見出し画像

『窮鼠はチーズの夢を見る』鑑賞日記。

 2020年9月11日に公開された映画『窮鼠はチーズの夢を見る』を見に行った。主演は関ジャニ∞の大倉忠義君ということで、関ジャニ∞ファンの夫についてきてと言ったが、「BLが怖い」と言われてしまった。無理矢理連れて行くのもよくわからないので、仕方なくひとりで見に行った。見終わった感想は、「夫にも見せたかった」である。
 以下、ネタバレを含む感想を書くので、これから鑑賞する方は自己判断のほどをお願いしたい。

※読みやすさを優先するため、役者、役名、スタッフ名を継承略ですすめさせていただく。

ーーーーー

あらすじ
学生時代から「自分を好きになってくれる女性」とばかり付き合ってきた大伴恭一(大倉忠義)。ある日、大学時代の後輩・今ヶ瀬渉(成田凌)と再会。「昔からずっと好きだった」と想いを告げられる。戸惑いを隠せない恭一だったが、今ヶ瀬のペースに乗せられ二人は一緒に暮らすことに。ただひたすらまっすぐな思いに恭一も少しずつ心を開いていき……。しかし、恭一の昔の恋人・夏生(さとうほなみ)が現れふたりの関係が変わりはじめてゆく。

 BL作品といわれて見に行ったが、初っ端から恭一(大倉忠義)と瑠璃子(小原徳子)のセックスシーンがあって驚いた。女性の裸も、性器以外はほぼ映っている。恭一と今ヶ瀬(成田凌)の絡みでは、喘ぎ声や唾液の音などもリアルに描かれていた。
 およそ6割ほどはセックスシーンだった。けれどそれでいてとにかく映像が美しい。これぞ行定勲監督作品という画力であった。いい感じに枯れている大倉、そして飛び切り可愛い成田の圧倒的ビジュアル。主演二人だけでなく、女性キャストを含めた全員がハマっていた。

 さて、恭一はもともと異性愛者である。彼は同性である今ヶ瀬に流されて関係を持ち、やがて本当に気持ちが惹かれていく。本作ではこの点が非常に丁寧に描かれている。人が後天的なバイセクシャルになることがあるとすれば、最初はみな戸惑うだろう。その葛藤や気持ちの移り変わりがあまりにも納得できる流れだった。これは原作者(水城せとな)の非常にうまいところではあるが、130分の映画で見事にまとめているなと思う。

 それに加えて、今ヶ瀬の可愛さである。あんなにも可愛くて押しの強い人に7年も思われ続けていたら、性別関係なく好きになってしまうだろう。彼の魅力が、成田凌を通してバシバシと伝わってきた。中盤、恭一との関係に終止符を打とうとした彼が、恭一から「ずっと苦しかったろ」と言われて泣くシーンでは一緒になってポロポロと泣いてしまった。恭一の真っ黒な目を見て、映画館でなかったら声を出して泣いていたと思った。
 ヤキモチを焼いて束縛を繰り返し、好き同士でも窮屈になっていく。そこには同性同士とか、異性同士であるということは関係なく、ただ純粋に人を思うことの難しさが描かれていた。
 それでいて同性同士の難しさも非常に現実的である。外で手を繋いで歩けないとか、堂々と会社の人に恋人を紹介できないとか、異性に対する嫉妬だとか。異性と一緒にいる方が楽であるという考えの元、「俺は、お前を選ぶわけにはいかないよ」と今ヶ瀬に伝えた恭一の気持ちも理解できる。本作を見て、そういったことが今後なくなっていけばいいなと強く思う。
 つまり、やはり「夫のような人にも見せたかった」が一番の感想である。本作が、異性同士の恋愛作品と同等の扱いを受けることを望む。

ーーーーー

 ここまでは、映画に対する感想。ここからは、恭一に対する悪口である。読みたくないよという方は画面をそっと閉じてほしい。

 後半、映画館であるにも関わらず何度も舌打ちをしそうになった。元カノである夏生(さとうほなみ)から「流され侍」と揶揄され、「ハーメルンの笛吹きについていく男」と言われる彼の受動的な態度、自分の意思がない様に腹が立って仕方がないのだ。彼以外の登場人物全員の気持ちに共感できるが、彼にだけは共感ができない。ギリギリ理解はできる、程度である。
 「自分に好意を持ってくれる女性」とばかり付き合ってきた彼が、「自分に少なからず好意を持っていそうな女性」に、恋人である今ヶ瀬の誕生日プレゼントのワインについて尋ねたときはマジのドン引きをしてしまった。その悪気のなさゆえに、とにかく無神経である。そしてその後、今ヶ瀬との最初の別れの原因となった岡村たまき(吉田志織)と関係を持つ。今ヶ瀬への気持ちを抱きながら、結婚にまで持っていくのだ。当然たまきを本気で一番に大切に思っている様子はない。これには度肝を抜かれた。
 どんだけ人を傷つけるのだ貴方は。自分の行動で誰がどのように傷つくのか想像ができないのかと、小一時間問い詰めたい。そして、そのような感情の後に「でも何を言っても伝わらないのだろうな」という、諦めのような気持ちもわいてくる。グラグラに感情を揺さぶられた。

 しかし、恭一を見ていると強い既視感を覚える。ああいった男を一人どころか、何人も見たことがある。実は意外とどこにでもいる男なのだ。受動的で凡庸な男性、その流されやすさがとてもリアルだった。「うわ、こういう男おる!」と何度も思った。そして最後の最後にやっと自分の意志が出たときにはもう遅い、というのも非常に現実的である。とはいえ今ヶ瀬は戻って来てくれる気はするが「もうあいつのところには帰らないでくれ!!」と、思う。

 ところで主演の大倉君であるが、アイドルの皮を1枚も2枚も脱ぎ、今後ジャニーズ事務所の看板俳優として活躍していくのだろうなと感じた。セリフ、表情、体作り、全てにおいてお見事の一言だった。

ーーーーー

 『失顔症』という人の顔を見分けられない病気なのだが、本作はなぜだか全員の顔を覚えることができた(すごい!)。さとうほなみさんをめちゃくちゃ好きになってしまった。

いただいたサポートはチュールに変えて猫に譲渡致します。