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じっくり話ができないのは、「時間がない」から? 「余裕がない」から? 「優先順位がつけられない」から?

マネジメントの2つの機能は、パフォーマンスを向上させることと、職場の人間関係を安定的に維持すること。ところが、環境がゴロゴロ変化し、マネジャーも忙しくなってくると、この2つをうまいことバランスさせるのがむずかしくなる。

じゃあどうやったらいいのか? というハーバード・ビジネス・レビューの記事。

記事に書かれていることは、おおむねその通りだと思う。

でも、高いパフォーマンスを実現することと、メンバーの話をじっくり聴くことの間の優先順位づけについて書かれた部分には、「他にもやり方はあるんじゃないか」とも思う。

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著者の2人が行った調査によれば、部下を支援し、職場の人間関係を良好に保つことと、高いパフォーマンスを実現することとのバランスを取ることに苦労している人がとても多いことが分かった。

筆者らが最近、ホスピタリティや自動車、バイオテクノロジーなど幅広い業界のシニアビジネスリーダー300人を対象に行った世界規模の調査では、従業員にとってのサポートの必要性と、企業として必要な高いパフォーマンスのバランスを取ることに苦心していると回答した人が61%に上った。

ここで大切なのは、職場の現状がどうなっているのかについてのデータをしっかりと集めること。とはいえ、できるだけ多くを得ようと、アンケート調査や対話集会のような形でデータ収集を行うことは、かならずしも効果的な方法ではない。

そうした方法で得られる定量的なデータは、「社員の経験を深く理解できるわけではなく、真の思いやりも示せない」ことが多いから。

そういうわけで、1対1でじっくり話を聴くことが大事。

1対1の対話は人々が直面している複雑な状況を理解し、心からの思いやりを伝えられる理想的な場だ。

そうはいっても、1対1でじっくり話を聴くには時間もかかる。それに、一人ひとりの「個別事例」が全体をあらわすわけでもないところが悩ましいところ。

このような会話には大きな意味がある。ただし、相当の時間を要するうえに、全体像を把握するのに役立つとも限らない。最善のアプローチは、いくつかの方法を組み合わせることだ。どの手法を使って、どのように組み合わせれば最良の結果が得られるのかと熟慮しなければならない。

というわけで、ここでカギとなるのが、1対1でじっくり話を聴くこと。そして、多くのデータを手に入れることをうまい具合にバランスさせること。

思いやりに満ちた会話をするには時間がかかるという事実は、キャパシティの問題が中核にあることを示している。マネジャーが思いやりを示すという業務に時間を費やすためには、重要度の低い業務を組織が間引く必要がある。これは、口で言うのは簡単だが、実行するのは難しい。

記事にはそう書かれているけど、しっかり話を聴くための方法は、「重要度の低い業務を組織が間引く」ことだけではないと思う。ポイントは、マネジャーが仕事の優先順位づけを行うにあたって、時間をかけて話を聴く「業務」をしっかりと位置づけること

この記事には、メンバーを支援し、チーム内の良好な関係を維持することから生まれるウェルビーイングとパフォーマンスの向上を、どちらか一方を選ばなければならない二項対立の枠組みでとらえてはいけないと書かれている。

じっくりとメンバーから話を聴くことと、パフォーマンスを上げるための業務に時間を費やすことについても同じことがいえる。

しっかりと話を聴くということは、かならずしも長い時間をかけるということではなくて、ふだんよりもしっかりと相手の話に耳を傾け、問いかけ、共感を伝えるということ。

だから5分でも10分でもいいから、ふだんよりも丁寧に相手の言葉に向き合うことができれば、聴く vs 聴かないをめぐるゼロかイチかの対立を乗り越えることができるはず。

じっさいに、たとえば研修の中で相手と1対1で7〜8分くらいじっくりと話し合ってもらうと、短い時間でも思った以上に深い話ができることを実感するという人が多い。

もちろん、研修中のエクササイズとして行う対話では、それまでの研修の流れの中で、話のどこに目を向け、何を明らかにすればいいのかについての伏線を張りめぐらせているから、話がうまいこと進む算段になっている。

こうした対話を、業務のちょっとした空き時間にマネジャーが行うためには、やるべき業務の優先順位をつけるように、ちょっとした対話の時間が生まれたら、メンバーとどんな話をして、何を明らかにするのかについての優先順位づけをふだんから行っておく必要があるだろう。

こうした事前の準備をしないまま、なんとなく雑談しても、結局は実のない話だけがつづいてしまうことになりがち。

大事なのは、ちょっとした雑談が深い話につながるような関係をメンバーとの間でつくり上げていくこと。そのためには「関係づくりのための対話」をドカンとやるのではなく、ほんの短い時間でも(ちょっとだけ)深く話せる機会を積み重ねていくことだと思う。

やるべき業務に大きな負担をかけない形で、深い対話の下地となる関係づくりに時間を割いておかないと、話を聴く「業務」がプレッシャー要因に感じられてしまい、結局は逆効果になることもある。

思いやりのあるリーダーシップが、新たなプレッシャー要因にならないよう留意しよう。従業員をサポートすることのニーズが高まるにつれて、部下の定着率やエンゲージメントスコアなどによって、マネジャーの支援能力を評価される場面が増えている。

このような側面について、アカウンタビリティが求められるのはよいことだ。ただし、すでに余裕のない体制にさらなるストレスを加えるだけでなく、かつては真の意味で、人間中心で思いやりにあふれていた行動を、手段としての行動に変えてしまうという二重のリスクをはらんでいる。

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話を聴く「時間がない」という人は、多くの場合、「聴くことに長い時間を割くと、やるべき業務が圧迫される」という意味でそう言っていることが多い。しかし、じっさいは5分なり10分なりの時間でさえ割く「余裕がない」ことが、聴けない原因であることが多い。

じゃあ、とにかく5分や10分くらい話を聴いたらいいのかというと、話はそう簡単ではなくて、スキマ時間が生まれたら何を聴くのか、何を知りたいのかについて「優先順位がつけられない」場合には、短い時間の対話を有効に使うことがむずかしくなる。

この記事には、ウェルビーイングとパフォーマンスが、「特に長期的には誤った二項対立である」と書かれているけど、これと同じように、まずはマネジャーが心にゆとりを持ち、チャンスがあればメンバーに何を聴きたいのかをふだんから考えておき、業務に支障のない範囲でちょっとした時間に深い対話を積み重ねておけば、話を聴くことと高いパフォーマンスを実現することが長期的には二項対立ではなくなるのだと思う。

#DIAMONDハーバードビジネスレビュー

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