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湊かなえ作品の犯人は、いつも私みたいなクソ女

小説家 湊かなえ。

彼女はイヤミスの女王と呼ばれている。読んだ後嫌な気持ちになるミステリー=イヤミス。読後感の悪いミステリーの女王、という事らしい。

私は、湊かなえ作品が好きだ。

◆私が湊かなえ作品に惹かれる理由

湊かなえ作品は、いちいち私が「好きです」と口に出す必要がないくらい、恐らくみんなが好きである。それでも私は湊かなえ作品が好きだとあえて特筆すべき人間だ、というように思う。

なぜなら、彼女の書く作品は、いつもいつも、私みたいな女が元凶なのだ。

私が人を殺してしまった事もあるし、私が原因で誰かが犯罪に及んでしまう事もある。

とにかく、全ての元凶は私だ。

湊かなえは、私の事を絶対に許さないのだ。

※以下より、湊かなえ先生の作品におけるネタバレを盛大に行います。未読の方、ネタバレが嫌な方は絶対に読まないでください※

1,私のせいでみんなが苦しむ『Nのために』

初めて読んだ湊かなえ作品は『Nのために』だった。

あらすじ  東京都にある高級マンション「スカイローズガーデン」の一室で、住民の野口貴弘とその妻、野口奈央子の遺体が発見される。貴弘は燭台で頭を殴られて死亡。奈央子は腹部を包丁で刺されて死亡していた。事件当日、野口家ではパーティーが行われる予定で、関係者として杉下希美、西崎真人、安藤望、成瀬慎司の4人が現場に居た。警察が現場に居た4 人から事情を聴取を行った結果、奈央子と不倫関係に あった西崎真人が犯行を自供。奈央子を貴弘の暴力から助け出そうとした真人だったが、貴弘は奈央子を刺殺。その後真人が貴弘を殺害した、とのことだった。


各々が『N』のために少しずつ嘘を重ねて真実を隠しているという物語。隠された真実は、DV夫の貴弘のことが大好きな妻の奈央子(メンヘラ)が、夫を杉下希美に奪われると勘違いし、独占するために夫を殺害。その後、自らも自殺。←身勝手

西崎真人と杉下希美は一部始終を目撃していたが、西崎真人が「奈央子を殺人犯にしたくない。殺人の動機が愛なんて駄目だ。俺が犯人になれば、動機は復讐になる」と言い、犯人となった。

これはビビった。自分がうっかり、夫を殺したかと思った。

野口夫妻の異様な関係性と、奈央子の異常さ。これは私にとって実に既視感のある展開だったのだ。みなさんは、共依存の末に相手を殺そうと思った事があるだろうか?

私はある。今となっては、長くて悪い夢を見ていたとしか思えないのだが、私は昔、確かに奈央子だった。

◆共依存の日々と、その先にいる女

殴られ、浮気をされ、殴り返し、ヒステリックに叫び合う。

身近な人間とそういった事を繰り返していくと、殺人や自殺といった常軌を逸脱した行為が段々と現実に近づいて来る。常に異常事態なので、様々なものの境界線がわからなくなる。お互いに傷つけあって絶対に近くに居ない方がいいのに、離れられない。それが共依存だ。まるで死神がずっと近くでこちらを眺めまわしているかのような日々だった。

まさか今更その日々を模写された挙句、殺人を犯し、自分のせいで未来ある若者たちに迷惑をかけてしまったなんて。『Nのために』を読んだ時、遠い記憶の中から過去に閉じ込められた自分が叫び出しそうだった。あの時の私はギリギリのところで誰かを殺したり、自殺したりすることはなかったけれど、奈央子は向こう側に行ってしまった。

奈央子は、あのときの私の人生のライン上にいる女だ。
二度と会いたくない。

2,うっかり人を殺してしまった『夜行観覧車』

次に読んだのは『夜行観覧車』だった。

あらすじ:高級住宅地「ひばりヶ丘」に住む遠藤家・高橋家・小島さと子の3家の物語。高橋家の主人、高橋弘幸が死亡した。その妻高橋淳子が自首し、自分が殴ったと供述。高橋家には夫婦の他に子供2人が暮らしているが、姉の比奈子は友達の家にお泊りをしていたため不在。弟の慎司は事件が起きたとされる時間、勉強の気分転換にコンビニに行っていたため不在、その後、行方不明。慎司がこの時間にだけコンビニに行っていたこと・その後行方不明であるのが不審であることから、一部では慎司が犯人で、それをかばうために母親が嘘をついているとの見方もあった。


結局本当に犯人は妻の淳子である。問題は殺害の動機だ。夫の連れ子である良幸は優秀で医大に通っているが、実子で三男の慎司は勉強が得意ではなかった。夫が良幸と比べ、慎司にあまり期待していない素振りを見せたために、殺害に至ってしまった……という事だった。更に、殺害に使われた凶器は長男良幸の名誉あるトロフィー。

つまり、殺害の動機は前妻への対抗心である。

連れ子よりも実子が秀でていると思いたかった淳子。それ故に、愛している夫を殺してしまった。

また私か。膨れ上がった自分の感情をコントロールできず、殺人を犯す。また私は、大切な夫を殺してしまった。

◆争い事ではないところを勝手にフィールドにして戦っちゃう系の女

この作品も驚いた。「好き」と「嫉妬」を拗らせて殺人に至る女が、「母親」だったのだ。

私は犯人の淳子の気持ちが心の底からわかる。母親になったからと言って、嫉妬をしないような大人になれるわけではないのだ。それは私自身、母になったときに知った。外面がめちゃくちゃいいというのもわかる、、。

なぜか昔から嫉妬深い私は、過去と言うものに執着しがちだ。男性は、元カノについて質問すると必ず意気揚々と回答してくる。いちいち聞いたこちらも悪いが、お前はいちいち答えんな、といつも思う。

私は淳子と同じく、争い事ではないところを勝手にフィールドにして戦っちゃう系の女なのだ。

それが元カノではなく前妻。しかも死別…こっちが死にたい。どちらかが嫌になって別れたならまだしも、愛し合っている最中に死んだ人には勝てない。

そもそもそのような案件の男性だったら苦しくなることが最初からわかっているので、お付き合いすらしない‥‥と思ったが、弘幸はお金持ちだ。そんな特典フィルターつけられたら、うっかり結婚してしまう。

そして想定内の苦しみを味わった末、殺してしまう
連れ子のトロフィーで。

3,全てが私のせいだった『贖罪』

三作目に読んだのは『贖罪』。私はもはや、自分に一番近い女が出てきたらそいつが犯人だと思って読むことにした。

あらすじ:田舎の小学校に転校生、エミリがやってくる。4人の同級生と仲良くなったエミリだったが、ある日見知らぬ男に殺される。一緒にいたはずの4人はなぜか犯人の顔を覚えておらず捜査は難航。エミリの母親の麻子は「あなたたちを絶対に許さない。必ず犯人を見つけなさい。それができないのなら、わたしが納得できる償いをしなさい」と4人にトラウマを植え付ける。4人は罪の重さに苦しみながらそれぞれのトラウマと共に成長し、さらなる悲劇を巻き起こしていく。

冒頭はあらすじに書かれているような話で始まり、それから4人の女の子たちが成長し、トラウマがきっかけで様々な事件に巻き込まれていく様子が禍々しく描かれている。

どうだろう。ここまで読んでみて、誰が犯人なのかわかりはしないだろうか。

私はすぐに自分に近い女を見つけた。麻子だ。その場に居合わせただけで、罪のない小学生に堂々と「許さない」と言い放つ。こいつめっちゃ私に似てる。

そう思って読んでいたら、本当に麻子が全ての元凶だった。
お前は本当にマジで反省しろ。

真相:エミリの事件が起きた原因は大学生の頃の麻子にあった。当時恋仲にあった友人の秋恵と南条だったが、それを知らない麻子は友人の秋恵に強引に男をあてがうことで、南条との恋仲を知らずに引き裂きさいてしまう。南条と付き合うことには成功するも秋恵は自殺し、ショックを受けた南条も飲酒運転で人生が狂ってしまう。その時点で麻子のお腹の中には南条の子供がおり、その子供がエミリだった。南条はそのことは知らずにいたが、15年後、当時の事実を知り麻子に復讐をする。

要するに元カレが、娘を自分の子供と知らずに殺しに来た、という話だった。

◆他人との境界線を引くという意識がない女

麻子は他人との境界線が極めて低い。「贖罪をすべきである」というように、他人に対して自分のルールを押し付けている。大学時代にも、「〇〇すべき」を秋恵に押し付け、それによって起きた現実は無視。挙句その後も一切フォーカスすることはない。

自己中すぎる。けれど私はこいつに似ている!!!(辛い)

今まで私は、たくさんの男性に自分のルールを敷いて、面倒臭くなったら放置して逃げて来た。麻子の行動を見ていると既視感がありすぎるのだ。

この作品では、そんな私のせいで娘が死んだ挙句、勘違いで少女たちを責め立てて全員を不幸にしてしまった。たまらない。もう許してほしい…

◆湊かなえは、絶対に私の事を許さない

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湊かなえは、絶対に私の事を許さない。

クソ女の先にある悲劇を捕まえて、めちゃくちゃに心理分析をして、文章にしてくる。クソ女が内に秘めている嫉妬心や猜疑心を、決して見逃さない。

「お前の思考の先にはこんな展開があるんだぞ!」と、責め立てられているような気持ちになる。

怖い、怖すぎる。私の延長線上にいる女ばかりが、人に不幸をもたらす。震える…。

けれどおそらく、私のような女性は少なくないはずだ。隠しているだけで、本当はきっとみんな似たような経験をしたり、似たような気持ちを持った事がある。

だから私たちは、今日も湊かなえの新作を心待ちにしている。

おそらく自分探しのために。

◆最後に

この記事は、むらさきさんとの交換noteのスタートとして書きました。むらさきさんのテーマは江國香織。あいたたたな江國香織的恋愛エピソードがとても面白いので読んでみてください。

また、文体を統一するために、継承を略しています。湊かなえ先生ごめんなさい。ここで紹介した『Nのために』『夜行観覧車』『贖罪』は、ざっくりしたあらすじと結末しか書いていません。どうしてそこに至ったか?という部分が非常に面白いです。特に『贖罪』を強いられた4人の人生は最高だし最悪です!未読の方はぜひ読んでみてください~!

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