるという、俯瞰して見ると、まるでSFのタイムパラドックスみたいなことになっているわけですから。

でもドラマ的に大事なのはそこではなく、このループが描く「まひろの成長物語」です。

自分をモデルにしたり、過去の経験をもとにしたりして物語を書くというのは、それらを「客観視」しないとできないことです。これは、未熟な精神ではできません。

”出会った幼い日からずっと、道長と一緒に生きていられたら、一体どんな人生だっただろう” 
まひろはそう自問して、幼い紫の上の話を書き始めますが、これは後悔しているわけではありませんよね。

「客観視」できるようになったからこそ「創作」できる。そういうことを表しているのだと思います。

リピートされる過去

さて、以上のことを踏まえて、今回の「雨宿り」シーンを振り返ってみましょう。

今回の「雨宿り」シーンは、第7回の「雨宿り」シーンとそっくりです。
どちらも、にわか雨でイベントが中断され、雨宿りしながら男たちが雑談するという流れです。違いは、その雑談を聞く主体が、まひろか彰子かということです。

第7回の雑談は、「雨夜の品定め」同様、女の品定めでした。会話の内容は2点に要約できます。
”まひろという女は地味でつまらない”
”身分の低い女は結婚相手ではなく遊び相手だ”

これを盗み聞きしてしまったまひろは、話の輪に道長がいたことにショックを受け、道長からのラブレターを燃やしてしまいました。

今から振り返ると、この時のまひろはなんてウブだったのかと、感慨深いですよね。
それから様々な経験を重ねたまひろは 立派な「オバちゃん」へと成長します。

「私のような滋味でつまらぬ女は、己の才を頼みとする他ございませぬ」
前回、まひろは、かつて自分の容姿をディスった公任にこう言い放ちました。出世して、嫌味が言えるくらいしたたかになったというワケです。

また今回、惟規の結婚話で、まひろはこう言います。
「惟規には身分の壁を超えてほしいの」
これも第7回の「品定め」を意識したセリフですよね。ウブだった頃は絶望した身分の壁も、成長した今は、超えられる可能性を信じている、そういうセリフだと思います。

さてそれで、今回の「雨宿り」シーンを振り返ります。
男たちは、光る君のモデルについて雑談します。
彰子がそれを 御簾の奥から見ています。

「源氏物語」の中の男たちが何を言っているのか分からない、そうまひろに訴えた彰子ですから、かつてのまひろ以上に「男」を知りません。

今回は男たちの中にいるまひろが、そんな彰子に、かつての自分の姿を重ねて見たとしても、不思議はないでしょう。そう考えると、彰子を見つめて微笑むまひろの心情がよく解る気がします。

ああ私にもあんな頃があった
彰子を見るまひろの眼差しには、そういう気持ちが込められていたのではないでしょうか。

パンチの効いたセリフ

こうやって整理すると、雨宿りの後のまひろと彰子の会話も、すんなりと入ってきます。

「殿御は皆かわいいものでございます」

かつて「男たちによる女の品定め」に酷く傷ついたことを思い返せば、いかにまひろが変わったかを思い知らされるセリフですよね。

それと同時に 子供の世界に閉じこもっている彰子を目覚めさせるパンチの効いたセリフでもあります。

ですから、彰子は驚いて尋ねます。

「帝も?」
「帝も殿御におわします。先ほどご覧になった公卿たちと、そんなにお変わりないように存じますが」

帝も一人の男に過ぎないというこのセリフは、身分の壁を超えたいというまひろの夢にも通じます。

このまひろのセリフで目覚めた彰子が、どう変わっていくのか。
今後の展開が楽しみです。


最後までお読みいただきありがとうございました。

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From The New York Public Library https://digitalcollections.nypl.org/items/510d47e3-fe62-a3d9-e040-e00a18064a99

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