記事に「#ネタバレ」タグがついています
記事の中で映画、ゲーム、漫画などのネタバレが含まれているかもしれません。気になるかたは注意してお読みください。
見出し画像

「君たちはどう生きるか」の感想

「君たちはどう生きるか」を観てきた。スタジオジブリの最新作。宮崎駿が引退を撤回して作り上げた作品。公開からめちゃくちゃ時間が経ってしまい、ずっと観に行こうかどうしようか悩んでいたが、まだギリギリ映画を上映していたので観に行った。以下ネタバレあり。

☆☆☆

まるで夢のようだった。まあ夢というのは文字通り寝ているときに見る夢のほうなのだが。塔の中に入り込んでからはまさに夢で見ているような世界だった。目的もルールも説明されないまま、あちらの世界の住人が、あちらの世界の理にのっとって次々と主人公眞人の前に現れる。眞人の目的は一応義母の夏子さんの奪還だが、その動機の強さはあまり伝わらない。そもそも夏子さんは奪われたのか、自ら塔に行ったのか、そして帰りたいと思っているのかも分からない。塔の主である大叔父さんは敵なのか、味方なのか。邪魔をしているのは大叔父さんなのか。アオサギはなぜ眞人を塔に呼んだのか。アオサギは友だちなのか。いつ友だちになったのか。基本的には何もかもが「分からない」まま物語は進んでいって、クライマックスみたいなところにたどり着いた。

物語の最後に、眞人は大叔父さんから「私の仕事を継いでほしい」と頼まれる。テレビ番組の「プロフェッショナル」では大叔父さんは盟友「高畑勲」だと言及されていたが、ぼくが感じたのはもっと抽象的な「大いなるもの」のようなものだと思った。仮に眞人が宮崎駿自身だとして、その「大いなるもの」から「世界を創れ」と言われたとして。眞人はそれを拒否する。つまりその答えは「自分は世界を創るつもりなんてない。ただこの世界で生きていくだけだ」というものだと。やがて火の海になるかもしれない、醜くて汚いこの世界でも、それでもそこに戻って生きていくんだと。

そもそもこの「大いなるものからのバトン」的な話は、漫画版のナウシカのラストと良く似ている。地球の主みたいな人から「世界を作り変えてるんだよ。生命は光だ」と言われたナウシカも「違う!命は闇の中で瞬く光だ!」と言って大いなる意思を否定し、ただ自分たちの世界で生きることを選択する。眞人は自分が積み木に触れない理由を「自分には悪意がある」と説明するが、それが映画に込めたメッセージであるなら、この映画は悪意によって作られたのかもしれない。観客に向けて、世界に向けて。「おれは世界なんて創ってないよ。ただ生きているだけだよ」と。タイトルから感じる説教のような意味ではなく、「おれはこう生きるよ。君たちはどう生きる?」というような。

面白いか、と聞かれたら、あんまり面白くはない。ただ別に面白くしようともしてないんじゃないかとも思う。例えば魔女の宅急便のラストのトンボを助けるシーンは「派手なシーンがほしい」という鈴木敏夫の注文で入れられたものだと言う。であれば、この映画を単純な娯楽映画にするつもりは毛頭なく、かといって子どもにも向けているわけでもなさそう。宮崎駿は映画の中にある理(ことわり)に対しては凄まじいこだわりを見せるが、映画、ひいては物語でもって楽しませる意識があるのかは分からない。我々がインスタントに面白さを感じる伏線や驚きに大した意味を感じてなさそう。高畑勲に対する宮崎駿の想いっていうのもなんかあんまりしっくりこないはこないけど。宮崎駿なりの論理と理で作られた塔。あれが最後に壊れるっていう話なのかな。まあ宮崎駿の作品を映画館で観ることができて良かった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?