オードリー若林になれる男が現れた日
「あちこちオードリー」が面白い。居酒屋を模したセットの中でオードリーの2人がゲストに対し、芸能界での立ち回りや戦略を深く聞き出していくバラエティ番組である。
この番組で大きく発揮されているのはオードリー若林の「聞き出す力」である。もともとは番組プロデューサーの佐久間さんが「オードリーのラジオのゲスト回が面白い」という理由で、ゲストを迎えたトークバラエティをオードリーMCで始めたとのことだったが、その能力が遺憾なく発揮されていて、その狙いが的中したと言える。
そんな中、10月13日に放送された回が面白かった。ゲストはボクシング金メダリストの入江選手と芸人のティモンディ。「スポーツのすごい人」というくくりで集められ、主な話題はスポーツにまつわるエピソードトークだったが、ティモンディに話が振られる中では、徐々に芸能界での立ち回りの話になっていった。
ここで面白い話をしていたのはティモンディの"じゃない方"前田だ。若林から「前田もスポーツすごいんだよね?」という話から、「スポーツテストで全国1位だった」というエピソードを披露。そこからも、「高岸のフリとして使われることが多い」「自分の部分だけカットされてしまう」「それでも自分は目立つ必要はないのかなと」と"じゃない方芸人"なりのエピソードをしっかり落としていく。
驚いたのはその後だった。前田と若林のやり取り。
前田 「ぼく思うのが、(オードリーさんは)武道館でライブして、考えてたことが実現してるじゃないですか? 僕らも例えば(高岸に)始球式投げさせてやりたいなーで、こないだ実現したりとかしている中で、もうやる気なくならないですか?」
若林 「そう考えると野心もあるね、おれ(笑)」
前田 「まだ行くんスか?(笑)」
若林 「正直、武道館と山ちゃんのライブ終わった時に、先真っ暗に一瞬なったよ。もういいかなって思った」
前田 「別に辞めてもぐらいの?」
若林 「正直、思ったね、うん」
前田 「そっから変わったのが今?」
若林 「ていうか、同じ釜の飯を食ったり、同じ戦地に行ったスタッフと共演者が増えてくるのよ。そことずっとやりたくなっちゃうよ」
前田 「だからTAIGAさんと今でもやってるんですね(笑)」
この場面、完全に「聞き出す」前田と「聞き出される」若林になっていた。これまでもあちこちオードリーの中で、若林が自分の話をすることはあった。しかしそれはどちらかというと相手の話を聞いてアツくなった若林が自ら話し始めることが多かったように思う。しかし、ここでは完全に前田が質問を投げかけ、深堀りし、そして若林の「ずっとやりたくなっちゃう」を引き出した。(おまけにTAIGAさんでオチを付けたのも素晴らしい)
この場面はネットニュースにもなっている。
ティモンディについてはオードリーとの共通点も多い。キャラクターがあり、身体能力に秀でているボケと、それを引き出しながらトークのできるツッコミ。シルエットもどことなく似ているが、ティモンディの前田がその"本人"である若林を前にして、"若林ムーブ"を完璧にこなしたのは、ある意味感動的な場面だった。
ティモンディの前田については、アメトーークや他のお笑い番組でも、落ち着いた印象で高岸を操りつつ、常にしっかり良いエピソードを話していて、「高岸じゃないほうも面白いなあ」と思っていたが、今回の「あちこちオードリー」で本当に実力があるのだなあと思ってしまった。
オードリー若林になれる逸材が現れた。オードリー若林の動きなんて誰にでもできるものじゃないと思うが、彼らにとっては「やればできる」のだろうか。
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