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~第19回~ 「鯉の話~その1~」

前回の記事「魚の話」で見沼の鯉が登場しました。

今回はこの「見沼の鯉」について、別のお話をご紹介いたします。

見沼は片目の鯉がいたという伝承が今に伝わっております。

見沼には神魚とされる片目の魚が住んでおり、承応年間、江戸の町人が片目の魚を得ようと勝手に見沼で漁をしたところ、小蛇が三笊も引き上げられ、肝をつぶして江戸に逃げ帰ったというお話。

そしてもうひとつ。

貞享年間に、見沼運上をしていた浅草の店に手代七兵衛という者が働いていましたが、この男が急に盲目になってしまい、原因を探るべく荷を調べたところ、江戸に送った荷物に片目の鯉があったことが分かりました。

この鯉を急ぎ返上して参籠したところ、三七満夜に、許しの霊夢があり、両目が明いたのだそうです(『大宮市史 第5巻』参照)。
この伝承はこの『大宮市史』のほかに『埼玉県伝説集成 上』や『浦和市史 民俗編』などにも収録されております。

片目の鯉の伝承は、例えば他には愛知県知立市の知立神社の御手洗池などにも残っており、ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典には「片目の魚」について

「目の片方を失った魚、並びにそれの棲む池の伝説。その多くは、社寺の境内か、近くの池に棲んで神聖視される。片目の魚の由来伝説は、社寺の信仰を導くことを主としたものらしい。」とあります。


見沼に住んでいたという片目の鯉の伝承もまた、地域に根差した氷川信仰を今に伝えるものなのです。

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〔 Word : Keiko Yamasaki Photo : Hiroyuki Kudoh 〕

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