男尊女卑『女性』という名の呪い

　17歳のとき、付き合っていた彼氏の友達の家に遊びに行った。男性が4人、家主の男性の彼女が1人、合計5人の中に私が1人加わった形だった。

彼氏は2つ年上の先輩で、集まっていたメンバーも全員年上だった。そこで忘れられない出来事が起きた。

唯一そこにいた女性に、なぜか私だけが皿洗いを命じられたのだ。

皿洗い＝女の仕事

私の地元がある九州は『男尊女卑』の意識がいまだに根強く、16年前は「女は男の後ろを一歩下がって歩け」「男を立てろ」などと、普通にみんなが言っていた。

洗濯物は父親、長男、母親、長女、次女、というように干すのがあたり前だと思っていたし、お茶碗にご飯をよそうのだって、その順番だ。

生まれた時からそのような環境に身を置いて育ってしまうと、そのことに何の疑問も覚えない。何なら、「亭主関白な人がすきだ」とすら思っていた。

だからそのときも、皿洗いは「女の仕事」だと思ってやった。

しかしそれだけで済んだならまだしも、その後彼氏に「皿の裏に泡ついとったらしいぞ。皿の裏洗わん女ってなんかって言われたばい」と言われた。

とっさに「うち食洗器なので、お皿洗ったことないです。すみませんね」と、嘘をついて言い返すのが精一杯だった。

実家に食洗器なんてない。

16年経った今でも、その場にいた全員を許すことが出来ない。

「お前」という下の者に対する方言

私は男性に「お前」と呼ばれて生きて来た。ちょっと見下したように呼ばれ、自分のもののように扱われるのがあたり前だった。この事に違和感を覚えたのは、つい最近だ。

3年前、当時の彼氏で現在の夫が「お前って言われるのだけは本当に嫌だから、絶対に人に言わない」と言ったのだ。

夫は生まれも育ちも関東の人で、とても優しい人だ。何かに対して強く「嫌だ」という事があまりない。だから純粋に気になった。なんで「お前」が嫌なんだろう？と。

あまりにもずっと「お前」扱いされてきたので、それがよくない言葉だという事がわからなかったのだ。

冷静に考えてみれば「お前」って何だ。どんな立場でどんな人間であろうと、その物言いはだめだろう…って、最近思った。ほんと、最近。

九州は「お前」という言葉が日常的に使われる。

これは女性とか子供とか部下とか、男性が自分より下だと思っている人に対して使う。けれどよく考えてみてほしい。九州で当たり前でも、関東の人が嫌だというのなら、それはハラスメントに当たるのだ。使ってはいけない言葉だと、私は思う。

そして、女性もきちんと考え直してほしい。「お前」と呼ばれるのは、嫌ではないか。それは放っておいていいことなのか。

「男は背中でものを言う」ってモラハラじゃないか

「男は背中でものを言う」

大嫌いな言葉だ。これは言い換えれば「察して」という事だ。たいていの人間は他人が何を考えているのかなんてわからないし、言葉にしないものを汲み取れというのは圧力だ。それは、暴力に等しい。

けれどなぜか、なぜか九州にはこういう男性がたくさんいる。しかも察せなかった場合、キレられる。

落ち着いて考え直してほしい。言葉にするという努力をしないで、相手の察知能力に全てを委ねる。何も知らない赤ちゃんか。

そして、言われた側も、言われたからってやらなくていい。自分のことは、自分でやる。

愛する故郷と思い出

私は、九州が大好きだった。

生まれ育った街と、美味しいご飯、綺麗な空気、優しい人たち。本当に誇れる場所だと思っていた。

上京してからも付き合う男の人は九州の人ばかり。だからずーっと気づかなかった。自分が「お前」扱いされているということにも、「亭主関白」が肌に合わないということにも。全然気づかなかった。

「男の人はね、何でもしてやらな、いかんもんね」という、地元の言葉がこだまする。

大好きだった元カレたちの思い出は、今になって腹が立つことばかりになった。

当時は平気だったことが、今は許せない。皿洗いだって、あのときの私は確かに平気だったのだ。けれどそれは、自分が違和感に蓋をしていただけだ。よく考えてみれば、女性に生まれたというだけで小間使いにされるのは意味が分からない。

時代は変わったのだ。

人は平等。性別や年齢、立場で価値は変わらない。人間に上も下もない。おかしいことにはおかしいと、正しく怒っていい。自分は誰かの上にも下にもいないのだという事を、しっかりと全員が認識してほしい。

『女性』という性別を、呪われたものにしないで

きつい言葉をたくさん使ったが、それでも私は、どうしても地元九州が大好きだ。地元の友達も実家も、大好きだ。東京で九州の人に会うと、気持ちがほっこりと柔らかくなる。

九州を、恥ずべき故郷にしたくない。

時代の変化に取り残されないよう、今一度九州の人たちはよく考えてほしい。自分は誰かに偉そうにしていないか、誰かに嫌なことを強いられていないか。

『男尊女卑』という文化は、おかしい。

皿くらい自分で洗え。